軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第249話 愛はパワーだよ

「あなた2年生で武神祭優勝したんですってね。凄いわね。素直に褒めてあげるわ。でも魔法があまり得意じゃないらしいわね。今回は運が無かったと思って諦めなさい」

ビッチ先輩がそう言いながら太ももからクナイを取り出し、物凄い早さで俺に投げてきた。

ビッチ先輩の筋力値ではこんなに速くは投げられないだろうから恐らく風魔法でクナイのスピードを上げているのだろう。

一瞬視線が白い太ももに釘付けになりそうだったが、なんとか耐えることが出来た。

やはり俺の作戦は間違っていなかったらしい。 水精霊の剣(ウィンディーネソード) でクナイを弾くが正直距離感がつかめない。何故遠近感がつかめないのかって?

今回の『愛は勝つ!』作戦というのは常に俺の視界にクラリスたちを収める作戦だ。

クラリスたちをメインに見てビッチ先輩の事を背景として見るようにしているのだ。

これならばどんな誘惑もクラリスたちの顔を見て耐えられる……気がする。

この『愛は勝つ!』は俺みたいに 一(・) 途(・) な者にしかできない作戦だ。

俺がクナイを弾くとビッチ先輩が驚いた顔をして

「まさか……今のを弾くなんて……それにとんでもない剣速……さすが剣聖という訳ね」

ビッチ先輩は今の俺の動きを見てさらに警戒をし、俺との距離を取りながらクナイをどんどん投げてくる。

クナイは太ももだけではなく腕や腰にも隠されていた。

距離感がつかめないのをサーチで補い、クラリスたちを見ながら何度もクナイを弾いているとビッチ先輩は胸から1本のクナイを取り出した。

そのクナイは明らかに俺を狙う訳ではなく、俺の影を狙って放たれた。

それをカモフラージュするように3本のクナイを俺に向かって投げてくる。

3本のクナイを弾いた直後に俺の影にクナイが刺さった音がすると、その瞬間にビッチ先輩が初めて俺の方に向かって走ってきた。

俺は動けなくなったふりをしてビッチ先輩が接近してくれるのを待つと

「悪いわね。私の勝ちよ!」

ビッチ先輩はそう言って脇に差してあった忍び小太刀を抜いた。

5mくらいの所まで接近すると俺は動けなくなったふりをやめてビッチ先輩の忍び小太刀の剣先を躱し、地面に刺さっている影縛りのクナイを抜いた。

視線をクラリスたちから外してしまっているので、サーチでビッチ先輩の居場所を確認しながら祈るように手を合わしているクラリスたちを視界の中に入れると、慌てて距離を取ろうとするビッチ先輩を追いかけた。

