軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第355話 ヒルダ

「お疲れ様! 完勝だったわね!」

「さすが私たちのマルス! 相変わらずかっこよかったよ!」

「先輩! 惚れ直しました!」

選手控室に戻るとカレン、ミーシャ、アリスの3人が大喜びで俺を迎えてくれる。

本当は選手控室に戻ってくる前にリュートに聞きたいことがあったのだが。あまりにも悔しがっていたので声をかけることが出来なかった。エリーの試合が終わってからでも遅くないからその時に聞くことにした。

「ありがとう。これもリュートさんの事を覚えていてくれたみんなのおかげだ。事前に情報がなければ苦戦していたに違いない」

素直に感謝の気持ちを伝えると今度はクラリスが

「マルス、おめでとう。ここに座って」

俺に椅子に座るよう促す。言われるがまま座るとクラリスがいつものように俺の右側に立ち右肩に手を乗せる。

エリーも反対側に立ちクラリスと同じように左肩に手を乗せると、カレン、ミーシャの2人は俺の正面に立ち、アリスは俺が座っている椅子の後ろに立つ。

「マルス君。今更だけど本当にハーレムキングだね。マルス君だけ座って美女が寄り添うように周りに立っているなんて……」

確かにミネルバの言うとおりである。偉そうにふんぞり返ったら俺の好感度は間違いなく下がるだろう。

え? もう下がりきっているから今更気にするなって? そんなことはない……きっと俺に好感を抱いている人はいるはずだ……いるよね?

リュート戦をみんなで振り返りながら話していると、選手控室にリーガン公爵が入ってきたので急いで立ち上がる。

「マルス、よくやりました。安心して見ている事が出来ました。他の貴族の者たちもマルスの事を感心して見ておりましたよ」

「ありがとうございます。これもA級冒険者昇格試験の時にリュートさんの事を覚えていてくれていたみんなのおかげです」

俺の言葉に満足そうに頷くと

「もう生徒たちは教室に戻り、貴族たちもバルバス伯爵含めて既に闘技場から退出して頂いているので、早速ですがクラリスとヒルダの試合を始めようと思いますがよろしいでしょうか?」

「はい! 私は既に準備が出来ております!」

「では行きますか。マルス、審判としてあなたも来てください。無いと思いますが万が一に備えてあなたが近くにいると私としても安心できますから」

「ありがとうございます! 僕も近くに居たかったので! エリーの試合の時も審判をさせて頂いてもよろしいですか?」

「当然です。ですが明らかな贔屓はやめて下さい。では行きましょう」

少しの贔屓ならいいのかな? でもそんなことでクラリスが勝利したら、あれだけ努力して流した汗が汚れてしまうからそんなことはするつもりは無い。クラリスだってそう思っているだろう。

リーガン公爵に連れられ、クラリスと2人で舞台に上がると、向こうも大きな盾を持ったヒルダにリュートが付き添って中央で対峙する。

その盾の大きさはヒルダの体をすっぽりと隠せるくらいの大きさだ。

「では今から始めますが、審判はマルスです。文句は言わせません。マルス、審判としてヒルダがどんな攻撃をするか知っておく必要があるので、先にヒルダの鑑定を済ましてください。しかし現時点でクラリスに能力を教えることは許しません。ヒルダもいいですか?」

今まで審判に鑑定なんてされた事1度もないのに、リーガン公爵がメチャクチャな事を言って俺にヒルダを鑑定するように促す。

「アタイは構わないよ。なんだったらマルスがこのアーマーを脱がしてじっくり鑑定するかい?」

……ヒルダが眼鏡っ子先輩に見えてきたぞ? ちょっとドキドキしながらヒルダを鑑定すると

【名前】ヒルダ

【称号】-

【身分】人族・平民

【状態】良好

【年齢】25

【レベル】61

【HP】188/188

【MP】288/288

【筋力】72

【敏捷】70

【魔力】82

【器用】33

【耐久】78

【運】1

【特殊能力】剣術(Lv5/E)

【特殊能力】土魔法(Lv7/D)

【装備】銀の剣

【装備】ビキニアーマー

【装備】重装兵の大盾

え? まさかの魔法使い? そしてビキニアーマーって装備に入るの? 確かに少しは防御力はあるかもしれないが……もしかしたらズルタンの頭装備と同じ分類か?

