作品タイトル不明
第348話 魔眼
2032年3月17日7時
「ゴン、おはよう」
俺とゴンたちが登校していると後ろからクラリスが声をかけてきた。ゴンもようやく慣れてきたのかフリーズはしなくなったが、顔がゆでだこのように真っ赤になる。
え? なんで俺に挨拶をしないのかだって? ついにクラリスに見捨てられたのではないかって? 安心してくれ。クラリスが俺に朝の挨拶をしなかったのはもう既に今日会っているからだ。
今日の朝からルーティーンを復活させたのだ。朝と言っても3時。まだ日が昇っていない時間にみんなと一緒にマラソンをし、その後俺とバロン、クロムの3人で筋トレをする。ブラッドとコディはマラソンに参加した後、ブラッドの魔法の練習をするため別行動をとっている。
「ねぇゴン? あなた達も朝走っているの?」
クラリスが必死に呼吸を整えているゴンに対して追撃すると
「え、あ、ああ……」
しどろもどろになりながらもクラリスの質問に答える。
「へぇ!? なんで朝走っているんだ?」
この2人ではなかなか会話が進まないから俺がゴンに聞くと
「いや、俺たちもAクラスに昇格したくてな! マルスとアイク様が朝走っていたというのを聞いてできる事から始めようと思って走っているんだ! 来年はAクラスになって見せるからな! そしてマルスたちと3階の食堂で優雅に昼食を取るのが夢なんだ!」
ゴンがめっちゃいい事を言うが、カールが
「いや、こいつはただモテたいだけだから。Aクラスになるとやはり周りの目が変わるからな。ちやほやされたいんだと。でも俺もいつかAクラスになったらカレン様に……」
まぁゴンだけでなく、カールも……いやカールの方が歪んだ動機かもしれないが頑張る事はいい事だと思う。ちなみにカールがカレンにして欲しい事は俺が敢えて止めるようなことではない……と思う。
そして俺にもリムルガルド領の領主になる事以外にも目標とやらないといけない事が何個かある。
1つは対ヨハン戦の事を考えて少しでも接近戦で有利に戦えるように鎖術を鍛える事。これは昨日ミネルバにコツを教えてもらっているのでそれを試しながら訓練している。
2つ目は天眼の強化だ。とにかく 未来視(ビジョン) を強化したいのだ。将来的にはラースの 未来視(ビジョン) のような性能になればいいのだが、相手は何千年も 未来視(ビジョン) を使っているからな。さすがに同じような性能に辿り着くのは無理だろう。
そして最後にやらないといけない事があるがそれは今すぐという訳ではない。ただなるべく早いうちにアリスの両親に挨拶というのはしないといけないと思っている。
クラリスは両親ともに挨拶を済ませているし、エリーはバーンズから、カレン、ミーシャもそれぞれフレスバルド公爵、サーシャから了承を得ている。
アリスだけ平民だから挨拶に行かないなんてことはない。まぁこの辺は絶対にクラリスも分かってくれるはずだから今度クラリスにも相談してみるとするか。
教室に着くとローレンツが出席だけを取り、あとはいつものように闘技場で訓練となるそして今日ミーシャとビッチ先輩が早速模擬戦をすることになっている。
ビッチ先輩はもう闘技場におり、いつもの出立ちで待っていた。
ちなみに昨日街に買い出しに行ったのだが、どうしてもビッチ先輩の服の条件となるといつもの服装になってしまう。
その条件とは絶対太腿にクナイを収容できるホルダーを装着できる事。それも生足じゃないとダメらしい。そしてやはり上半身にもクナイを隠せる場所が必要でクナイをいつでも取り出しやすくするためには胸元を開ける必要があるとの事だ。
とりあえずロングスカートで深くスリットの入った物を買ってはみたが結局これも今とあまり変わらない。だから結局この格好になってしまったのだ。扱う武器によって服が制限されるとは思ってもみなかった。
2人の試合を観戦するためにリーガン公爵も闘技場に来ていた。2人の試合は予想通りの展開となった。
ビッチ先輩がクナイを投げるも全てミーシャに弾かれ、影縛りのクナイがミーシャの影に刺さったとしても魔力もミーシャの方が高いので全く意味をなさない。
近距離戦ではそうとういい勝負をしていたが、得意のスピード勝負でミーシャに軍配が上がっているのでビッチ先輩は勝機を見いだせず負けを認めた。
「まさか近距離戦も遠距離戦も歯が立たないなんて……私の戦闘スタイルはどっちか苦手な方を徹底的に攻めるスタイルだから両方とも上となると歯が立たないわね」
