軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第299話 募る不安

「下がってよし」

ジオルグにそう言われ、報告に来た彫りの深いイケメンは困惑の表情を浮かべ

「な、何か指示等ありましたら……」

「何もない。そのまま現状維持だ」

「し、しかし! 中に入っていった者たちは……」

「くどい! 下がれ!」

ジオルグが少し声を荒げると、彫りの深いイケメンが顔を歪ませ「はっ!」と言ってテントから出て行った。出て行く際に俺たちの事を何故か睨んでいたように見えた。

「さて、マルス。今の報告を受けてどう思う?」

どう思うって言われても……

「もしも 迷宮飽和(ラビリンス) であれば、中に入った者たちはもう亡くなっているかと思います」

ジオルグは残念がる様子もなく、俺の言葉に応える。

「まぁそうだな。俺の命令も聞かずに突っ込んでいったバカ共だ。自業自得だから気にする必要はない。マルスは数年前のアルメリア迷宮の 迷宮飽和(ラビリンス) を経験しているか?」

「はい、僕とアイク兄、そしてパーティメンバーのクラリスとエリーが経験しております」

「ほう、4人も経験している者がいるのか、生き残っているのは流石だな。してマルスなら今回の 迷宮飽和(ラビリンス) どうする?」

まだ情報がないから下手な事を言えないよな。 迷宮飽和(ラビリンス) になると言っても魔物の脅威度はおろか名前も分からない。

スザクからはリムルガルド城下町の西門と東門は塞がれていて、北にはリムルガルド城があるから、出入りできるのは南門しかないと言われているが、これも実際に行ってみないと分からない。

「申し訳ございません、あまりにも情報が不足しておりますので下手な事は言えません。ですが確実に言えることは、一刻も早くスザク様に報告をしないと取り返しのつかない事になりかねないという事です。失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「うむ……では先にこれだけは伝えておく。お前たちがリムルガルド城下町の 迷宮飽和(ラビリンス) を抑えた際には、俺たちも協力した事にしてもらう」

まぁその辺は分かっていた事だから 俺(・) は(・) 気にはしない。

「スザク様に伝えておきます。では僕たちはこれにて」

俺がテントから出ようとすると

「明日からはもう報告はしなくてよい。リムルガルド城下町の事だけを考えよ」

改めてジオルグの方を向き、頭を下げてアイクと2人でテントを出ると、先ほどのジオルグに報告をしていた彫りの深いイケメンがまだ外にいたので、一応頭だけ下げてクラリスたちが待機している場所まで急いだ。

「……という事だ! 今からスザク様の所に行き、指示を仰ぐ。もしかしたらこのままリムルガルド城下町に突入という事も考えられるから気を引き締めておいてくれ」

俺たちを待っていたクラリスたちに状況を説明し、先ほどの場所で訓練していた【暁】のメンバーと合流してスザクの下へ走る。

スザクとビャッコ、レッカは最初に会った食事処にいた。

「スザク様! ミック様がリムルガルド城下町に 迷宮飽和(ラビリンス) の兆候が見られると、ジオルグ殿下に報告されておりました」

俺の言葉に3人が驚きの表情を見せる。

「 迷宮飽和(ラビリンス) だと!? しかもよりにもよってリムルガルド城下町でとは……火喰い狼でなければいいのだが……」

火喰い狼? もしかして読んで字のごとく火耐性がある魔物か?

「どう致しましょうか? 僕たちは今からでも行けますが?」

俺の質問に何の躊躇いもなくスザクが答える。

「いや、今から行っても夜だからな。明日6時にこの店の前で集合だ。明日リムルガルド城下町に向かいながら色々説明するから今日は休め」

確かにスザクの言う通りだな。俺は 迷宮飽和(ラビリンス) という言葉に浮足立っていたが、今はもう18時だ。

スザクの言葉に従い、屋敷に戻り風呂に入って皆で食事をとる。

「カレン、火喰い狼ってどういう魔物か知っているか?」

さっきスザクが言っていた魔物の事だ。

「ええ……リムルガルド城下町にいる魔物で常に口から火を吐いているらしいわよ。脅威度はB-でステータスは低いらしいのだけど、私たち火魔法使いにとってはかなり厄介な魔物という事を、去年スザクお兄様がリムルガルド城から戻ってきたときに聞いたわ」

常に口から火を吐くのか……相当厄介そうだな。

「あとはどんな魔物が出るか聞いているか?」

「ごめんなさい。その話のインパクトが強くて火喰い狼しか覚えていないのよ。それにあの時のスザクお兄様に声をかけることが出来なくて、私からはリムルガルド城の事は聞いていないのよ」

まぁそうだよな……わざわざカレンからスザクの傷口をえぐるようなことはしないよな。

「サーシャ先生、教えて頂きたいのですが、 迷宮飽和(ラビリンス) って大体どのくらいの人数で対処するものなのですか?」

「私が過去に経験したのはA級冒険者が1人で、B級冒険者が10人とC級~D級が50人くらい、そしてE級以下が何百人ってところかしら。だけどその時は1層の魔物がD級かE級くらいの迷宮だからよかったのだけれども、さすがにリムルガルド城下町レベルの 迷宮飽和(ラビリンス) であれば、D級冒険者以下は役には立たなそうよね」

