軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第389話 元迷宮

「コンザ! どうなっておるのじゃ!?」

姫がこちらを見ていた狐族と思われる切れ目長い男の下に向かって走りながら話しかけると、コンザと呼ばれた男はとびっきりの笑顔で答える。

「姫様! よくぞご無事で! 狸族の者たちが謀反を起こしまして襲いかかってきたのです!」

「やはり狸族が……皆無事か!? 被害はどの程度なのじゃ!? コンザの頭の傷もその時のものか!?」

「え、ええ……無事といえば無事ですが……被害の方は見てのとおり甚大です。この傷も謀反の時にできたもので……それにビラキシル侯爵は……」

コンザがここまで言うと、近くの家の扉が勢いよく開き、1人の男が従者を連れ、俺たちの方へ走ってくる。

その男がこちらに向かって走り出した瞬間、雷鳴剣に手をかける。警戒したのは俺だけではなく、クラリス、エリー、ブラッドも同じだったが、コディが思わず言い放った一言で俺以外の3人は警戒心を解いた。

「ち、父上」

どうやらこちらに走ってきているのはコディの父らしい。そう言われてみればコディと同じような文様が体のあちらこちらに散見される。

しかし狸族が変身している可能性もある。失礼かもしれないがこちらに走ってきている最中に鑑定を行い、しっかりコディの父と判明したうえで俺も雷鳴剣から手を放した。

「姫様! よくぞご無事で!」

「ダディ! どうなっておる!? しっかり説明せえ!」

クラリス、エリー、ブラッドの3人は姫がダディと呼んだ事に少し驚いていたが、俺は先に鑑定していたので、このダディというのはお父さんという意味のダディではなく、本名という事が分かっていた。

「承知いたしました! コンザはこのまま見張りに向かってくれ! 私は姫様をビラキシル侯爵の下へ案内する! お前も姫様がお戻りになった事を皆に知らせてこい! 姫様! ここで説明するのは危険ですのでまずはビラキシル侯爵の所へ……」

ダディがコンザと従者に命令するとコンザと従者は俺たちに頭を下げ、それぞれ目的の場所へ向かう。姫も何も言わずにダディの言葉に頷く。

「それでは行きましょう。それにコディよ。コディもよく無事に戻ってきた。連れてきたのはリスター帝国学校の卒業生の人か? なぜリスター帝国学校の制服を着ているのかが分からぬが……」

ダディ……つまりビサン男爵が俺たちを見ながらコディに質問する。

「この者たちは卒業生ではありません。詳しい事はビラキシル侯爵の所で話しますがリーガン公爵からの使者です。ですからこの者たちも一緒に連れて行きます」

「そうか……分かった。では行くとしよう」

ビサン男爵がそう言うと俺を一瞥してきたので、目が合った時に軽く会釈だけはしておいた。

そのビサン男爵に連れられ、本当に人が住んでいるのか不安になるくらい静寂に包まれた街の中を歩く。この区画だけなのかもしれないが、人の気配が全くない。

それでもいつ襲われるか分からないので足音を殺し、周囲を警戒しながら歩く。ビサン男爵もあたりをキョロキョロと見回し警戒している。

姫やコディの話ではこの街には対魔物用の仕掛けが色々施されていると聞いていたが、歩きながら見る限りそのような仕掛けを見かけない。

良さそうな仕掛けがあれば今後砦などを作る際に参考にしようと思っていたのだが……あとでコディにでも聞いてみよう。そんな事を思いながら歩いているとビサン男爵が小さな家の前で立ち止まる。

「この家です。どうぞこちらに」

え? こんなところに? 本当にこんなところに侯爵がいるのか? もしかして嵌められているのではないか? と猜疑心に苛まれているとクラリスも不安に思ったらしく、俺に身を寄せてくる。

「マルス。大丈夫じゃ。ここは昔からあるビラキシル侯爵家の……いやクラマ家の隠れ家なのじゃ。そんなに警戒せんでもええ」

「姫の言うとおりだ。なんだったら姫が先頭でそのあとにマルスたち、最後尾に俺でもいいぞ? とにかく俺たちが今ここに居る事を誰かに見られるのは得策じゃない。ここは俺を信じて中に入ってくれ」

