軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第357話 医務室

「エリー! 腕を見せて!」

マチルダに勝ったエリーと一緒に選手控室に戻ると、クラリスは勝利を祝う訳でもなく、すぐにエリーの左腕の袖口をまくる。

そこにはマチルダの右回し蹴りをガードした周辺が真っ赤に腫れ上がり、中には内出血したのか青紫色に変色した箇所もあった。

不覚にも全く気付かなかった……

「やっぱり……痛かったでしょう……ハイヒール」

エリーの返事を待たずしてすぐにクラリスがハイヒールを唱えると

「……痛くない……でもありがとう……」

嬉しそうな表情をしてエリーが答える。ハイヒールで傷跡が治ったことを確認し、念の為にもう一度ヒールをかけたクラリスが

「エリー、おめでとう。いい試合だったわね」

エリーの背中に手を回しながら抱き寄せ、エリーの頬に頬を合わせながら勝利を祝うと、エリーもクラリスの背中に手を回し

「……うん……ありがとう……勝てて良かった……」

ホッとした様子でエリーもクラリスの背中に手を回しながら言う。

2人が抱き合っているところにカレン、ミーシャ、アリスも次々と集まり、エリーをみんなで祝福する。

本当は俺もその輪に加わりたかったが、女性陣が幸せそうに喜んでいる姿をこうやって外で見ているのもいいものだなと思い遠慮しておいた。あとでちゃんと誉めてやろう。

バロンとミネルバの2人と今回の戦いの感想戦をしながら女性陣を見ていると

「エリー、金獅子の名に恥じない良い試合でした。おめでとうございます。みなさん、ちょっとついて来てもらってもいいですか?」

リーガン公爵が選手控室に入ってきてエリーに祝福の言葉を一言述べ、俺たち【黎明】6人とバロン、ミネルバの2人を連れ出す。連れていかれたのは医務室だった。

医務室にはヒルダとマチルダがそれぞれベッドで横たわっており、ヒルダは温水の入った桶に両腕を浸して目を瞑っている。

もう1人のマチルダは相当ダメージが残っているらしくまだ苦悶の表情を浮かべており、医師と思われる者がマチルダの脇についていた。

その様子をリュートが椅子に座りながら心配そうに見守っていたが、俺たちがくると椅子から立ち上がり

「……俺たちの完敗だ……リーガン公爵……まだここを使わせて頂いても……」

拳を強く握りしめ、声を振り絞る。

「今日はここでいいですが、明日からはここではなく、別の所を用意いたします。ここはこの子たちが朝から晩までずっと訓練で使っているところですから。2人の容態はどうですか?」

「ヒルダはポーションを飲ませていれば1週間以内には治るだろうと言われましたが、マチルダはポーションすら飲めないので……完治には1か月以上はかかるかもしれないと……」

リュートがマチルダの処置をしている医師を見ながら言うと、2人の声で気が付いたのかヒルダがベッドから体を起こす。

「……もしかしてマチルダまで負けたのかい!?」

隣にいたヒルダを見てリュートに聞くとリュートは黙って頷く。

「そうかい……この前は悪かったねぇ……クラリス。アタイは前にも言ったけど男が必死で戦っているのに、髪の毛を弄っているような女を何人も見てきた。そしてクラリス、アンタが今まで見てきた女の中で1番手が綺麗だったからつい絡んじまったのさ」

クラリスに負けて毒気が抜かれたのか素直にヒルダが謝ると

「いえ……私の方こそついついカッとなってしまって申し訳ございませんでした。腕の方は大丈夫ですか?」

「何、大したことないよ。後遺症さえ残らなければいくら傷が増えても構いやしないさ。それにしてもアンタほどの魔法剣士はなかなか見たことがないから驚いたよ。アタイのストーンバレットを弾いたのはどうやったんだい?」

ヒルダの言葉にクラリスがどう答えようか迷っていたが、

「何を言っているのですかヒルダ? クラリスは弓使いで後衛です。ヒルダの事を前衛だと思ったからクラリスは剣での勝負を挑みましたが、最初から後衛だと分かっていればクラリスは弓を使っていたでしょう」

