軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クレアの絶望・中

十三歳になり学園の中等部に入学すると同時に、私は妃教育が始まった。

学園の授業のあと王城に赴き、王族として妃として必要な事を詰め込まれる。

王城は好き。

侍女も侍従も丁寧に対応してくれるし、何処からも私を 貶(・) め(・) る(・) 言葉が聞こえてこないから

学園の勉強も難しいけど妃教育も難しい。何人もの教師の方々から色々なことを学ぶ。

殆どの方は厳しくも優しく私を導いて下さる、ただ一人を除いて…

リセンス・ブレーニー侯爵夫人

王国や王家の歴史と儀礼・式典の成り立ち、手順・進め方等、主に座学なのだけど

「違います!」

「ダメです!」

「間違ってます!」

ちょっとの間違いで厳しい注意をされる。

私が間違ったのがいけないんだけど…

だから自宅でも予習復習をきっちりして、三ヶ月経つ頃には殆ど間違わなくなった。

するとブレーニー夫人はたった一問の間違いを執拗に責める様になった。

「王妃に立つ者はこの一つのミスが周りに侮られる要因になるのですよ!しっかりして貰わねば困ります!」

「きちんと学んで貰わねば私の指導が悪いと言われてしまうのですよ!」

「何故 完(・) 璧(・) に出来ないのですか!この 私(・) が(・) 教えているのに!」

最近はブレーニー夫人の言ってる事が理不尽に感じる。

◇◇◇

ウィリアム様の 優(・) し(・) さ(・) は学園に入学しても続いてる

でも私は表立って怒ったり泣いたりしてはいけない。

その様に妃教育の教師が言うんだもの

遠目に見て…目が合って…頑張って悲しげな 表情(顔) をしてるつもりなんだけどウィリアム様はやめてくれない。

◇◇◇

「………ハァ……本当に…いつまで経っても 完(・) 璧(・) になりませんね……」

今日もブレーニー夫人が怒っている…本当に本当に小さな間違いなんだけど 王(・) 妃(・) になる者には許されないのですって。

夫人が机に向かって座る私の横に立った

「両掌を上に向けて机に置きなさい」

「…?…」

私はオズオズと手を机の上に置いた

バシンッッ

「いっ!!」

「声を上げてはいけません」

耳元で夫人が私に注意する

「いかなる時も声を上げてはいけません…王妃になるのですから…」

掌を見ると真っ直ぐ一本の線を引く様に赤くなっている 私は目に涙を浮かべてカタカタと震えた。

チラリと横に立つ夫人を見ると手に細い細い指示棒を持っていた。

バシンッッ

「!!!ッ」

唇を噛んで声を出すのを我慢する、体はぷるぷると震えが止まらない。

「紛争で囚われた王族は拷問を受ける事もあります。そんな時も王族の威厳を持って堪えなければなりません。あなたは王妃になるのだから」

バシンッッッ

「!!!!!」

三回叩かれた…

「私だって仕方なくやっているのです」

そう言って氷でいっぱいのティーポットを持たされた。

冷たくて気持ちがいい

「クレア様が不出来だから、お仕置きをしたのです」

「…………………」

「この事は話さない様に。お仕置きをされる程不出来だと 知(・) ら(・) れ(・) た(・) く(・) 無(・) い(・) でしょう?」

「…………………………」

「クレア様。お返事は?」

「……はい……」

ブレーニー夫人の授業がある日は足が竦む…全身に冷や汗が出て気持ちが悪くなる。

でも休むわけにはいかない…

◇◇◇

学園ではウィリアム様とは同じ学年でも選択してる学科が違うから余りお会いできない。

それでもお時間の合う時は昼食をご一緒する。

ほんの少しの時間でもウィリアム様とお話し出来て嬉しい。

「学園では授業、王城では王政の勉強…目が回っちゃうよ。クレアは学園には慣れた?」

「はい。仲良くして下さる方々も出来て楽しく過ごせてますわ」

「……なんか…話し方が丁寧になったね…」

「はい。妃教育の教師方にも褒められるんです」

「……凄いな……頑張ってるんだね」

ニッコリ笑ってウィリアム様はそう言ってくれた。

(ウィリアム様が褒めて下さった頑張って良かった………)

「クレア?」

「…あ…あの……」

「「ウィリアム様ーー」」

何人かの令嬢がウィリアム様に話しかけてきた。

「昼食がお済みでしたら勉強を教えて頂けません?解らない所があって〜」

「うん。良いよ」

ウィリアム様はそう言ってチラリと私を見た

私はニッコリと微笑むしかない。だって私に 行(・) っ(・) て(・) い(・) い(・) か(・) ?(・) と意見を求められてない

「……………じゃあクレア。またね」

「「クレア様。失礼します」」

笑顔を貼り付けたまま頷く

(ハァ……行ってほしく無かったなぁ……ブレーニー夫人の事も言いたかった…)

「クレア様…いいんですか?」

学園で仲良くなった令嬢達が話しかけてきてくれた。

食べかけの昼食が乗ったトレイを持って空いた座席に座る

「いいのよ…だってウィリアム様が『良いよ』ってお返事してるんだもの……」

私は令嬢達に囲まれるウィリアム様の背中を見送った。

◇◇◇

相変わらず授業の最後にはブレーニー夫人にお仕置きを受ける。

でももう慣れた。

慣れてしまえば痛いのも簡単にやり過ごせる、ちょっとボーッとしてる内にいつの間にか氷入りのティーポットで手を冷やしてる。

でも今回は違った。

気付くと私は知らない天蓋を見つめていた。

(知らないベッド……)

