軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第266話 変わりゆく街

食堂に着くと俺たち【黎明】以外のメンバーはもうすでにご飯を食べていた。

リーナがカインの面倒を見ており、ジークとマリアは見当たらない。

「マルス、ずいぶん遅かったな。何かあったのか? もう先に食べているぞ。父上と母上は少し席を外すと言って出て行ってしまったが、また戻ってくると言っていたぞ」

アイクが心配そうに聞いてくる。さすがにミーシャを慰めていたとは言えないのではぐらかそうとすると

「みんな聞いてよ! エリリンの大きさは分かっていたんだけど、クラリスのはやっぱりクラリスで……」

ミーシャが暴走し始めるとすぐにクラリスがミーシャの口を塞ぐ。

「ちょっと!? ミーシャ! 何言っているのよ! みんな今ミーシャが言ったことは何でもないからね?」

クラリスの言葉を信じる者などいない。全員何のことを言っているのかすぐに分かった。

その証拠にブラッドとコディ、そして言葉が分かるはずのないカインもクラリスの胸を凝視している。

ミーシャを励ますのはいいが、しっかりとしたアフターケアをしないとこうなるから、マジでこの暴走エルフの取り扱いには気を付けたほうがいい。

テーブルに着くとメイドたちが次々と配膳をしてくれ、あっという間に目の前が料理で一杯になる。

「……マルス……あーん……」

相変わらずエリーは野菜だけを俺にあーんしてくる。

しかしエリーからあーんしてもらう野菜の味は格別だ。なんといってもエリーのスペシャルドレッシングがかかっているからな。

ご飯を食べ終えるとみんなでアルメリアの街に行こうという事になったのだが

「ダメ! マルスお兄ちゃんはリーナといるの!」

リーナが座っている俺の上に跨ってきて、席を立とうとするのを阻止してきた。

カインはそれを見てギャン泣きしている。あまりにも激しく体を揺らしながら泣くものだから赤ちゃん用の椅子から落ちそうになり、それを見たサーシャがカインを抱っこすると、三男坊はサーシャの顔と胸を確認し、満足そうにサーシャのそれに飛び込んだ。

サーシャは困った顔をしながら

「やっぱりマルスの弟ね」

と一言。サーシャまでそんな風に思っていたのか。確かに今めっちゃ羨ましいと思ってしまったが……

「じゃあ、みんな先に行っててくれ。俺はリーナと少し遊んでから行くから。お父様とお母様に話をしたいこともあるしね」

しっかりと俺の口からカレン、ミーシャ、アリスの事を婚約者として認めてくれたことに対してお礼を言いたかったのだ。

「分かった。じゃあ何人かで纏まっていきたい所に行くか。治安はいいと思うが1人にならないようにな。特にクラリスたちは気を付けるように」

アイクがみんなを連れて外に出て行くと、食堂には俺とリーナ、そしてサーシャとカインだけが残された。

「サーシャ先生。カインは僕とリーナで見ますからみんなと一緒に行ったらどうですか?」

「ええ。でも私もジーク様とマリア様に改めてミーシャの母として挨拶をしたくて。それにこの子、多分私から離すとまた泣いちゃうわよ?」

サーシャがカインを体から離そうとすると、必死になってカインはサーシャにしがみつく。

「マルスもちっちゃい頃はこんな感じだったの?」

サーシャが呆れながら聞いてきたので、そんな訳ないと否定をしようとすると

「マルスの場合はもっと酷かったかもしれないわ……アイクだけはそんな事なかったんだけど。マルスとカインは誰に似たのかしらね?」

声のする方を見るとマリアがちょうど食堂に入ってくるところだった。

マリアは何かを勘違いしている。赤ちゃんの頃はマリア一筋だったぞ! カインみたいに誰でもいいという事は無かった!

