作品タイトル不明
第416話 悲壮な決意
エリーが街中に入っていった死人を索敵し、クラリスが葬りながら北門へ着くと、北門の状況は一変していた。
前線で戦っていたアリスとミーシャが押し込まれており、カレンとサーシャにも死人が迫る。
カレンはレッドビュートで、サーシャはエルフの弓で死人を後退させようとしているが、操られていると思われる死人は痛がってもそのまま2人に向かってきていた。
それをハチマルがどうにか体当たりをして払いのけようとしている。
「アイク兄! サーシャ先生を頼みます! エリーはカレンを! 俺とクラリスはアリスとミーシャの所に行くぞ! バロンとミネルバもフォローを頼む!」
皆に指示を出し、クラリスと一緒に前線の2人の下へ向かう。
「大丈夫か!?」
「ごめんなさい! 死人が徐々に強くなってなかなか倒しきれずに…‥」
俺の問いかけにアリスが悔しさを滲ませながら答える。
アリスの言うとおり今襲い掛かってきている死人のステータスは、先ほどのロアよりも高くなっていた。
「これだけの相手を4人……いや5人で凌いだんだ。誇っていいぞ」
俯くアリスにラブエールを唱えながら言うと、最前線に出たクラリスも 魔法の弓矢(マジックアロー) を射ながらアリスに感謝の言葉を述べる。
「アリス。あなたのおかげで私の故郷への損害が最小限に抑えられたわ。ありがとう。あと少し協力してくれる?」
「はい! もちろんです!」
いつもの前向きなアリスになり、クラリスと一緒に死人を葬る。
「はぁ。マルスが来てくれて良かったよ。私もお母さんもMPが心許なくて、あと数分後には撤退戦をするってお母さんが言っていたから」
クラリスと前線を交代した疲労困憊なミーシャが俺にもたれかかりながら呟く。
「ああ。ミーシャもよく頑張ってくれた」
ミーシャにもラブエールを唱えながら労うと、俺の唇にミーシャの唇が触れる。
「ラブエールもいいけど、私はこっちの方が元気出るな! じゃあもうひと踏ん張りしてくるね!」
再度ミーシャがアリスの援護に向かう。
俺もどこか危なそうなところはないかと周囲を見渡すが、クラリスの 魔法の弓矢(マジックアロー) が猛威を振るい、もう手を出す必要はなさそうだ。
現に数分後には街の中に侵入してきた全ての死人を葬ることができた。
「これから俺たちは街の外に討って出る! その前に被害状況の報告を頼む!」
北門を閉めて籠城というのも考えられたが、グランザムの住民たちの精神が持たないと判断した俺とアイクは殲滅を選択した。MPが心許ないが、枯渇しそうになったら北門を閉めて、再度回復してから討って出る予定だ。
アイクの言葉に騎士団員から続々と報告が上がる。
門、建物など、かなりの被害報告が上がるが、一番多かったのが住民の精神的ダメージだ。急に頭を抱えて震え出したり、大声を出したり、さらには自傷行為に及ぶ者も続出しているとのことだ。
「……確かに住民たちのメンタルケアは必要だな。私たちも出来る限り協力はしよう。だが、今やるべきことではない。他に何かないか?」
アイクの協力するという言葉に騎士団員たちもホッと胸をなでおろす。
「被害ではなくてもよろしいでしょうか? 死人に関して気づいたことがあります」
騎士団員の1人が前に出て片膝をつきお伺いを立てると、アイクが頷く。
「実はこの街のペーパー上がりの元E級冒険者の死人と交戦したのですが、別人のように強くなっていたのが気になりまして……それでもクラリスや剣姫様には遠く及ばなかったのですが、私たち騎士団員からすれば驚きで……」
剣姫様? 一瞬誰のことか分からなかったが、アリスのことだろう。クラリスはこの街の出身者だから、親しみも込めて聖女様ではなくクラリスと呼んだのか。
「死人たちはみんなグランザム出身者ですか?」
アイクに報告をした騎士団員に聞くと、片膝をついたまま答える。
「いいえ、全員が全員ではありません。最初襲って来た死人たちのほとんどがグランザム関係者でしたが、その後に続いてきた死人は縁もゆかりもない者たちです」
門を開けさせるために最初だけグランザム関係者で固めたのか。
「他に死人について気が付いたことはありませんか?」
「……他の死人のことは分かりませんが、死人となったグランザム関係者には共通点があるように思えます。断言はできませんが……」
不確かなことを報告してはいけないと思ったのか、騎士団員が言葉を濁す。
「間違っていても構いませんので、教えていただけませんか」
「……はい。死人になった者たちは皆、ちょっと遠くへ行ってくると言って行方不明になった者たちなのです」
なんだと? ということはあれか? 各地で行方不明になっている者たちはもしかしたらディクソン辺境伯が絡んでいるのか?
