軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

side 白羅ゆり1

「時は満ちたようです。色氏名筆頭の名のもとに命じます。目黒、しおりを」

大穴ダンジョンの最奥、虚ろな目をし、シャツの裾からのぞく腹部にクロコのボデイが埋め込まれた目黒が、無言のままそっと胸元に手を伸ばす。

それはまるで糸の切れたマリオネットが、無理やり動いているようなぎこちなさだった。

そうして取り出されたのは、カラスノエンドウらしき植物が押し花された、しおり。

かつて、ユウトの家に大量発生したナメクジを退治した際にユウトがお礼として作成した四枚のうちの、それは最後の一枚だった。

緑川へヴァイスを、加藤へユニークスキル空白を、そして目黒自身には、ちょうど足元に大切そうに置かれたマジカルメイクアップ道具をもたらした、ユウトのしおり。

そのユウトの手作りしおりを取り出すと、目黒は声をかけてきた相手、白羅ゆりへとそれを差し出す。そしてそのまま、ピタリと動きを止める。

その前に佇む白羅ゆりは、素直な目黒の動きに満足そうに一つ頷くと、口を開く。

「素直でよろしいですね、目黒。ユニークスキル空耳で長年かけてしつけてきたかいがありました。途中、どうにも言葉使いがおかしくなってしまった時は、 眼の媼(まなこのおうな) に露見するぐらいならいっそ、処分するかとも思ったのですが──」

そういって、改めて目黒の耳元へと口を近づけると何かを囁く白羅ゆり。

ビクッビクッとその声が送り込まれる度、目黒の体が痙攣する。

「頑張って我慢してきたかいがありました。色氏名の宿願のため、その身を捧げる誉れを誇ってくださいにね、目黒」

「──はい」

その返事に頷くと、白羅ゆりは、しおりを受け取らずに、持ち込んだ簡素な折り畳みテーブルへと次に目を移す。

折り畳みテーブルの上にのせたものを前に恍惚とした表情を浮かべる白羅ゆり。

そこにあるのは、一房の髪の毛。

そして、小皿に満たされた血。

それらはどちらも早川姫から採取したものだった。

早川姫の肉体とその母親は、安全なところに居てもらっている。

もちろん、安全というのは白羅ゆり自身にとって、だ。

そうしてここまでに至るにかかった、永きにわたる時間に思いを馳せながら、白羅ゆりはついに目黒の差し出すしおりへと、その手を伸ばす。

その指先がしおりへと触れた瞬間だった。

魔素が溢れだす。

しかし、進化律が失われ、その力の残滓のみが偏在する世界では、緑川たちの時のように、白羅ゆりの姿が消えることはなかった。

その代わりに、腹にクロコのボディと逆進の懐中時計を宿した目黒が、ゆっくりと両手を掲げる。しおりから溢れた魔素が、目黒の腹部のそれらと感応し、次の瞬間、その手のなかに『万象の書』が現れる。

「予定通り。さあ、急がねば。今のでオボロに気づかれたはず」

そう呟くと白羅ゆりは万象の書を手に取る。

管理者たる進化律が失われた今、そのページは自由自在に開かれてしまう。

「ありました。因果律の言っていた通りです」

パラパラとページをめくっていた白羅ゆりが、とあるページにしおりを挟みこむ。

そこのページには、ユニークスキル『 借り物狂騒(スカベンジャーハント) 』の文字が記されていた。