作品タイトル不明
スーパー
「まずは、ここで食材を確保します!」
「お、おう」
片手を突き上げ、高らかに宣言する早川。
俺たちは早川の家の近くのスーパーに来ていた。
「ユウトの自転車のかごにさ、買った荷物、入れさせてね?」
「まあ、それは全然いいけど」
「やった! 重いもの買い放題~!」
「おいおい。お手柔らかにな」
「はーい」
そんなことを話しながら、カートに、スーパー備え付けの買い物かごをセットしていく早川。
その数三つ。
──早川、本気で買い込む気だろこれ。全然、お手柔らかにしてくれるつもりが無さそう。あれ、これって俺、本格的に荷物持ち要員?
どこか残念なような、ちょっとだけほっとしたような複雑な気分でそんなことを考えていて、ふと思い出す。
──ああ、早川、お父さんが亡くなってお母さんが働き始めてたよな。もしかして日々の買い物、大変なのかも。……まあ、荷物持ちぐらいなら、いくらでもやるけどさ
意気揚々と楽しそうにスーパーに入っていく早川。そのあとを追いながら、俺はひっそりと決意するのだった。
◇◆
「それでユウトは肉と魚だとどっちが食べたい?」
「その二択なんだ」
「若い男子には、粉物とたんぱく質よーってうちのママも言ってたし。違うの?」
「う、うーん。まあ、違わない、かな」
「でしょでしょ。で、どっちが食べたい?」
「最近、角煮が多かったから、魚かなー。というか早川って、魚料理とかできるの? すごいな。俺は、魚は自分で料理するのめんどくさくて、肉ばっかりだよ」
「ほほー。じゃあ魚にしてしんぜよう」
「ははー。って魚料理も色々あるだろうけど、どうするんだ?」
鮮魚コーナーに移動しながらたずねる。
「そうねー。たこ焼きとか?」
刺身用のタコアシをかごに入れながら告げる早川。
「──確かに、タコは入っているけど、それって魚料理なのか」
「あれ、タコ焼き嫌いだった?」
「いや、そんなことはないぞ」
「あとはパエリアでも作るかなー」
ひょいひょいっとムール貝やむきエビをかごに突っ込んでいく早川。
たこ焼きとパエリアの組み合わせはどうかと思わないでもない。しかし、せっかくご馳走してくれるというのに文句を言うのは違うかと、そんな早川を生暖かい目線で眺めるだけにする。
「早川。パエリアだと、サフランとかは?」
「それは家にあるよー」
「サフラン、常備してるのか。それもすごいな」
「そう? あ、あとは油と飲料系! いやー。ここら辺が重くてね。ほんとユウトがいてくれて助かるー」
「……いつでも言えよ。荷物持ちぐらいなら手伝うから」
「お、言ったなー。本当に、こまめにお願いしちゃうぞー」
「おぅ」
気がつけば三つ用意したかごは、買うものでいっぱいだった。俺の目算では自転車の荷物かごに入りきらない。
──大きめの有料ビニール袋二つに分けて、ハンドル部分にかけて運ぶか。まあ、なんとかなるだろう。
「さてさて、締めのアイス! ユウトはどれにするー?」
どうやらまだ買い物は終わらないようだった。
楽しそうにアイスを選ぶ早川。俺も一緒にアイスを選んでいると、近くにいた買い物客の話し声が耳に入ってくる。
「──ついに国内でもダンジョンの消失現象が始まったって──」
「──月の穴もだし、何か大きな天変地異の前触れじゃない──」
その話していた二人組の買い物客は、そのまま歩いていって、声が聞こえなくなる。
「ユウト、選んだ?」
「──え、ああ。アイスだったな」
「どうかした?」
「いや、何でもない。俺はこれにする」
「あ、それも美味しいよねー。私もそっちにしようかなー。でも、これも食べたいしなー」
「……二つ買えばいいんじゃないか?」
「だめだよー。アイスは一個なの」
どうやら早川家ではアイスは一個ルールらしい。
「じゃあ、半分こしてあげるよ」
「やったー! 約束ね、ユウト」
ようやく買うものを選び終えた俺たちはレジでお会計を済ませると早川の家へと向かうのだった。