作品タイトル不明
お願いの完了
「め、目黒さん! それっ」
「あ、誤解しないでくださいです! これは、その、 一種の特殊メイクみたいなものなんです」
驚いてあげた俺の声。
はっとしたような顔になった目黒さんが、片手を顔の前で大きく横に振る。
半分垂れたシャツの裾が、目黒さんのお腹の異物を半分おおい隠す。
真っ白なシャツと、真っ白な目黒さんのお腹に挟まれたように覗く黒々としたそれは、なんだか妙になまめかしく見えてしまった。
「ほら、よく映画とかで特殊メイクってありますよね。あんな感じです。特別なメイク道具がありまして……それっぽくしてるだけで……」
「そう、なんですね──俺はてっきり本当にクロの壊れた機体がめり込んでいるのかと思いました」
俺は目黒さんの説明に、なんとも言えない気持ちになる。
大事でないとなると、目黒さんのお腹をまじまじと見つめるのが急に恥ずかしくなって来たのだ。
なので、俺は思わず目をそらしながら目黒さんに尋ねる。
そのせいで、クロコの機体が、特殊メイクでは説明がつかないぐらいしっかりと目黒さんの腹部に癒着していることを、俺は見落としてしまう。
「でも何でまた、そんなことを?」
「あの、友人に言われたんです。今度、自主映画をとるらしくて……それにこの特殊メイクをしたちょい役で出るんですけど。この機体の壊れかたが、その友人いわく自主映画の内容からみて理想的らしくて……。で、一度ちゃんとユウトくんに見てもらって、承諾をと思いまして……」
「ああ、なるほど……?」
俺はなんとなく引っ掛かるものを感じながらも、何に引っ掛かってあるのかわからず返事をする。
──目黒さんの友人って、あれかな。前にヌメヌメなやつらを駆除してくれた人達? なんだか目黒さんって交遊関係広そうな感じだし、そのなかで自主映画をとる人もいるんだろうなー。というか自主映画とか、すごいなー。少し、憧れるかも。
「じゃあ、目黒さん、女優デビューですね?」
「や、やめてください。そんなんじゃないです。本当に、ちょい役なんで」
「なんにしてもわかりました。俺は全然オーケーですよ。わざわざ見せに来ていただいて、逆に恐縮なくらいです」
俺の返事にほっとした様子を見せる目黒さん。
そうしてシャツの裾をパンツスーツにしまっていく。俺はそらした視線のままそれを見てしまって、慌てて後ろを向く。
「それでは僕はこれで失礼します。早川さんが来ましたら、麦茶ごちそうさまでしたと」
「あ、はい」
俺が向きなおると、すでに目黒さんは部屋から出ていくところだった。
◇◆
「あれ、ユウト。目黒さんは?」
「あー。先に帰ったよ。麦茶ごちそうさまって言ってた」
「そうなんだー。目黒さんもご飯食べていけばよかったのにね?」
「いやー。なんだか忙しそうだったよ」
「ふーん。それでユウトにお願いってなんだったの?」
「ああ。何でも今度、友達のとる自主映画に目黒さん出るらしいんだけど、そこでドローンの機体を使いたいんだって。壊れて修理を目黒さんにお願いしてたあれ。で、わざわざ許可取りに来てくれたみたい」
「あ、私がユウトにあげた奴ねー」
「そうそう」
「へぇー。自主映画ってすごいね。完成したら見たくない? 一緒に見せてもらおうよー」
「お、おう。そうだな」
俺はさっき見た目黒さんのお腹を思い出して思わず言葉につまる。ただ、まあ完成するにしても先のことのはずと思い、気を取り直す。
「さてさて、そろそろ食事の準備を始めますかね、ユウト」
「──何か手伝おうか」
「お、その言葉待ってましたー」
「おいおい。最初からそのつもりかよ」
「えへへー」
目黒さんの自主映画の話題はそこそこに、俺と早川は二人して台所へと向かうのだった。