軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【書籍発売記念】番外編①-1.逆転恋愛相談

ニコラスがド・ブロイ家の応接間にいるのは、いまや見慣れた光景といってもよかった。

ルシアンがマルグリットへの接し方に悩んでいたとき、彼は幾度となくこの家を訪れてルシアンを励ましたから。

ただし、今日は様子が違った。

俯くニコラスの正面に、ルシアンとマルグリットが座っている。

「シャロン嬢の口説き方を教えてほしい……!」

絞り出すようなニコラスの声に、ふたりは顔を見合わせた。

ミュレーズ伯爵家の令嬢シャロンと、メレスン侯爵家の令息ニコラスは、それぞれの親友を通じて出会った。

はたから見ればお似合いにもかかわらず前進しない親友夫妻をやきもきしながら応援するうち、いつのまにか二人の距離も縮まっていた。

ただし、決定的な関係の変化はまだ訪れていない。

今日もニコラスは、シャロンと王都を散策し、自分以外にはそういったデートの相手がいないことを確認したのだが――そこから先が、踏み出せないでいた。

自分は遊び慣れたほうだと思っていた。それこそ社交の場でもむっつりと黙り込んでいたルシアンよりも。

なのに、シャロンを前にすると、うまく言葉が出てこない。

「国境沿いの派閥争いに王家が介入してきた以上、我々も友好関係を結んでおくべきですね」

などと、まるで仕事のような口ぶりになってしまう。

あたりさわりのない天気の話よりもずっとまずい。

案の定シャロンはくすりと笑い、堂々とした態度で言い放った。

「あら、 ミ(・) ュ(・) レ(・) ー(・) ズ(・) 家(・) は(・) 困りませんわ。お母様はすでにエミレンヌ王妃のお茶会に呼ばれる仲ですもの」

家ではなく、あなたはどうなのか――と、シャロンの視線は問うている。けれど、それを真正面から見つめ返すだけの勇気が、ニコラスにはなかった。

ニコラスの胸の内を聞いたルシアンとマルグリットは、もう一度顔を見合わせた。

シャロンは気が強いところがあるが、ニコラスと同じく面倒見がよく心やさしい人物であるし、似合いの恋人同士になると思う。

だが、

「口説き方、と言われると……」

「そんなもの俺たちがわかると思うのか」

ルシアンの言葉にマルグリットも頷く。

これまでの人間関係の狭さに起因して、想う相手への接し方を知らなかった二人を懸命に応援してくれたのは、当のニコラスとシャロンだ。他人に助言できるような恋愛観など持ち合わせていないのはわかっているはず。

「でも今はラブラブじゃないか! この前だって晩餐会でぴったり寄り添って離れず、会場の注目を集めまくってただろ!」

「え!? そんなことになっていたんですか!? お恥ずかしい……」

マルグリットが赤くなった頬を押さえた。隣でルシアンも視線を逸らしている。

(無自覚か、君ら)

長年の親友の顔を、ニコラスはじっとりとした視線で見つめた。

そのルシアンはといえば、ニコラスの指摘にばつの悪そうな顔になったものの、照れるマルグリットを見てふっとほほえみを浮かべている。

(皆様に呆れられていたらどうしましょう。ド・ブロイ家の名に傷がついてしまうのでは)

(照れるマルグリットもかわいいな)

(かわいいって思ってるな、ルシアン……)

三者三様の思いを胸に抱きつつ、応接間には一瞬の沈黙が訪れた。

「……まあ、ルシアンが変わったのは事実なんだ。その秘訣を教えてくれよ」

ルシアン・ド・ブロイといえば、容姿は端麗だがどこか冷酷な印象で、近寄りがたさがあったものだ。

それが、マルグリットを伴った彼は今のように頬をゆるめ、愛おしくて仕方がないというように妻を見、エスコートしている。

そんな態度をとられたら、落ちない令嬢はいないだろう。現に妻のマルグリットも終始幸せそうな表情で夜会に参加していた。

実は結婚前よりも令嬢たちからの熱い視線は増えているのだが、ルシアンには彼女らは見えていない。

マルグリットに想いを伝えることができず頭を抱えて唸っていた彼を知るニコラスから見れば、ルシアンの変わりっぷりは驚くほどなのだ。

きっとなにかあるに違いない――と踏んだのだが。

「秘訣……と言ってもな。お前が言ったんじゃないか。自分を素直に出せと」

腕を組み、眉を寄せるルシアンの表情に、嘘はない。

「だから思ったとおりに行動しているだけだ」

「わたしも、なるべく気持ちを抑えないようにしています……」

言いながら、互いに視線をあわせ、ふふっとほほえみ合うふたり。

「……無自覚か、君ら」

先ほど心の中で思ったツッコミが今度は口から出た。

「でも、そうか……そうだよな」

あの頃のルシアンは自分に自信がなさすぎて、マイナスのことを考えてばかりだったから。素直になれとニコラスは言った。

シャロンも同じようなことをマルグリットに助言したらしい。

それなのに、自分は、シャロンの前で格好つけたくて――自分は冷静なのだと、焦ってはいないのだということをアピールしようとして、逆にから回っていた。

相手への気持ちを認め、それを素直に表に出すこと。

恋の秘密はただそれだけだ。

(まさか自分で言ったことが自分に返ってくるとはな)

苦笑を浮かべ、ニコラスはルシアンとマルグリットを見た。屋敷を訪れたときの、どこか陰のある顔つきではなくなっている。

「覚悟を決めろ、ってことだな。ありがとう」

ふっきれた表情のニコラスに、ルシアンもマルグリットも目を細めた。