軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第259話 ゲンブ

カストロ公爵が席を立ち、俺たちも食事を終えたので【黎明】のメンバーと一緒に2人の天使が眠る部屋に向かう。

ちなみにアイクは久しぶりに眼鏡っ子先輩と2人で過ごすようだ。

「ねぇ本当にあんな事していいの?」

ミーシャが不安そうに言う。

「あんな事ってさっきカストロ公爵が言った事か? 俺は賛成だし、ゲンブ側も大賛成だろう。どちらかと言うとゲンブの方がメリットあると思うからな。あとはゲンブを支持しているシールズ公爵次第だろうな」

シールズ公爵と言うのはゲンブの推薦人だ。

選手紹介で名前だけは憶えている。

「そうね。今回のダブルエリミネーション方式ではどう考えても魔法使いは不利だから、いい案だとは思うのだけれども……」

カレンも少し困惑しているようだ。

「まぁどちらにせよ準備だけはしておこう。時間はあまりないのかもしれないし」

そう言いながら部屋の扉を開けて中に入ると2人の天使が俺のベッドで足を絡ませ、額と額を合わせ、抱き合うようにして寝ていた。

「2人はいつもこうやって寝ているのよ。仲がいいというかなんというか……」

知らない人が見たら百合だと思うよな……

「先輩! とりあえずベッドに横になってください! 私もラブラブヒールを習得できるように頑張りますから!」

アリスに言われるがままアイクのベッドに横になり、3人のマッサージを受けながら談笑する事1時間、ドアをノックする音が聞こえた。そのノックの音とテンポからとても急いでいるという事がすぐに分かった。

「はい、どうぞ」

ベッドから身を起こし、クラリスとエリーに布団をかぶせると、部屋の中にスザクが入ってきた。

「マルス、レオナの案が通った。シールズ公爵、ゲンブからもそれが出来るのであれば是非そうして欲しいとの事だ。時間は今から1時間後の18時から。大丈夫か?」

もうお分かりだろうが、レオナが出した案と言うのはAブロックのウィナーズの決勝戦を今日やるという事だ。ちなみに非公式なので今日の試合で負けた方が明日のウィナーズの決勝戦で棄権することとなっている。

幸い俺もゲンブも今日の試合は不戦勝だから全く消耗していない。

この案であればゲンブはMPの事を気にせず戦える。

そして俺は他のブロックの決勝進出者に魔法が使えるという事を隠せるので、来年以降戦う事があれば相当有利に運べる。

「分かりました! もう少しでクラリスも起きると思うので準備しておきます!」

準備と言っても特に何をするという事もない。

取り敢えずエリーを起こそうとすると先にクラリスがもぞもぞし始めて

「あ、マルス……おはよう……さっきはごめんね。MP枯渇しちゃったみたいで……」

エリーと絡み合った手と足を解きながら起きた。

「おはよう、クラリスが寝ている間に色々あって、急遽今から決勝戦をすることになったんだ。もうそろそろ出るんだけど大丈夫か?」

「え!? 分かった! 詳しい事は後で聞くからエリーを起こして一旦部屋に戻るね!」

クラリスが急いでエリーを起こし部屋を出ようとするが、エリーは俺を見るや否や勢いよく抱きついてきていつものようにマルス成分というものをチャージする。

「エリー! 一回戻るわよ! トイレに行ったり、歯を磨いたり、服も直さないといけないし、髪の毛も乱れているから!」

本当にクラリスはエリーのお母さんのようだな。

エリーの手を引き部屋から出ていこうとするクラリスに

「クラリス、先にロビーで待っているからな」

とだけ言って、俺達もロビーへ向かう事にした。

ロビーに着くとそこには意外な光景があった。

【暁】やスザク、3公爵の他に、これから対戦するゲンブと思われる人物が来ていたのだ。

ゲンブの他にも見た事がない魔族らしき者たちもいた。

きっと【黒壁】のメンバーだろう。

だがカストロ公爵がいた時みたいに空気がピりついたりしていない。

むしろいつも通りの和やかな雰囲気さえ感じられる。

「マルス、こっちにいらっしゃい。紹介したい方たちがおります」

リーガン公爵に呼ばれたので近くまで行くと立派な鎧を身に纏った30代くらいの男性を紹介された。

「こちらはシールズ公爵です。これからマルスが戦うゲンブの推薦人です」

「シールズ公爵、お目にかかれて光栄です。ブライアント伯爵家次男マルス・ブライアントと申します」

すぐに片膝をついて挨拶をすると

「面を上げよ。マルスの噂は聞いているぞ。まさか11歳でA級冒険者になろうとは。ゲンブは剣聖のマルスにとって最も相性の悪い相手だろうがいい試合を期待しているぞ。ゲンブ! 挨拶を」

