作品タイトル不明
第285話 狼さん
2032年1月1日 18:00
自室で少しゆっくりしてから俺とクラリス、エリー、アリスの4人で食堂に向かった。
食堂にはもうすでにジークや【暁】のメンバーが揃っており、今日は俺とクラリスの誕生日という事もあって、いつもより食卓が豪華だ。
まぁいつも豪華なんだけど、肉や酒の量が多いのだ。どう考えても食べきれないし飲みきれない。
今日は立食スタイルとなっており、なんとなくいつも自分が食事をしている辺りに行くと、クラリスとエリーも俺のとなりに来た。俺たちがテーブルの前に着くと
「今日はマルスとクラリスの誕生日だ。今日だけは無礼講という事で楽しくやろう。2人とも誕生日おめでとう!」
ジークが持っていたグラスを肩の高さくらいまで掲げると、皆もジークに倣い祝福の言葉と共にグラスを掲げて食事が始まった。
ビュッフェスタイルのため、食べ物を取りに行き、料理を手に取り席に戻るとエリーの前には大量の肉が積まれていた。
クラリスはまだ選んでいるようで戻ってきていない為、先に食べているとエリーから
「……マルス……あーん……」
いつものようにあーんをしてくれる。しかしいつもと違うのは肉料理なのだ。
エリーから肉料理をあーんしてもらうのは初めてのことで、エリーのスペシャルドレッシングとの相性も抜群で最高の誕生日プレゼントとなった。
「マルス、これは俺とミネルバからのプレゼントだ。いつかきっと使う日が来るだろうから大切に取っていてくれ。もしも使い方が分からないというのであれば、俺とミネルバに聞いてくれればしっかりとフォローできると思う」
「マルス君、誕生日おめでとう。これからもよろしくね」
バロンとミネルバが俺の所に来てお祝いの言葉とプレゼントをくれた。
プレゼントの中身は開けなくても形ですぐに分かった。手錠だ。これをいつ使う日が来るというのだ。
その後もアイク、カレン、ミーシャ、アリスに先生たち、そしてブラッド、コディと次々にお祝いの言葉を貰った。
隣にいたエリーはもうお腹が膨れて立っているのが辛いのか離れたところにある椅子に腰を掛けている。
そしてようやく料理を取りに行っていたクラリスがさっきより少し顔を赤くして戻ってきた。
手には料理ではなく、お酒の入ったグラスを持っている。
「大丈夫か? かなり戻ってくるのが遅かったみたいだけど」
「うん……実は今お義父様……お義父さんとお義母さんとね、少し話をしていたのよ」
ちょっと恥ずかしそうにクラリスが話を始めようとするが、そこにリーナが来て
「マルスお兄ちゃん! クラリス! 誕生日おめでとう! これリーナが一生懸命描いたの!」
リーナがそう言うと1枚の小さな絵を見せくれた。
そこには金髪の男? のような人物が描かれており、その隣には銀髪のセミロングの女性が、そして反対側には金髪のショートカットの女性が描かれていた。
お世辞にもうまいとは言えないが、絵の中の3人の表情はとても楽しく、幸せそうというのは伝わってくる。
一緒に絵を見ていたクラリスが
「これはマルスと私、それにエリーかな?」
小さい絵を見ているので必然的に俺とクラリスの距離は近くなる。肩と肩がぶつかるくらいの距離だ。
「うん! 2人はいつか結婚するんでしょ? 本当はリーナがマルスお兄ちゃんと結婚したかったんだけど兄妹は出来ないってパパに言われたから。クラリス、マルスお兄ちゃんをお願いします」
思いがけないリーナの言葉に思わずクラリスと顔を見合わせるが、肩と肩がぶつかる距離だったのを忘れていたので、クラリスの顔がドアップで視界に入る。
今日はいつもよりクラリスを離れたところからしか見ていないせいか、もしくは神々しい美しさになったせいか分からないが、胸が轟くように躍る。
