軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クレアの絶望・後

学園の高学年に上がってもウィリアム様は相変わらず、時折とは言え、見ず知らずの令嬢に 過(・) 度(・) に優しい。

ただ今までは、何処かの令嬢に優しく接した 後(・) 、私には普段よりもっと優しく接してくれてたのに、最近はそれが無くなってきた。

ウィリアム様が優しいのは分かってる、本当は私にだけ向けて欲しい。でもそれは我儘で…

教師は、表立って怒ったり泣いたりしては駄目だって。

ヒソヒソヒソヒソ…ヒソヒソヒソヒソ……

ヒソヒソ…ヒソヒソヒソヒソ…

ウィリアム様の優しさには、必ず私を卑しめる言葉が 追(・) い(・) か(・) け(・) て(・) 来(・) る(・)

……最近あまり眠れない。

◇◇◇

ウィリアム様がまたパーティで最初のダンスを何処かの令嬢と踊った。

ヒソヒソヒソ…

ヒソヒソヒソ…

ヒソヒソヒソ…

「格式のある場では、形式に則った行動をお願いします…」

「気をつけるよ…」

◇◇◇

何処かの令嬢がウィリアム様と腕を組んで歩いていた。

ヒソヒソヒソ…くすくす…

ヒソヒソヒソ…くすくす…

「人目のある所で奔放な振る舞いは困ります…」

「気にし過ぎだ…」

◇◇◇

ウィリアム様が庭園で何処かの令嬢の髪に花を差していた。

ヒソヒソヒソ…くすくすくす……

ヒソヒソヒソ…ヒソヒソヒソ…ヒソヒソヒソ…

くすくすくす…くすくすくす…くすくすくす…

「相手に気を持たせてしまう様な行動はお控え下さい…」

「別にそんなつもりはないよ…」

くすくすくす…くすくすくす…くすくすくす…

くすくすくす…くすくすくす…くすくすくす…

くすくすくす…くすくすくす………

何度嗜めてもウィリアム様はやめてくれない…

◇◇◇

「聞いた?。最近、ウィリアム様は[絵ガラスの君]と懇意にされてるんですって。」

学園の廊下を歩いていると令嬢達の噂話が聞こえてくる。

絵ガラスは図書室にあるステンドグラスの事だ。

麗しい令嬢が放課後いつも図書館に居る。

その令嬢にウィリアム様は毎週の様に会いに行くのだと

私はそれをちゃんと知っている、だってウィリアム様がそう言ってるから。

私達は時間が合う時は必ず昼食を一緒に摂る。

「今日も図書室でティア嬢に会うんだ。」

「…そうですか。」

私は微笑むしかない

誰にでも優しいウィリアム様

今までは見ず知らずの令嬢に一度か二度、特に優しく接しただけだったのに。

二学年に上がった頃から、特定の令嬢に何度も親しく接する様になった。

「クレア様はお美しいけど、きっとウィリアム様の好みじゃ無かったのね。」

「王族の婚約者ってやっぱり身分第一だから、ウィリアム様も仕方無かったんじゃない?」

くすくす…くすくすくす…

こんな事を言う人はごく一部だって分かってる。

私に親切に仲良くして下さる方もいっぱいいる。

幼馴染のヘクター様も、よく声を掛けてくれる。

(お互い婚約者のいる身だから、子供の頃みたいに接せられないけど…)

