作品タイトル不明
第388話 崩壊
「な……なんじゃこれは……」
コディの隣に立った姫がコディと同じように街を見下ろすと、驚きのあまりに声を詰まらせる。
急いで俺も街壁の上からヘルメスの街を見下ろす。
ヘルメスの街は北門から南門、そして西門から東門を結ぶ大きな道が街を4つの区画に分けていた。田んぼの田をイメージしてくれてば分かりやすいだろう。
魔物対策で戦国時代のようにS字の道とかになっているのかと思ったがそうではなかった。だがその真っすぐな道の両脇には5m以上もある大きな壁が建てられていた。
しかし2人が見ていた田んぼの田の南東部分にあたる場所だけは壁が崩れており、その区画は壁だけではなく建物も崩落しており、瓦礫の山となっていた。
「妾の屋敷が……」
「俺の家も……」
2人が失意に暮れながら呟くと、姫の目からはすーっと一筋の涙が頬を伝う。
恐らくあの南東の区画に2人の家があったのだろう。聞いて確かめようとも思ったが、もしかしたら傷をえぐるような質問かと思い聞かずにいると
「あそこがおまえらの屋敷だったのか?」
躊躇う事なくブラッドが2人に問いかける。
「ああ……あのあたりは……ヘルメスの街の貴族が集中して住んでいる場所……つまり貴族街……だったんだ……」
まるでこの世の終わりという表情をしながらコディが答えると、力なくその場に座り込んでしまった。それを見たブラッドも何も言えず唇を噛みしめ、拳を強く握る。
もう一度街がどうなっているのか視線を下に向けると、コディたちの屋敷があった場所以外にも戦闘があったような形跡があった。
手を繋ぎ隣にいたクラリスも自然と手に力が入るが、力なく座り込むコディを見て
「コディ! 建物はまた建て直せばいいじゃない! それより今は街のみんなの安全の確認が最優先でしょ!? もちろんどうしてこうなったかももね!」
クラリスが必死に鼓舞する。
「クラリスの言うとおりだ! 早く行こう!」
俺もクラリスの言葉に続くが姫とコディの2人は現実が受け入れられないらしく動こうとしない。
「ほら! あなたたちが案内してくれないと私たちだけじゃどうしようもないんだから!」
そう言って俺と繋いでいた手を離し、コディに手を差し伸べると、絶望に満ちた表情から一転、今まで見たこともないくらいの嬉しそうな表情を見せ、両手でクラリスの手を握る。
「そうだな! まだ希望はある! なんといってもこっちにはクラリスがいるんだ!」
弾むような声でコディが答えるとクラリスも安堵の表情を浮かべる。
「ブラ! 荷物を持ちながら姫を抱きかかえて走る事はできる!?」
まだクラリスと手を繋いでいるコディを羨ましく見ているブラッドにクラリスが問いかけると
「俺を誰だと思っているんだ!? そんなの朝飯前だぜ!」
ブラッドが返事をし、呆然と立ちすくんでいる姫をお姫様だっこしようと姫に触れた瞬間
「何をするのじゃ!?」
と、触れられた姫が急に我に返りブラッドの手を払う。
「姫! とにかく今は早く下りましょう! もしも1人で走れるのであれば走って!」
「そのくらい分かっておるのじゃ! マルス! 妾を抱きかかえてもよいのじゃ!」
クラリスの言葉に姫が答えると、俺に抱きかかえるよう指示をする。それをブラッドがやろうとしていたんですよと言おうと思ったのだが、ここで時間を費やすのもバカらしいので姫をお姫様抱っこし、すぐ近くの階段を下りようとすると
「何をしておる! そこからはダメじゃ! 南の方から下りるのじゃ!」
姫が俺の首に両手を回しながら怒鳴る。
「マルス! そこから下りると北西の区画に出てしまう! 北西は狸族が住む区画だ! もちろん狸族だけが住んでいるわけではないが姫の言うとおり南から下りよう!」
姫とコディに促され、街壁を南に進もうとすると下から叫び声が聞こえた。
「おい! 誰かが街壁の上にいるぞ! みんな集まれ!」
その声を聞いたコディが
「やばい! 狸族の奴らだ! あいつらはあまり目が良くないから見えないらしい! 早く行くぞ!」
そう言うと握っていたクラリスの手を引っ張り、街壁の上を南側へと走る。
「姫! 僕も走るので落ちないようにしてくださいね!」
俺の言葉に姫は分かってくれたのか、俺の首に回している両手に力が入り、姫の顔が更に近づく。それを見ていたエリーの顔が曇るが、エリーも今は緊急事態という事が分かっているので何も言ってこない。
「エリー! ブラッド! すまないが殿を頼む! 追い付かれることはないと思うが念のため警戒してくれ!」
姫を抱きかかえながらクラリスとコディの後ろを走り、エリーとブラッドの2人に指示を出すと、2人は俺の後ろに回り後方の警戒をしながら走る。
「なっ!? お前ら止まれ!」
俺たちが走り出すと下から叫び声が聞こえてくるが、逃げているのに止まれと言われて止まるバカはいない。
当然のように無視して逃げると、下から 土弾(アースバレット) が飛んでくる。
幅10mもある街壁の外側を走れば、角度的にも当たらないのは分かっているのだが、街の中の様子を見ながら走りたかったので、無詠唱のウィンドで 土弾(アースバレット) を弾き飛ばす。
内側にも落下防止用の物と思われる高さ1mくらいの壁があるにはあるのだが、ここでも戦ったのか、その壁は激しく損傷しており崩落している箇所が大部分があるので、これを盾に使うのは心許ない。
「走りながら無詠唱で魔法を唱える者がおるなんて誰も信じぬじゃろうて……」
俺が魔法で 土弾(アースバレット) を弾く様子をお姫様抱っこされながら姫が呟く。
魔法を放ってくる者の数が徐々に増え、 土弾(アースバレット) が飛んでくる数も増えたが、北西の区画から離れるにつれて 土弾(アースバレット) の威力が弱まり、しまいには飛んでこなくなった。どうやら北西の区画から出てまでは追っかけてこないらしい。
「なんとか逃げ切れたわね。姫ももういいでしょう?」
魔法が飛んでこなくなったのを見計らい、クラリスが走るのをやめ歩き出すと姫に俺から下りるように促す。いつの間にかクラリスとコディも手を離したようだ。
「うむ……もう少し堪能しても良かったのじゃがまぁええじゃろう。楽しみは後にとっておくのじゃ」
そう言って俺の腕から姫が降りると、クラリスが俺の右側に、後ろを走っていたエリーもすぐに俺の左隣に来る。
「エリー、後ろから狸族の奴らが襲ってきそうか?」
「……大丈夫……来てない……ブラもいる……」
エリーに後方の安全を確認すると大丈夫との事だが、だからといってゆっくり向かう訳にはいかない。
「よし! 追ってはこないようだが急ぐぞ! 何が起こっているのか早く確かめよう!」
俺の言葉にみんなが頷き、再び街壁の上を走り出す。
そして南西の区画の街壁を走っている時だった。街を見下ろしながら走っていた姫が急に大声を上げる。
「コディ! 次の階段で降りるのじゃ! 狐族の者がおった! 頭を怪我しているのか何かで巻いておるが、足取りは元気そうじゃ!」
姫の視線の先には少し小柄で、肌の色が薄いオレンジ色……つまり日本人と同じような男が頭に包帯のようなものを巻き歩いていたが、姫の声に気付いたのか立ち止まりこちらを見ていた。