作品タイトル不明
第321話 灼熱地獄
「うわ……暑い……」
この部屋に入った率直な感想だ。もう暑いというよりかは熱い。すぐに水魔法と風魔法で周囲の温度を下げたのだがそれでも暑い。
「……暑い……脱ぎたい……」
エリーは本当に今から脱いでしまう勢いだ。なぜこんなに暑いのか。答えは簡単だった。この部屋には至る所の地面から火柱が上がっているのだ。それも火喰い狼が吐くような小さい火柱ではなく直径3mはあろうかというかなり大きな火柱が天井付近まで燃え盛っている。地面は火成岩のようにごつごつしており、足場が悪い。ところどころ大きな岩があり視界を妨げている。
「みんな大丈夫か? とにかく暑いが、警戒は怠るなよ。今の所ボスの様な魔物は見当たらないがいつ襲ってくるか分からないからな」
スザクが俺たちの周囲を見渡しながら話しかけてきて続ける。
「この部屋やたら広いな。100m四方の建物だと思ったのだが、1辺が500mくらい……いやもっとありそうだ。それに火喰い狼が溢れるくらいたくさんいると思ったのだが、1匹もいないのが気になる」
俺もスザクと同じことを思っていた。部屋の大きさはともかく、吐き出されるように火喰い狼がボス部屋から出てきていたから、絶対に火喰い狼の巣窟と思っていたのだがそうではなかった。
部屋の左奥の方に火柱がずっと上がり続けているところがあるが、そこに魔力だまりが10個あるだけだった。火柱が上がり過ぎていて、その先に何があるかはここからでは視認できなかった。もしかしたらその先にもっと魔力だまりがある可能性もある。
「マルスが水魔法と風魔法で涼しくしてくれているはずなのに、じっとしているだけでも汗が噴き出てきて、体力が削られていくわ。早くボスを倒さないと……」
クラリスがそう言うとビャッコが俺にお願いをしてくる。
「マルスが涼しくしてくれているのか? 申し訳ないがもっと涼しく……いや寒く出来ないか? さすがに暑すぎる」
「これ以上は無理ですが 氷砦(アイスフォートレス) の中は涼しいと思いますから発現させてもいいですか?」
ビャッコとスザクの2人に聞くと2人とも頷いたので 氷砦(アイスフォートレス) を扉の正面ではなく、30mくらい右側に発現させてその中で話すことにした。
ボス部屋の入り口から見て左奥、つまり火柱がずっと上がっている所から離れたところの方が涼しいと思ったというのもあるが、ここらへんは火柱が上がっていないというのが1番の理由だ。念のためかなり分厚い氷を地面に発現させておいた。もしかしたら真下から火柱が上がるかもしれないからな。
「さすがにこの中は涼しいな。取り敢えず早くボスを倒さないといけないのだが、ボスが見当たらない。普通であれば侵入者が部屋に入ったらすぐに襲ってくると思うのだが……エリー分かるか?」
スザクが 氷砦(アイスフォートレス) の内壁にピタッとくっついて涼んでいるエリーに聞くと
「……いる……左奥……火柱凄い所……でも姿見えない……変……」
やっぱりそこか。さっき俺が気になっていた魔力だまりが10個ある所だ。エリーの言葉にみんなが項垂れる。
「どうやってあそこまで近づくかが問題だな。一番涼しいと思われる扉付近でこの暑さだから、エリーちゃんの言う左奥は息をすると喉が焼けるくらい暑いかもしれないな」
確かにミックの言うとおりだな。おびき寄せようにも近くには行かないといけないかもしれないし……
「じゃあ僕が近づいておびき寄せます。水魔法で熱さをガードしながら行きますので」
俺の言葉にスザクが考え込むが、すぐにクラリスとエリーが
「マルスが行くのであれば私も行きます! 1人は絶対にダメ! 一緒に行くためにこのパーティに志願したのだから!」
「……私も!……絶対一緒!‥‥…」
2人が興奮気味に言うとスザクが
「ちょっと待て、2人の気持ちは分かるが落ち着いてくれ。おびき寄せるメンバーはマルス、ミック、エリーの3人で行ってもらおうと思っている。マルスの水魔法で周囲を冷やしながら、エリーがボスの索敵をしてミックの魔弾でおびき寄せてもらうつもりだ。クラリス、悪いがここに残って欲しい。マルスとクラリスの2人は神聖魔法使いであると同時に水魔法使いでもあるから、どちらかはここに残ってもらいたいんだ。頼む」
「クラリス、俺からも頼む。スザク様の仰ることが最善策だと俺も思う」
スザクと俺の言葉に少し興奮していたクラリスが
「ごめんなさい……ちょっと興奮してしまったようで。スザク様やマルスの言うとおりね。スザク様とビャッコ様と一緒にここに残るわ。エリー、マルスを頼むわよ。マルスも絶対にエリーを守ってね。ミックさん2人をお願いします」
