作品タイトル不明
第360話 しごき
2032年3月22日15時
「はぁっ、はぁっ……見たか……これくらい……楽勝だぜ……おぇぇぇ……」
「……アタイたちを……舐めるんじゃ……ない……よ……うっぷ……」
「……」
訓練を終えると3人はその場に崩れ落ちた。なんと3人とも俺たちのメニューをこなしたのだ。
リュートに関しては朝のマラソンから始まり、下半身の筋トレ、その後闘技場で計6時間にわたる訓練を全てこなした。
まぁ途中何度もへばったり、休憩時間が長かったり、今のようにリバースしたりと色々あったが、それでも歯を食いしばって耐える姿は称賛に値する。
自惚れているつもりは無いが、まさかやり切れるとは思ってもみなかった。やはりA級冒険者って凄いのな。
「お疲れ様です! まさか全てこなせるとは思っておりませんでした! これから寮に戻ってお風呂に入ってから街に出ましょう!」
何故リーガンの街に出るのかというと、1つはヒルダとマチルダの服を買うためだ。
今のヒルダとマチルダの格好を見ればみんなもすぐに買った方がいいと思うはずだ。どんな体勢でいるかはみんなの想像に任せるが、クラリスが俺の視界にヒルダとマチルダの2人が入らないようにしているという事だけは伝えておこう。
もう1つの理由はみんな大好き金持ちおじさんことミックに会いに行くためだ。うちの女性陣はミックの事がお気に入りなのではしゃいでいる。
完全にダウンしているリュートを引きずりながら寮に戻り、一緒に風呂に入ると
「い、痛てぇ……くそ、これは数日動けねぇかもな。あとでポーションでも飲んでおくか。それにしても12歳のガキの体じゃねぇよな……鍛えている俺よりも筋肉の密度がすげぇ。だが剣士でもねぇ。手が綺麗すぎるからな。毎日今日のようなハードな訓練をしていたら間違いなく俺よりも手がマメだらけになるはずだが、そこらの女よりも綺麗な手をしてやがる。マルス、お前はいったい何者なんだ?」
やはりかなり無茶をしたらしく、リュートが痛がりながらも俺の体を凝視しながら質問してくる。ある一点を見つめられている気もするのだがお前はどう思う? 相棒?
リュートの言うように俺の手は自分でも綺麗だと思う。少しそれがコンプレックスでもある。みんなも男だったらゴツイ手に憧れないか?
ない物ねだりかもしれないがリュートのグローブみたいな手になりたいと思う時があるのは事実だ。マメの数だけ努力した証拠と思えるしな。
「ヒルダさんも言ってましたが、やっぱり手をそんなに見るものですか?」
「当然だ。手さえ見ればどれだけの苦労、訓練をしてきたか分かるからな。まぁ一部例外はいるが【黎明】のメンバーは全員明らかにおかしい。みんな虫に刺された跡1つない手をしているからな。ずっと手袋でもしているのかと思ったくらいだ」
眼鏡っ子先輩にも指摘されたが男でも見る者は見るのか。でもこればかりは仕方ない。女性陣の体のメンテナンスはしっかりしてやらないとな。特にエリーとカレンの2人は神聖魔法使いでもなくエルフでもないからな。
「それにしてもすまなかったな。マルスを才能に胡坐をかいて努力もしねぇでいい女を侍らしているただのボンボンみたいな言い方をしちまって。俺はお前の全てを妬んでいたからな。今日で少なくとも俺よりは努力しているという事は分かった」
リュートが心からの謝罪をしてくれる。やっぱりこうやって認められるのは嬉しいよな。
「でもマルスたちの装備はガメツたちナインズクラスの装備だよな。鑑定をすることはできねぇがすげぇって事だけは分かるぜ。親に感謝しろよ」
どうやら装備は親から譲り受けたものと思っているらしい。
「実は僕の装備は1本の剣以外、全て自分で入手した物です。クラリスの装備も剣だけ貰いものですが、この2本の剣は親から貰ったわけではないです。どちらも報酬のような形でもらいました。そしてエリーの装備は全部自分たちで入手しました、カレン、ミーシャ、アリスの装備もほとんどは自分たちで揃えました」
「っつ!?」
