軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

多頭竜

海に棲む多頭竜。体はまるで小島のように巨大で、バリスタを発射したところで大きなダメージが与えられるのか不安である。

「……なるほど。ヒュドラか」

パナメラが多頭竜を見てそう呟くと、ディーが大剣を構えて頷く。

「私も初めて見ましたが、大きいものですな」

どうやら、二人はあの大型魔獣が何か知っているようだ。

「やばい魔獣かな?」

そう尋ねると、ディーが深く頷いた。

「過去に、海に面した町が滅んだという記録があったかと……撃退をしたという話もありますが、ヒュドラの討伐記録は無かったように思いますぞ」

「これまで討伐されなかった魔獣かぁ……それは流石にやばそうだね」

ディーの解説に溜息混じりに答える。しかし、それにディーは声を出して笑った。

「わっはっはっは! なにせ、私はまだヒュドラに遭遇したことがありませんでしたからな!」

と、ディーは楽しそうに笑ってみせた。自分なら討伐してみせるという自信の表れか。いや、部下達を鼓舞しようという気持ちもあるかもしれない。

事実、ディーが強気の発言をして高笑いしていると、緊張感に満ちていた騎士の顔にも笑みが戻ってきた。

そして、ディーの力強い笑い声に呼応するように、パナメラも愉快そうに笑う。

「ははは! ディー殿は流石の豪傑っぷりだ! 私も負けられんな。ヒュドラ討伐の名を歴史に刻むとしようか」

パナメラは口の端を上げて静かにやる気を出している。ライオンと虎がタッグを組んだような恐ろしさだ。

二人を見ていると、自分まで緊張が和らぐので不思議である。

いつか、カムシンもあの隣に並ぶことがあるかもしれないな。

そんなことを思いながら眺めていると、海の方が騒がしくなってきた。激しい水飛沫をあげて、ヒュドラが咆哮している。かなり離れているはずなのに、身体を震わせるような雄叫びだ。

だが、その眼はこちらには向いていない。人魚の皆がヒュドラの注意を引いてくれているのだろう。

おかげで、ヒュドラはこちらに近付いてきている。

「よし! どうにか当たる距離だ! まずは船からね!」

状況を確認して指示を出した。それを聞き、ディーが頷いて船の甲板に待機する部下達に声をかける。

「バリスタを発射する! 鉄の矢はまだ使うな! 外さぬよう、二発同時である! 決して海面には当てるな!」

「はっ!」

よく通るディーの声と、船の上からのはっきりした返事。セアト騎士団が側にいるのだと思うと素直に嬉しい。

すぐ目の前には小さいが頼れるカムシンの背中。後ろには人魚を準備するアルテやティル。砦にはアーブとロウ達もいる。そして、魔獣退治のスペシャリストであるオルト達だ。

これなら大型の飛竜でも負けないと思える布陣である。

しばらく無人島で皆に会えなかったからだろうか。感慨深くなってしまった。

だが、そんな僕の心情はさておき、戦いの火蓋は切って下される。大きな衝撃音と空気を切り裂く音が重なり、大型船が揺れた。

「どうだ!?」

「お、恐らく命中かと!」

ディーの問いかけに曖昧な返事があった。バリスタは無事に発射されたのは間違いない。だが、相手が遠過ぎて矢を最後まで追えなかったのかもしれない。

「……もう少し近かったら、当たっていれば相手のリアクションとかもありそうだけどなぁ」

あまりに遠ければバリスタの威力も下がりそうだ。ヒュドラもドラゴンの一種なら鱗は硬いだろうし、弾かれてしまった可能性は充分にある。

「よし、私もそっちに行くぞ!」

「はっ!」

ディーは自分の目で見ようと思ったのか、船に乗り込んで行った。それを見て、パナメラも片手を上げて歩き出す。

「ならば、中・近距離担当の私も船で待つとしよう。桟橋から狙うより当てやすそうだ」

そう言って、パナメラは桟橋から船の甲板に続く階段を登って行った。

「う〜ん、とりあえず僕達はここからにしとこうかな」

「そ、そうですね」

なんとなく船に乗る気分になれず、砦前から桟橋の先の方にいるヒュドラを眺めた。アルテも同じ気持ちのようだ。

「……ヴァン様。ご心配せずとも、もう船に乗る必要もないかと」

「ん?」

カムシンの言葉に首を傾げながら前を向く。すると、すぐに言葉の意味を理解した。

遠く離れていたはずのヒュドラが、気が付けばかなり近付いていたのだ。それに、明らかに海面ではなく、こちらを向いて前進してきている。

「当たっていたようですね」

「本当だねぇ……めっちゃ怒ってるねぇ……」

怒り狂うヒュドラに迫られるという貴重な体験をしながら、僕は遠い目をして答えた。