ぼんやりしてたら頭がズキンと傷んだ。そっと頭を触ってみると包帯が巻かれていた。

「………頭が痛い…」

私がボソリと呟くと

「クレア!!!」

お母様の叫ぶ声が聞こえた。

「お母様?」

「あぁ!クレア!!良かった…良かった……」

お母様は駆け寄り私の手を握って物凄く泣いている。

「???…なに?…何があったの?……ここはどこ?……」

「あなた……覚えてないの?」

◇◇◇

「頭に受けた衝撃で前後の記憶が曖昧になったと思われます」

そう話しているのは王城の専属医。そしてここは王城。

「あなた…ブレーニー侯爵夫人に殺されそうになったのよ」

「えぇ!?」

お母様に衝撃の事実を告げられビックリしてると丁度お父様がやって来た。

「クレアーーーー!!!」

「お父様!」

「クレア!クレア!!ああ…クレア……可哀想に…怖かっただろう……」

そう言ってお父様の大きな手がそろそろと頭の包帯の横に、触れるか触れないかの距離で添えられる。

涙目のお父様に

「あなた…クレアは覚えてないんですって……」

お母様はお医者様の言葉をお父様に伝える。

「そ!…そ…れは…クレアは大丈夫なんですか?」

お父様はお医者様に尋ねた。

「頭に受けた衝撃で前後の事を覚えていないのは、よくある症状で…記憶に関しては思い出すか思い出さないかは、私にも確実な答えが有りません」

「あぁ…思い出さなくって良い…恐ろしい記憶なんて無くていい」

お父様は慎重に寝たままの私を抱きしめてそう言った。

「頭の怪我は出血の割に傷は浅く…小さな傷が残りますが髪の毛の中なので目立たないでしょう。……また首の痣ですが…一週間もすれば綺麗に消えると保証します」

「痣?…首の?」

お父様が少し離れて私の首を見る。私はそっと手を首にやると

(包帯が巻いてある……)

「あの女…殺してやる……」

「やめてあなた!!クレアの前よ!……とにかく…クレアは今はゆっくり休みましょう。ですよね?」

「はい。丸一日意識が無かったのですから…頭の怪我は後々症状が出る事もあります。必ず誰か人をつける様に致します。傷を見ますので御両親は外して頂けますか?」

「はい。あなた…行きましょう」

「そうだな…それに………クレア。お父様達は陛下とお話があるから…また後で来るからな」

「はい」

お医者様に包帯を替えてもらい、フルーツを少し食べてお薬を飲んだら

お父様とお母様それに国王陛下と王妃殿下もお部屋にいらっしゃった。

国王陛下は事の顛末を話して下さった。

ブレーニー夫人は私が生意気な事を言ったからカッとなって、私の頭にティーポットを投げ付けたんだと。

そして椅子から倒れ落ちた私に馬乗りになり首を絞めたと…

(……殺したい位私の事が嫌いだったのかしら)

物凄い音にドアの外に控えていた侍女が部屋に飛び込んで、ブレーニー夫人に掴み掛かり大声で人を呼んだと…

(…今日は アニタ(侍女) が付いて来てくれてたんだ…?)

部屋には氷が散らばっていて、私の掌の あ(・) と(・) に気付き、夫人を尋問したところ。

私への 虐(・) 待(・) を自供したと

( 虐(・) 待(・) ?……あれは虐待?)

そして国王陛下は重々しく口を開いた。

「……王家が 厳(・) 選(・) し(・) て(・) 選(・) ん(・) だ(・) 教(・) 師(・) が、王太子の婚約者に日常的に虐待を行い…ましてや殺害未遂などと……醜聞を表に出す訳にはいかない……」

( 殺(・) 害(・) 未(・) 遂(・) ……そうか…私……死ぬところだったんだ…)

今になってやっと実感が湧いてきて体がガタガタと震え出す。

「クレア…大丈夫よ…もう捕らえたから。あなたの身は安全よ」

王妃様が私に駆け寄り手を握ってくれた。

「クレア…そしてドケーシス公爵夫妻。どうか此度の件を内密に願いたい」

そう言って国王陛下が頭を下げられた。

お父様は強く手を握りしめて

「………陛下に頭を下げさせておいて…否とは言えません……その代わりあの女に相応以上の罰を与える事をお約束下さい!」

「約束しよう。すまないな…」

お父様とお母様は陛下に頭を下げた。

「……あの…」

「どうしたの?クレア…」

私の小さい声を王妃様が拾って下さった。

「私も一つだけいいでしょうか…」

「なあに?何でも言って」

王妃様が優しく聞いて下さる。

「今回の事全部…ウィリアム様には知らせないでほしいんです」

大人達は皆んな驚いた顔をして私を見ている

王妃様は優しく

「それは何故?」

とてもとても優しく聞いて下さったから…私の目からポロポロと涙が溢れてしまった。

「…は…恥ずかしくて…… 虐(・) 待(・) されてたなんて…知られた…く……なぃ……うぅーーーっ…」

お母様もボロボロ泣き出してお父様に抱きしめられている。

王妃様は涙を浮かべて私を抱きしめてくれた。

陛下は私のところまで来て優しく頭の包帯の無い所を撫でてくれた。

「約束する。絶対ウィリアムには知られない様にしよう。今後も…クレアの願いは可能な限り、最大限叶えると誓おう」

ブレーニー侯爵夫人は離縁され爵位を剥奪、国外追放になったと聞かされた。