軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

世界の楽しみ方

その日から、オリビアはぐだぐだ考えるのでは無く、シェラに言われた通りひたすら魔力を放出する事に意識を向け始める。

自分が持っている魔力は、使い切れば勝手に無くなるものだと何となく思っていたのだが、意識して放出すればするほど、まるで深呼吸しているかの様な心地良い感覚になっていった。

出せば出す程入ってくる。

いや、本当に出しているのか。

ただ、媒介している様な、そんな気さえしてきた。

「これが精霊のお仕事か~まるで光合成みたい」

放って置けば勝手に行われる反応を、自らの意思で止めてたなんて、とんでもない勘違い野郎だったと、オリビアはいたく反省する。

前世の記憶から、どうも根底に『自分は人間である』という強固な思い込みがあった。

それさえも、魔力を使うごとに徐々に薄れ、それと共に、思考、いわゆる負の感情に引っ張られる事も少なくなってきた。

簡単に言うと『人間だけど精霊の力を持つ者』という考えから、『精霊であるが、人間の属性も持つ者』に次第に変化していったのだ。

身体を取り巻く魔力が黒から虹色、そして無色に変わった頃、オリビアはシェラに呼ばれる。

「これ返しておくわね」

そして、シェラから白い魔石を手渡された。

彼女は何だろうと思い、クンクンと匂いを嗅ぐと、余りの臭さに顔を背けた。

「おえっ・・生臭い・・・」

「それはドラゴンの魔石だ。きっとシリウスが君に使ったのだろう」

シェラの隣に立っていたダリルが説明する。

「へえ・・・シリウス兄様が・・・」

「魔力は人の身体を回復する力があるらしいの。でも精霊はこういうものを食べるとお腹を壊すから、勝手に食べさせないでって、きちんと皆に伝えるようにね」

シェラはオリビアの頭を優しく撫でた。

「分かった・・・って。え?もしかして戻っていいの?」

オリビアは、驚いた顔でシェラとダリルを交互に見る。

「くれぐれも、今の状態を維持しておきなさいね」

「うん!」

オリビアは嬉しそうに頷くと、ぱあっと周りに光の粒子が飛び交った。

「向こうだと大体10日位時間が経って・・・て、聞いてないか」

補足しようとしたダリルの言葉は、既にオリビアの耳には届いてないようだった。

その姿を見て、シェラはクスクスと笑う。

戻れる!

戻れる!シリウス兄様に会える!!

やった~!