よっぽど俺が警戒していたのが露骨だったのか、姫とコディに早く入るよう促される。2人にとっては自分の故郷がこんなに警戒されるのは心外かもしれないが、クラリスとエリーがいるからな。どうしても慎重になってしまう。

「すまないな。じゃあそうさせてもらう。エリー。エリーも俺の近くから離れないでくれ」

コディの言葉に甘える事にし、エリーに左手を差し伸べると嬉しそうにエリーが俺の手を取る。

ビサン男爵と姫の後に続き小さな家の中に入ると、これまた小さな部屋に通された。

だがこの部屋には1つ特徴があり、それは地下へ通じる階段があったのだ。

「普段は地下へ通じる階段は隠れているのだが、先ほど私の従者が報告に行ったからな。私たちが通るからそのままにしておいてくれたのだろう。この地下の先にビラキシル侯爵がおられる……」

そう言ってビサン男爵が地下へ通じる階段を下りていくので俺たちもビサン男爵の後をついて行く。

地下の先にという事はある程度広いのかなと予想はしていたのだが、下りてみると想像以上だった。

50帖以上はあり、階段を下りて正面と左右の面に隣の部屋に通じる廊下……通路が見える。そして俺はこの部屋に入るとある感覚に見舞われた。そう思ったのは俺だけではなくクラリスもだった。

「何ここ……まるで迷宮みたい……不気味……」

そう、ここは迷宮の小部屋くらいの大きさなのだ。住むには広いが迷宮の部屋となると狭い。クラリスがそう言うとビサン男爵が答える。

「ここは貴女が言ったように元々は迷宮だったらしいのだ。相当昔の話で誰もそれを証明する者はいないが、この迷宮のダンジョンコアを破壊した後にヘルメスの街を作ったという話を聞いている。それにしても貴女のような人が迷宮の感覚を知っているとは……」

まだ自己紹介をしていないのでビサン男爵はクラリスの事を貴女と呼ぶ。まぁここに来る最中に否が応でも俺たちの会話が聞こえてくるはずだから名前は分かっているはずだが、敢えてクラリスと呼ばずに貴女と呼んだのだろう。

「出過ぎたことを申しまして大変失礼しました。それに教えていただきありがとうございます。ですが私もリスター帝国学校に籍を置く身ですのでそれなりには迷宮に潜った事はございます」

「な、なんと!? リスター帝国学校の生徒……もしかして成人前なのか!?」

クラリスの言葉にビサン男爵が舌を翻す。ビサン男爵の質問にクラリスが答えようとするがそこにコディが割って入る。

「父上。クラリスたちの事はビラキシル侯爵の所へ行ってからにしましょう。きっと驚く事ばかりで、都度話が進まなくなることが容易に予想できるので」

なんかコディのキャラには相応しくない発言だが、コディのいう事はもっともだ。

「そ、そうだな……では後で頼む」

本当はもっと聞きたそうだったが、コディに言われ渋々頷く。

その後は早歩きで地下の部屋を進むが、姫は一刻も早くビラキシル侯爵に会いたいのか小走りになっていた。

姫が小走りになるとビサン男爵も小走りになり、それにつられて皆も小走りになる。

そして10分近く走るとある部屋に辿り着き、その先には分岐があるが、2人はそれぞれ別の方に向かって走る。

「ダディよ! 父上はいつもこっちにおるのじゃぞ!?」

「はい。いつもはそちらですが、今回はこちらなのです……」

少し俯きながらビサン男爵が答える。

「なんじゃと!? そちらの部屋は……」

姫が血相を変えてビサン男爵に詰め寄ると

「……はい……こちらは怪我人……しかも怪我の度合いが軽くない者がいる方です……命に別状はないとの事ですが……」

申し訳なさそうにビサン男爵が言うが、姫はその言葉を最後まで聞くことなく全力で目的の部屋に走りだした。