作品タイトル不明
第359話 条件
2032年3月21日11時
リーガン公爵に俺と【流刃】の3名が校長室に呼ばれ 1(・) 0(・) 名(・) で校長室に向かう。
1+1+3がなんで10になるかだって? それは当然のように【黎明】のメンバーも一緒についてきているからな。リーガン公爵も苦笑しながらも、これを黙認している。
そのためバロンとミネルバだけが闘技場に残って訓練している。2人っきりの場合は何の訓練をするのだろうか? 今度怖いもの見たさで覗いてみたいな。
校長室に向かう前に凍傷を起こしていたヒルダの両腕にもアリスがヒールを唱え、しっかりと治療をした。ヒルダにヒールを唱えた時、ヒルダは涙を流して感動していた。こんな贅沢は夢みたい、まさか自分がヒールをかけてもらうことがあるなんてと。
ヒルダの反応を見て改めてこの世界での神聖魔法の貴重さを思い知らされた。
「さて、最初に言っておきますがあなた達からの質問は受け付けません。これから私はバルバス伯爵を始め、リーガンに来ている者たちと会食をしなければならず、時間があまりとれないので」
校長室に入り、リーガン公爵が椅子に座ると、【流刃】に向かって話し始める。
「マチルダ、あなたのその症状はA級冒険者昇格試験中になったのではないですか?」
「「「っ!!!???」」」
3人が驚き、そのリアクションを見たリーガン公爵が
「その反応という事はやはりそうですか……では本題に入ります」
いや、めっちゃ気になるんですが!? なんでA級冒険者試験中って分かったのだろうか? 【流刃】の3名も聞きたそうにしているが、お構いなしにリーガン公爵が話を続ける。
「まず救窮院出身者を雇う時に必ず聞いているのですが、あなた達は闇ギルドに関わっていますか?」
「いいえ、俺たちは闇ギルドには関わっておりません」
「アタイたちはそこまで堕ちてないよ!」
闇ギルド? そんなものが存在するのか。2人が必死に否定する。それにリーガン公爵の口っぷりからして過去に救窮院出身者を雇ったことがあるのか。
「分かりました。後日リュートに同じことをもう一度質問します。その時違う答えでしたらマチルダの声は戻りませんがいいですか?」
リーガン公爵の質問にリュートが自信をもって頷く。もしかしたら魅了眼を使ってまた同じ質問をするのかもしれない。
「それでは本題に入りましょう。私があなた達に代わり、マルスにお金を払ってまでやって頂きたいことは、諜報活動です。私が極秘に指名クエストを依頼していた者が去年亡くなってしまったので」
諜報活動? この3人にか? さすがにこのキャラには無理だと思うのだが……諜報員ってこんなに目立ってはダメな気がするんだよな……そしてそれを自分でも自覚しているのか
「わ、分かりました……でも俺たちはこんなナリをしているので……」
リュートが自信なさそうに答えると
「もちろん諜報活動する際はそんな恰好しないで闇に紛れてもらいますよ。ですが普段からそんな恰好をしている者がまさか諜報員だとは思わないでしょう? これが出来ないようであればこの話は無しです」
「い、いえ! 必ずやりますし、服装も変えます!」
リュートが必死になって取り繕うと、リーガン公爵が当然だと言わんばかりに頷く。
「諜報活動をする際に人数は多い方が有利に働きます。今度何人か諜報活動をしていた者達を紹介しますのでその者と一緒にクランを立ち上げてもらいます。3人はその者達から諜報活動の指導を受けてもらいます」
【幻影】の生き残りでもいるのかな?
「次に私からのクエストですが、全て秘匿性の高い物となります。当然ですが他言無用です」
まぁこれは言わずもがなって感じだな。3人も特にないようだ。
「もう1つ、これは必ず約束……いえ、命令です。今回のように出向いた先で問題行動や発言は絶対に慎んでください。リュートのマルスに対する目つき、ヒルダがクラリスに言い放った侮辱発言はもってのほかです」
「「申し訳ございません」」
リーガン公爵の言葉に2人は項垂れる。
「リュートはA級冒険者維持する事も勿論ですが、それと共にA級冒険者としての品格と言うのも備えないとなりません。公にはしませんが、これからリーガン公爵家のクエストを受けてもらう事になると思うので……どこかに長年A級冒険者をしており、品格、良識ある者がいればあなた達を教育してもらうのですが……仕方ないですがフレスバルド公爵家から誰かを派遣してもらって教育してもらおうと思います」
まずA級冒険者がこの平和なリーガンにいる訳がないしな……あれ? そういえばまだこの街に……
「ミックさん! ミックさんがおります! リーガン公爵!」
クラリスが俺と同じ人を思い浮かべる。確かにミックはもうA級冒険者を辞めて金持ちおじさんになったと言っていたな。
「そうね! ミックさんであればじゃじゃ馬をならせるかもしれないわ!」
「やったぁー! ミックさんに会える!」
「ミックさんなら間違いないですね!」
クラリスが発言すると、カレン、ミーシャ、アリスが騒ぎ立てる。厳かな雰囲気が一転いつもの空気感になる。
確かにこの3人がミックのようになる……いや少しでも近づければリーガン公爵も安心してクエストを依頼することが出来ると思うが……
「あなた達、少し落ち着きなさい。ミックとはもしかして【棒神】のミックですか?」