ちゃんと分かってる…

◇◇◇

「ねぇ聞いた?最近ウィリアム様は[草原の麗人]と親しくしてるんですって。」

「よくご一緒に遠乗りに出掛けてるんでしょ?」

「 トリステス様(草原の麗人) って活発でお美しくて…素敵よねぇ」

ウィリアム様は放課後やお休みの日にも時々、乗馬部に行って遠乗りを楽しむ。

放課後、久しぶりにウィリアム様とお茶をした。

「明日はトリステス嬢と遠乗りに行く予定なんだ。」

「……そうですか。」

私はちゃんと笑えてる。

私はちゃんと笑えてる。

私はちゃんと笑えてる。

「…………じゃぁ。また来週…」

「……はい。」

そう言ってウィリアム様は学園内のカフェテリアから去って行く。

夕暮れのオレンジの光が窓から差し込んでくる…

「……………遠乗り……良いなぁ…」

窓に向かって零した私の言葉は、誰にも拾われない…

◇◇◇

「[マリーゴールドの令嬢]って知ってる?」

「知ってる知ってる。 最近よくウィリアム様と一緒に居るのを 中(・) 庭(・) で見かけるわ。」

「珍しい髪色よね。鮮やかなオレンジ色。とっても華やかで。お顔も可愛らしくって。ウィリアム様と並んでると目立つのよね。」

また聞こえて来る噂話。

(知ってる……ウィリアム様が言ってた…)

「最近、一学年の令嬢と仲良くなったんだ。」

いつもの昼食の時間、ウィリアム様はそう言った。

「そうですか。」

「…………珍しい髪色でね。マリーゴールドみたいな鮮やかなオレンジ色なんだよ。とても可愛らしい令嬢で、妹がいたらこんな感じかなって思うよ。」

私はニコニコ笑ってその話を聞く…

「………明日の昼食はその子と中庭で食べる約束をしたんだ。…………良いよね?」

「分かりました。では、私は友人と摂る事にします。」

私がニッコリ笑うと.ウィリアム様もニッコリ笑った。

その後は何の会話も無かった

高学年になった時に生徒会に入ったウィリアム様は、とても忙しくてあまり時間が取れない。

その少ない時間を懇意にしている令嬢達にも割くようになって、学園で私と過ごす時間はどんどん減っていった。

◇◇◇

「クレア様…放課後にお時間取れますか?」

午後の授業と授業の合間に話しかけてきたのは、ヘクターの婚約者エタンセル・フラム侯爵令嬢だった。

学園の実習室

数人で取り組む課題などをする時に申し込んで使う教室。

(わざわざ教室を抑えるなんて…人に聞かれたく無いお話かしら?)

「いつまで静観なさるおつもりですか?」

「…………ウィリアム様の事?」

「そうです!最近のウィリアム様の行動は目に余る物があります!クレア様はこのままで良いのですか!?」

エタンセル嬢は悔しげな顔で声を荒げて言ってきた

私が目を丸くして驚いていると、エタンセル嬢は続けた

「ウィリアム様のクレア様を蔑ろにする行動のせいで、一部の…心無い者達の!クレア様を中傷する発言も許せないんです!」

(蔑ろに……やっぱり そ(・) う(・) 見えるんだ…)

見たく無かった現実を突き付けられた気がした

ふるふると微かに体を震わせて私に訴えるエタンセル嬢に

私の事を想って言ってくれてると分かっていても、息が苦しくなった。

「……何度も言ったのよ…でも、やめてもらえないの…

お母様伝えに、王妃様からも注意して頂くようお願いしてるの……

ウィリアム様は私がお嫌なのかもしれない…それならって…

お父様に婚約を見直せないか…って……………

それは難しい…って……

ヘクター様からも注意してるって…それは聞いてるかしら?…

でも、ウィリアム様は……どうしてかしらね……ほんの少しで良いから…少しでも慎んでもらえたら……」

そう言った後俯いた。つい、必要の無い事まで言ってしまった。

恥ずかしくて…情けなくて…エタンセル様の顔を見る事が出来なかった。

「心配してくれてありがとう。」

そう言って私は教室を出た。

毅然とした態度を…声を荒げてはいけない…背筋を伸ばして…美しい所作を…涙を見せてはいけない…公正に…顔を上げて…微笑みを絶やさず…全ての声に耳を傾けて…的確な判断を…

あと……

何だっけ…何だっけ…何だっけ…

◇◇◇

最終学年に上がって一ヶ月程経った頃。

ウィリアム様が懇意にしている令嬢、リール・シリッカ子爵令嬢に話しかけられた。

「ドケーシス侯爵令嬢様。初めてお目にかかります。シリッカ子爵家のリールと申します。」

(鮮やかなオレンジの髪…ウィリアム様の言ってた令嬢ね…)

