作品タイトル不明
第354話 意地
「本日はもう1試合ございます!」
バロンとレイラの試合が終わり。生徒達は何も聞かされていないのか今のアナウンスにどよめくが、アナウンサーはそのまま続ける。
「次の試合は……なんと! 現A級冒険者95位! Aランクパーティ【流刃】のリュート選手の入場です!」
いつもよりもあっさりとリュートの紹介をアナウンサーが済ませるが会場は大いに盛り上がる。
なんといってもA級冒険者だからな。A級冒険者を目標に入学している者たちからすれば憧れの存在だろう。
大歓声の中リュートがヒルダとマチルダを両脇に従えて入場してくると、ヒルダとマチルダのコスチュームを見た男子生徒は 総(・) 立(・) ち(・) で大興奮している。
しかし2人はこの前のようにリュートにべったりとくっつくのではなく、少し距離を置いて入場してくる。
もしかしたらあの後仲直り出来なかったのだろうか? そんな心配をよそに俺のアナウンスが始まる。
「さぁ現役A級冒険者を相手にする者は当然この男! 齢11歳にしてA級冒険者になったこの男は間違いなくリスター帝国学校史上唯一無二の傑物であります! A級冒険者93位! ご存じ! リスター帝国学校公認のハーレムキング! マァルゥスゥ・ブライアントォォォオオ!!!」
アナウンスされたのでみんなに「行ってくる」と伝えたのだが、なぜかクラリスとエリーがそれぞれ俺と腕を組むと、カレンとミーシャも俺の前に立つ。アリスはというと後ろから俺の制服をぎゅっと握っている。これってもしかして……そう思っているとクラリスが
「さぁ! 行きましょう!」
やっぱりこの状態で入場するの? これじゃあ絶対に男子生徒から大ブーイングを受けるパターンじゃ……
しかし実際に入場してみるとそんなことはなかった。女子生徒だけでなく男子生徒も有頂天外となり、あらん限りの声援を投げてくれる。アナウンサー言うとおりリスター帝国学校公認となったようだ。
「A級冒険者同士の戦いを見られるなんて夢のようだぜ!」
「お前は俺たちの誇りだ!」
「もう何をしても許すから勝てよ!」
「6人目、7人目ゲットだぜ!」
「次は私をゲットして!」
「カレン様! 僕に愛の鞭を!」
6人目、7人目ゲットだぜ! という声がした方をクラリスたちが睨むと、ゴンはシュンと下を向く。最後の声援はどこかで聞いたことのある声……ゴンの隣あたりから聞こえたような気がしたが、深く考えるのはやめておいた。
リュートたちから少し離れた場所で立ち止まるとリュートはカレン、ミーシャ、そして俺の後ろにいるアリスに視線を移し、最後にまた俺の右隣の女性に視線がロックされるが、今回は距離が空いている分、フリーズはしていなかった。
クラリスとヒルダ、エリーとマチルダがバチバチに視線を交わす中、リュートが
「お前、両脇の2人だけでなく、後ろのピンクの子とエルフ、それにフレスバルド公爵家のカレン様も?」
クラリスを見ながら俺に質問を投げかけて来る。
「はい、ここにいる女性全員、僕の大事な婚約者です」
この言葉に【黎明】の女性だけではなく、ヒルダとマチルダも嬉しそうな表情をして
「もうアタイを手に入れた気でいるのかい? それはリュートを倒してからにしておくれ」
ヒルダの言葉にマチルダも頷く。うん、今のは俺の言い方が悪かったな。この言葉にカレンとミーシャ、そしてアリスまでも敵対心を剥き出しにするが、当のヒルダは本心ではなさそうで、どこか寂し気な様子すら窺えた。
【黎明】女性陣のただならぬ雰囲気を感じたアナウンサーが
「さ、さぁ試合を開始致しますので、麗しき淑女の皆様はそれぞれの場所にお戻りください」
いつものキレッキレの言い回しが鳴りを潜めている。アナウンサーに言われクラリスたちが選手控室に戻り、ヒルダとマチルダも反対側の選手控室に戻ると、すぐに試合開始のコールが鳴り響く。
「はじめ!」
その声を聞くといつものようにすぐにリュートを鑑定する。
【名前】リュート
【称号】-
【身分】人族・平民
【状態】良好
【年齢】28
【レベル】63
【HP】242/242
【MP】201/201
【筋力】101
【敏捷】70
【魔力】32
【器用】103
【耐久】85
【運】1
【特殊能力】剣術(Lv9/C)
【特殊能力】風魔法(Lv4/F)
【装備】シャムシール
【装備】ショーテル×4
【装備】戦人の法衣
才能のわりに剣術レベルも風魔法レベルも高いな。かなり努力しているのかもしれない。アルメリア迷宮で戦ったズルタンとほぼ同じようなステータスだが、ズルタンよりも魔力が低い。
魔力が低いと魔眼などの状態異常対策をするのが普通だと思うのだが、対策をしている気配がない。それどころか本当にA級冒険者か? といった装備で、全て価値C以下、それに装備には特殊な効果が何1つ付与されていなかった。
「ちっ! お前、剣聖のくせに魔眼持ちか!? 装備も親から譲ってもらって、その上才能までも……だが俺は諦めねぇぞ!?」
