作品タイトル不明
第322話 獄炎狼
俺とミックがほぼ同時に放った 氷槍(アイスランス) と魔弾は魔弾だけが直撃し、 氷槍(アイスランス) は獄炎狼に躱されてしまった。
氷槍(アイスランス) は獄炎狼の近くまで飛んでいくと獄炎狼が纏っている他のよりも真っ赤で激しく燃えている火柱……いやこれはもう炎柱だな。その熱に負けてしまったのか勢いが少し無くなったところを躱されてしまったのだ。もしも 氷槍(アイスランス) が直撃しても炎柱を纏った獄炎狼にはあまりダメージを期待できないかもしれない。
一方ミックの魔弾はというと炎柱にも負けず減衰することなく一直線に獄炎狼を目指し、獄炎狼は魔弾の速さに急所を外すのが精一杯のようだ。
そしてそのミックの放つ魔弾は獄炎狼に予想以上のダメージを与えていた。HPが152/250となっており、あと2発当てればもう倒せる。耐久値が相当高いのにこれだけダメージを与えられるなんてよっぽど水属性が苦手なのだろう。
「ミックさん! あと2発で倒せます! この調子で……」
俺がそこまで言うと獄炎狼は俺の言葉をかき消すかのように天井に向かって咆哮を上げる。
「ウォォォオオオンンン!!!」
咆哮と共に獄炎狼の口から巨大な火柱が天井に吐き出され、その火柱が天井に届くと地面からも火柱が噴き出した。俺たちの近くの地面からも火柱があがり、それを必死に躱していると、今度は獄炎狼の発現させたファイアボールが俺たちを襲う。
氷槍(アイスランス) では相殺できないので、ウィンドインパルスで次々と飛んでくるファイアボールを弾きながら火柱を躱していると、
「2人共! スザクの所まで戻るぞ! 双竜棒のクールタイムが解けるまで時間がかかる!」
ミックが周囲の状況を見て判断し、後退の指示を出す。確かにクラリスと合流した方がいいな。
「分かりました! エリー! 戻るぞ! 僕が殿を務めます!」
殿を務めるとは言ったものの、獄炎狼は俺たちを追いかけてくる気配がなかった。最初にいた位置に戻り、獄炎狼自身が地面から噴き出る火柱に飲み込まれながら、ファイアボールで俺たちを攻撃してくるだけだった。
獄炎狼の行動に違和感を覚え、心当たりがあったのですぐに獄炎狼を鑑定するとHPが182/250とこの数秒で回復していた。やはりそうか……火吸収でHPを回復したのであろう。
地面から噴き出す火柱やファイアボールを凌ぎながらなんとかスザクたちの所に戻り、ラブエールをクラリスに唱えた後にスザクに状況を報告する。
そこまでクラリスのMPは減っていなかったが、念のためにだ。ただ抱きつきたいだけではないよ? たぶん……きっと……
報告中もファイアボールが飛んできており、スザクは自身のファイアボールで相殺しながら俺の報告を聞く。魔力は獄炎狼の方が高いが、スザクは【火王】、それに火魔法レベルも10なので、相殺できるようだ。
それにしても獄炎狼の位置からここまで火の玉が届いた事が驚きだ。もしかしたら火柱も相当射程が長いかもしれない。
「名称は獄炎狼といいます。見てのとおりとんでもない熱量を持っており、僕の 氷槍(アイスランス) ではあまりダメージを与えることは出来ませんし、躱されてしまいます。ステータスも相当高いです。ですがミックさんの双竜棒の魔弾は躱すことが出来ないらしく、3発連続で当てれば倒せます」
「それでマルスであればどう戦う?」
「ここに戻ってくる途中で火柱を浴びている獄炎狼を鑑定したのですが、HPがどんどん回復しておりました。火吸収の特性を持っているので、長引くとずっと回復されてしまいます。ただ獄炎狼自身が纏っている炎柱では回復はしないようです。みんなの最大火力を同時に直撃させることがいいかと思うのですが……」
自分で言って思ったのだが、あの炎柱を纏われているとさすがにエリーやビャッコは攻撃に参加するどころか近づくことすらできない。するとクラリスが
「私からもよろしいでしょうか? スザク様、MPを相当消費するのですが、 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を使ってみてもよろしいでしょうか? ダメージを与えることは出来なくても獄炎狼の纏っている炎柱を消すことが出来るかもしれません」
