軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第258話 決勝戦前日?

「マルス……ごめん……もう私……我慢できないの……」

クラリスが俺の耳元でそう囁き、俺の腰に回していた手をそのままにベッドの方に倒れこんだ。

俺も両手をクラリスの腰にまわしていたが、クラリスがベッドの方に倒れると思ったので右手を頭に添え、クラリスに覆いかぶさるようにベッドに横になる。

クラリスはもう目を瞑っている……これはそういう事だよな……口づけを交わそうとすると

「マルス? まさかキスをしようとしていないわよね?」

「カレン、さすがにいくらマルスでもMP枯渇したクラリスを襲う事なんて……」

ミーシャの言葉に我に返る。え? クラリスはMP枯渇してこの状態になったの?

俺と見つめあって気分が高まっての行動じゃないの?

クラリスを見つめなおすと可愛い寝息を立てて寝ていた。

「ラブラブヒールって相当MPを消費するらしいな。あれだけエーデとミーシャにいろんな体勢でやれと言われたんだ。いくらクラリスでもこうなるだろう。それにクラリスはマルスだったら寝ている時にキスされるのは大歓迎じゃないか? 魔の森でも全てを受け入れていたしな」

アイクの言葉に眼鏡っ子先輩が

「そうよ。クラリスは絶対にマルスの事を受け入れるんだから、その先までやっちゃえやっちゃえ!」

ここでキスの1つでもしたら、永遠に兄嫁に揶揄われ続けるのだろうな。カレンとミーシャに止めてもらってよかった。

「さて、クラリスも寝てしまったしもう昼の時間だから食堂に行こう。遅くなるとスザク様たちを待たせることになってしまう」

アイクの言葉にみんなが頷き、俺とアイクの部屋を出る。

ちなみにクラリスとエリーはこのまま俺のベッドで寝かせておくことにした。

食堂に行くとすでにスザク、ビャッコ、ヒュージの他に3公爵、そして驚くことにカストロ公爵まで席についていた。

いつもは和やかな雰囲気なのだが、カストロ公爵がいるせいか空気がピりついている。

「お、お待たせいたしました……」

俺が恐る恐る言うとリーガン公爵が

「いえ、私たちもちょうど今来たところです。それよりクラリスとエリーはどうしたのですか?」

「クラリスとエリーは疲れてしまったようでもう寝てしまいました」

リーガン公爵の質問に答えると、カストロ公爵の眉毛がピクリと動いた。もしかしたらカストロ公爵はクラリスと話がしたかったのかもしれない。

席に座ろうにもどこに座っていいのかが分からない。

当然リーガン公爵の近くに座った方がいいとは思うが、誰かはカストロ公爵の近くに座る事になってしまう。

俺以外の誰かが外れを引くよりかは俺が引いた方がいいのかもしれない……それに気づいたスザクが1人1人を席に案内してくれた。

これで自分たちの意志でここに座ったという事にはならない。

ちなみに俺はフレスバルド公爵とセレアンス公爵の間に座る事になったのだが、座った時フレスバルド公爵に

「今日のリーガン公爵はいつものセーラだと思うな? カストロ公爵がいる時はつまらない子供の喧嘩をするからな。いつもとは違うと思っておけ」

小声でアドバイスをもらった。俺がフレスバルド公爵のアドバイスに頷くと早速リーガン公爵が明日の決勝戦の事を話し始めた。

「では早速ですが食事を頂きながら明日のゲンブ戦をどうするか伺いましょう。マルスはゲンブの事をどれだけ知っておりますか?」

「僕は決勝の相手をあまり知りません。でもなんとなくこの人かなというのはあります。色が黒くて、背がとても高く、大きい盾を背中に背負っている魔族の人ですよね?」

「そうです。それが【黒壁】のゲンブです。なぜ今年になってゲンブがA級冒険者を志願したのか分かりませんが、相当強敵です。ステータスは筋力、魔力、耐久値が100を超えております。特に耐久は150以上もあり、【水王】でありながら土魔法も相当得意で完全に防御型です。ここまで誰もゲンブの防御を崩せたものはおりません」

俺の言葉にリーガン公爵が答えるとスザクが補足した。

「ゲンブは 氷砦(アイスフォートレス) よりも頑丈な魔法でガードし、ひたすら 氷弾(アイスバレッド) で相手を削る戦い方だ。さすがのマルスでもあの魔法を突き破るのは難しいと思う」

スザクの言葉をさらにコディが捕足する。

「ゲンブの使う魔法は 氷城(アイスキャッスル) という 氷砦(アイスフォートレス) の上位互換の魔法だ。相当な強度があり、分厚いから剣を通すことは難しい。そして地面を揺らす魔法や陥没させる魔法で相手の動きを止めてから 氷弾(アイスバレッド) で止めを刺すスタイルだ。こんな相手にどう戦うんだ?」

「ゲンブのMPはどのくらいなんですか?」

「恐らく俺と同じくらいはあると思う……だからすぐには枯渇しないと思ったほうが良いな」

スザクと一緒という事は600くらい……多くても1000くらいか。

これならもうやる事は決まったな。

しかしそれをここで言う訳にはいかない……カストロ公爵がいるからだ。

「マルス? どうやって戦うつもりですか?」

リーガン公爵が催促してくる。ここで言えという事か?

