軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第358話 価値

「頼む! 今ここに金貨200枚ある! あと300枚は後で必ず払う! マチルダの喉を! マチルダの声を取り戻してくれ!」

医務室から大きな声が聞こえ急いで中に入ると、あたりには大量の金貨が散乱しており、地面に両手と両ひざをつき、頭を擦り付けているリュートとヒルダの姿があった。

アリスだけでなくその場にいたカレンとミーシャも驚いていたが、エリーだけはリュートからアリスを守るように身構えているが、殺気を放っているわけではなかった。ただ警戒しているという感じだ。

そしてマチルダがしっかりと治っているか確認するため、武闘技という名のチャイナドレスを脱ぎ下着姿で寝かされていたが、急に柔らかい感触が目を覆うと、俺の視界が遮られる。

「マルス! 見ちゃダメ! 誰か! マチルダさんに服を着させて!」

クラリスが後ろから俺の視線の先を見て、すぐに手で目隠しをするとアリスが

「ま、マチルダさん、自分で服を着ることが出来ますか?」

アリスの声に何の反応もないが、どうやらマチルダが服を着ているという事だけはなんとなく分かる。

衣擦れの音が聞こえなくなると、いい香りを残して目隠しが解かれる。

改めて状況を確認するとマチルダはもうベッドから体を起こしていた。そしてリュートとヒルダの2人は頭こそ上げているが、手と両ひざは変わらず地面についている。

「どうしたのですか? なぜこんなにも大金が?」

「マルス! 今言ったとおりだ! 金貨500枚でマチルダの喉を治してくれ!」

「お願いだよマルス! アタイを自由にしてもらっても構わない! マチルダの声を取り戻してくれないか!?」

2人が必死になり懇願してくるとクラリスが

「マルス、話だけでも聞いてあげましょう? もうマルスの隣にいられないという事は無いし、しっかりとヒルダさんにも謝ってもらったから私はもう気にしてないから……」

クラリスが俺の手を強く握りながら話しかけてくる。クラリスがそう言っても、俺自身はまだ心のどこかで引っ掛かっている。

だから機会があればいかにクラリスが努力していたかを思い知ってもらうつもりだ。そんな過激なことをするつもりはない。ただ毎日のクラリスのルーティーンを体験してもらおうと思っているだけだ。

そして可能であればリュートたちがどのようなルーティーンを送っているのかも体験してみたい。

「分かりました。ではまず2人共立ち上がってください。立ち上がらない限り話は聞きませんからそのつもりで」

2人は顔を見合わせて驚きを隠せないようだったが、俺の言葉に素直に従ってくれ立ち上がると、マチルダもベッドから下り2人の後ろに申し訳なさそうに立つ。

「さて、なんとなくお2人の言いたいことは分かりました。アリスの神聖魔法でマチルダさんの喉を治してほしいのですね? やはりマチルダさんは声を出さないのではなくて出せないのですか?」

リュートとヒルダの2人はヘッドバンキングをしているかのように頭を激しく上下に振り、マチルダ自身は目を伏せながら頷く。

「声が出ないのは先天性のものですか? 後天性の物ですか? もしも先天性なら神聖魔法でも治る可能性は低いかもしれません。後天性であっても必ず治るとは限りませんが」

まずはこれを言っておかないと希望を持たせておいて、治らなかった場合の落胆が酷いだろうからな……いや言ったところで治らなかった時のショックは大きいだろうが、俺たちの心の逃げ道を確保しておきたいというのが本音かもしれない。

