軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人間用も出来たので

夕方になる頃には、桟橋の近くに二階建ての砦を建てることが出来た。いや、ギリギリだった。水平線付近がオレンジから赤に変化していき、空のほとんどが暗い青に変わっている。もう日暮れだ。

砦が完成して、皆で本格的に荷物を運びこんだ。その間に、僕は船と砦にバリスタを四基ずつ設置する。砦の正面と後方に二基ずつ。船の左右に二基ずつである。

「ヴァン様! 準備が整いましたぞ!」

「うん、ありがとう」

砦の前では夕食の準備をしてくれていたディー達が待ってくれていた。ディー以外は疲労困憊で地面に座り込んでしまっているが、食事が終わったらゆっくり休めるはずだ。

「こちらも出来ましたよー!」

「余るくらい焼きましたね」

エプロンを着けたティルとプルリエルが笑顔で手を振っている。見ると、用意した椅子に座って優雅に果実酒を楽しむパナメラの姿があった。その前には二人が焼いた肉が山盛りになっている。肉料理はともかく、積んだまま忘れられていた果実酒など良く覚えていたものだ。パナメラの酒への嗅覚だろうか。

そんな三人の様子を確認して、アルテと一緒にラルグス達の下へ向かう。

「お陰様で家も出来ました。明日はここを拠点にして、魔獣を撃退しようと思います。良かったら、一緒に食事をしませんか?」

丁寧にお礼を言ってラルグス達を夕食に誘う。すると、ラルグスは顎を引いて了承してくれた。

「うむ、それでは食事を共にしよう。我々もそこの者が倒した魔獣の肉を引いてきた。それも焼くと良いだろう」

「え?」

ラルグスの言葉に首を傾げて生返事をし、顔を上げて海の方を見た。すると、黒い光沢のある皮と白い肉が目に入った。

化け物鯨の肉だ。

「……あ、ありがとう」

「うむ」

厚意を無下にするわけにはいかない。少し引き攣ってしまったが、何とか笑顔で応えることが出来た。何故だろうか。死にかかったせいかは分からないが、化け物鯨に関しては本当に食べたいと思わない。だが、後ろから歩いてきたディーは笑顔で肉を受け取った。

「おお! 海の幸であるな! ありがたい!」

上機嫌で肉を抱え、パナメラが準備した焚火の方へ向かうディー。食べる気満々である。

こうして、久しぶりにディー達と一緒に食事を囲むことができた。皆で食事ができることも嬉しかったが、塩以外の調味料を使った料理を食べられることが素直に嬉しい。本当、調味料は偉大である。

「ティル、美味しいよ!」

「ありがとうございます!」

「本当に美味しいです」

「えへへ」

僕とアルテに褒められて、ティルが照れ笑いというかドヤ顔笑いを浮かべている。そんなやり取りを見て、カムシンが再び涙ぐむ。ものすごく涙もろくなっているが、大丈夫だろうか。

「美味しいね、カムシン?」

「は、はい……! 美味しい、です……!」

恐る恐る声を掛けてみたのだが、カムシンは強く同意して噛み締めるように肉を食べていた。

涙目で肉に噛みつくカムシンを眺めていると、リルダが「美味しい」と嬉しそうに言っていた。その言葉に振り返ると、桟橋に腰かけて微笑むリルダの姿が目に入る。

透明感のある明るい金髪を揺らして微笑む人魚の姿に、これが人魚姫かと思わず頷いてしまった。昼と夜の狭間の幻想的な空と穏やかな海を背景にしているせいか、リルダの姿は絵画のようだった。だが、人魚姫は顔くらいの大きさの串に刺さった肉を堪能中である。急に現実に戻された感じだ。

ちなみに、海面にはラッコのように浮かびながら肉を食べるオッサン人魚もいる為、なおさら現実感がすごい。何故か人魚は美しい女性ばかりというイメージがあったが、先入観だったようだ。

そんな人魚たちの食事風景に苦笑して、自分も食事を続けた。

「人魚の人たちと仲良くできるといいね」

隣に座るアルテに目を向けてそう声を掛けると、アルテは優しく微笑み返し、楽しそうな皆の食事風景を横目に見た。

「……素敵、だと思います」

「ん? そうだね」

返事が少しズレている気がしたが、似たようなものかと思い直して首肯する。皆が楽しいって空間は素敵だよね。

ご機嫌で美味しい肉料理を食べていると、化け物鯨をこんがり焼いていたディーが興奮した様子で走ってきた。

「ヴァン様! この魔獣の肉も美味いですぞ! しっかり焼いたつもりでしたが、それでも身がふっくらと!」

「えぇ? 本当?」

ディーが珍しく食に饒舌なコメントをしながら走ってきたので、半信半疑で振り向く。だが、確かにディーが手にした肉は皮の部分がカリカリに焼けており、身は白身で美味しそうである。

「じゃ、少しだけ……」

そう言ってから、ディーの持っている肉の端っこを千切って食べてみる。確かに、香ばしい皮はカリッとしているが、身はふっくらとしていて柔らかい。それに、味も白身魚らしい上品な旨味が……。

そう思った時に、気が付いた。

「え? これ、ウナギのかば焼きが作れるんじゃない?」

愕然としながらそう呟き、立ち上がる。

こうしてはいられない。醤油だ。醤油がいる。後は砂糖と酒か。待て、日本酒などないぞ。この感情をどうしてくれる。

動こうにも動けない現状を悟り、僕は一人で身もだえするのだった。