俺が話していいのか逡巡しているとリーガン公爵が

「大丈夫ですよ、マルス。カストロ公爵がここにいるのは明日マルスがどう戦うのかを知りたい、そしてもしも私が予想している戦い方であれば、どうしてもマルスにお願いがあるからこの場に参加させて欲しいとの事でここに来ております」

もしかしたら俺はリーガン公爵がカストロ公爵に貸しを作るために利用されているのでは? だが今隠してもどうせ明日にはバレるからな。いつもお世話になっている? からまぁいいか……エルシス戦ではカストロ公爵にもお世話になったしな。

「僕は皆さまが仰っている通りの相手であれば、ゲンブのMP枯渇を狙って戦います。具体的にはファイアストームを唱えながらゲンブの 氷弾(アイスバレッド) を止めていればいいかなと……地鳴りや陥没系の魔法は来ると分かっていれば十分に対処できると思うので大した問題ではないかと」

ファイアストームの言葉に俺の事を知らない者たちがざわついたが、リーガン公爵は満足そうに微笑んでいた。

「ちょっと、マルス君? あなた本当に自分が何を言っているのか分かっているの? ファイアストームって混合魔法よね? 剣聖のあなたが唱えられるわけないじゃない? コロシアムの観客席から補助をしてもらう行為は当然違反よ?」

カストロ公爵が俺の言葉を否定すると同席していたサーシャが俺をフォローする。

「カストロ公爵、フェブラント女爵家当主でB級冒険者のサーシャと申します。マルスがファイアストームを使えるのは本当です。少し風魔法の威力が高いですが……」

「でもファイアストームを唱えながら 氷弾(アイスバレッド) をどうやって止めるのよ? 魔法発現中だから移動なんて出来るわけがないじゃない?」

カストロ公爵のこの言葉に次はヒュージが答える。

「それがマルスは出来るんですよ。カストロ公爵が思っている常識を全て取り払って頂けませんとこのマルスという少年…いや男は計れませんよ」

ヒュージの言葉にカストロ公爵は言葉を失った。

そしてカストロ公爵と共にコディも絶句していた。

「もしもゲンブが今言ったタイプのスタイルだったらマルスにとって一番やりやすい相手だな。ゲンブも運がないな。ウィナーズでマルスと本気で戦うとルーザーズでエルシスと戦う時にMPが無くて勝負にならなそうだもんな」

アイクの言葉にリーガン公爵が

「まぁ仕方ないでしょう。私たち3公爵が推薦する男です。マルスもパーティメンバーたちの為に絶対に勝つ方法で立ち回ってください。カストロ公爵? 分かりましたか? これが明日のマルスの戦い方です。私が言ったように……いえ、それ以上の戦い方をすると思うので大人しく見ていてくださいね」

とても満足そうに、勝ち誇ったかのようにカストロ公爵に言い放った。

まるで子供が自分のおもちゃを自慢しているようだった。

すると俺の隣に座っていたフレスバルド公爵が

「な? いつもと違うだろう?」

少し失笑しながら話しかけてきた。確かに違うな。

先ほどのリーガン公爵の言葉にカストロ公爵が

「もしも……もしもそれが本当であるのであれば、マルス君。どうか私の願いを聞いてくれないかな?」

急にカストロ公爵が、目をウルウルさせて上目遣いで媚びるような感じで話しかけてきた。

「な、なんでしょう……僕ができる事であれば協力しますが?」

「明日のゲンブ戦負けてくれない?」

とんでもない事を言ってきた。俺以外にも驚いている者はいたが3公爵とスザクたちはあまり驚いていない様子だった。

「それだけは絶対に出来ません」

「どうしても? ルーザーズでエルシスを倒してほしいのよ。エルシスがA級冒険者になるのが困るのよ」

「申し訳ございませんが、どうしても負けるわけにはいかないんです。万が一にも負けてしまった場合【黎明】が瓦解してしまう可能性があるからです。僕はこのパーティを一番に考えております。何としても明日は勝ちますので……」

カストロ公爵以外は当然だとばかりに俺の言葉に頷く。

「じゃあこれだったらどう? ゲンブにMPを使わせないようにして倒してくれない?」

「申し訳ございませんが、期待には応えられないかと思います。先ほども言いましたが絶対に負けられないので、一番勝率が高い方法で戦いたいので……」

恐らくライトニングを使えばカストロ公爵の願いを叶えることが出来るかもしれないがこれは最終手段だ。

この提案も断るとカストロ公爵が

「まぁマルス君の事情はなんとなく分かるから全部断られると思っていたわ。だからこれが最後の案よ。これはマルス君だけではなく、他の公爵にも頼まないといけないから提案したくなかったのだけれども……」

カストロ公爵はリーガン公爵の方を見ながら言うと、全ての前提を覆すような提案をしてきた。

もしもその提案が通るのであれば、俺としても是非そうしてもらいたいくらいだが、こんな事が出来るのか……? 唯一それが出来るとしたらリーガン公爵だけだろう……

「いいでしょう、カストロ公爵。その代わりこの貸しは大きいですよ?」

あっさりとリーガン公爵がカストロ公爵の提案を受け入れた。

まさかこの提案までお見通しだったのか?

「ありがとうございます、リーガン公爵。この借りは絶対に返します。マルス君もいいわね?」

「はい。僕としてもこの提案でしたら大丈夫です」

俺の言葉にカストロ公爵はしっかりと頷いてステップを踏むような足取りで食堂を後にした。