「「っ!?」」

クラリスの代わりにリーガン公爵が答えるとリュートとヒルダの2人が驚く。結界魔法の事はうまくはぐらかせたようだ。

「あ、あれで弓使い!? 才能、環境、男、そして顔に体……全てを与えられたという訳かい……」

ヒルダはリーガン公爵の言葉を受け入れることが出来たようだが、リュートはまだ驚いている。

「あのー……差し支えなければ聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんだい? アタイたちに答えられる事であればなんでも答えるよ?」

「皆さん1度はA級冒険者になられたことがあるとの事ですが、A級冒険者になり指名クエストを受注すればかなりの報酬が出ると聞きました。その報酬で装備を揃えるという事はしないのですか?」

俺の質問にリュートとヒルダ思わず顔を見合わせ、大声でヒルダが笑い答えてくれた。

「あっはっは……アタイら救窮院出身のA級冒険者に指名クエストなんざ滅多にこないさ。たとえ依頼が来ても、死んで来いと言わんばかりのクエストさ。まぁ指名クエストを受けなくとも金は稼げるんだが指名クエストほどは高くなくてね……それに使い道も決まっているんだ。装備に回している余裕なんてないのさ」

救窮院というのは読んで字のごとく困窮している者や孤児を預かる施設だ。色々な所に救窮院は存在する。もちろんリーガン公爵領にもある。

だがなぜ救窮院出身者には指名クエストがいかないんだ? まぁ今はその事よりも装備の事を聞いてしまおう。

「皆さんは迷宮に潜ったりしますよね? その時に宝箱とか取れると思うのですが、それを装備したりしないのですか?」

「迷宮に潜っても10回に1回くらいしか取れないじゃないか? それに毎日潜れるわけでもないしね。今まで3回ほど価値Bの装備を手に入れたけど、それは全て売ったよ。アタイたちはどうしても金が必要なんだよ」

やっぱり俺たちの宝箱の出現率とレア度は異常なのか。

そう思いながら次の質問をしようとした時だった。今まで苦悶の表情を浮かべていたマチルダが急に吐血してしまい、それを見たリュートがマチルダの脇で症状を見ていた医師をどかし、すぐにマチルダの手を握る。

「大丈夫か!? マチルダ!? マチルダ!?」

何度もマチルダの名を呼ぶが、マチルダはずっと苦しそうな表情をするだけでリュートの問いに答えない。さすがに痛々しすぎてみていられない。

「アリス、頼めるか?」

俺が何を言いたいのかアリスはすぐに察してくれ「はい」と静かに答える。

リーガン公爵も察してくれたのか、リュートにどかされた医師を部屋の外に連れ、一緒に部屋の外に出て行く。

「リュートさん、今からマチルダさんの治療をします。ちょっとどいてもらっていいですか?」

「は!? 治療だと!? ポーションが飲めないんだぞ!? どうしようもないだろう!?」

リュートが唾を飛ばし激昂しながら答える。そしてマチルダの隣から離れようとしない。

「リュート、ここはマルスの言うとおりにしてみればいいじゃないか? アタイらじゃこうやって心配する事しかできないからね」

ヒルダの言葉に渋々頷きリュートがマチルダの隣から立つ。

「ありがとうございます。ではアリス、やってくれ」

アリスが苦しそうに寝そべっているマチルダの隣に行き、腹部を触るとマチルダはビクンと体を反応させる。触られて相当痛いのだろう。

その様子を心配そうにリュートとヒルダが見つめる中アリスが魔法を唱える。もちろんあの魔法だ。

「ヒール!」

ヒールの柔らかな光がマチルダの腹部を包むと、今度はわき腹にヒールをかける。

やはりヒールの効果は抜群で今まで苦しがっていたマチルダの表情が和らいでいく。

「リュートさん、ヒルダさん。マチルダさんの服を脱がしてもらってもいいですか? この服をどうやって脱がしていいのか私には分からないので……」

アリスが呆然としている2人に問いかけるとクラリスが俺の手を握って

「さ、マルスは私と一緒に外に出ていましょう。バロンもよ」

クラリスが俺の手を引いて外に出ると、バロンとミネルバも選手控室の外に出る。

そして俺たちが出て1、2分した後だった。医務室の中から何かが散らばる音とリュートの大きな声が聞こえたのは。