作品タイトル不明
第349話 会遇
クラリスがリーガン公爵に 未来視(ビジョン) の事を聞くとリーガン公爵は驚いた表情をして視線を上げる。
「 未来視(ビジョン) ですか。知ってはいますが……あくまでも噂レベルです。かつて魔王ラースが 未来視(ビジョン) を持っていたと噂がありましたが……なんでもこの世の未来全てが視えるとか。【剣神】に討たれている時点で全て視えてないのが明白ですが……当の【剣神】はラースと 最(・) 初(・) に(・) 戦った時に動きが読まれている気がすると言っておりましたが、実際どのような能力かは分からなかったとの事です」
この世の全ての未来が視えるって……まぁラースしか 未来視(ビジョン) を持っていないとしたらラース以外はその正確な能力を知るはずがないのだから仕方ないか。リーガン公爵も眉唾物と思っているようだしな。
あと最初に戦った時というのはどういうことだ? 2回目からは効かなかったという事か?
「魔王ラースの事を少し聞きたいのですがよろしいですか? できれば【剣神】と戦った時の事も」
リーガン公爵は俺の質問に対して少し考えてから
「……分かりました。暗黒魔法の事だけは教えられませんが、それ以外であれば分かる範囲で教えましょう。ただし今日ではなく後日で。場所もここではなく屋敷で話しましょう。その時にマルスが最初屋敷に入った時の違和感も説明しようと思います」
そういえばリーガン公爵の屋敷に入る時の違和感も気になっていた。最近はもう慣れてしまっていたのだが。
本当はリーガン公爵にラースとヨハンの事を話して協力を仰ぎたいのだが、ヨハンとはなるべく誰にも関わらせたくない。亜神様が最後に残した言葉は、【天災】は周囲に不幸をまき散らすだと思うからな。
それに現状維持がベターな選択だと思うんだ。ヨハンは今ラースの下にいるからな。その不幸をラースが背負ってくれれば勝手に自滅してくれる可能性だってある。
「では期を改めてよろしくお願いします」と言うと、後ろの扉がノックされリーガン公爵に謁見を求める者がいたので、俺とクラリスは頭を下げてすぐに部屋の外に出た。
「 未来視(ビジョン) 以外にも何か覚えるつもりなの? というか覚えられるの?」
闘技場に向かいながらクラリスが話しかけてくる。
「うん。 未来視(ビジョン) の強化が一番なんだけど1、2年ですぐに強化できるかわからないからね。他に有用な魔眼があれば覚えたいなと思うんだけど……実は 未来視(ビジョン) の他にも魔力眼という魔力の流れが分かる魔眼も使えるんだ。だから相手が魔法を唱えようとしているのをいち早く察知することができたりもする」
もうクラリスは俺が魔力眼が使えることに驚くことは無かった。
「だとしたら有用なのはやはり魅了眼よね……異性にしか効かないけどあの効果は凄いと思うわ……」
クラリスの答えに素直な意見を俺が述べる。
「うーん……魅了眼や束縛眼は俺にはあまり魅力的に思えないんだ。自分よりも魔力が高い者には効かないだろう? それに状態異常系の魔眼は色々対策できるからな」
「そっかぁ」と言いながら俺の意見にクラリスが納得したようで頷く。
闘技場に着く頃にはもうお昼も近くなっていたのでみんなで食堂に行くことにした。
「なぁゴン、もしもゴンが魔眼を使えるようになったらどの魔眼が欲しい?」
食堂に着くと2階にいたゴンに呼び止められたので、ゴンたちと一緒にご飯を食べることにした。
俺の両隣にはゴンとカール、そして俺の後ろにはクラリスたちが並んで座っているので、俺とゴンの会話も聞こえている。当然クラリスたちの近くには男子生徒が集まろうとするが、ブラッドとコディがオラついてくれているのでなかなか近くには来られない。
「当然魅了眼だろ!」
ゴンが興奮気味に答えるとカールが
「でもゴンの魔力じゃあまり相手を自由に操ったりできないと思うぞ?」
ゴンもそれに気づいたのか
「うーん……じゃあ千里眼! もしくは透視眼だな! 覗けるし、透けるし人生バラ色だな!」
……なんだこいつ……天才か!? するとカールが
「盗視眼というのはどうだ? 他人の視界が視える魔眼らしいが……そうすればみんなマルスの視覚を手に入れるだろうな。旅する時はクラリスたちといつも一緒だろう? 馬車の中とか見てみたいよな」
