軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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南の山岳地帯は、旅の中で一番厳しい場所だった。

道が険しい。気温が低い。村は点在していて、移動に時間がかかる。

ここでの問題は複合的だった。地下の魔力路の劣化と、山の地形変化が重なって、複数の村で同時に影響が出ていた。

「一箇所ずつやっていたら一ヶ月かかる」とエルクが言った。

「根本を直せれば、派生している問題は自然に解決するはずです」

「根本がどこかを特定できるか」

「やってみます」

サチコは山の中腹に登った。エルクが隣についてきた。護衛のふたりも後ろに続く。

山の上から、感覚を広げた。

地下の流れを、全体として感じる。どこが起点で、どこが歪んでいるか——

(あった。)

山の反対側、崖の下に、古い魔法陣の残骸があった。百年以上前のものだろう。かつてこの地域の魔力を管理していた陣が、崩れて半分埋まっていた。

「エルク、崖の向こうに降りられますか」

「道はない。一時間はかかる」

「行きましょう」

「荷物は護衛に預けよう。身軽な方がいい」

一時間かけて崖の下に降りた。

古い魔法陣は、土と岩に半分埋まっていた。でも魔力の痕跡は残っている。

「これを修復するのか...」とエルクが言った。

「修復というより——再起動です。陣そのものはまだ生きている。ただ、動くための魔力が途絶えている」

「動力を入れる、ということか」

「はい。外から押してあげる感じで」

エルクが陣の構造を調べ始めた。岩に刻まれた文様を読んで、設計を解析する。

「百二十年前の陣だ。当時の標準的な構造だが——中央の起動石が欠けている。誰かが持ち去ったか、自然に割れたか」

「起動石がなくても、代わりに魔力を流し続ければ動くはずです」

「理論上はそうだが——継続して魔力を供給できる存在がなければ、止まる」

サチコは陣の中央に手をついた。

感じる。古い設計の、骨格が残っている。

(起動石の代わりに、自然の魔力流と接続できれば——陣が自分で動き続けられる。)

「エルク、この陣を地下の魔力流に直接接続できますか。自立して動くように」

「設計の改修が必要だ。今の状態では外部からの入力に依存している」

「どのくらいで改修できますか」

「設計を読むのに今日一日、改修の書き込みに明日半日、あとはお前が流れと繋ぐ作業に——」

「半日くらい」

「合計二日と半日だ」

「では始めましょう」

エルクは即座にノートを開いた。サチコは陣の端から感触を確かめ始めた。

崖の下で、ふたりの作業が始まった。

二日目の夜、崖の下にいるのも非効率だということになって、近くの村に宿を借りた。

夕食を食べながら、村の子どもたちがサチコとエルクの周りに集まってきた。魔法使いが来たという噂を聞いてきたらしい。

「魔法見せて!」

「炎は出ないですよ」とサチコは言った。

「じゃあ何ができるの?」

「整えること、が得意です」

「整えるって?」

サチコは子どもたちの前のコップを見た。水が少し濁っていた。魔力をそっと流す。水が澄んだ。

子どもたちが「おお!」と声を上げた。

「こんなもんか」と男の子のひとりが言った。

「地味だな」

「そうだよ」とサチコは笑って言った。

「地味じゃない」とエルクが隣で静かに言った。

子どもたちが驚いてエルクを見た。普段無口なエルクが口を開いたからだ。

「この魔法がなければ、お前たちの村の畑は一生実らなかった。地味に見えるものが、一番大事なことがある」

子どもたちがしんとした。

サチコは少し驚いてエルクを見た。

エルクはすましてスープを飲んでいた。

「……ありがとうございます」とサチコは小声で言った。

「事実を言っただけだ」

「それでも」

村の夜は静かだった。遠くで狼の遠吠えがして、風が山を吹き抜けて、宿の火が揺れた。