作品タイトル不明
目黒の願い
「あ、目黒さん。良かったら、うちに上がってください」
「いえ、でもそれは申し訳ないです……」
俺の自転車に満載された荷物と、早川を交互に見ながら、早川の誘いを遠慮する目黒さん。
「せっかくここまで来ていただいたんですし。ほらほらー」
そんな遠慮がちの目黒さんの背中を押すようにして、早川が目黒さんを家へ連れ込んでいく。
「あ、ユウト! 自転車はそこの脇でいいよー。台所は入って、左奥にあるから適当に冷蔵と冷凍突っ込んでおいてくれるー?」
「──はいはい。りょーかい」
俺は言われたところに自転車を止めると、玄関から顔だけ出して大声で告げる早川に返事をする。
「……よいしょっと」
レジ袋大が三つ分は、なかなか、かさ張る。
──早川の奴、まったく……それにしても目黒さんのお願いってなんだろ。わざわざここまで来たってことは急ぎなんだろうけど。──あれ、俺が早川の家に行くって、目黒さん、何で知ってたんだ?
そこまで考えたところで、早川の家の玄関の前で一瞬立ち止まる。両手にいっぱいの荷物を持ったまま、苦労して玄関を開ける。
──うわ、外から見たときも思ったけど、中も立派だな、早川の家。うちのぼろい一軒家とは大違いだ。
「おじゃましまーす……」
一応声をかけるが、特に返事はない。
奥の方から早川と目黒さんの話す声が少し聞こえるが、内容まではわからないぐらいだ。
俺は軽く肩をすくめると、言われた通り台所を探して廊下を進む。
「ここ、かな?」
恐る恐るそれっぽいドアを開けると、どうやら正解のようだった。キッチンダイニングのようになっている広々とした部屋。
俺はとてもデカイ冷蔵庫の横に荷物を置くと、台所を借りて軽く手だけ洗う。
「……失礼しまーす」
無駄にキョロキョロしてから、俺が買ったものをしまおうと、冷蔵庫に手を伸ばした時だ。
「あ、ユウト」
「うわっ!」
「え、あ……。ごめん、ビックリした?」
「──いや、驚くだろ」
急に後ろから早川に声をかけられて、俺は思わず声を上げてしまう。
「ごめんごめん。あー、荷物運んでくれて、ありがとねー。冷蔵庫にしまうのは私がやるから、お茶を目黒さんに運んでもらえる?」
そう言いながら冷蔵庫から取り出した麦茶を三人前、用意する早川。
「はい」
早川からグラスを二つ手渡される。なんだか、この短時間で早川がさっきより清々しい顔をしている。
「応接室の場所はあっちねー」
俺は、早川は何か目黒さんと話したんだろうと思いながらグラスを受けとる。
「早川んちって応接室があるのか……」
「うん? あるよー。ま、そんな大したもんじゃないけどね? さ、運んで運んでー」
俺は言われるがままに台所を出ると応接室とやらを目指して進むのだった。
◆◇
「すいませんです。こんな形で押し掛けてしまって」
俺の手渡したグラスを両手でもって、ちびちびと口をつけながら謝る目黒さん。
早川はまだ荷物をしまっているのだろう。
早川が大したことないと言っていた、実際はかなり立派な応接室には、俺と目黒さんの二人だけだった。
派手ではないが重厚な作りのソファー。それに向かい合って、俺と目黒さんは座っている。
「あの、ユウトくん。これを使ってもいいでしょうか」
麦茶を置いて、そう言った目黒さんがジャケットの内ポケットをごそごそする。
出てきたのは一通の封筒だ。
どこか見覚えがある。
「前のナメ──、えっと、ヌメヌメしたものを退治した時にユウト君からもらったものです……」
それは俺の書いたお礼状だった。道理で見覚えがあるわけだ。
確かにクロに言われて、何か困った際は一度だけ、できる範囲でお手伝いすると、お礼状に一文を書いていた。
「目黒さんには、いつもお世話になっているので、そんなものなくても、出来ることならお手伝いしますけど?」
「ありがとうございますです。でもその、ちょっと普通だとお願いしにくいことなのです……」
そう言って、机の上に置いた封筒を、片手で俺の方へとおずおずと動かす目黒さん。
どうやらお願いを受けるなら、この封筒を受けとってほしいらしい。
俺は一瞬迷うが、そのまま手を伸ばすと封筒を受けとる。
目黒さんはそれを見て、ほっとしたようにため息をつく。
「ありがとうございますです。それでお願いというのは、ユウトくんに、ちょっと 見(・) て(・) も(・) ら(・) い(・) た(・) い(・) ものがあって──」
目黒さんはそういうとすっと、ソファーから立ち上がる。
その手が、目黒さん自身の着ているパンツスーツのベルトのところへと伸びると、おもむろにパンツスーツから、シャツの裾を引き抜き取り始める。
あっという間に引き抜かれたシャツの裾。
そのままその指はシャツの裾をぎゅっと握る。目黒さんの両手が、ゆっくりと上へあがっていく。
シャツの裾とパンツスーツの間から、目黒さんの肌が現れる。真っ白で滑かなそれが、突然の出来事で呆然とした俺の目に焼き付く。
驚きすぎて固まってしまった俺の目の前で、しかし目黒さんの手の動きは止まらない。
気がつけばその滑らかな肌にポツンと凹むおへそが現れる。さらに目黒さんの手は、上へとあがっていく。
そうして完全にあらわになった目黒さんお腹。そのおへその真上ぐらいの位置に、何か黒々とした異物がある。
目黒さんの柔らかな腹部に埋まっているかのようなそれを、俺は見たことがあった。
それはまるで、クロのドローンの機体のようだった。