「そうだな! マルスがいつもどこを見ているのか気になるしな!」
カールの言葉にゴンも乗っかる。この魔眼は正直困るな。いつもクラリスの顔を盗み見しているのがバレてしまう。この話を聞いていたミーシャが
「なんで馬車の中なの? 部屋の中でいいじゃん。みんな一緒なんだし」
「「「っっっ!!!???」」」
この言葉にゴンとカールを含め、近くにいた者たちはみんな言葉を失う。そうか、ゴンたちは俺たちが旅をしている時は一緒の部屋で過ごしているということを知らないんだよな。
ベッドまで一緒でどのような姿で寝ているかとか教えたら発狂しそうだな。俺がクラリスに目配せをするとクラリスも分かってくれたのか、ミーシャがこれ以上余計な事を話さないように咳ばらいをして釘を刺した。
2032年3月16日15時
「じゃあ行ってくるからまた後でな」
15時になり俺とクラリスとアリスの3人でリーガンの冒険者ギルドへ向かう。
エリーはミーシャとビッチ先輩の2人を相手に訓練をし、カレンは寮に戻りハチマルと一緒に学校の中を散策するらしい。
ハチマルも昼間校内に入れてもいいと言われているのだが、防犯の関係で【黎明】部屋で留守番をしてもらっている。なにせ【黎明】部屋はお宝が山のように眠っているからな。セキュリティがどんなに高くても念には念をという事だ。
リーガンの街に出て住民たちの視線を集めながらも久しぶりにリーガンの冒険者ギルドに顔を出すと、やはりここも以前より活気があった。
そして冒険者ギルド内では男女比が9:1くらい……いやそれ以上なので当然クラリスとアリスはみんなの注目の的だ。
昔みたいに2人に声をかけてくる者が後を絶たないと思ったが、そんなことはなかった。クラリスとアリスに声をかけてきたのは1人しかいなかった。そして声をかけてきたのはこの人だった。
「久しぶりじゃな! アリス! 元気にしておったか!? 虐められてないか!?」
男に後ろから声をかけられ、アリスが振り向くと
「お久しぶりです! ガル先輩! 虐めなんてとんでもない! いつもクラリス先輩にはお世話になっており、先輩のおかげで正式にマルス先輩の婚約者になる事も出来ましたし!」
俺たちに声をかけてきたのは元【紅蓮】でドワーフのガルだった。正式に婚約者になったという言葉を聞いて少しショックを受けていたようだが
「そうか、それは良かったのう。マルス、クラリスも久しぶりじゃの」
「「お久しぶりです。ガル先輩」」
ガルと挨拶を交わすと早速ガルが
「マルス、お主A級冒険者になったそうじゃのう? まぁあれだけ圧倒的な力を持っていれば当然と言えば当然じゃな。おめでとう」
なんかガルに素直に褒められるのはちょっと意外だったが
「ありがとうございます。ガル先輩のご指導があっての事です。ガル先輩は順調ですか?」
ありきたりな返事をすると、ガルは少し満足したようで自慢の髭を触りながら
「もちろんじゃ! 儂もパーティを作ってな! その名も【 紅髭(あかひげ) 】じゃ! 今はCランクパーティじゃが、もっと強くなって名前を挙げていつかは【紅蓮】と肩を並べるくらい有名になるのが夢なんじゃ!」
紅髭? なんかの実を食べたりしていないよな? それと普通に考えれば 紅髯(こうぜん) の方がしっくりくる気がするが、ガルが気に入っているのであればいいのか。
「それにしてもマルス。A級冒険者になったにも関わらず冒険者ギルドに顔を出すなんて殊勝な事じゃの。指名クエストだけをこなしておれば安泰じゃろうて……しかしこの行動を読んだリーガン公爵も流石じゃな」
ん? リーガン公爵が流石? 何のことだ?
「なんじゃ知らんのか? リーガンを生業にする冒険者にギルドマスターから通達があってのう。リスター帝国学校の白い制服に金色の刺繍、そして銀色の刺繍を身に纏った者に絡んだ場合は重罰を与えるとな」
そういう事か。ギルドマスターはリーガン公爵に言われてお触れを出したという事か。
「じゃあこういうことをすると俺も重罰になるのかな?」
背後から声がし、声と共に俺の両肩が強く揉まれた。振り返ると意外な人物がそこに立っていた。