みんなに謝罪してから体の前で左手が前に来るように手を重ねてお辞儀をする。みんなが一瞬クラリスのお辞儀に見惚れてしまったが
「分かってくれて助かる」
「任せておけってクラリスちゃん」
スザクとミックがクラリスに声をかけるとクラリスもホッとしたようだった。
「では魔力だまりから火喰い狼が出現し、それを倒してから行ってもらう事にしよう。それまでは警戒しつつも体を休めてくれ」
みんなスザクの言葉に従い、 氷砦(アイスフォートレス) の中で待機しているが、俺は外に出て周囲の警戒に務めた。
「マルス、暑くないの?」
クラリスが俺の後を追って外に出てくると、エリーも外に出てきた。
「暑いけど、あまり冷やし過ぎてもあとで辛くなると思ってね。急激な温度の変化は疲労がたまりやすくなるから。まぁその辺は神聖魔法でなんとかなると思うけど。今思えば俺もバロンと一緒に熱い耐性をつけておけばよかったかもしれない。今後もこういう迷宮があるかもしれないから俺もバロンの部屋に通ってみようかな」
「マルスが言うと冗談っぽく聞こえないのよね。取り敢えず変な誤解をされるようなことはやめてね」
クラリスが真剣な顔で俺に釘をさす。エリーも俺の左隣で携帯食の干し肉を食べながらクラリスの言葉に頷いている。99%冗談だったのにマジレスされるなんて……
それにしてもエリーの汗のかき方は凄い。水分だけではなく塩っ気があるものを食べてくれているので少しは安心だが……土魔法でコップを作り、水を入れてやるとすぐに飲み干してお代わりをねだってくる。
「エリー、かなり汗をかいているようだが、もしも暑いのであれば中で休んだ方がいいぞ?」
コップに水を入れながらエリーに言うと
「……マルスここにいる……私もここ……」
俺が外に出ているからエリーが外に出るというのであれば、 氷砦(アイスフォートレス) の中に戻って涼んだ方がいいな。そう思って中に戻ろうとした時だった。
「……マルス!……火喰い狼!……出てきた!……」
エリーの言葉がスザクたちにも聞こえたのか3人とも外に出てきて俺たちと一緒にその驚きの光景を見る。
「な、なんだ……なぜ今出てきたばかりの火喰い狼が燃えている?」
スザクの言う様に部屋の左奥の10個の魔力だまりのうち5か所から火喰い狼が出現したが、そのうちの2体は出現場所が火柱の近くだったのかその場で激しく燃えてすぐに魔石になった。そして残りの3体が逃げるようにして俺たちの方……いや扉の方に走っていく。
だがおかしなことにこの3体の火喰い狼が扉の方に逃げる際、立ち上がる火柱に直撃したのだが、3体とも燃えることなくそのまま扉を目指して向かっている。もしかして2体を燃やしたあの火柱って……
当然俺たちが入ってきたので扉は開かないが、何度も火喰い狼が扉に向かって体当たりをしている。これは魔の森の周辺で見たデーモンに襲われ狂乱状態のアサルトドッグのようだ。
さすがにそれを見逃すわけにもいかないのでウィンドカッターで3体を倒し、部屋の左奥を見るが先ほどと変わらず激しく火柱が上がっているだけだ。
「取り敢えず僕たちは行きます! ミックさん、エリー、行きましょう!」
2人は頷き3人で一緒に火柱が激しく上がっている奥へミックと 氷壁(アイスウォール) を地面に張りながら慎重に進む。
予想通り左奥の火柱が燃え上がっているところに近づくにつれて熱くなる。もうこれ以上近づくのはきついかもしれないと思った時だった。
「……マルス……あの火柱……」
エリーがそう言って指をさしたのは俺も注意して見ている火柱、さっき2体の火喰い狼を燃やした火柱だ。この火柱は他の火柱よりも色が赤く燃え方が激しい。火は赤い方が温度は低いはずなのだが、この火は明らかに異質な気がした。
「今からあの火柱を鑑定します! 2人共警戒をしてください!」
もしかしたらと思って鑑定するとビンゴだった。
【名前】-
【称号】-
【種族】獄炎狼
【脅威】A
【状態】良好
【年齢】3歳
【レベル】45
【HP】250/250
【MP】888/888
【筋力】88
【敏捷】128
【魔力】148
【器用】128
【耐久】138
【運】1
【特殊能力】火魔法(Lv9/A)
【詳細】火吸収。水属性に弱い。
俺が鑑定するとその火柱はどうやら部屋の奥を向いて寝っ転がっていたようで、少し火柱が動くと中から狼のような顔が見えた。エリーもミックも火柱が魔物と気づいたようで、ミックはすぐに 双竜棒(ダブルドラゴン) を構える。
「他の火喰い狼と違ってこの獄炎狼というのは水魔法に弱いです!」
俺はその顔が俺たちの方を向いた瞬間に 氷槍(アイスランス) を、ミックも青色の魔石から魔弾を放ち、これが開戦の合図となった。