リーガンの街でも行方不明者が出ているとミックが言っていた。もしもこれがディクソン辺境伯の仕業だとしたら国と国を巻き込む大事になりかねないぞ。
「……マルス! 来た……! たくさん……」
報告を受けていると、グランザムの外を警戒していたエリーが叫ぶ。
エリーの報告を受けてアイクに目で合図を送る。
「よし! これより討って出る! ビートル騎士団員は北門付近で待機し、俺たちが戻ったらいつでも閉門できるように準備しろ! サーシャはここに残ってビートル騎士団の指揮を頼む! ヒメリ! お前もサーシャの補助だ!」
「「「はっ!」」」
ビートル騎士団がアイクの指示に従う。
「なんじゃ? 妾も外へ……」
俺の肩に乗っていた狐姿の姫がアイクに異議を申し立てようとするが、その口をミーシャが塞ぎながらヒョイと持ち上げると、
「お母さん。これをよろしくね」
そのままサーシャに手渡す。
姫が必死に抵抗するが、サーシャも苦笑いを浮かべながらミーシャから姫を受け取る。
「よし! では行くぞ!」
【黎明】6名、アイク、バロン、ミネルバとハチマルの計10名で外に出て、俺とクラリス、アリスの3人を中心にして展開する。
ここからではまだ見えないが、何かが近づいてくるのだけは分かる。それもかなりの数だ。
「エリー。どのくらいの数か分かるか?」
恐らく聞いても分からないと言うだろう。もしも分かっていれば先に教えてくれているはずだから。
「……ごめん……でも……おかしい……少し……懐かしい……」
懐かしい? どういう意味だ? エリーだけが分かる独特な何かか?
再度聞きなおそうと思ったが、エリー自身も困惑している。
俺も目を凝らすが、まだはっきりとは見えない。
そしてアイクからクラリスに指示が出る。
「クラリス! 魔法の弓矢(マジックアロー) を構えてくれ! 死人が密集していたら引き付けてホーリーにしてもらうからまだ射るな!」
「はい!」
アイクの指示に従い、クラリスが 魔法の弓矢(マジックアロー) を構える。
徐々に死人たちの姿がはっきりと映るが、先頭に立つ顔を見て俺は見間違いかと思い、何度も自分の目を疑った。
こんな所にいるわけがないからだ。
「えっ!? どうして……」
次に気づいたのはクラリスだった。
クラリスは構えていた 魔法の弓矢(マジックアロー) を地面に落とし、力なくその場に崩れ落ちそうになるが、なんとか寸前の所で抱きかかえることができた。
クラリスが気づくと他の者たちも気づき始める。
「えっ!? えっ!? あれって!?」
ミーシャの視線が先頭の死人とある男の顔を行き来する。
「ちょ!? これは夢よね!? こんなこと……」
カレンが口を覆う。
「……なんで……先輩……どうして先輩が?」
隣にいたアリスが大粒の涙を流し、俺の左胸に顔を埋めると泣き喚く。
エリーは何も言わずにただただその男を見つめていた。
バロンは拳を作り、自身の太ももを悔しそうに叩くと、ミネルバがそれを止める。
そしてミーシャが何度も視線を往復させていた男が皆に号令をかける。
「よく聞け! お前たちは先頭の死人に一切手を出すな! 俺が1人で必ず仕留める! マルス! ここの指揮は任せる! いいな!?」
初めてアイクの言葉に誰も頷かなった。
皆知っているからだ。アイクにだけは戦わせてはダメだと。
「あ、アイク兄……さすがにそれは……」
声を絞り出すと、アイクが俺たちを心配させないように笑顔を作って答える。
「問題ない! あいつが敵だというのであれば、俺しか討つ者はいないだろう? それにこれは【紅蓮】のパーティリーダーである俺の役目だ!」
アイクが、元【紅蓮】の 小人族(ドワーフ) に向かって駆け出すが、その背中は悲壮感に満ち溢れていた。