「後天性のもので声が出なくなったのは4年前だ」

マチルダの代わりにリュートが答える。

「声が出なくなった原因は精神的な事からですか? それとも外的要因ですか?」

「外的要因……だと思う……」

「では声が出なくなったきっかけを教えて頂けますか?」

今まですらすら答えていたリュートが答えにくそうにしている。もしかして今聞かないほうがいいのか? マチルダはずっとうつむいたままだ。

「分かりました。それは後で聞くとして、どうして金貨500枚なんですか?」

俺の質問にリュートが唇を噛みしめながら

「やっぱり足りないか!? 残りの金貨300枚は来年までに必ず払うし、その後も足りない分を払う! 最低500枚という事だ! 他に何か望むものがあれば言ってくれ!」

「アタイだって何でもするよ! アタイにも何か言っておくれ!」

どうやら別の意味で捉えられてしまったようだ。

「いえ、足りないとかではなくて、なぜ500枚なのですか?」

「それは……ナインズの1人……【豪傑】のガメツが金貨500枚でマチルダの喉の治療をしてくれると……治るかどうかは分からないと言われてしまったが……」

ナインズ? なんだそれ? クラリスが知らないか目を向けるとクラリスも首を振る。

「マルス、ナインズとはA級冒険者9位以内の者たちの事だ。9位以内はちょっと特殊でそのような呼ばれ方をしている」

俺とクラリスのやり取りを見ていたバロンが説明してくれる。

9位以内はちょっと特殊? まぁ俺はA級冒険者上位を目指しているわけでもないからな。神聖魔法使いのクラリスとアリスが他のAランクパーティに奪われないようにする為と、リムルガルド城に入るためになったようなものだからな。

それにしても治療に金貨500枚……5000万円か。さすがに高い気もするが、俺も婚約者たちが何かの病気にかかって自分たちの力ではどうしようも出来ない場合は、間違いなく払うだろうな。どんな条件を出されようとも……

「マチルダさんの喉を治すのって具体的にはどうやるのですか?」

他の神聖魔法使いはどうやるのか知りたかったので敢えて聞いてみた。

「毎日喉にヒールを唱えてくれるとのことだ。そして俺には分からないがヒール以上の魔法も唱えてくれるらしい。それを継続的に1か月やって金貨500枚だ」

それだけで金貨500枚? 俺が驚いているとさらに驚いていている者がいた。

「え?……3か月間くらいずっとしてもらっているから……白金貨1枚以上の価値があるって事? 私のおっぱ……」

いつものようにミーシャが自分の胸を触りながら言うと、それを遮るようにバロンが2人に対して述べる。

「さすがにそれは高すぎではありませんか? 昔の話ですがヒール1回で金貨2枚~5枚というのが相場だと聞いたことがあります。もっと高額になるというのも聞いたことがありますが……だとしてもどんなに高くても金貨200枚……それに上位魔法を唱えてくれるのを考えても250枚がいいところでしょう?」

「アタイたちも高いというのは分かっているんだ! だけどガメツに1か月毎日神聖魔法を唱えるとなるとこの金額になると言われちまったら仕方がないだろう? それに神聖魔法使いが減っているという事も聞いているから頼める人がいないんだよ!」

バロンの言葉にヒルダが悲鳴を上げるような声で答える。さすがにガメツという名前だけあってがめついな。

「この前のA級冒険者昇格試験会場で片っ端から頼んでも断られた! あんな 百獄刑(ロンド) をやるくらいだったら……くそ!」

リュートも地面を叩きながら悔しがる。まぁ 百獄刑(ロンド) に関してはカストロ公爵にとって必要な事だったからな。事情を知らないリュートからすれば当然の感情かもしれないな。

【黎明】女性陣の意志を確認しようとみんなを見渡すと、みんな頷く。カレンあたりは拒否をするかなと思っていたのだがどうやら賛成のようだ。

「分かりました。マチルダさんの件は引き受けましょう。ですが絶対に治るというわけではありませんので、そこだけは肝に銘じておいてください。それと報酬の方ですが、金貨500枚というのは流石に気がひけ……」

ここまで言葉にすると、今までずっと医務室の外で盗み聞きしていた人が割り込んでくる。

「リュート、ヒルダ、それにマチルダ。 条(・) 件(・) 次(・) 第(・) で私が全額立て替えましょう。後で私にも詳しい話をしてください。マルスたちはしばらくマチルダの喉の治療をお願いします」

もう誰が話に割り込んできたかみんななら分かるよな。そう、真ガメツ……ではなくリーガン公爵だ。

鶴の一声にリュート、ヒルダは喜びを爆発させるのであった……