今、何をしているのだろうか。

何を考えているのだろうか。

自分の事を思ってくれているだろうか。

離れてみて、オリビアは改めて彼が大好きだったと思い知った。

胸の辺りがくすぐったくて、自然と口角があがる。

「うふふふ」

声が聞きたい。

温かい腕に抱き締められたい。

優しく頬を撫でられたい。

「ああ我慢出来ない!このまま飛んでいくわ!!」

オリビアはそう言うと、まるで獲物を見付けて尻を振る子猫のように、いそいそと身だしなみを整え始めたのだが、はたっと思い出したかの様にシェラの方を見た。

「お母様。私精霊だけど人間が好きよ。だからもう少しこのままでいさせてね」

オリビアはニッコリ笑うと、シェラの返答を待たずにその場から姿を消した。

「あらあら・・・仕方のない子ね」

残された光の粒子を眺めていたシェラは、面白そうにほほ笑んだ。

そしてオリビアと共有した情景や感情が、勢いよくシェラに流れ込んでくる。

直ぐ側にいて、体温や匂いを感じる事。

見つめ合い、肌を合わす事。

それがとても愛おしいと感じる。

心が弾む。

これこそが、オリビアが感じている恋なのだろう。

シェラは、今まで感じた事のない充足感に歓喜した。

「シェラ」

ふいに背後から呼ばれて振り返ると、ダリルが自分に向かって両手を広げていた。

「ダリル」

シェラはほほ笑むと、彼に身体を預けた。

そのままダリルはシェラの身体を抱き寄せる。

「オリビアがご機嫌で嬉しいわ」

「私はあなたがご機嫌で嬉しいよ」

「あら?うふふふ」

シェラは小首を傾げてダリルを見上げる。

その余りのあざとさに、ダリルは一瞬息を飲んだ。

「ねえダリル?」

「ん?何だ?」

ダリルは、甘えたようにほほ笑むシェラの額に口付けを贈る。

「人間って、必要かしら?」

「・・・・・・・・・・え?」

その問いに、ダリルの動きがぴたりと止まる。

「あ、驚かないで。私にとってあなたは必要よ。オリビアにとってシリウスが必要なようにね」

シェラはふふふと笑いながら、ダリルの唇に人差し指をちょんと付けた。

「私はオリビアのおかげで恋を知った。とても素敵よ。これからもあなたの側にずっといたいと思えるもの」

胸がくすぐったさに弾み、感じた事のないエネルギーが溢れ出す。

でもそれだけじゃない。

シェラがオリビアの記憶や感情を覗いた時、ありとあらゆるものが観えた。

そう、ありとあらゆるものだ。

それはカッシーナ公国から始まり、サイファード領での仕打ち、前世に至るまでだ。

そもそもダリルに会う前、シェラは既に人間に飽きていた。

『居ても居なくてもよい存在』

それがここにきて、『居なくてもよい存在』になりつつあった。

「ねえ、ダリル。私達のいたあの国はどうなったのかしら?」

シェラはダリルの頬に手を添えて尋ねる。

「ああ。ブラン王国は、その内消えるだろうな」

「その内?」

「その辺りはシリウスに任せてある」

「・・・そう。それじゃあ、あの子にちょっかいをかけた人間達も?」

「ああ、シリウスに任せてある」

「全員?」

「・・・・ああ」

一瞬の躊躇が、ダリルの返答を一拍遅らせる。

「あら?何か?」

「・・・・・」

「ダ~リ~ル」

シェラはじっと彼を見つめる。

するとダリルは観念したかの様に溜息を吐いた。

「アレクに関しては、こちらで対応した」

「アレク?」

シェラは考え込む様に首を傾げる。

「ああ、あれね。何をしたの?」

「特に何を、という訳ではないが、オリビアに兄弟が出来ない様に色々と処置しておいた」

「処置?ふ~ん。そうなのね」

シェラは聞いておきながら、特に興味を示さずに話題を移す。

「オリビアのお蔭であなたの事を沢山知る事が出来たわ。だからもういらないんじゃないかって思ったの。だって取るに足らない存在だもの」

シェラは首を傾けながら、ふふふと面白そうに笑う。

「あなたにとって取るに足らない存在なら、放って置いても問題ないのでは?」

「う~ん。そうなんだけど、何かしら?ちょっと気に食わない感じがするのよ」

「気に食わない・・・?」

「そう。私のオリビアに何してるのよ~って」

「ああ。それは怒りだな」

「え!?」

シェラは驚いた顔でダリルを見る。

「オリビアに想像以上にちょっかいをかけられて、あなたは怒っているのだ」

「怒り・・・怒り・・・」

シェラは自分の胸に手を当てて、その感情をしっかりと味わう。

「あなたの怒りはもっともだ。奴等への制裁には私も手を貸そう」

ダリルはほの暗く笑う。

「え、ええ。そうね。うふふふ・・・ああオリビア。あなたは本当に最高だわ。この私に沢山の贈り物をくれるのね!」

シェラは感極まって、ダリルの唇に自らの唇を当てた。

ダリルは驚いて目を見張る。

シェラはダリルから唇を離すと、仕上げに彼の唇をぺろりと舌で舐めた。

今更ながら、これが2人の初の口付けである。

「シェラ・・・」

ダリルは自らの唇に指先を当てる。

「これ、恋の挨拶かしら?」

シェラは興奮の余り、たった今、人間界でオリビアがシリウスにされている行為を真似てみたのだった。

ダリルはシェラを優しく抱きしめ、今度は自ら唇を合わせる。

先程とは違い、舌を使ってねっとりと繰り返す口付けに、いつしか2人の息が荒くなっていく。

「あ・・・ダリル」

ダリルがシェラを抱き上げると、ゆっくりと寝室まで運ぶ。

「あなたに沢山の事を教えたい。許してくれるだろうか?」

ダリルはシェラの耳元で低く囁く。

「それは素敵な事かしら?」

シェラはダリルの頬に手を当て、再び口付けを贈る。

「私がどれだけあなたを愛しているかを」

「まあ・・・」

シェラはうっとりと微笑んだ。

ただ観ているだけの世界。

ずっと触れたかった世界。

そしていざ触れてみたら、想像以上につまらない世界だった。

もういらない。

興味を失くした世界は、彼女には必要なかった。

あの時ダリルに会わなければ、シェラは間違いなくこの世界を壊していただろう。

ベッドでダリルの熱い口付けを受けながら、シェラは思う。

ねえオリビア。

この世界で、これからあなたは私に何を見せてくれるのかしら?

シェラは堪らない興奮に身を震わす。

大切なあなたのお願いだから、しばらくはこの世界を楽しみましょうか。