軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2人の関係

仕事を終えて自室に戻ったシリウスは、シャワーを浴びた後、窓辺に佇みながら外を眺めていた。

しばらく止んでいた雪が、窓から零れる光を浴びてキラキラと輝きながら闇夜を舞っている。

それは、拠点の至る所に置かれているランタンの光と相まって幻想的ではあったが、どこか物悲しくも見えた。

シリウスはその光景をしばらくじっと見ていたが、ついつい感傷的になる自分自身に苦笑し、テーブルに用意されていた寝酒用のグラスを手に取り、一気に呷る。

タンッと勢いよくグラスをテーブルに置くと、そのままどさりとソファーに腰を下ろした。

トクトクトクトク

シリウスは無言で再び酒をグラスに注ぎ、ゆらゆらと揺れる琥珀の液体をじっと見つめながら、ぽつりと呟いた。

「…10日か…」

オリビアがいなくなって今日で10日。

シリウスはカッシーナの残務を行いながらも、精力的に仕事はこなしていた。

しかしここ最近眠りが極端に浅く、リシューがわざわざ寝酒を用意する程だった。

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「誠に申し訳ございません」

「申し訳ございません」

カッシーナ公国から戻ったその日の夜、意識を取り戻したミナとバジルはシリウスの執務室を訪れた。

2人の顔色は終始悪く、ミナに至っては目に涙を浮かべている。

「私が不甲斐ないばかりに…。本当に申し訳ございません」

「大まかな所は把握しておりますが、まずは報告を」

座っているシリウスの直ぐ後ろに立っていたリシューが、柔らかい声で2人に告げた。

シリウスも手を止め、ミナ達に視線を向ける。

「はい。あの日、到着して直ぐにオリビア様の診察をバジルにお願いしました」

ミナはバジルの方に視線を向けると、彼女はその意思をしっかりと受け取り、報告の続きを説明し始める。

「オリビア様は下腹部に違和感があるとの事でしたので、触診致しました。その結果、赤子の拳程の塊がへそ付近にある事が分かりました」

「塊…それで?」

リシューがバジルに続きを促す。

シリウスも握っていたペンを静かに机に置き、じっとバジルの続きを待った。

「そこで触診から魔力診断に変更し、魔力を流して体内の異物を調べたのですが、その際とても苦しまれて…」

バジルは眉を顰めて苦しそうに告げる。

「苦しまれたのですか?」

「…はい。自らの首を掻き毟って暴れた後、室内から姿を消しました」

「…それから?」

「転移でしょうか、いつの間にかロータリーまで移動なさっており、慌てて追いかけたのですが…」

「成程…そこでシェラ様が現れた、と」

リシューは大きく息を吐いた。

「やはりあれはシェラ様だったのですね…。私は恐ろしさの余り身体を動かす事が出来ませんでした。まるで時間が止まっているかのようでした」

ミナはあの時の状況を思い出したのだろう、両腕を擦りながら悔しそうに目を伏せる。

「監視魔石の映像を見る限り、間違いなく時間は静止していたでしょう。あなた達がどうこう出来る相手ではありませんよ」

「……」

リシューの言葉にミナは俯く。

「バジル。オリビア様が何故、苦しまれたの分かりましたか?」

「いえ。まだです」

「そうですか。今日はもう遅いですので、明日からでもその件の解明に注力して下さい。オリビア様の件は彼女の母君であらせられるシェラ様がついていらっしゃいますので問題ないでしょう。今日はもう下がってもいいですよ」

リシューはにっこりと2人に告げた。

ミナはチラリとシリウスを見るが、彼は無表情のまま一切口を開かない。

「…はい。失礼します」

「失礼します」

ミナとバジルは、自らの不甲斐なさに落ち込みながら執務室を後にした。

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オリビアがいなくなってから、北の拠点はまるで火が消えたようだった。

