軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第386話 ヘルメス

「ブラ! コディ! 調子にのらないで気をつけなさいよ!」

「おう! 姐さん! 俺の勇姿をその目に焼き付けておいてくれ!」

「クラリス! 今日のフレアは一味違うから見ててくれ!」

クラリスがウルドを相手にかかり気味の2人に慎重になる様に促すが、2人はクラリスに気をかけてもらってさらに昂る。

「うぉぉぉりゃぁぁぁあああ!!!」

「フレア!」

ブラッドとコディが大声でウルドの群れに突っ込みいいところを見せようとする。

まぁ気持ちは分からなくもない……好きな人の前ではカッコいいところ、活躍しているところを見せたいもんな。

が、かえってその気持ちが裏目に出てしまい、大声を上げた結果、2人では対処しきれないほどの魔物が集まり、クラリスとエリーの助けを借りる事になった。

「す、すまねぇ……」

「俺がついていながらブラッドを怪我させて申し訳ない……」

ほんの少し前までとは真逆の様子で2人が戻って来た。ブラッドの左腕は、ウルドにやられたと思われる引っ掻き傷があり、腫れ上がっていた。

「本当じゃ! 何をしておる! ここは中央大陸ではないのじゃぞ!?」

反省している2人をさらに姫が怒鳴りつける。

「姫の言うとおり、でも反省は後よ! ブラ! ちょっと腕を出しなさい!」

クラリスがブラッドの左腕の傷を見て言うが、ブラッドがそれに対して躊躇する。

「い、いや、姐さん。大丈夫だ……これくらいの傷は唾でもつけておけば……」

そう言うとブラッドはチラッと姫を見る。ブラッドも自分が調子に乗って怪我をし、それをクラリスに治してもらう事によって、姫にクラリスが神聖魔法使いだとバレてしまうのが心苦しいのであろう。

しかしクラリスは当然傷ついた仲間をそのままにする事なんてできない。

「ダメよ! 猫に引っ掻かれただけでも手を切断しないといけない事態になる事もあるのよ!? 魔物に引っ掻かれたのだから早く処置しないとダメでしょ! これに懲りたらもうこんな事やらない事! 分かったわね!?」

「す、すまねぇ……」

クラリスに諭されブラッドが左腕を前に差し出すと無詠唱でクラリスがヒールを唱えると、優しい光がブラッドの左腕を包み、腫れもすぐに引く。

「まさかと思ってはいたのじゃが……アリスだけではなくクラリスも神聖魔法使いか!?」

その光景を見ていた姫が驚きと、どこか納得という表情をしながら聞いてくる。

「そうです。もしかして姫はクラリスが神聖魔法使いという事を予想していたのですか? それはどうしてですか? よろしければ教えてください」

さすがにこの光景を見られたら言い逃れはできないので素直に認め、どうしてそう思ったかを聞いてみた。今後悟られないようにするためにだ。

「そんなの決まっておるじゃろ! 乳じゃ! 乳! あれは見事じゃったからのう……という事はまさかエリーもか?」

じっとクラリスの胸に視線を向けながら姫が言うと、おのずと皆の視線もそこに集まる。それに対しクラリスは顔を真っ赤にし、両手両腕で胸を隠す。

風呂で勘繰られるとなると、今後クラリスには女性からの目も少しは気にしてもらわないとならないな。ヘルメスの街には温泉もあると言っていたから尚更だ。

「エリーは違います。クラリスの事は黙っておいてもらってもいいですか? 僕たち【黎明】の神聖魔法使いはアリスだけという事になっているので」

「まぁええじゃろう。じゃがもしも妾たちに何かあった場合は神聖魔法を妾たちにも使ってくれるという条件付きじゃ。あと相談なんじゃがMPに余裕があるのであれば妾にもヒールをかけてくれんかの? どういうものか一度体験したいのじゃ」