リュートはそう吐き捨てると、腰にぶら下げてあった両刃の刀身が半円を描くように大きく湾曲しているショーテルを左右の手に1本ずつ持つと、俺に向かって迫ってくる。
氷紋剣を抜き迎え撃とうとすると、リュートは左右に持ったショーテルの刀身の反っている方で斬りかかってくる。
や(・) は(・) り(・) 二刀流か。
二刀流ショーテルの攻撃を氷紋剣のみでなんとか凌ぐが、実際受けてみると得意としている二刀流がこんなに厄介だとは思わなかった。
所々で流水を使い、なんとか氷紋剣だけでリュートの攻撃を凌ぐが、こちらから攻撃する機会がなかなか見当たらない。
なんで氷紋剣だけしか抜かないかというと、余裕を見せたいという訳ではなく、リーガン公爵に言ったようにリュートの情報を最大限に引き出す事と、もし今年アイクがA級冒険者昇格試験でリュートと戦う事になった場合、どうやって攻略すればいいのかアドバイスもできるからだ。
まぁアイクは槍使いだからわざわざリュートの間合いに入って戦うことはないだろうが、念のためだ。
「おーっと! リュート選手は二刀流でマルスを襲うが、マルスは何故か二刀流ではなく1本の剣のみで戦っている! これは余裕という事かぁ!?」
アナウンサーがいらぬ実況をするとそれを聞いていたリュートが
「舐め腐りやがって! 魔眼を使わないどころか剣すら抜かないとは……後悔させてやる!」
徐々にリュートのショーテルを振り下ろす力が強くなってくる。
だがさすがに何合も剣戟を交わしていると慣れるもので、心身ともに少し余裕が生まれたので、こちらからも何か仕掛けようかと氷紋剣を強く握りしめた時だった。
リュートから振り下ろされるショーテルを氷紋剣で受け払おうとしたのだが、俺が払おうとした瞬間にショーテルを半回転させ、刀身が窪んでいる方で俺の氷紋剣を躱しながら斬りかかってきたのだ。
完全に裏をかいたと思っていたリュートは勝ち誇った表情をしていたが、俺はこの攻撃を予測……いや知っていた。
何故かって? それはリュートの腰にぶら下がっている曲剣を見たカレンが、A級冒険者昇格試験の時にこのような攻撃を見た覚えがあると言っていたからな。もしかしてと思って注視していて正解だった。
俺も見ていたはずなのだが、あの時は戦い方というよりステータスばかり気にしていて、覚えていなかった。
先ほどやはり二刀流かと思ったのも、カレンとミーシャが二刀流で対戦をするリュートを覚えてくれていたからだ。カレンとミーシャには今度しっかりお礼をしなきゃな。
2人に感謝しながら氷紋剣に水魔法をエンチャントし、氷紋剣の剣先から氷の盾を発現させ、ショーテルの窪みに引っ掛けると、リュートが右手に持っていたショーテルを絡めとった。
いつもであればウィンドで吹っ飛ばせばいいのだが、ここは生徒のみんなが見ている。
生徒達の前では俺が使える魔法は火魔法だけという事になっていたが、去年リーガン公爵に 水精霊の剣(ウィンディーネソード) を授かった際、水魔法を使ってほしいというような事を言われていたしな。まぁこれで俺もクラリス、ミーシャと共にジャグチーズの仲間入りだ。
ショーテルを絡めとられたリュートが苦虫を噛み潰したような顔をして、腰にぶら下げていたショーテルをまた手に取ると、今度は刀身が反った方や窪んだ方をチェンジしながらショーテルを振り下ろしてくる。
しかしその攻撃の弱点はすでに見切った。ショーテルを反転させるときは必ずショーテルを軽く握りなおさないといけないため、その瞬間にショーテルの剣先を狙って弾けば、しっかりと握られていない分すぐに弾き飛ばせる。
剣先だけは刀身が反った方でも窪んだ方でも、変わらぬ位置にあるからな。
案の定左右に持つショーテルの剣先を受けるのではなく、氷紋剣で迎えにいきながら弾くとあっさりとショーテルはリュートの手から離れた。
「っ!?」
ショーテルを弾き飛ばされたリュートがすぐにバックステップをし、俺といったん距離を取るが、すぐにシャムシールと最後のショーテルを腰から引き抜くと、ショーテルを力任せに俺に投げつけてからシャムシールを右手に斬りかかってくる。
「うらぁぁぁあああ!!!」
ショーテルを紙一重のところで躱した俺に大声を出しながらシャムシールで斬りつけてくるが、それを氷紋剣で受け止めるとニヤリとリュートが笑みを浮かべる。
うん。こいつ絶対に悪いことができないタイプだろう。すべて表情にでてしまうからな。
もともと予想はしていた攻撃なので、何を狙っているのか予想はついた。もう後ろの方でショーテルが風切り音を立てながら戻ってきているのを感じるしな。
左手で雷鳴剣を抜き、後方からブーメランのように戻ってくるショーテルを、振り向くことなく叩き落としてから、シャムシール1本で最後の意地を見せるリュートの首にチェックメイトをかけるまで10秒も必要としなかった。
「そこまで! 勝者マルス・ブライアント!」
アナウンサーのコールと共に大歓声が俺たち2人を包むが、リュートはその場で崩れ、地面を本気で叩きながら悔しがっていた。