作品タイトル不明
第267話 頼もしい2人?
「マルス! そんなに慌ててどうした!?」
屋敷を出て人がたくさんいる中心街の方に向かって走るとカフェのオープンテラスのような所で寛いでいる男に声をかけられた。
その男は周囲の女性の視線を一身に浴びており、隣には赤い縁の眼鏡をかけた美人が甘い雰囲気を出しながら俺に声をかけた男に寄り添っている。
「アイク兄! 他のみんなはどこに行ったか分かりますか?」
「バロンとミネルバなら色々な装備? 道具? を見てみたいとの事でそこら辺の店を回っていると思うぞ……」
まぁあの2人だったらどういったものを買うのかは簡単に予想がつく。
もしかしたら俺よりもみんなの方がそこらへんは詳しいかもしれない。
「クラリスたちはどこに行きましたか?」
俺の質問に眼鏡っ子先輩が
「クラリスたちなら中心街、迷宮の方に行ったわよ。近くに行ったらすぐわかると思うわ。ここら辺にいた男たちも何人かクラリスたちに魅入られてフラーって付いて行っていたから」
「分かりました。それでは僕はクラリスたちを探しに行きます。あと2人も気を付けてください。先ほどお父様から聞いたのですが……」
2人に礼を言ったあとに、先ほどジークに言われたことを小声で話すと、先ほどまで眼鏡っ子先輩と一緒に居てデレていたアイクの表情が引き締まった。
「なんと……この街にそんなことが。でもさすが父上だな。事前に情報を仕入れて対処しているとは」
「そうね。私も気を付けるわ。でもアイクがいるから安心ね。マルスも早くクラリスたちの所へ行ってあげなさい」
眼鏡っ子先輩に早くクラリスたちの所へ行くように急かされたのですぐにアルメリアの中心へ駆け出した。
本当は眼鏡っ子先輩にもカレンとミーシャの事でお礼を言いたかったのだが、長話をしている場合じゃないしな。
綺麗に整列された店の前には、この街の住民や冒険者が足を止め商品を見ている。また食事処からは15時だというのに何かを焼いている香ばしい匂いがし、腹を減らした者たちが次から次へと店に飲み込まれていく。俺は猫のようにそれらを躱して急いで迷宮のある街の中心に向かうと、迷宮と冒険者ギルトの先の十字路にひときわ大きな人だかりができているのを見つけた。
人だかりは全員男で男たちの視線はみんな同じ方向だ。
急いで人だかりの方に走り、男たちの視線の先を見るとやはりクラリスたちがいた。
エリーを除く4人は店の主人と話しながら楽しそうに食材を物色していた。完全に店の主人は舞い上がっているのがここからでも分かる。
そしてクラリスたちを守る様に親衛隊の2人、つまりブラッドとコディが不審な者が近づかないように見張っていた。
いつもはクラリスたちに付きまとって正直邪魔だなと思う時もあるが、今日ばかりは2人が頼もしく感じた。
これだけ注目されてブラッドとコディが近くで警戒しているので5人が危険に晒されることはないだろう。
ゆっくりと歩いて近づくと、エリーが俺に気づき今まで退屈そうにしていた顔に花が咲く。
5人を見ていた男たちもエリーが笑顔になり湧くが、当然エリーはそんなことを気にも留めず俺の所に走ってきて勢いよく抱きついてきた。
一瞬で周りの男たちを敵に回したと思ったが
「マルス様ですよね!? 随分大きくなられてビックリ致しました! おい! フィーネ! マルス様だぞ!?」
クラリスたちを見ていた男の1人が俺に声をかけてからフィーネという女性を呼んだ。
「マルス様! お久しぶりでございます! 私は【月兎】のリーダーをさせて頂いているフィーネと申します! マルス様とはイルグシアの街で何度かお会いしたことがあるのですが、覚えておられますでしょうか?」
フィーネという女性が俺に挨拶すると少しエリーが警戒するが、フィーネにその気がないと分かるとまるで周囲に誰もいないかのようにエリーがべったりとくっつく。
「ごめんなさい。幼い頃の事はもうあまり覚えていなくて……よろしくお願いします」
正直に覚えていない事を伝えると、フィーネは特にふてくされた様子もなく
「いえいえ、こちらが一方的に知っていただけですので。しっかりと挨拶が出来て良かったです」
と手を差し出してきたので、フィーネと握手をした。
「マルス? その方は誰?」
両手に食材を持ったクラリスたちが俺の所まで来ると、先ほどのエリーと同じようにフィーネに対して警戒するが、エリーの様子を見てクラリスはすぐに警戒心を解いた。
もしもフィーネが俺に対して好意があったりすると、きっとエリーはフィーネに対して敵対心を剥き出しにするだろうが、エリーは穏やかに俺の左腕を包んでいるからな。
「クラリス様、初めまして。私はBランクパーティ【月兎】のリーダーのC級冒険者フィーネと申します」
俺と握手をしていた手をさっと引きクラリスに対してしっかり挨拶をすると、持っていた食材を親衛隊の2人に渡したクラリスも自己紹介をする。
「初めまして、クラリス・ランパードです。よろしくお願いします」
2人の自己紹介が終わると
「フィーネさん。もしよろしければこれから冒険者ギルドに行ってお話をしませんか? 僕たちは今日この街に戻ってきたばかりですので少し情報が欲しいので」
俺の言葉にフィーネだけでなくクラリスたちも驚いた。もしかしたらナンパかと思ったのかもしれない。その証拠にエリーが俺の左腕を抱く力が強くなった。そのおかげで俺の左腕はエリーの大きな双丘を存分に堪能している
「は、はい。もちろんいいですが……その大丈夫ですか?」
