作品タイトル不明
第385話 力の証明
「どうじゃ? イセリア大陸は?」
灰色の世界を前に立ちすくんでいると、姫が振り向き話しかけてくる。
「ちょっと……いえ、だいぶ想像していたのと違ったわね……ってこうやって悠長に話していてもいいの!? まだこちらに気付いていないから襲ってきていないけど、魔物が我が物顔でそこら中にうろついているじゃない!?」
俺の代わりに姫の隣にいたクラリスが答えると
「うむ。いくら倒してもキリがないからの。こうやって襲ってこないうちは放置したほうが得策なのじゃ。無限にMPがあるわけでもないからの。あと大声で話すのは禁止じゃ。魔物がこちらに気付いてしまうからの」
姫がクラリスに声のトーンを落とすように言うと「ごめん」とすぐにクラリスが謝り周囲の様子を探る。
姫の言ったようにこの辺りには犬と狼の首が1つずつ生えた魔物が何十匹……いや、下手すれば何百匹と徘徊しており、遠くにはゴブリンたちの群れも見えている。
鑑定したかったが、気づかれて一斉に襲い掛かられるのもバカらしいしな。姫に大体のステータスを聞いてみたらなんと脅威度Dのウルドという魔物だった。
脅威度Dクラスが誰の監視下にもなくうろついているなんて中央大陸では考えられないが、姫やコディが慌てていない様子を見るとこれが普通なようだ。
幸い今のクラリスの声に魔物たちは気づかなかったので、こちらに襲い掛かってくることはなかった。
「はるか昔はイセリア大陸も中央大陸の大地のように緑の絨毯が敷かれ、今のように魔物も多くなかったといわれておったのじゃがのう……今は一部でしか草木も育たん環境となってしまっており、妾たちも限られた場所でしか生活ができぬのじゃ……」
少し寂しそうに姫が話す。
「限られた場所ってどのようなところですか?」
「うむ。それはヘルメスの街を見れば分かるじゃろう。街の事が心配じゃからそろそろ行きたいのだがええかの?」
「そうですね。では行きましょう」
気になった事を質問したが、姫の言う事はもっともだったので、人魔橋を後にし、ヘルメスの街へ向かう。
コディを先頭に灰色の大地を魔物を避けながら進むが、魔物の数が多いため接敵してしまう。
「コディ! 俺が前に出るからコディは援護してくれ!」
いつものようにブラッドが斧を片手に大きな声で叫ぶと
「おう! 任せておけ!」
ブラッドにつられてコディも叫ぶ。この2人の声で近くに居た魔物たちが気づき俺たち目掛けて突進してくると
「こら! お主ら大声でしゃべるなと言っておるだろう! コディも分かっておるはずなのにたるんでおる!」
誰よりも大きい声で姫が2人を叱る。その結果遠くにいたゴブリンたちも一斉に俺たちを目掛けて走ってくる。
「ちょっ!? 声が大きい……ほら魔物たちも気づいちゃったじゃない!?」
「……す、すまないのじゃ……」
先ほどクラリスに注意を促した姫が、今度はクラリスに叱られる。
「まぁいつものように見える魔物は全部倒しながらヘルメスの街に向かおう。そっちの方が俺たちらしい」
「「おう!」」
俺の言葉にブラッドとコディが呼応するとクラリスとエリーも頷く。
「ちょっ!? 何を言っておるのじゃ!? ヘルメスの街まではまだかなりあるぞ!? こんなところでMPを使い果たしてしまったら命がいくつあっても足らんわ! お主たちは妾の後ろに下がっておれ! 芭蕉扇で追い返しながら進む!」
姫だけは俺の意見に反対だったようだが、コディがフォローをしてくれる。
「姫! ここはマルスの言うとおりにしてください! このパーティは特殊で他のAランクパーティともまた一味違います! もしもマルスたちが危ないと思ったら援護をお願いします!」
「む……コディがそこまで言うのであれば……」
そう言って姫も納得してくれた。なんだかんだ姫はコディの事を信頼しているのかもしれないな。
「よし! ではクラリスは 魔法の弓矢(マジックアロー) で近づいてくる魔物を倒してくれ! 姫には近づけさせないように! ブラッドとコディはクラリスのサポートだ! 俺とエリーは最初こそ皆と一緒にここにいるが、クラリスがこの辺りの魔物に慣れてきたら俺たちは遊撃に出る!」
「妾は!? 妾はどうすればいいのか!?」
俺が指示をしていいのか迷ったから敢えて指示をしなかったのだが、意外にも姫が指示を仰いできた。よくよく考えてみれば俺はA級冒険者だから俺が指示を出すのは当然か。
「姫もクラリスのサポートを!」
俺の指示にあまり納得はしていないようだったが、姫も頷き、全員に指示を出したところで魔物たちを迎え撃つ。
「俺が姐さんに指一本触れさせねぇぜ!」
勢いよくブラッドがクラリスの前に躍り出ると、コディもブラッドの隣に立ち、クラリスと魔物の間に入る。
そんな2人の顔と顔の間をクラリスの 魔法の弓矢(マジックアロー) が次々とすり抜けていき、魔物たちを屠っていく。
「ブラ! コディ! 動かないでね! もし動いて何かが吹っ飛んでも私は知らないからね!」
クラリスの言葉を聞いたブラッドが両手で大事そうにある部分を抑えると、それを見たコディも倣う。
いくら手で隠したとしてもクラリスの 魔法の弓矢(マジックアロー) の前には無意味だと思うが、まぁクラリスに限ってそんな誤射はしないだろうからな。
姫はというと、食い入るようにクラリスが弓を引く姿を見ている。
「よし! 正面の敵はクラリスに任せて、俺とエリーは散発的に襲ってくる左右の敵を倒すぞ! エリー! いつも言っているが何かあったらすぐに俺の所に来るんだぞ!?」
「……分かった……」
ただ一言だけ言うとエリーはクラリスの注意が及ばないであろう方向に向かって走り出す。
俺もクラリスとエリー、そして自分の荷物を置き、雷鳴剣と氷紋剣を抜くと、エリーを視野に入れながら魔物たちを切り刻む。
ウルドは顔が2つあるから厄介かなと思ったが、実際に戦ってみると動きが速いわけでもなく、火を吐くわけでもないのでそうでもなかった。
エリーもスカートをなびかせ、軽快なステップを踏みながらウルドやゴブリンたちを倒す。
「な、これだけの人数……コディともう1人は何もしておらぬから、マルス、クラリス、エリーの3人だけであれだけの魔物を倒すとは……」
10分くらいで周囲の魔物を倒しきると開口一番、姫が驚きの言葉を発すると、またもコディが得意げに話す。
「姫! これが【黎明】です! 正直クラリスとエリーはA級冒険者でもおかしくない実力です!」
「た、確かに……【黎明】は何かが違うようじゃな……エリーも傷つくのを恐れておらんようじゃったし、何よりも圧倒的なスピードじゃった……ここまで差があるのか……」
少し悔しさを滲ませながらクラリスとエリーを認める。
「よし! じゃあ魔物たちを焼いてからヘルメスの街に行こう! コディ! 案内を頼む!」
「おう! 任せとけ!」
意気揚々と返事をしたコディを先頭に灰色の大地を進み、ヘルメスの街を目指した。