軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第351話 隣にいる理由

2032年3月18日4時30分

「お疲れ様。はい。このタオル使って」

マラソンを終えた俺にクラリスがピンク色のタオルを渡してくれる。いつもよりも長く走っていたので、先に走り終わったクラリスがこのタオルを持って待ってくれていたのだ。

そして待っていたのはクラリスだけではなく、マラソンを終えた【黎明】女性陣全員が待ってくれていた。

「ありがとう。今度洗って返すよ」

差し出されたタオルに顔を埋めるといつものクラリスの匂いが体中に染みわたる。この匂いだけでご飯何杯もいけそうだ。

俺がクラリスの匂いを堪能していると俺よりも長く走っていた? コディが俺たちの所までやってきて

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ついに……ついにマルスよりも長く走る事が出来たぞ!」

と倒れこみながら仰向けになる。走る時間だけは長いが、実際走った距離は俺の半分以下だ。まぁそれがモチベーションになるのであれば、構わないが。するとそれを見ていたクラリスが

「コディもお疲れ様。はい」

そういうと俺に渡したのと同じようなピンク色のタオルを寝っ転がっているコディの顔にかける。

「うぉぉぉおおお!!! これはクラリスの……やったぁぁぁあああ!!! ちょっとブラッドに自慢してくる!」

コディがはしゃぎまくってクラリスから受け取ったタオルを顔に擦り付けるようにしてどこかへ走っていく。さっきまであんなヘロヘロだったのにまだ元気があるのか。

それにしても少し……いや、かなり妬けてしまう。俺にだけ用意してくれていたと思っていたのに……まぁ優しいところがクラリスのいいところなんだが。

しかしそのクラリスはというと、コディにタオルを渡した後、なぜか水魔法で水を出し手を洗っている。

「急に手を洗ってどうしたんだ? 何か変な物でも触ったのか?」

「うん、なんかあのタオル湿っていて臭いが……」

ん? どういうことだ? 俺に渡してくれたクラリスのタオルはふかふかだし、いつものいい匂いだが?

「あれはクラリスのタオルじゃないのか?」

「違うわよ。でもいつも走った後、コディが倒れこむところに置いてあったからコディのよね?」

コディのタオルをクラリスが渡してあげただけなのか。良かった。クラリスのタオルじゃなくて。俺が胸をなでおろしていると、コディから遅れる事数分、ブラッドがやってきて何かを探しており、見つからないようで俺たちに聞いてくる。

「ここにピンク色のタオルが置いてなかったか? 姐さんが使いそうな柄のやつ。周回するごとに汗を拭いていたんだが……どこいっちまったんだ?」

ブラッドの言葉に俺とクラリス含めた【黎明】全員が顔を合わた。

2032年3月18日7時

「やっぱりクラリスから貰ったタオルはいい匂いだな!」

登校中にコディがタオルの匂いを堪能しながら、ご機嫌な様子で自慢してくる。

「そうだな! 姐さんから貰ったハンカチもいい匂いだぜ!」

ちなみにコディが今匂いを嗅いでいるタオルは先ほどのタオルではなく、正真正銘クラリスがあげたタオルだ。ブラッドが持っているハンカチもだ。

さすがにコディに悪いとの事で、クラリスがコディに事情を説明し、ちゃんと謝ってから新品のタオルを渡したのだ。コディだけに渡すとブラッドがうるさいとの事から、ブラッドにも新品のハンカチを渡していた。

俺的にも使用した物であれば反対したが、新品であれば問題ないかなと思っている。

クラリスが事情を説明した際、コディはブラッドのタオルで顔を拭いていたという事を気にもせず、クラリスが気をかけてくれていただけでも嬉しいと言っていたし、こうやって話せることも嬉しいとも言っていた。こいつもいい奴だな……絶対にクラリスは渡さんけど。

