作品タイトル不明
第350話 驚喜
「誰じゃ! 貴様!」
ガルが俺の肩に手を置いている人物に対して警戒心……いや敵対心を露にするが、クラリスとアリスは全く正反対の反応を見せた。
「「ミックさん! お久しぶりです!」」
クラリスはミックの右手を、アリスはミックの左手をそれぞれ両手で握り嬉しそうに挨拶をする。ミックの左腕は獄炎狼戦に出来た火傷の跡がまだ残っていた。
ガルの時は握手もせず、ここまで嬉しそうな表情をしていなかったのに……しかもガルの方が久しぶりに会ったというにも関わらずだ……ガルもその様子を恨めしそうに見て落ち込んでいるように見える。
「マルス、この人は誰じゃ?」
ぼそりと力ない声で聞いてくる。
「この方は【棒神】でA級冒険者のミックさんです! ミックさんお久しぶりです!」
「ああ、みんな久しぶりだな。こんな美女2人に熱烈歓迎されたことないから……参ったなぁ」
ミックが照れながら挨拶を返すと、A級冒険者と聞いたガルの背筋がピンと伸びる。
「は、初めまして! 儂はD級冒険者でCランクパーティ【紅髭】のリーダーのガルと申しますのじゃ!」
ここにいるほかの冒険者たちもA級冒険者という響きにざわついているが
「いや、前にマルスには言ったが俺はもうA級冒険者を退いた。今はただの金持ちおじさんだ。ここに来たのはジオルグ殿下からマルスにと伝言を頼まれてな」
本当にA級冒険者を退いたのか!? それに金持ちおじさんって……ジオルグからの伝言というのも気になるな。
「ジオルグ殿下から? なんでしょうか?」
「ブライアント伯爵の辺境伯への陞爵が決定し、カーメル辺境伯の伯爵への降格も決定した。さらにカーメル辺境伯家の男爵位が没収され、ブライアント家に男爵位が叙爵される。つまりブライアント伯爵家とカーメル辺境伯家の爵位が入れ替わるという事だ。これによってブライアント家の保有爵位は辺境伯1つ、子爵1つ、男爵2つとなる」
カーメル辺境伯の孫のユリアンの爵位が取り上げられたという事か? ジークもカーメル辺境伯には若い頃、だいぶ目をかけてもらっていたから心苦しいだろう。
「どうした? あまり嬉しくなさそうだが?」
ミックの問いにブライアント家とカーメル家の関わりを説明すると、ミックも事情を分かってくれたのか、何とも言えない表情をしていたがすぐにフォロー? をしてくれた。
「仕方ないさ。まともな子孫を残せない貴族は廃れるだけだからな。マルスもしっかりと子供を……まぁマルスには関係のない話か。クラリスとアリスをはじめ、婚約者5人との間の子であれば優秀な子供が生まれそうだからな」
この言葉にアリスはミックに「頑張ります!」と嬉しそうに言い、俺の左手を強く握りしめる。一方のクラリスは俺と見合った後、恥ずかしそうに俺の右手を握ってくるが、この空気に耐えられないのか話題を変える。
「そ、そういえば知っていましたか? お義姉さん……妊娠したのですよ?」
「「っっっ!!!???」」
当然今知ったミックとガルは鳩が豆鉄砲を食ったようになる。
「なに!? エーデが妊娠じゃと!?」
驚きのあまりフリーズしていた2人だが、ようやくガルが声を出すとミックも
「おお! あの2人もお似合いだったな! 生まれてくる子供が楽しみだ! あとガルはアイクとエーディンと知り合いなのか?」
嬉しそうにアイクと眼鏡っ子先輩の事を祝福してくれた。ミックにガルが元【紅蓮】のパーティメンバーという事を伝えると
「まさかアイクとエーディンが先だとはな。俺はマルスとクラリスの方が先だと思っていたのだが……それは俺だけではなくスザクやビャッコも言っていたぞ」
クラリスがなんとか話題を変えようとしたのに、結局この話題に戻ってきてしまった。クラリスは頬や顔だけでなく全身を真っ赤にしてうつむく。まぁそう思われても仕方ない事をしているからな……少し雑談をしていると
「むぅ……本当はもっと話を聞きたいのじゃが、儂ら【紅髭】はこれからクエストの為にちょっと遠くに行かねばならんのじゃ。宴もしたかったがそれはまた今度の機会にでもじゃな。またなマルス、クラリス、アリス。ミック様も今度お話を聞かせて欲しいのじゃ」
ガルが残念そうに言い残しギルドを後にする。ガルが去った後すぐに
