軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受け入れること

好き

(私の気持ちに応えて)

大好き

(ずっと側にいて 私だけを見て 他の誰も見ないで)

好きで好きで苦しい

(苦しい)

離れたくない

(誰にも渡さない)

オリビアの身体から次々と黒い靄が立ち昇るが、それは全てシェラの身体に吸い込まれていく。

「ふふふふ。恋って不思議なのね。まるで温かい木漏れ日と、美しく咲き乱れる花々のようにキラキラと輝いているのに、それと同居している嫉妬という感情は、複雑で矛盾していて、けれども繊細で力強いドロドロとした重さを感じる。まるで嵐の空模様ね」

シェラは瞳を輝かせながら満足気に頷く。

「でもまだ足りない。オリビア、もっと頂戴。お母様は分からないの。何も分からないのよ」

シェラはオリビアの身体をぎゅっと抱き締め、彼女の記憶と感情を覗く。

200年以上人間の振りをし続けても、やはり分からなかった。

それでも彼の事は理解したい。

同じように笑い、悲しみ、寄り添いたい。

シェラはそう願っていた。

一方オリビアは、自身の記憶を覗かれているからだろう。

何となく、シェラ自身の記憶も同じように感じることが出来た。

『本当に何もかもが全く違う』

それに尽きた。

彼女は観ているだけの存在。

全てが同じフィールドで、全てが同等。

人間の思考や感情、叫び声さえも虫のさざめきや草木のざわめきに近い。

風が吹き、雲が流れる。

雨が降り、大地を潤す。

草木が芽吹き、実をつけ、そして枯れていく。

それは尊い生命の循環。

特別であり、ありふれた情景。

人間もそれを彩る1つのパーツにすぎない。

その中で唯一違うのが、自らが祝福を与えた愛し子の存在。

魂を愛し、存在そのものを愛する。

彼等に向ける愛こそが、オリビアから言わせると、人間臭かった。

しかし精霊には、思考に伴う感情が存在しない。

必要無い、とも言えるのだが。

だからこそ、いかに愛し子に対してであっても、彼等が何に悩み、苦しんでいるのかさっぱり分からなかった。

「お母様は、あの人の側にいる事しか出来ないの」

オリビアは、シェラの背後で二人を心配そうな表情で見つめているダリルに視線を移した。

彼を愛する余り、彼の事を知りたいと願う。

気まぐれで200年過ごした時ですら諦めていた人間の感情を、彼の為に知りたいと願う。

そしてサイファードを去った後、全てを捨てて精霊界に戻ったのかと思えば、ずっと彼の側にいた。

それこそが彼女の答え。

「もうそれが人間の感情だよ」

オリビアは断言した。

「え?」

「そもそも人間だって、他人の気持ちなんて、分かったりなんか出来ない」

「そうなの?」

「そうなの!だからこそ、好きな人の色々を知りたいって思うの。お母様はあの人と一緒に泣いたり笑ったり、悩んだりしたいんだよね。彼の全てを知りたいんだよね。一緒にいたいんだよね。その思いこそが人間と同じなんだよ」

「・・・・・」

シェラはきょとんと首を傾げる。

「本当に大好きなんだね。あの人の事」

オリビアはシェラを通り越して、じっとダリルの顔を見る。

「確かにダリルの事は大好きよ。初めて会った時に見た、彼の涙はとても美しかったし、彼が苦しそうにしていると、それを知りたいとも思う。彼が笑うと嬉しいし、楽しい気分になるわ。だからこそ、一緒にいたいと思えるのよ」

「それって恋だよ、恋!」

聞いていて恥ずかしくなる程の、熱烈な恋の告白だよ!!

オリビアは全力で突っ込む。

その言葉を聞いて、ダリルはシェラを背後から抱き締めた。

「?ダリル?」

シェラが振り返ると、ダリルが切なそうに眉を顰めていた。

「その気持ちは本当?」

「・・え?・・ええ勿論・・」

何となく気まずいのだろうか、シェラは曖昧に答えるが、

「嬉しい。とても嬉しい・・・」

ダリルはシェラを力いっぱい抱き締めた。

「だが、私の事が知りたいのなら、他の人になど聞かないで私に聞いてほしい」

顔を上げたダリルの瞳は潤んでいた。

「え・・・でも」

「知りたいなら全て、余すところなく私の口から伝える。だからどうか、私以外を見ないでくれ」

オリビアの記憶や感情を共有したからなのか、シェラは彼がどのような感情を抱いているのか、何となく理解出来た。

「・・これ・・嫉妬?まさか・・オリビア相手に・・・?」

シェラは、記憶と照らし合わせるように考え込むが、

「嫉妬で正しい。私はあなたが愛しすぎて、全てを独り占めしたいだけなのだ」

ダリルはきっぱりと言い切った。

「え?!正解!」

やった~っと嬉しそうにシェラはダリルに抱きつく。

ここってもっと『嬉しい!私も!』とか言って、感動してお互い抱き合うところでは・・・?