2人の様子を見ながら登校していると、門兵に連れられて3人の男女が校内に入っていくのが見えた。

男の腕を左右から女性2人が腕を組み、男の表情は自信に満ち溢れ、周囲に見せつけるようにゆっくりと歩いている。

3人とも特徴的な服装をしており、女性の1人はピンク色のビキニアーマーというのであろうか? かなり露出の高い物を装備している。

そしてもう1人は真っ赤なチャイナドレスのようなスリットの深い物を見事に着こなしていた。

男はというと、日サロから帰ってきたように黒光りしており、上半身裸の上に法衣を羽織り、ワイルド系といった成りをしている。

そして湾刀と呼べばいいのか、それとも曲刀と呼べばいいのか分からないが、刀身がかなり反った剣を何本か腰にぶら下げていた。

「学校関係者の人ではないよな?」

俺の質問に俺の前を歩いていたゴンが

「当り前だろ!? 女を両脇に侍らせて登校する奴がこれ以上増えたら泣くぞ!?」

と振り返り、俺を睨みつけながら唾を飛ばしてくる。俺の隣にはミーシャとカレンが負けじと一生懸命俺の両腕にしがみついている。あの3人のおかげで俺の両腕は大喜びだ。

「でもさっきの人たちどこかで見たことがあるんだよな……どこでだろうか……」

思わず口に出すと右腕を包み込んでくれていたカレンが上目遣いで

「恐らくあれはA級冒険者昇格試験に挑んでいた人よ。あのビキニアーマーと変なドレスは観客席で見たことあるもの」

「あー! そうだ! あのまっくろくろすけは、剣をブーメランみたいに投げる人だ! Dブロックで優勝した人でしょ!?」

左隣の腕にしがみついているミーシャが大声を上げる。

そういえばそうだったかもしれない。ゲンブ以外そこまで突出した者がいなかったから忘れてしまっていた。

「ねぇマルス。このタイミングで来るという事はもしかしたらマルスの相手は……」

クラリスが後ろから声をかけてきたので

「ああ。そうだと思う。俺の対戦相手だろうな」

3人の話をしながら学校に入る。

ホームルームが終わりいつものように闘技場へ向かおうとすると

「マルスはこの後校長室に行くように。リーガン公爵がお呼びだ」

ローレンツが俺に言ってくる。やっぱりなと思いながら「はい」と返事をして校長室に向かうといつものようにクラリスがすっと俺の右手を握り、ついてくる。

そして今日はエリーも左手を握り、ついて来ようとする。ラースの件を聞く機会があるかもしれないのでなるべくエリーは連れて行きたくないのだが、ここでエリーは連れて行かないと言うのもかわいそうなのでそのまま連れて行くことにした。ラースの話題が上がりそうになったらクラリスと一緒に誤魔化せばなんとかなるだろう。

「失礼します」

校長室の扉をノックし中に入る許可が下りたので扉を開けると、そこにはやはり先ほどの3人ともう1人、40代くらいの身なりの良い男が扉から背を向けるようにリーガン公爵と話をしていた。

俺が室内に入ると全員が振り返り、真っ黒に日焼けしたワイルド系の男が俺を睨みつけてくるが、すぐに俺の右隣にいる女性に釘付けになっていた。

「よく来てくれました。以前新入生ではなく、別の者と戦ってほしいと言いましたが、この者と戦ってもらおうと思います。彼はマルスと同じく去年のA級冒険者昇格試験でA級冒険者に 再(・) 度(・) 昇格したAランクパーティ【流刃】のリュートです」

再度? という事は1度落ちてまたA級冒険者になったという事か? それにこのリュートという奴はリーガン公爵に紹介してもらっているのに挨拶1つしようとしない。ただただずっとクラリスに見惚れているだけだ。

「初めましてリュートさん。僕はマルス・ブライアントと申します。Aランクパーティ【黎明】のリーダーを務めております。対戦よろしくお願いします」

俺の挨拶に何の返事もない。そしてリュートの脇の女性2人もリュートと同じように固まっている。すると40代くらいの男が3人の肩を揺さぶり正気に戻らせてから

「失礼した。私はリスター連合国のバルバス伯爵だ。今回のA級冒険者昇格試験でリュートを推薦した者だ。どうしてもリュートがマルス君と戦いたいと言ってきかなくてな。ダメもとでリーガン公爵にお願いしたら快く引き受けてくれてね」

バルバス伯爵が簡単に挨拶をすると、正気に戻ったリュートが再度俺を睨み

「まずは対戦を受けてくれて礼を言う。だが俺が勝ったら俺が93位だ。いいな?」

恐らくリーガン公爵の前だからこんな紳士的? に話しかけてきているのだろう。もしもリーガン公爵がいなければ、思いつく限りの罵詈雑言を浴びていただろう。リュートの顔にそう書いてあるからな。

リュートに言われたまま頷くとリーガン公爵が

「ここで……このタイミングでランキングバトル……ランバトをギルドが承認するとは思えませんが、もしもリュートが勝った場合は、次回のランバトでリュートがマルスを指名し、マルスが棄権するという事を約束しましょう。マルスもそれでいいですね?」

ランキングバトル? 初めて聞いた言葉だが……なんとなくA級冒険者同士で順位を決める戦いという事でいいのだろう。先ほどと同じように俺は言われるがまま頷いた。

リーガン公爵の言葉にリュートが腰を折り、頭を下げると、これを聞いていたビキニアーマーの女が手を挙げ、リーガン公爵に発言の許可を仰ぐ。リーガン公爵に発言を許されると、リーガン公爵に頭を下げてからクラリスに向かって

「あんたは【黎明】のメンバーかい? 違うのであればいいんだけど、アタイは勝ち馬に乗ってすました顔をしている女が大嫌いでねぇ。顔と体だけの女がAランクパーティにいるのが許せないんだ。男が必死に戦っているのに自分の髪の毛を弄っているような女がね! もしもそうでない……パーティメンバーというのであればアタイと勝負しな!」

なんとビキニアーマーが急にクラリスに対して挑戦状を叩きつけた。この言葉にクラリスも負けじと

「私は一生マルスに添い遂げるつもり……いえ、必ず添い遂げます! マルスが笑えば私も笑い、マルスが血を流したら私も血を流す。そしてマルスが泣いたら私も涙する……当然死ぬ場所は同じだと思っております! 私にも覚悟がありますので!」

しっかりとビキニアーマーの女の目を見て言うと

「じゃあ決まりだね。元A級冒険者のアタイ……ヒルダに口答えした事を後悔させてやるよ! そしてその色男の隣にいるのは誰が相応しいか分からせてやるよ!」

え? このビキニアーマーも元A級冒険者なのか!? しかしこの言葉にクラリスが

「分かりました。私の名はクラリス・ランパード。私がマルスの隣にいるにふさわしい事を証明してみせます!」

クラリスが力強く宣言すると、2人の言葉を聞いたエリーとチャイナドレスの女も火花を散らしていた。