「まぁ何はともあれマルスに会えてよかった。昨日リーガンに着いてすぐにマルスに陞爵の件を伝えようと思っていたのだが、昨日も今日もリスター帝国学校の正門で門前払いを食らってな。どうしようかと思っていたんだ。まぁこれで俺の肩の荷も下りたな。じゃあ俺もお暇させてもう」
ミックがこう言いながら席を立とうとしたので
「用事でもあるのですか?」
「いや、用事はないがちょっとぶらぶらしようと思ってな。それにこれ以上3人の邪魔をするつもりはないさ」
俺の質問にさらっとミックが答える。
「邪魔だなんてとんでもない。もしよろしければ、この後ご飯をご一緒しませんか?」
席を立とうとするミックにクラリスが聞くと
「クラリスちゃんに誘ってもらえるのは嬉しいね。じゃあ俺がこの街を出るときに頼むよ」
「いつこの街を出るのですか? どこに行かれるのですか?」
今度はアリスが質問する。ガルはあっさり帰ったのにミックはなかなか帰れない。
「1週間くらい観光してからサンマリーナにでも行こうと思う。サンマリーナに行くついでにメサリウス伯爵領でアイクとエーディンにでも会おうかな。今度2人の好物とか教えてくれよな。お祝いを持っていくから。じゃあ俺はこれで」
ミックがその場を後にしようとしたので
「リーガン公爵にはミックさんの事を伝えておきますので、可能であれば取り次げるようにしてもらいます。僕たちもなるべく毎日この時間にここに顔を出すようにしますので」
ミックの背中に話しかけると、いつかの時のように左手を挙げてギルドを去っていった。
俺たちも停滞しているクエストが無い事を確認して冒険者ギルドを後にした。
もう時計の針は17時を示しており、学校に戻ってからまたリーガンの街に出てくるのも面倒だったので、今日夕食を食べる店に3人でゆっくりと向かう。
2032年3月17日18時
「えー! ミックさんと会ったの!? 私も会いたかったのに! なんで呼んでくれなかったの!?」
いつものメンバーと食事をしながら、先ほどミックとガルの2人と会ったことを伝えると、ミーシャがミックと会いたかったと騒ぎ始めた。
「ミックさんは相変わらず素敵でしたよ! あっ! アクアロッドのおかげで水魔法を覚えることが出来たのにお礼を言い忘れました! もちろんクラリス先輩の協力があってこその事ですけど」
アリスの言葉に会えなかったミーシャは口を尖らせるが、ブラッドがアクアロッドを持ちながら
「俺もミックと会いたいぜ! なんせ今アクアロッドを借りているのは俺だからな! もしかしたらアクアロッドから水を出すコツとかあるのかもしれないしな!」
「そうだな! 少しでも突破口が見つかればいいな!」
コディがブラッドの意見に同意する。ちなみにブラッドの水魔法習得は予想通り難航しておりなかなか習得の糸口が見いだせないようだ。
そしてやはりここでもガルの話題にはならなかった……ちょっと癖はあるけどいい人だと思うのだが……まぁ仕方ないか……あまりにもミックの人気が凄すぎるという事にしておこう。
「そういえばバロン、在校生のトップが新入生のトップと戦うイベントにバロンが選ばれると思う。俺の代わりに頼む」
ミックの話題が一段落したのでバロンに話を振ると
「いいのか!? あれはあれでとても栄誉な事なんだぞ!?」
バロンが嬉しそうに答える。リーガン公爵にはバロンかブラッドと聞いていたが、どう考えてもバロンだろうからな。念のために明日もう1回リーガン公爵に会いに行きバロンでお願いしますと具申しておこう。
「ああ、俺は去年クロムとやったしな。それに俺は別の者と戦うようにとの事だ」
俺の言葉にクロムが苦笑しながら
「もう少しで勝てると思ってあの後もかなり頑張ったのですが……いい思い出です。バロン、1年生相手には本気になってはダメですよ? マルスのようにもう少しで勝てると思えるくらいにしておかないと」
良かった。どうやら俺のやったことは間違ってはいなかったようだ。俺たちの話を聞いていたカレンが疑問を口にする。
「それにしてもマルスの対戦相手が気になるわね。今さらマルスがB級冒険者以下と戦っても仕方ないと思うし……A級冒険者はそれなりに忙しいだろうから……」
たしかにカレンに言うとおりだよな。みんなで俺の対戦相手を予想しながら楽しく夜を過ごした。