これはやってみる価値はありそうだな。そう思っているとスザクも
「 氷結世界(ダイヤモンドダスト) だと? 是非使ってみてくれ!」
2つ返事でクラリスの提案を受け入れた。
「ビャッコとエリーはサポートに回ってくれ。もし獄炎狼が纏っている炎柱が無くなったら攻撃参加をしてくれ」
「スザク! 来たぞ! 俺の双竜棒もクールタイムから回復したから魔弾が撃てる!」
スザクがエリーとビャッコに指示を出している時に獄炎狼が真っ赤な火柱を纏いながら物凄いスピードで走ってきた。
「 氷槍(アイスランス) 」
「 氷槍(アイスランス) 」
「 氷槍(アイスランス) 」
「 氷槍(アイスランス) 」
「 氷壁(アイスウォール) 」
「 氷壁(アイスウォール) 」
俺とクラリスが身を寄せ合いながら 氷槍(アイスランス) と 氷壁(アイスウォール) を連発すると獄炎狼が立ち止まり、口から巨大な火柱を吐いて俺たちの 氷槍(アイスランス) と 氷壁(アイスウォール) を相殺する。
今の行動で分かったが、こいつは本当に水が苦手らしい。 氷槍(アイスランス) を火柱で相殺するのはいいとして 氷壁(アイスウォール) も氷が溶けて水がしっかりと蒸発するまで火柱を吐き続けていたからだ。普通に考えれば、 氷壁(アイスウォール) なんてただの障害物だから、炎柱を身に纏いながら体当たりすればいいだけだからな。
「やはり火吸収でHPが回復しております!」
氷壁(アイスウォール) を蒸発させている間に鑑定をしてみんなに結果を教える。やはりHPが250/250まで回復していた。
「了解! 仕留めて見せる!」
ミックがそう言いながら蒸発させ終えた獄炎狼に魔弾を撃ちこむが、獄炎狼はよっぽどミックの魔弾を警戒していたのか先ほどよりも速く魔弾に対して反応したので思ったよりもダメージを与えることは出来なかった。
「残り190です!」
魔弾を食らった獄炎狼が炎柱を纏いながら信じられない熱量と一緒に怒り狂いながらミックに突進してくる。これ以上接近されたら俺たちの身が持たない。
「 氷結世界(ダイヤモンドダスト) !」
突進してくる獄炎狼にクラリスが 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を放つと周囲の温度が急激に下がり、獄炎狼を纏う炎柱の勢いも弱まり、炎柱の中の獄炎狼の体が見えるようなった。
炎柱が大きいからもっと獄炎狼も大きいかと思ったが、大狼と大して変わらなかった。
完全に炎柱が消えることがなかったが、あれくらいであればなんとか俺の水魔法で消すことが出来る。そして何より温度が下がったことでエリーとビャッコが獄炎狼に近づけるようになったのがデカい。
獄炎狼もただ黙って 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を食らっているわけではない。獄炎狼を挟み込むようにして接近するエリーとビャッコに向かって口から火柱を放ち、クラリスにはファイアボールを発現させてどうにか 氷結世界(ダイヤモンドダスト) の発現を阻止しようとする。
クラリスの前にはスザクが立ち、ファイアボールを相殺し、ミックも魔弾のクールタイムが終わるまで獄炎狼に対して接近戦を試みようとしている。
俺も水魔法を使って獄炎狼が纏っている炎柱を完全に消滅させながら 水精霊の剣(ウィンディーネソード) を抜き、ミックの後を追おうとした時だった。
「マルス! ラブエールをお願い!」
氷結世界(ダイヤモンドダスト) を唱えているクラリスが俺を引き止めた。
え? 戦闘する前にしっかりとラブエールでMPを回復させたからいかに消費MPが高い 氷結世界(ダイヤモンドダスト) と言えどもまだまだ余裕があるはず……そう思ってクラリスのMPを見てみると500を切っていた。1900以上あったのにこの短期間で何が起こった?