この状況を見て首を傾げたオリビアだったが、ダリルが満更でも無さそうだったので、良しとする。

「あなたの事が少しでも分かって、とても嬉しいわ」

満面の笑みを向けるシェラに、ダリルは真っ赤になって言葉を失った。

これで2人の距離は更に近付くだろう。

良かった良かった。

「なので、あの~、そろそろこっちもお願いしま~す」

身体から大量の黒い靄を出しながら、オリビアは2人に声を掛けた。

「周りが真っ黒で見づらい・・・」

「あらあら、ごめんなさい」

シェラはダリルから身体をぱっと離し、直ぐさまオリビアの方を向き直す。

彼女の余りの切り替えの早さに、ダリルは少ししょんぼりしている様にオリビアには見えたが、ここは心を鬼にしてスルーした。

「せっかくだし、どっちにする?」

「え?どっちって?」

「闇落ちする?今のままでいる?」

「闇落ち!?いやいや!嫌だよ。したくないよ!」

「あら?そうなの?角とか牙とか生えて、可愛いのよ?」

「今のままでいいです・・・」

「そう・・・」

シェラは何故か少し残念そうに頷く。

「で、どうしたらいいの?」

「やり方は簡単よ。全部受け入れちゃえばいいのよ」

「?」

「今のあなたは、精霊であること、人間であることを別人格と捉えているわね」

「・・・うん。それはそう」

間違いない。

前世の自分が、とてもじゃないが精霊の習性を理解出来るとは思えない。

私は私。

多少、気が向けば魔法が使えるだけの存在。

「今の状況は、人間の自我の方が強いわ。だからもっと自由に魔法を使って精霊である事を自覚し、魔力を身体に馴染ませなさい。その為にはもう少しここに留まる必要があるわね」

「え・・・帰れないの?」

「帰ったって結局同じ事の繰り返しよ。彼に甘えて人間の振りをして、また魔力を溜め込んでしまう」

「・・・・う・・」

シュウ~と再び大量の黒い靄が、オリビアの身体から吹き上がる。

「純粋な精霊にとって負の感情は異物でしかないから、どうやったって身体に溜まるわ。人間の振りをし続ける限り、その感情とは切っても切れない関係にあるの。溜まりに溜まった魔力と負の感情の塊が爆発して、国を2,3個消し飛ばして今度こそ闇落ちしちゃうわよ。別にいいけど」

「え?!」

「言ったでしょ?あの大穴、あなたの魔力が爆発した跡だって」

目を覚ました時に浮かんでいた、とんでもない大きさの湖。

あれが爆発の跡だと言うのなら、もしそれを人間界で起こしてしまったら、間違いなくシリウスの拠点は吹き飛んでいただろう。

「私・・・人間じゃ、いられない、の?」

オリビアの瞳がじんわりと濡れだす。

精霊である事は十分承知している。

しかし、それを受け入れられるかと言われると話は別だ。

受け入れた瞬間、何かが変わる。

自我を失うとは思わないが、あのとんでもなく割り切った考え方に同意する事への恐怖が、オリビアの身体を襲うのだ。

「精霊が嫌なの?」

「・・・・だって、シリウス兄様に・・・・」

「精霊が嫌だと言われたの?」

オリビアは首を振る。

言われていない。

言われてないけど・・・。

シェラは溜息を吐いてオリビアを抱き寄せた。

「嫌がられるかも、迷惑かけるかも・・・」

好き勝手、自由気ままに生きるのが怖い。

彼を必要としなくなるかもしれない現実が怖い。

オリビアはシェラの胸に縋りつく。

「あり得ないと思うけど・・・」

「あり得ないな」

ダリルもしっかりと頷く。

そもそも自我の無い精霊だった頃から、シリウスはオリビアを溺愛していた。

しかし人間のオリビアは、その事を理解出来ないのだろう。

「あなたが精霊の力を見せた時、彼の態度はどうだったの?」

オリビアはその問いに、バルコニーの一件を思い出す。

「優しかった・・・」

毛布を持って、抱きしめてくれた。

「だったら彼を信じなさい」

「・・・うん」

オリビアはしぶしぶながらも、しっかりと頷いたのだった。