姫の言葉にクラリスが頷き、ヒールを唱えると

「これがヒールか……気持ちええのう……皆に自慢したいところじゃが、約束を違える事になってしまうからの……体験できただけでもよしとするのじゃ」

姫が自身の両手を見ながら満足そうに呟く。

ブラッドの傷が癒え、姫もヒールを満喫したところで魔物を倒しながら灰色の大地をひたすら進む。

ブラッドとコディの2人は先ほどの教訓を生かし、魔物を見つけたらクラリスの 魔法の弓矢(マジックアロー) の射程範囲内までおびき寄せて戦う。

調子にのらなければ2人だけでも倒せるレベルなのだが、もう同じ轍を踏みたくないのだろう。かなり慎重になっている。

「ほれ。見えてきたのじゃ。あれがヘルメスの街じゃ」

しばらく道なき道を進むと、姫が遠くの方を指さす。

姫が指さしたほうを見ると、そこには城塞都市イザークよりもはるかに高い街壁らしきものがそびえ立っていた。その街壁のせいで街の中の様子を窺う事ができない。

「な……あんなに高い壁……初めて見た……」

「そうじゃろそうじゃろ? イセリア大陸は魔物の数が多いからのう。 魔物達の行進(スタンピード) がしょっちゅう起きるからあれくらいの高さの壁が必要になってくるのじゃ。それに高さだけではないぞ? 厚さも10m以上はあるのじゃ! あの街壁の上から魔法を下に向かって放つだけで魔物どもは死んでいくからの。魔法使いであればいい経験値稼ぎになるのじゃ」

驚く俺の様子に満足した姫が気分良く説明する。考えてみればそうだよな。魔物が多いからしっかりとしたものを建てないとダメだ。てっきり魔族はもっとこぢんまりとしたところに住んでいると思っていたのだが、偏見や思い込みはダメだな。

ヘルメスの街に近づくにつれて、徐々に壁の高さが明らかになる。恐らく30mくらいはあるだろう。あの上から土魔法で作った大きな岩とかを落としたら魔物たちもひとたまりもないだろう。街壁の大きさからするに規模もかなり大きいように見える。下手すればアルメリアと同じくらい大きいかもしれない。

「ここからじゃと街の中は見えないのじゃが、街の中は灰色の大地ではないのじゃ。イセリア大陸の魔物たちはこの灰色の大地から頻繁にポップするから灰色の土地の上に街は作れんのじゃ。もちろん中央大陸のように少人数での野営など出来ぬ。寝ている間に魔物に襲われてしまうからの。また街の中も必ずしも安全とは限らぬ。年に数回は街中でも魔物がポップするから街の様々な所に魔物対策がされておるのじゃ」

「えっ!? 街中で魔物が出るの? なんでそんな所に住むのよ? 中央大陸にくればいいじゃ……もしかして先祖代々の土地を守らないといけないとか?」

姫の言葉に思わずクラリスが聞き返すと、寂しそうに姫が答える。

「妾たちだって中央大陸に住めるものであれば住みたいわ。じゃが妾たち魔族を受け入れてくれる者たちは少ないからのう……中には魔族を魔物と同じと捉えて排除しようとする輩までおる。そんな状態で無理に中央大陸に移り住もうとすると侵略とみなされまた戦争になるかもしれぬからの……」

「そんな……酷い……」

「そんな顔をするな。魔物がごく稀に出るだけで慣れればヘルメスの街の住み心地はええぞ! 何といっても温泉があるからの!」

これ以上何も言えなくなったクラリスに心配させまいと姫が気丈に振舞う。

「姫が言ったことは本当だぞ!? 俺もヘルメスの街が好きだからな! それにクラリスは入ったことないかもしれないが温泉は本当に気持ちいいんだ! もしよければ一緒に入ってやろうか?」

2人の話を前方で聞いていたコディも会話に参加すると

「何言っているのよ。でもありがとう。コディ。少し元気が出たわ」

しんみりとしていたクラリスの顔に笑顔が戻ると、それを見たコディが鼻の下を指でなぞり、どこかやってやった感を醸し出す。コディにしては珍しくいい仕事をしたな。

だがコディの満足そうな顔もヘルメスの街門が見えるまでだった。