「そうです。ミックさんが僕に伝言を届けに今リーガンの街に来ているのです。現在はこの街の観光をしていると思われます」
リーガン公爵の質問に答えると、急にリーガン公爵が険しい顔になり、責め立てるように俺に質問してくる。
「マルスにですか? なぜバルクス国王の専属A級冒険者があなたに何の用があるというのですか?」
そうか、まだミックがバルクス国王の専属A級冒険者を辞めたことを知らないのか。さすがのリーガン公爵の情報の速さでも捉える事はできないよな。まぁそこに網を張っているかどうかも分からないが。
リーガン公爵からすればバルクス国王の専属A級冒険者が俺とコンタクトを取っていると思えば、気になるし、警戒もするよな。ここはしっかりと説明をしないといけない。
「ミックさんはもうバルクス国王の専属A級冒険者ではございません。先日A級冒険者を辞退し、今後はサンマリーナとかでゆっくりと余生を過ごすと言っておりました。またミックさんが僕に伝えてくれたことは、父が伯爵位から辺境伯位に陞爵したことを伝えに来てくれたのです」
「な、なんと!? 辞めた!? A級冒険者をですか? どうして? どうしてミックが辞める必要があるのですか? それにブライアント伯爵が辺境伯に? おめでとうございます」
辞めた理由は多分獄炎狼戦でのことだから俺の口からはあまり言いたくない。しかし言わないという選択肢はないので、せめて引退理由はリーガン公爵にだけで【流刃】の3名の耳には入れたくないな。
「ありがとうございます。ミックさんの話は後でしっかりと説明という事でいいですか? その時気になったことを質問したいのですが……」
俺から聞きたいことはもちろんマチルダの声の事をなんでリーガン公爵が知っているのかだ。
別にそこまで必要な情報でもないのだが、気になってしまったからな。しかしリーガン公爵は意外な言葉を返してきた。
「いいえ、マルス。あなたは私の警備兼エスコートをするために屋敷まで来ていただきます。ほかの者は休憩にしてください。クラリス、今回はついて来ないように。あなた 達(・) のためでもあります」
「わ、分かりました……マルス、信じてるからね」
含みを持たせたリーガン公爵の言葉にクラリスが返事をし、俺に一言だけ声を掛けてくる。
校長室を出てリーガン公爵と2人で屋敷に向かいながら考えていると
「マチルダに毒を盛ったのはきっとA級冒険者の誰かでしょう」
突然衝撃的な言葉を発する。
「え? そんなことを? どうして?」
「それは確実に勝つためですよ。A級冒険者になるというのはそれほど価値のあるものです。そしてこの行為は証拠がなければ許されます。これもA級冒険者の能力の1つで、見破れない方が悪いのです。そんなものがA級冒険者になったところで先が見えてしまいますからね」
A級冒険者ってもっと堂々となって誇らしいものではないのか?
「もちろんこんなことをするのはごく一部です。ですがそのごく一部の者をあなたは知っているはずです」
ガスターか! 確かにガスターならやりかねないが……エリーがいるから校長室でこのことを言わなかったのか。そしてついて来るなと言ったのもこの会話が聞かれてしまう可能性があるからか。色々考えてくれているんだな。
「ですがやったのはガスターではないでしょう。ガスターが毒の量を間違えることはないですから。尤もマチルダがほかの人の毒まで飲んでしまったら、分かりませんが……」
本当に俺とリーガン公爵のガスターに対する評価は違うな。ガスターだったら毒の量を間違えると思ってしまうのは俺だけか?
でも毒だとしたらマチルダを鑑定したときの状態は……良好ではなく通常だったな。毒は抜けたが喉が焼かれたままという事か?
「マチルダさんは神聖魔法で治るのでしょうか?」
俺の質問にリーガン公爵が笑いながら
「当然です。それに治ってもらわないと困りますから」
そこまで言うとすぐに真剣な顔になって
「もしも今年のA級冒険者昇格試験に私が同行できない場合の事も考えてアイクにはこの事を伝えた方がいいでしょう。そして今年も去年のように宿を貸し切りにする事です。そうすれば毒を盛られる危険はだいぶなくなりますから」
そういえば去年はリーガン公爵がすべての部屋を借りてくれていたな。そしてスザクにも宿以外で出されたものを口にするなと言われた気がするがこういう事だったのか。
「当然私はアイクの推薦をするつもりです。宿にリーガン公爵家の紋章、つまり本の紋章の垂れ幕を下げれば、毒を盛ろうとする輩も躊躇うでしょう。恐らくリーガン公爵家だけでなく、フレスバルド公爵家もアイクを推すと思いますが」
この2人がアイクのバックについてくれれば、どこかの仮面を被った奴以外アイクに毒を盛るようなことはしないだろう。
リーガン公爵と話をしているともう目の前には屋敷が見える。
「マルス、ミックの事はまた今度の機会でお願いします。ここまでありがとうございました」
リーガン公爵がそのまま屋敷の方へ立ち去ろうとしたので最後に1つお願いをする。
「リーガン公爵、1つお願いがございます。【流刃】の3名の入校許可を頂けませんか? 明日一緒に訓練をしたいので」
「分かりました。門兵に伝えておきましょう。それでは」
リーガン公爵が屋敷に入るまで見届けてから、 た(・) ま(・) た(・) ま(・) 近くを散歩しているクラリスの所まで走った。