そして困ったことに目の前の美女に完全に目を奪われてしまい視線を外そうにも体がそれを拒否しずっと 見(・) つ(・) め(・) あ(・) う(・) 。
「……2人さん……お2人さん? ちょっと、燃え上がるのはいいんだけど、もうちょっと後でお願いできるかしら?」
柔らかい手が俺の肩を揺すり、永遠に続くかと思われた石化状態を解いてくれた。
「ちょっと、クラリス? いつまで固まっているの?」
俺よりもクラリスの方が重症だったらしく、俺の石化状態が解けると両手で眼鏡っ子先輩がクラリスの肩を揺らすと、ようやくクラリスも俺から視線を外した。
「今からこんなんじゃ夜どうするのよ?」
眼鏡っ子先輩がニチャッとした顔で俺とクラリスを見ると、眼鏡っ子先輩がみんなに見られないように俺の手に何かを渡した。
「マルス、これは西方諸島の方から輸入されてきた鞘という物よ。私が後で実際に使い方を教えてあげてもいいんだけど、今日はやめておくわ。クラリスと一緒に試してみてね。言わなくても分かると思うけどそれは避妊具だから。すっごい高いんだから大切に使ってよね」
俺にしか聞こえないように耳元で囁く。
渡された手の中を見るとハンカチに包まれたゴムのような何かが見えた。
「これでマルスへの借りは返したからね」
なぜ今日これから起こるであろうことを眼鏡っ子先輩が知っているんだ?
今度は眼鏡っ子先輩がクラリスと話し始めた。
俺の時とは違って声の音量はいつもと変わらないボリュームだが会話に隠語が含まれている。
「クラリス、金色の狼さんに襲われる準備は出来た?」
クラリスは近くにあったお酒の入ったグラスを一気に飲み干し、顔を真っ赤にして眼鏡っ子先輩の質問に答える。
「は、はい。義姉さん、色々気を使ってくれたようでありがとうございます」
何を言っているのかが 俺(・) に(・) は(・) すぐ分かった。
眼鏡っ子先輩は少しクラリスと話すと満足したような表情で俺とクラリスから離れていった。
顔が赤くなったクラリスが上目遣いで俺に
「さっきね……お義父さんとお義母さんにね、今日は違う所で寝たらどうだって、そこは泣き叫ばない限り声が漏れたりしないからって……」
突拍子もない言葉に思わず驚くが、これはさっきリーナが来る前に話していた話の続きか。
「私ね、お義姉さんに私とマルスの関係を1度だけ聞かれたことがあってね。まだそういう関係じゃないって、初めては絶対に誕生日って決めている事を言ったの。でもそれは今日とは言ってなくて、来年かもしれないし再来年かもしれないでしょ? でもきっと今日の……ううん、今日はあまり会ってないから、最近の私を見て感づいたんだと思うの」
クラリスはまたテーブルにあるグラスを手に取り、カラカラであろう喉を潤してから口を開く。
俺も胸の早鐘を抑える為に、クラリスと同じ酒の入ったグラスを取ると砂漠のように乾いた喉を一気に潤す。
「それでね、お義姉さんが、お義父さんとお義母さんにそれとなく私たちの事を言ってくれたらしいの」
クラリスはまた新しいグラスを手に取り、今度はゆっくりと飲むと
「その話を聞いたお義父さんとお義母さんが今夜は別の部屋で過ごしたらどうだって言ってくれたの。今のはお義母さんから聞いた話よ」
なんていい兄嫁なんだ!
そういえばカレンとミーシャの事もジークとマリアにそれとなく言ってくれていたんだよな。
こんなに美人で眼鏡が似合う最高の兄嫁が他にこの世界のどこにいるって言うんだ! 可愛がりが過ぎるとか言ったやつ出てこい! サンダーストームで感電死させてやる!
クラリスは手に持っていたグラスを空にするとテーブルに置き、また新たなグラスを手に取り、目を瞑りながら一気に飲み干し俺を真っすぐ見ると、唇を震わせながら意を決したようにこう言った。
「だから、狼さん……待っています」