「もしも今回のリムルガルド城下町で 迷宮飽和(ラビリンス) が起きていた場合、どのくらいの人数が必要だと思いますか?」

「そうね……どのクラスの魔物が飽和しているのか分からないけど、A級が10人、B級が40人くらいいれば、とりあえず一安心といったところかしら」

戦力が足りなすぎるな。

そして今のサーシャの話を聞いてみんなが不安がってしまい、それをサーシャが察したのか

「私が言った人数はあくまでも理想よ? クラリスとエリー、そしてアイクもA級冒険者と遜色ない実力だわ。リムルガルド城に潜るメンバーとミックで7人もA級冒険者がいるし、B級冒険者の中位以上もたくさんいるわ。それに神聖魔法使いが3人もいるのよ? みんな大丈夫だからね!?」

サーシャが取り繕うとみんなの不安も少し和らいだのか、笑顔が戻る。

「サーシャ先生、神聖魔法使いが3人ってどういうことですか?」

クロムが先ほどのサーシャの言葉に引っかかったらしく、サーシャがやっちまったという顔をしながら俺の方を見る。

「サーシャ先生別にいいですよ? クロムはもう仲間ですから」

俺がそう言うと、サーシャは胸をなでおろした。

「じゃあ、クロムっち、【暁】には神聖魔法使いが3人います! さぁ誰でしょう?」

ミーシャが努めて明るい声でクロムに聞く。

「え!? 本当に3人もいるのですか!? まず思いつくのはアリスですかね。【黎明】の6人目のメンバーですからそうじゃないかなと思ってはいました。あとは……アイク先輩とブラム先生と言ったところでしょうか?」

クロムが答えるとミーシャが嬉しそうに答える。

「ブーっ。正解はアリスだけでお義兄さんとブラム先生ではないです」

ミーシャの言葉とは裏腹にクロムはどこかスッキリとした表情で呟いてから、ミーシャの質問に答える。

「やっぱりアリスは神聖魔法使いだったのか。じゃなきゃ【黎明】に入れないよな。それにしてもあと2人……エリーとブラッドくらいしか思いつかないんですが?」

先ほどよりも嬉しそうにミーシャが「ブーっ」と答えるとクロムが

「もうギブアップです。誰ですか?」

クロムが少し焦れた様子で俺に聞いてくる。

ミーシャはまだまだこの問答を楽しみたい様子であったが

「俺とクラリスだ。ちなみに俺は最近剣王になったが、本職は後衛で風王の風魔法使いだ」

俺がクロムの質問に答えるとミーシャは楽しみを奪われた形で不服そうにしていたが、クロムは俺の言葉を信じようとはしなかった。

「いくら僕でもマルスのいう事には騙されませんよ? マルスとアイク先輩の試合を見ているし、クラリスだって……」

クロムがそこまで言うとクラリスがいつの間にかクロムの後ろに立っており、クロムの肩に右手を乗せて「ヒール」と唱える。

驚きのあまり、クロムの視線がクラリスの顔と右手を何度も往復する。

その間に俺もクロムの所に行き、クラリスの手が乗っている反対側の肩に手を乗せヒールを唱えると

「え!?……嘘だろ!?……1番ありえない2人が……これは夢か?」

クロムが何度か自分の頬をつねっている。これを見ていたミーシャが

「2人共! 神聖魔法を無駄にしないで! クロムの肩にヒールを唱えるくらいなら私のお……」

「さて! みんな明日も早いからもう寝ましょう!」

クラリスがいつもよりも早く突っ込み、ミーシャの言葉を遮るとみんなもクラリスの言葉に応じ、片づけをしてすぐに各々の寝室に向かう。

ベッドに入ると珍しくエリーがすぐに寝ずに、不安そうな表情でいつもよりも強く俺の左腕に抱きついてくる。エリーの頭を撫でてやると

「…… 迷宮飽和(ラビリンス) ……また誰か……」

エリーはそこまで言うと押し黙ってしまった。きっとさっきのサーシャの言葉が頭に残ってしまい、バーンズが死んでしまったことを思い出してしまったのかもしれない。

「大丈夫だよ。エリー、あの時はバーンズ様しかA級冒険者クラスはいなかったけど、今回はA級冒険者が3人。それにサーシャ先生も言っていたが、クラリスやエリーにアイク兄もA級冒険者に近い実力を兼ねそろえているじゃないか? ビャッコ様もいるし【暁】のメンバーもいる。そうだろう?」

俺の言葉を黙ってエリーは聞いているだけで、決して頷くことはなかった。

「明日は早いからもう寝よう」

エリーを抱擁し、唇を重ねると少し安心したのか、すぐに眠りについた。

「エリーはもう寝たの?」

反対側からクラリスの声がしたので、向き直り

「ああ。少しナーバスになっていたようだが、今はいつもの可愛い寝顔をしているよ」

「流石マルスね。今日エリーはなかなか寝られないんじゃないかと思ったけど、そんな心配は必要なかったようね」

クラリスが上体を少し起こし、エリーの寝顔を見ると安堵の表情を見せたが、今度はクラリスが不安そうな表情をし、俺に話しかけてくる

「ねぇマルス、リムルガルド城下町に入った人たちは……」

「クラリス、その話はやめよう。俺たちが気に病むことではない」

俺の言葉に一度は頷くものの「でも……」と言い、何かを言おうとしたので、強引にクラリスの唇を奪うと、クラリスはその先の言葉を発しなかった。

少しの間クラリスの唇の柔らかさを堪能していると、クラリスは俺の肩に手を乗せ、一旦俺から離れると

「ごめんね。そしてありがとう。明日早いからもう寝ましょう」

そう言って今度はクラリスから俺にキスをしてくれてクラリスは眠りについた。

相変わらずクラリスは優しいな。知らない者の事までも心配しているなんて……それに比べて俺は……軽い自己嫌悪に陥りつつも俺は必死に自分を肯定し、MPを枯渇させた。