あの日、シェラがオリビアを迎えに来た。

いかなる人間であっても、それを阻止する事は出来ない。

シリウスとリシューはそれをしっかりと理解していた。

だからこそ、ミナとバジルを咎めはしなかったのだ。

我々が今出来る事は、オリビアが自らの意思でここに戻って来るのを待つだけ。

ただそれだけであった。

シリウスは再び酒を呷る。

今日はもう寝てしまおう。

無表情で平然としているが、シリウスの身体はそろそろ限界だった。

眠れなくてもベッドに横になるだけで、大分マシだろう。

そろそろバジルから睡眠薬でも処方してもらおうか。

シリウスはグラスを置いてガウンを乱暴に脱ぎ捨てると、ベッドへと向かって歩き出した。

その時シリウスは、不意に窓際に飾ってある鈴蘭の匂いを強く感じた。

「?」

何の気無しに振り返ると、室内にキラキラと光りの粒子が降り注いでいる事に気が付く。

まさかと思い固唾を飲んで様子を窺っていれば、ゆっくりと光の粒子が一所に集まり始めたかと思うと、一瞬まばゆい光が辺りを包んだ。

「ただいま!シリウス兄様!!」

突然の弾ける様な声と共に、光の中心からオリビアが現れた。

シリウスは目を見開いたまま無言で両手を伸ばすと、空中にふわふわと浮いたままだったオリビアの身体を強引に抱き寄せた。

「わっ!」

「オリー…」

シリウスは彼女をぎゅっと抱き締めて大きく息を吸った。

ああ、花の香りがする。

肺に空気が入る感覚を久しぶりに全身で感じ、シリウスはそのままくるりと方向転換してどさりとベッドに倒れ込んだ。

「うわっ!あれ?シリウス兄様??」

オリビアは勢いよくベッドに押し倒され、シリウスに上から体重をかけられる。

驚きの余りきょとんとした顔で見上げるが、シリウスは肌の感触を楽しむようにオリビアの頬を優しく指先で撫でた。

オリビアは以前よりも顔色が良くなり、瞳には強い光が宿っている。

「おかえり、オリビア。会いたかった」

シリウスはオリビアの額に自らの額をコツンとくっつけ、囁くように告げた。

「うん。私も」

オリビアも嬉しそうにえへっと笑った。

「体調は大丈夫なの?とても苦しんだって聞いている」

シリウスは切なそうに眉を下げながら、オリビアの下腹部にすすすっと手を下ろし、やんわりとへそ付近を撫でた。

「だ!…大丈夫!大丈夫!もう平気だから!!」

オリビアはくすぐったさと恥ずかしさの余り、自分のお腹の上にあるシリウスの手を慌てて掴むが、彼はそんな行為を物ともせず、反対にオリビアの手をしっかりと握り返した。

「ねえオリビア。好きなんだ、愛してる。だから突然いなくなったりしないで」

シリウスはオリビアを真剣な表情で見つめる。

辛そうに眉を顰め、彼の語尾は掠れていた。

「あ…ごめん、なさい」

オリビアは、シリウスに想像以上の心配をかけてしまった事に気付き、素直に謝る。

「あ、あのその。理由があって…。でも、今度からきちんと…伝える」

「うん、お願い。ところで」

「?」

「私の渾身の告白に、答えてはくれないの?」

「へ?…あ…」

今気付いたのだろう、オリビアの顔がポフンっと朱に染まった。

「オリビア。私は君を一人の女性として愛しているんだよ。君は?」

はわわわわ…。

突然のシリウスの告白に、オリビアの頭は大混乱だった。

しかしオリビア自身も、今回彼と離れた事により、その想いを実感したのだ。

「う…うん。私も、シリウス兄様の事、男の人として…その…好き…デス…はい」

しどろもどろになって答えながら、おずおずと上目遣いでシリウスの顔を見る。

するとシリウスはオリビアの言葉を咀嚼するかの様に彼女の顔をじっと覗き込んだ後、暗い表情で、しかし若干瞳孔が開き気味のとんでもない表情で顔を近付け、有無を言わせずオリビアの唇を奪った。

「!?」

オリビアは驚いて硬直するが、シリウスはそんな彼女に口付けながら、動けない程しっかりと抱き締める。

はきゃあぁあああああああああ!!

なんてこと!なんてこと!!なんてこと!!!

オリビアは、内心大絶叫だった。

シリウスは口を開き、オリビアの唇をゆっくりと食む。

彼女の舌を自らの舌に絡ませ、ねっとりと深い口付けを繰り返した。

オリビアは恥ずかしさと息苦しさに、空いていた両手でシリウスの背中をぱしぱしと弱弱しく叩くが、その両手さえも、シリウスの手が這うように上がってくると、しっかりと指を絡まされ、顔の横に縫い付けられた。

2人の身体が、隙間無くしっかりとくっつき合う。

時折口付けの合間に顔を上げて熱い息を吐くシリウスは、何も言わずにじっとオリビアを見つめ、自らの唇をぺろっと舐める。

オリビアはそれを見て真っ赤になって抗議しようと口を開くが、再びシリウスにその唇を塞がれてしまう。

何度も角度を変えながら行われる口付けは、時には首や鎖骨、胸のギリギリまで降り、再び唇に戻る。

吐息と共に注がれる熱い熱に、オリビアの意識は朦朧とし始めた。

どれほどの時間、そうしていたのだろうか。

シリウスが一応満足して唇を離した時には、オリビアは息も絶え絶えになり、しどけない表情でシリウスを見ていた。

その姿を見たシリウスは薄く笑いながら、仕上げとばかりに音を立ててオリビアの頬に口付けを贈った。

「…シリウス兄様…ひど…い」

息絶え絶えに、涙目で睨んだオリビアだったが完全に逆効果である。

シリウスはベッドに横たわるオリビアを見下ろしたまま、両手で優しく髪を梳いた。

以前よりも、青みと輝きが増したように思える。

シリウスは彼女の耳元に唇を寄せた。

「オリビア、結婚しようか」

「ふへ…?」

吐息と共に囁かれた言葉に、ぞくぞくと身体が震える。

すると、耳元の唇がゆっくり首筋に降りてくる。

「…あ」

「返事は?」

シリウスの唇が、再びオリビアの口元へと上がってくる。

「オリビアがいない生活なんて考えられない。16歳になったら直ぐに式を挙げよう。今から婚約期間だ。だが通常の婚約と違って白紙に戻す事は出来ないからそのつもりでね」

唇に息のかかる距離でシリウスは囁く。

「ふえっ」

「ね?」

オリビアは真っ赤になりながらも、こくこくと頷く。

「すごく…嬉しい…デス」

何故にこんなに展開が早いのか理解出来ないオリビアだったが、どうやら自分はシリウスとは相思相愛で結婚出来るらしい。

オリビアは考えただけでも嬉しくなって、シリウスの背中に両手を回してぎゅっと抱き締めた。

「大好き、シリウス兄様」

「……」

それを聞いたシリウスは、再びオリビアに口付けると耳元や首筋にゆっくりと手を這わせていく。

寒いようなくすぐったいような、何とも言えない感覚にオリビアは身を震わせた。

「ふ…あ…」

「夜はまだ長い。もう少しオリビアを堪能させてね」

シリウスは優しくほほ笑む。

今は口付けだけで我慢するから。

耳元で囁く。

2人の時間は始まったばかり。