ビキニアーマーも鑑定しようと思ったが、あまりヒルダの方を見過ぎるとまたクラリスに余計な心配をかけてしまうからやめておいた。それにリュートにも悪いしな。

しかしリュートといい、ヒルダといい、ステータスを見ると少し気になる所があるな……そう思っているとリュートが俺に話しかけてくる。

「おい……マル……審判、お互いの武器を木剣にしてくれないか? 男の傷の1つ2つは勲章で済むが、さすがに……な?」

当然俺もリュートの意見に賛成で、2人も木剣の方が本気でやりあえると言い、木剣での試合となった。リーガン公爵とリュートが選手控室に戻り、試合開始の合図をする。

「お互い卑怯な手は使わないように、また そ(・) れ(・) ぞ(・) れ(・) に(・) 大切な人が居るという事も忘れないで下さい! はじめ!」

俺の試合開始の合図とともにクラリスが木剣を片手にヒルダにアイスランスを唱えながら駆け寄る。

「っ!? 走りながら魔法!?」

クラリスの攻撃に面食らいながらも重装兵の大盾を地面に立て、その大盾でアイスランスを受け止める。

大盾に向かって放たれたアイスランスが『バリン』という音を立てて砕け散るが、大盾をも弾き飛ばそうかというくらい威力が高く、盾の一部が凍る。懸命に盾を押さえつけて堪えるが、そこにクラリスが木剣をもってヒルダに襲い掛かる。

ヒルダはクラリスの木剣での攻撃を同じく木剣で受けようとするが、1合受けると更に表情を曇らせる。

「なんなんだいアンタは!? そんなフォークよりも重い物を持ったことがないような手をして剣術も膂力も私の上をいくのかい!? 努力をしない才能だけの奴なんかには余計負けられないねぇ!」

確かにヒルダの言うとおり神聖魔法使いのクラリスの手はとても綺麗だ。毎日家事をし、弓を引き、ここ最近何十時間も剣を握っていたとはとても思えないだろう。

「私だってマルスの隣にいる為に日々頑張っているんです!」

徐々にクラリスの剣と魔法の連携攻撃にヒルダが剣と盾だけでは対処できなくなると、奥の手とばかりに魔法を唱える。

「ストーンバレット!」

次の瞬間ヒルダが左手で構えていた重装兵の大盾の中心部分からクラリスの右肩を目掛けてストーンバレットが射出された。

ヒルダを剣士だと思っていたクラリスは、ストーンバレットに反応が出来なかったが、ストーンバレットは右肩を貫く前に弾け飛んだ。

分かるよな? クラリスは予め結界魔法を張っていたのだ。俺は最初から魔力眼でクラリスが結界魔法を張っていたことが見えていたから安心して戦いを見ることが出来ていた。

「なっ!? なんだいそれは!? 何が起こったんだい!?」

直撃したと思ったストーンバレットが訳も分からず弾かれるのを見てヒルダが動揺をすると

「え!? 何今の威力!? もしかして魔法使い!?」

クラリスもクラリスで驚いている。そりゃあ当然だよな。俺もさっき驚いたがビキニアーマーを着ていたら前衛ってイメージしかないよな。剣を装備していたからなおさらだ。

きっとヒルダはこうやって自分を前衛だと見せかけて、相手が油断したところに魔法を叩き込んでA級冒険者になったのだろうな。

だが後衛と分かればもうクラリスが後れを取る事はないだろう。たとえ 魔法の弓矢(マジックアロー) を持っていないとしても、魔法戦だけでも十分に圧倒できるからな。

「はん! 今更気づいてももう遅いよ! アンタはいい気になって魔法を撃ちまくっていたけどアタイはまだ1発しか撃っていない! 魔法剣士のアンタのMPはもう風前の灯火だろう!?」

ヒルダもヒルダでクラリスの事を鑑定できないから、クラリスの事を魔法剣士と勘違いしている。そしてクラリスのMPをもだ。

「アイスランス!」

「ストーンバレット!」

「アイスランス!」

「ストーンバレット!」

ヒルダが魔法使いと分かるとクラリスは魔法戦を展開する。ヒルダの得意分野でねじ伏せようとしているのだ。

当然クラリスの方が圧倒的に魔力が高く、装備の差もあるのでクラリスのアイスランスは、ストーンバレットを砕きながらヒルダの大盾に着弾する。

ヒルダはアイスランスに砕かれるのが分かっていてもストーンバレットを撃つ。撃たないとアイスランスの威力を減衰できないというのもあるが、実は違う理由も含まれている。

クラリスもそれを分かっているのかひたすらアイスランスを撃つ。

そしてついにその時が訪れた。

「ストーンバレット!」

ヒルダが魔法を唱えてもストーンバレッドが発現しない。まだMPが残っているにも関わらずだ。

「くそ! 魔法までも!」

ヒルダがそう吐き捨てて完全に凍ってしまった重装者の大盾を投げ捨て、木剣を片手にクラリスに向かって走る。

なぜ魔法が発現しなかったのか……それは重装者の大盾の中心部分が凍ってしまったからだ。そこが凍れば射出されないという確信はなかったが、いつもその部分からストーンバレットが射出されていたからな。

大盾が無くなった以上魔法戦を仕掛けても絶対に勝てないと思い、剣を握ったのだろう。それを見たクラリスも魔法を唱えるのをやめ、木剣で応戦した。

そして勝負はあっけなく、剣戟を1度交わしただけで決着した。

重装者の大盾越しにアイスランスを受けていたヒルダの両手、両腕は凍傷になりかけており、剣を握るのがやっとの状態だったのだ。

ヒルダは剣を弾かれると、その場で崩れ落ち

「……参ったよ……」

と力なく項垂れた。