シールズ公爵が少し大きな声を出してゲンブを呼ぶと、黒い巨漢がゆっくりとこっちまで歩いてきた。

「紹介しよう。ゲンブ・ハリエット殿だ」

「………………よろしく」

歩くのも遅いが話すのもゆっくりだな……俺も自己紹介をするとシールズ公爵が

「まぁこの通りゲンブは話すのが苦手だが悪い奴ではない。試合が終わっても恨みつらみは無しで頼む」

シールズ公爵はゲンブの勝利を全く疑っていないようだった。

「承知いたしました。よろしくお願いします」

俺の言葉にゲンブはゆっくりと頷くだけだった。

「ではコロシアムに向かうとしましょう」

リーガン公爵がここにいる全員に語り掛けると皆頷いた。

ちなみにクラリスとエリーも俺がシールズ公爵と話しているときにロビーに来ている。

2人が来るとすぐに分かる。なぜかって? クラリスとエリーを初めて見る男の視線が2人に釘づけになるからだ。

歩くのが遅すぎるゲンブがシールズ公爵と共に何故か火の紋章が刻まれた馬車に乗りこむと、3公爵は本の紋章が刻まれた馬車にのり、残された俺達はコロシアムまで歩いて向かう。

火の紋章ってフレスバルド公爵家の馬車だよな? どうしてそこにシールズ公爵たちが乗り込むんだ? 疑問に思ったのだが誰も声を上げなかったので俺も敢えて聞くことはしなかった。

学術都市リーガンほどではないが、魔石の力によって照らされたローマンの夜は活気づいていた。

もうほとんどのBランクパーティが今回の試験に落ちているから夜の街に冒険者たちが繰り出しているのだ。

フレスバルド騎士団に守られながら歩いているため誰にも声をかけられなかったが、やはり冒険者たちの視線はクラリスに向かっているようだ。

「なぁ、もしもマルスが勝ったら今日は外でパァーっとやろうぜ! もうずっと宿とコロシアムの往復で嫌になっちまった」

ブラッドが酔っぱらっている冒険者たちを見ながら言うと

「大賛成! ブラもたまにはいいこと言うね! 今夜はとことん飲み明かそう!」

暴走エルフこと、宴会部長のミーシャも乗り気のようだ。

あのぉ……いちおう今から決勝戦なんだけど、そこの諸君たちは分かっているのかな? まぁこの底抜けの明るさで俺はリラックスできているからいいんだけど、やっぱ気を引き締めないとな。

コロシアムに着き、フレスバルド騎士団をコロシアム周辺の警備に当たらせ俺たちは一旦貴賓室に入った。最終的な確認をするためだ。

話し合いはスムーズに進んでいたので、話し合いが終わるころに1つ気になっていたことをリーガン公爵に尋ねた。

「このことをクラウン公爵は知らないですよね? かなり大人数で移動したのでバレて……」

ここまで言って、なぜシールズ公爵が火の紋章の馬車に乗ったのかが分かった。

カモフラージュするために火の紋章の馬車に乗ったのか。

俺の表情の変化を読み取ったリーガン公爵が

「気づいたようですが、当然クラウン公爵には伝えておりませんよ。絶対に反対されるでしょうしね。そしてそのクラウン公爵の所に今、レオナが怒鳴り込んでいる最中ですので、クラウン公爵はこちらの動きに気づかないでしょうし、リーガン騎士団の諜報部隊に私たちを監視している者がいないか十分に注意するように伝えてあります。念のためにビラリッチたち【美麗】にも同じようなクエストを依頼しております」

もう俺が何かを考える必要なんてないな。

「マルス、最後に聞くが本当にゲンブと戦うのだな? 恐らくそちら側でもゲンブを鑑定していると思うが? もしもう一度鑑定したいというのであれば別に構わないぞ?」

俺の質問が終わると今度はシールズ公爵が俺に最終意思確認をしてきた。

「はい。僕はA級冒険者を目指しておりますから。鑑定してもよろしいのですか?」

大体の情報は入っているが正確な情報が欲しいしな。シールズ公爵に聞くとシールズ公爵は頷き、ゲンブも頷いた。

やはり2人共相当自信があるのか。まぁ準決勝で対戦相手が棄権しているしな。

「では、遠慮なく」

【名前】ゲンブ・ハリエット

【称号】水王

【身分】魔族・平民

【状態】良好

【年齢】88歳

【レベル】55

【HP】388/388

【MP】888/888

【筋力】101

【敏捷】8

【魔力】118

【器用】25

【耐久】155

【運】1

【特殊能力】水魔法(Lv10/A)

【特殊能力】土魔法(Lv8/C)

【装備】玄武の盾

MPが少し多いくらいで想定内だな。

「鑑定させて頂きました。ありがとうございます」

シールズ公爵は本当にやるのか? という顔をしていたが

「マルス、ゲンブ、2人共下に降りて準備の方をお願いします。ゲンブ、私たちには優秀な神聖魔法使いがいるので、思い切って戦ってください。審判は先ほど話したようにスザクとヒュージの2人です」

リーガン公爵に言われ俺とゲンブの2人はそれぞれスザクとヒュージに連れられてウィナーズファイナルの舞台へと向かった。