そうか……ビッチ先輩は魔力の低い前衛タイプには影縛りのクナイで戦い、魔法使いタイプには近寄ってスピードでかく乱して戦ってきたのか。
「ビッチ先輩の攻撃凄かったよ! なんか私のスタイルと噛み合うから一緒に訓練してくれると嬉しいな!」
ミーシャの言葉に肩を落としていたビッチ先輩が
「本当!? 私ではなにも教えられる事なんてないと思ったのだけれども……ミーシャがそう言ってくれるのであれば……」
少し嬉しそうに言うとリーガン公爵が
「それではビラリッチ、この学校の教師としてお願いしますね。マルス、あなたには話があるのでこれから校長室に来てください」
リーガン公爵がビッチ先輩に声をかけた後、俺を校長室に呼ぶ。
ビッチ先輩は結果がどうであろうと教師になるつもりではいたようだ。昨日みんなで買い物をしている時にそのような事を漏らしていたからな。それにかなりクラリスたちとも打ち解けており、年が割と近いせいか話も合うようだ。
リーガン公爵に呼ばれそのまま一緒に校長室に向かった。2人で校長室に向かっているとクラリスが後から走ってきて同行を願い入れ、リーガン公爵が笑顔で認めてくれた。
「早速ですが、在校生のトップが新入生の主席と戦うのはもう知っておりますよね?」
ああ、そういえばそんな文化あったな。
「はい。去年はクロムと戦いました」
「そうです。今年も主席と戦ってもらおうと思ったのですが、あまりにも実力がかけ離れているのでマルスではなく別の者に戦ってもらおうと思うのですがよろしいですか? 在校生代表として戦う事はとても名誉な事ですので、もしもマルスが戦いたいというのであればマルスに戦ってもらってもよろしいのですが」
「別の者でお願いします」
すぐに答えると
「そう言うと思いました。ではこちらで調整しますが、バロンかブラッドあたりにやってもらおうかと思います」
北の勇者かセレアンス公爵の嫡男であれば、新入生の代表としても文句はないだろう。
「その代わりにマルスには別の者と戦ってもらおうと思うのですがどうでしょう? あなたと戦ってみたいという腕利きがかなりおりまして。こちらの方も断ってもらっても構いませんが、マルスにとってもいい経験になるかもしれませんし」
あまり気が乗らないが、リーガン公爵のいうように戦う事で何かいい経験を積めるかもしれない。
「別の者ですか? 分かりました」
俺がそう答えると、
「え? いいのですか? マルスの事ですから拒否をすると思ったのですが……ありがとうございます。この件については詳細が決まり次第連絡します」
リーガン公爵が自分で言ったにも関わらず驚いており、俺の隣にいるクラリスも少し驚いていた。
「あとサーシャたちがもうそろそろ帰ってくると思います。アルメリアを出立したという連絡がありましたから。そして以前グランザムに教師陣は連れていけないと言いましたが、ビラリッチを迎え入れたことにより1人は一緒に同行できます。誰か連れて行きたいものはおりますか?」
ライナーとブラムはザルカム王国にあまり行きたくないと言っていたからここはもうサーシャしかいないよな。
「はい。ではサーシャ先生でお願いします。サーシャ先生はザルカム王国の事に詳しいので頼りがいがあると思いますし」
「そういうと思っておりました。それではサーシャに同行してもらいましょう。私からは以上です」
「僕からも質問してよろしいでしょうか?」
すでに机に積まれていた書類に目を通していたリーガン公爵に聞くと
「ええ。構いませんよ?」
「魔眼にはどういった種類があるかご存じですか? 僕はここに来るまで魔眼の事を全く知らなかったものですから」
俺の質問にリーガン公爵は視線を書類に落としたまま
「かなりあります。私も全てを知っているわけではないと思いますが、まず1番はやはり魅了眼でしょう。効果は分かりますね。そしてエーディンの束縛眼もかなり優秀です。あとは幻を見せたり、体の一部分を一時的に石のように重くしたり、中には遠隔地の出来事が視える千里眼というのもあります。そのほかにもありますが、今思い当たるのはこれくらいでしょうか?」
まぁ予想通り色々な種類があるよな。幻を見せるのもかなり使えそうだし、石化させるのもよさそうだよな。俺が色々考えていると隣にいたクラリスが
「 未来視(ビジョン) という魔眼をご存じですか?」
クラリスのこの質問に今までずっと書類に目を落としていたリーガン公爵が驚きながら視線を上げた。