「こ、これは失礼いたしました。ご子息の事をそんな風に言うつもりでは……」

サーシャが慌てて取り繕うと、マリアは優しい笑顔をサーシャに向け

「いいのよ。サーシャさん。それよりも母親同士で話をしない? カインがいるから2人っきりと言うわけにはいかないけど」

サーシャが頷くと20代にしか見えない2人の女性、そしてサーシャの胸の中で幸せそうにしている弟が食堂から出て行った。

食堂には俺と俺に跨っているリーナしかいない。

これはあることを試すいいチャンスなのかもしれない。

え? 妹を襲うのかだって? そんなことは絶対にしないから安心してくれ。

「ラブラブヒール」

ボソッと小声で言ったがクラリスに唱えた時のようなことは起きず、ただのヒールが手から発現しただけだった。

正直クラリスに唱えた時のような魔法が発現しなくてホッとした。あの魔法の発現条件は愛情なのかもしれないが、やはりクラリスへの愛とリーナへの愛は種類が違うからな。

俺のラブラブヒールの効果もしっかり確認しておかないとな。

間違いなく普通のヒールではないことは確かだ。

それに今度エリーが寝ている時にも試してみようと思う。

俺の思っている効果であれば、エリーにも相当有効な気がするからな。

なんで寝ている時なのかというと、もしも起きているときに発現しなかったらもしかしたらエリーが傷つくかもしれないだろう? エリーの傷つく姿は見たくない。

「お兄ちゃんどうしたの? ヒールの練習?」

「ああ、ちょっと試したいことがあったんだ。リーナもヒールの練習をしているか?」

「うん! 今度お兄ちゃんが怪我してきたらリーナが治してあげる!」

「ああ。じゃあ何かあったらよろしくな。ちょっとどいてもらってもいいか? 痺れてきちゃって」

本当は痺れてなどいないが、万が一あいつが目を覚ますと困るからな。

まぁ 百獄刑(ロンド) を見てからというもの、あいつは一度たりとも反応をしていないから大丈夫だと思うが、こいつは気まぐれだからな。

リーナが素直に俺の隣の椅子に座り談笑をしているとジークが鞄を持って食堂に入ってきた。

「なんだ? 2人だけなのか?」

「はい。みんなアルメリアの街を見たいと言って外に出て行きました」

「まずいな……もう出てしまったか……取り敢えず前に頼まれていたものだ。A級冒険者になったマルス達にはもう必要ないかもしれないが」

テーブル越しにジークが座ると、俺に鞄を差し出してきたので、鞄を受け取り中を見ると、そこには偽装の腕輪がたくさん入っていた。10個以上はあるだろう。

「ありがとうございます。いくら僕がA級冒険者とはいえ、隠したほうが良い場合もあるのでアリスだけでなく、カレン、ミーシャにも渡そうと思います。あと外に出ると何かまずい事でもあるのですか?」

「うむ。リーナ、マルスと2人で少し話がしたいから母さんの所に行ってきてくれないか?」

リーナはジークの言葉に渋々頷き食堂を出て行くと

「マルス、今この街には【蒼の牙】以外にBランクパーティが2ついるんだ。1つはイルグシア迷宮で頑張って、この街に移り住んできた【月兎】。こいつらは4人パーティで全員C級冒険者だ。男女2人ずつで結成されており、もしかしたらマルスも見たことがあるかもしれない。バンの事を慕っている奴らで当然素行はいい。問題なのは最近この街にやってきたもう1つのパーティだ」

ジークがため息を1つ吐いてから言葉を続ける。

「ズルタンというB級冒険者がリーダーを務めている【鬼哭】というパーティがあってな。こいつらには注意をしてもらいたい。今はB級冒険者なのだが、元A級冒険者の凄腕との事だ。表向きはとてもいい奴らで皆からも信頼されているらしいのだが、噂によるとゲドーという商人と一緒になって人身売買に手を染めているらしい。今の所ブライアント騎士団が【鬼哭】を徹底マークしているから こ(・) の(・) 街(・) で(・) は(・) まだ被害はない。しかし迷宮の中となると話は別だ。もしもマルスたちが迷宮に潜った時にズルタンや【鬼哭】のメンバーと遭遇した時は気を付けるようにしてくれ」

元A級冒険者か。厄介だな……それにゲドーという商人はきっと奴隷オークションの時の奴だろうな。

「ゲドーという商人はこの街に来ているのですか?」

「恐らくは来ていない。その辺の事は奴隷商のヘリクを中心とした商人たちにも協力してもらって調べているから間違いないと思う」

もしもゲドーが狙うとしたらミーシャだろうな。

「分かりました。みんなに注意するように伝えておきます」

「ああ。この街は急激に発展している最中だからな。できれば問題が起こって変なイメージをつけたくない。話は以上だ」

ジークがそう言って食堂から出ようとしたので

「お父様、この度はカレン、ミーシャ、アリスの事を認めて頂いてありがとうございます」

背を向けているジークに頭を下げると

「アイクとエーディンに感謝するんだな。俺とアイク、エーディンの3人で今年の初めずっと共に行動していた時があっただろ? その時に2人に……特にエーディンに猛プッシュされてな。もしかしたらカレンとミーシャを少し前までの自分に重ねていたのかもしれないな。アリスについてはもうクラリスの勢いに押された感じだがな」

そう言い残して食堂から出ていくジークの姿を俺はずっと見ていた。