「……初めまして。」

私はニッコリと笑顔で返す。

「ウィリアム殿下には一学年の頃から親切にして頂いて…とても感謝しております。」

噂通りに満面の笑顔がとても可愛らしい

「…そう。…ウィリアム様はとてもお優しい方ですものね。」

「……」

リール嬢は一歩近づいて

「今日の放課後…少しお話がしたいのです。中庭でお待ちしております。」

誰にも聞こえない程の小声でそう告げた

「では、失礼します。」

リール嬢は私の返事を待たずに、お辞儀をして去っていった

「…………………」

息が苦しい

◇◇◇

(行かなくても良いのに…)

放課後…ほとんどの者が帰って静かになった学園

(行くべきではないのに…)

中庭…中心にあるシンボルツリーの側に居るリール嬢

……それと……ウィリアム様。

(行ってはいけなかった…)

「私の初めての口付けはウィリアム様に差し上げたいのです……この先、どんな縁談が来てどんな方と結ばれようと…初恋はウィリアム様だったと覚えておきたいのです…」

帰らなきゃ!帰らなきゃ!帰らなきゃ!

今すぐ!動いて!振り返って!帰らなきゃ!

足が入り口から動かない…

手が壁から離れない…

ウィリアム様はリール嬢の頬を包み込む様に手を添えて上向かせ…

ゆっくりと口付けを落とした。

声が出ない…息が…胸が苦しい……

握り込む右手が痺れる…

( 耐(・) え(・) ら(・) れ(・) な(・) い(・) )

ウィリアム様の唇が、リール嬢から離れた瞬間

私は走り出した。

「あぁ……もう…無理……耐えられない…………約束したのに……」

溢れる涙を止められない…

◇◇◇

どうやって帰ってきたのか……

気付けば自室の鏡の前に座っていた……

いつの間にか涙が止まっている…

(ウィリアム様は覚えてなかったんだ…)

子供の頃 まだ婚約を結ぶずっと前 ウィリアム様と一緒にお出掛けする馬車の中 車窓から教会が見えた 結婚式を挙げていた…

「うわぁ 結婚式だー 花嫁さんキレイ!とっても素敵!」

「キレイだね きっとクレアの花嫁姿も素敵だよ 」

「聞いて!ウィリアム様! お父様とお母様は、お互いの 初(・) め(・) て(・) の(・) 口(・) 付(・) け(・) が結婚式なんだって!」

「!えっ!あっ…そうなんだ…」

ウィリアム様の顔が赤くなっていた。

私は胸の前で手を組んでうっとりしながら

「素敵でしょう…私も そ(・) う(・) が良いなぁ〜…そうだ!」

バッと

ウィリアム様に視線を合わせて

「もしも!もしもよ!…私とウィリアム様が婚約出来たら 私達も 初(・) め(・) て(・) の(・) 口(・) 付(・) け(・) を結婚式でしましょ!」

「!!!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜…ぃぃよ。…」

ウィリアム様は真っ赤な顔で頷いてくれた。

「きゃあ! 約束よ!ウィリアム様 」

ふらりと立ち上がり浴室に向かう

(何も考えたく無い……)

浴室…衝立の向こう側…

私の体を手入れする、石鹸やブラシ…色々な物が置いてある棚…

以前、眠れなくなった時にお医者様が処方してくれた睡眠薬を アニタ(侍女) がこの棚に仕舞ってた。

「……あった…」

青い瓶の中に薄いピンクの液体が入ってる。

瓶を持って空の浴槽の中に入り蹲る

(満水になれば頭まで浸かる……)

浴槽の栓をして、水を入れる。

(…冷たい…)

睡眠薬を全部飲み干す。

瓶を浴槽の側のサイドテーブルの上に置いて

蹲った

(……ウィリアム様なんて大っ嫌い……)