ただこの状況はクラリスの 氷結世界(ダイヤモンドダスト) が無いと維持が出来ないのは確かだ。急いでクラリスの背後に回りラブエールを唱えると
「あいつ何度も炎柱を纏おうとするのよ! その度に 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を唱え直さないといけないらしくて!」
だからこれだけクラリスのMP消費が早いのか。だがもしもこのままの状況が維持できるのであれば俺たちの勝ちはほぼ確定だ。
なぜならミックもエリーとビャッコと共に接近戦に参加しているので少しずつだが、獄炎狼にダメージを与えることが出来ている。さすがに回避に重きを置いているので、大ダメージを与えることは難しいが。
獄炎狼の残りHP172。俺のMPはまだ6000以上ある。左手で水魔法を制御しながら、右腕をクラリスの胸の下あたりに回しラブエールを使っているので相当俺の消費MPは激しいが、このままの状況が続けば、MPに余力を残して戦いを終えることが出来る。
しばらく膠着状態が続いたのだが、徐々にミックが自分の気配を消すように攻撃に参加しなくなる。恐らく魔弾をしっかりと当てる為にヘイトを自分以外に向けようとしているのだろう。ミックがどんどん集中しているのが俺にも伝わってくる。
エリーとビャッコもそれを知ってか、囮になるような動きで獄炎狼の注意を引き付ける。相変わらずスザクはクラリスを守るためにファイアボールを相殺し続けている。
そして 双竜棒(ダブルドラゴン) のクールタイムが終わったのか、慎重にミックが照準を獄炎狼に合わせて発射しようとした時だった。
「ミックさん! 危ない!」
「ミック!」
俺と同時にエリーも叫んでいた。全員がそいつの存在を忘れていた。あまりにも獄炎狼の存在感が大きすぎるのでリポップしてきた火喰い狼の事を。先ほどは10個ある魔力だまりから5体しか出てこなかったのだ。残りの5体はいつ出てきてもおかしくはなかった。
1体の火喰い狼の火の玉がミックに襲い掛かると、とっさにそれ躱そうとしたミックの 双竜棒(ダブルドラゴン) の青い魔石がこちらを向く。
やばい! と思うよりも先に 未来視(ビジョン) を発動しており、その青い魔石から放たれる射線の先にはクラリスがいた。
ちょうど俺はクラリスの胸の下に右腕を回していたので、そのまま右腕一本で抱きかかえ、とっさに射線上から避難させて事なきを得た。
良かった。クラリスにはしっかりとした2つの柔らかいストッパーがついていて。
クラリスは俺の事を信じてくれていたようで、俺のすることに抵抗することなく 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を唱え続けていた。もしこれで 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を解いていたら獄炎狼が炎柱を纏い、エリー、ビャッコ、ミックは大ダメージを受けていただろう。
「ミック! まずは火喰い狼を仕留めろ!」
スザクが言う前にエリーが動き出しており、火喰い狼の喉をカルンウェナンですぐに切り裂く。
「ミックさん! こっちに来てください! 僕がハイヒールで治します!」
ミックの左腕は大きな火傷を負っており、今すぐにでも治さないと跡が残りそうなレベルだ。クラリスは 氷結世界(ダイヤモンドダスト) を唱えているので、ラブラブヒールが使えないので俺がミックの傷を治すしかないのだ。しかしミックは俺の言葉に首を振り俺とクラリスに向かって叫ぶ。
「俺の傷は大丈夫だ! それよりマルス! クラリス! お前たちのMPはまだ持つのか!?」
みんなが俺の回答を固唾を呑んで聞き耳を立てる。誰もが俺とクラリスのMP次第で詰むことが分かっているのだろう。そしてその原因を作ったのが自分だとミックは責任を感じているのかもしれない。
「まだ獄炎狼を倒すMPが残っているので大丈夫です! 今度は湧いてくる火喰い狼にも気を付けましょう!」
俺がみんなをそう鼓舞した時だった。
獄炎狼のすぐ近くの地面から火柱が上がったのは。