リュートが驚きすぐに何かを言いかけたが、すぐに言葉を飲み込んだ。恐らく言葉を選んでいるのだろう。偽装の腕輪はジークから貰った物もあるが、それを説明するとややこしくなるから言わなかった。
「まさか……でも信じられないようなことを目にしてきたから否定も出来ねぇか。12歳で俺たちよりも強い奴が3人に、神聖魔法使いで走れて剣術もできるびっくり美少女剣士、それにエルフ……何より今日一番驚いたのが魔物を従える者がいたという事だ」
そう。今日マラソンをした時ハチマルも一緒だったのだが、【流刃】の3人はすぐにハチマルが火喰い小狼だと気づいた。まぁ実際は賢狼なんだが。
カレンがテイムしていると何度言っても聞かず、結局3人を説得するのに30分以上も時間を費やしてしまったのだ。
やはり上級の冒険者になればなるほど場数を踏んでいるので、魔物にも詳しいのだろう。これから上級冒険者に会う時は気を付けないとな。
少し長湯をしてしまったので風呂から上がるとすぐに女子寮の前に向かう。しかし急いだ意味もなくまだ女性陣は来ていなかった。
しばらく待つとクラリスとエリーを先頭に女性陣が一斉に出てきたのだが、なぜかヒルダとマチルダの表情が冴えない。
「どうしたんだ? ずいぶん長かったようだけど……」
2人の様子が少しおかしいから聞いてみると
「いつものやつだよ。お風呂でクラリスとエリーの裸を見て2人がショック受けちゃって……」
ミーシャがさらっというと
「だっておかしいじゃないか!? 12歳だよ!? 12歳でアタイよりもスタイルがいいなんて……肌もプルンプルンでシミも全くないんだ! それにムダ……」
「ちょっと!? ヒルダさん! 絶対に言わないって約束じゃないですか!?」
クラリスが顔を真っ赤にしながらヒルダの言葉を遮ろうとするが、ヒルダは構わず続ける。
「いいじゃないか!? マルス、アンタ果報者だねぇ!? 見飽きて実感がないだろうけどもこの娘たちを基準に考えちゃだめだよ!?」
「あ、ありがとうございます。僕も世界一幸せだと思っておりますので……」
まだ見たことがないと弁明しようと思ったが、ややこしくなりそうだったので素直に同意すると満足そうにヒルダが頷く。すると俺の隣にいたリュートも負けじと
「いや、マルスもすげぇぞ!? こっちも12歳とは思えないぞ!? なぁクラリス?」
おい、セクハラだぞ!? その証拠にクラリスはもうエリーの後ろに隠れているじゃないか!? まぁこの世界にセクハラという概念がないから仕方ないが。
「取り敢えず行きましょう。まだやる事はありますから」
なんとかこの話題を回避し【黎明】と【流刃】の計9名でリーガンの街に向かう。
リーガンの街に出るとやはりヒルダとマチルダの服装に街の住民の視線が集まるが、その後はいつものように俺の隣でまだ顔を赤く染めているクラリスに収まる。
そしてそのクラリスが少し歩みを緩めてみんなから少し距離を取ると小声で
「さっきお風呂場でね。ヒルダさんが認めてくれたの。私たちの努力は凄いって。本当に何も知らずにけなしてすまなかったって。もう私は大丈夫だからマルスももう許してあげてね」
嬉しそうに報告してくる。
「分かった。でも良かったよ、分かってくれて。クラリスの努力を知っているから俺も悔しくてね。あとリュートさんも同じように謝ってくれたよ」
「うん……なんとなくマルスの気持ちは分かっていたわ。ありがとう」
店に到着すると俺とリュートの2人は外で待ち、女性陣の買い物が終わるのを待つ。意外と早く買い物が済んだようで、すでにヒルダとマチルダは新しく買った服に着替えていた。
2人の服はお揃いで全身真っ黒なレザースーツだった。確かに露出度は下がったが、あまりにもピッチピチだったので、マニアにはたまらないだろう。
他にも何を買ったか見せてもらうと、いつも盗む前に右目でウィンクをしている黒猫の顔のカードを律儀に送る美人3姉妹が着ているような服や、みんな大好きコウモリ男のような服も入っていた。
これ選んだやつ誰だよ……なんとなく想像はつくが……
また街の住民の視線を集めながらミックを探しにリーガンの街へ繰り出した。