このフィーネという女性は空気を読む能力が高いらしい。【黎明】女性陣の顔色を窺いながら聞いてきたので
「はい。もちろんここにいる僕のパーティメンバー、そしてクラリスたちをずっと守ってくれていたブラッドとコディというそこにいる男2人も同席してもらいます」
【鬼哭】の事を聞きたいと素直に言えば良かったのかもしれないが、このあたりに【鬼哭】のメンバーがいたら嫌だしな。
俺は渋る女性陣を引っ張る様に冒険者ギルドの中に入ると、冒険者ギルドの中もアルメリアの街と変わらぬ活気があった。ギルドの受付嬢がクラリスとエリーの顔を見るや否や。
「クラリス様とエリー様ですね! 今年は絶対に去年の様な事は起きないよう冒険者達には口を酸っぱくして言っておりますので、もしも何かありましたらまず私共に連絡をください」
去年の事? あーそういえば去年俺がアルメリアに着く前にクラリスとエリーのお尻を触った奴が壁にめり込んだという話を聞いたな。
クラリスとエリーがギルドの受付嬢の言葉に頷くと
「あのー? ルシアさんでしたっけ? 僕はジークの息子のマルスです。覚えていらっしゃいますか? ギルドマスターのラルフさんの所に通して頂くことは可能ですか?」
クラリスとエリーに話しかけてきた女性は確かこの街のギルドマスターのラルフの娘だった気がしたので声をかけると
「はい! もちろん覚えております! 5年前の 迷宮飽和(ラビリンス) の時の活躍を忘れるはずはございません。ご案内致しますので少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
ルシアは2階にあるギルドマスターの部屋に行き、すぐにラルフを連れて戻ってきた。
「これはマルス様! お久しぶりです! 本当に大きくなられて! B級冒険者になられたそうじゃないですか!? ジーク様もさぞお喜びになっている事でしょう!」
相変わらず情報が遅いな。といってもA級冒険者になったのは今月の事だから仕方ない事なのだが。
俺は敢えてその情報を訂正せずに
「ラルフさん、お久しぶりです。早速よろしいでしょうか?」
「分かりました。それではこちらへ」
ラルフに導かれてギルドマスターの部屋に入ると早速本題に入る。
「先ほどお父様から聞いたのですが、今アルメリアにはここにいるフィーネの【月兎】と【鬼哭】というBランクパーティがいると聞きました。今日はその【鬼哭】というパーティについてお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
俺の質問にラルフがやはりという顔をしたが
「マルス様、その前にそちらにいる方々をご紹介してくれませんか? クラリス様とエリー様は分かるのですが……」
そういえばカレン、ミーシャ、アリスの事を紹介していなかったな。
俺がカレンの方を向き頷くと
「初めまして、私はリスター連合国フレスバルド公爵家次女のカレン・リオネルと申します。ここにいるマルスの婚約者です」
「私はリスター連合国フェブラント女爵家長女のミーシャ・フェブラントです。私もマルスの婚約者です。よろしくお願いします」
「アリス・キャロルと申します。私もこの度婚約者として認めて頂くことが出来ました」
その後ブラッドとコディが自己紹介するが、カレンたちの婚約者という言葉の衝撃に頭に入っているのか微妙だ。
「では、【鬼哭】の事についてお話し致します。クラリス様たちはご存じではないようですので最初からお話しさせて頂きます」
先ほどジークに説明されたことを改めて聞くと
「ねぇもしかしてゲドーって……」
クラリスが俺の方を見ながら問いかけてきたので、黙って頷くと表情が強張り俺の右腕を抱くようにして身を預けてきた。
今日は右腕と左腕にとって最高の日だな。
「それで【鬼哭】はどこにいるんですか? 迷宮に潜る前に顔だけでも認識しておきたくて」
「【鬼哭】はブライアント騎士団に徹底的にマークされていると気づいてか、アルメリアの迷宮に潜ってばかりですね。恐らく3層の 安全地帯(セーフティゾーン) にいるかと思われますが」
困ったな……これから俺たちが3層の 安全地帯(セーフティゾーン) を拠点にしようと思っていたのに。
その後も【鬼哭】の事やゲドーの話を聞いたのだが、ジークと情報共有をしっかりしているせいか、 安全地帯(セーフティゾーン) に居るという事以外は大きな収穫は無かった。
冒険者ギルドを後にし屋敷に戻っている途中で、大量の食材をクラリスの代わりに抱きかかえるように持っているコディが聞いてくる。ちなみにブラッドも両手いっぱいに食材を持っていたが、驚いたことにこの食材のほとんどはサービスしてもらい無料との事だ。美人って本当にどこ行っても得だよな。
「なぁ、別に俺たちが狙われている訳じゃないんだろ? 警戒しすぎだと思うんだが?」
まぁ事情を知らない者からすれば当然の疑問だよな。
「あとで詳しく話すが、ちょっと俺たちと因縁のある相手なんだ。だから警戒しすぎ位がちょうどいい」
俺の言葉にブラッドが
「姐さんは安心していいぞ! このブラッド様が姐さんたちを絶対に守ってやるからな!」
ブラッドがそう宣言すると
「俺もだ! 絶対に守るからな!」
コディもブラッドに負けない声で力強く宣言したのだが、あまりにも力が入り過ぎて、胸に抱きかかえていた食材を潰してしまい、クラリスにこっぴどく怒られる姿はどこか憎めなかった。