ここまでくればもう俺の物だ。影縛りのクナイを風魔法で加速させビッチ先輩の影を狙う。

ビッチ先輩はそのクナイを躱すことは無かった。

きっとこう思っているだろうな。

予想以上に俺の魔力が高かったが、動きが止まったことからビッチ先輩の方が魔力は高いと。

だから仕切り直せばまたチャンスはあるはずだと。

影縛りのクナイが地面に刺さるとビッチ先輩の動きが完全に止まった。

あとはビッチ先輩の綺麗な肌を傷つけないように 水精霊の剣(ウィンディーネソード) を添えるだけだった。

「そこまで!」

試合を止める声がして俺の勝利が確定した。思うんだけど、勝利者の名前くらいコールしてくれてもいいのにな。

コロシアムからは拍手も歓声も起こらなかった。ある一か所を除いては……クラリスたちは俺がもう優勝したかのように大騒ぎをしていた。

特にミーシャの声はここまではっきりと聞こえる。

他の冒険者が怪訝な顔をして何かを言いたげだったが、そこにはスザクとヒュージも一緒になって騒いでいるから何も言う事が出来ないようだった。

ビッチ先輩は信じられないという顔をしながら選手控室に戻っていった。

影縛りのクナイの効果ってそんなにないのかもしれないな。

魔力が倍以上……70くらい離れていてもすぐに動けるようになっていたからな。

俺も四方にお辞儀をしてから選手控室に戻る。

また漫画喫茶の個室のような所に戻ると知らない女の人が部屋の前で立っており、俺にヒールを唱えるとすぐにどこかに去っていった。

勝っても負けても、ダメージがあってもなくても、ヒールはかけてもらえるようだ。

その後も静かに試合は進んでいった。1試合2分~5分くらいだろうか。1時間30分くらいでAブロック全ての試合が終わり、ようやくこの漫画喫茶の個室から解放されてみんながいる観客席に戻った。

「マルス! おめでとう! びっくりしたよ! 全く誘惑されてなかったじゃん! 見直したよ!」

ミーシャが俺の姿を確認すると嬉しそうな顔をしながら突進してきた。ほかのみんなも次々に祝福してくれる。やっぱ嬉しいな。

みんなから祝福を受けて落ち着くと早速試合を観戦した。スザク、ヒュージ、ビャッコの3名は俺が戻ってきた時にはいなくなっていた。

B、C、Dブロックの試合を見て思ったのだが、出場者のステータスはそこまで高くない。

1つのステータスが100を超える者が20人くらいで2つのステータスが100を超える者は1人しかいなかった。

そして貴族が推薦人に入っている者は俺含めて5人、そのうちの3人がAブロックだった。

3名というのは俺、エルシス、そしてコディが言っていたゲンブだ。

Aブロックのルーザーズまで見たところで宿に戻った。

コロシアムから宿に戻るときに気づいたのだが、宿の屋上から垂れ幕のような物が垂れている宿が何個かあった。

その垂れ幕には王冠の紋章や時計の紋章があしらわれており、俺たちが泊まっている宿には本の紋章、火の紋章、そして獅子の紋章があしらわれていた。

リスター連合国の公爵が泊っている宿には垂れ幕がかかるのか。

俺の祝勝会兼、他の選手たちの情報を教えてもらうことにした。すでに時刻は16:00を過ぎていた。

「それにしてもマルス、凄かったわね! 私たちみんな感動したわよ、全く誘惑に負けていなかったじゃない!」

まだクラリスは興奮冷めやらぬといった感じで話してきた。クラリスの持つグラスがどんどん空になっていく。

「そうだろ? これもクラリスたちのおかげなんだ。ずっとクラリスたちを見ていたからな。視線が太ももに釘付けになりそうになっても必死で手を組んで応援してくれているみんなをみると正気でいられた。ありがとう」

「だから視線が何回も合った気がしたんだ!」

ミーシャが嬉しそうに言うとカレンも

「その『たち』に私も入っていれば嬉しいけど?」

「先輩! 私も入っていますか?」

「当然だよ! カレンもアリスも入っている」

俺の言葉にみんな満足したようだ。エリーに至ってはずっと俺の左腕に顔をスリスリしている。

「愛はパワーだよっていうやつね」

クラリスがボソッと言った。

確かにそうだな。俺はボクサーでもないし、恋して死にたいとは思わないけどその言葉は間違いないと思う。

「それにしても快勝でよかったな。大分手の内を隠したまま勝てたというのも大きいな。他の冒険者はかなり出し尽くしている感があったからこれからかなり有利に戦えるんじゃないか?」

「ありがとうございます。アイク兄。ちなみに僕の次の相手はどんな感じですか?」

「オーソドックスな剣士タイプだ。そこまで警戒する必要はないと思う。カレンとエーデが鑑定した結果も教えてもらったがマルスなら大丈夫だな。あとでカレンにでも聞いてくれ」

「そう言えば初戦だけ悲鳴が上がっていたようなんですが何があったのですか? 選手控室からは見られないようになっていて……」

俺の質問に今度はバロンが答えてくれた。

「ああ。あれは酷かったな。エルシス様がもう戦意を失った相手に斬りかかってな……」

そこまで言うと背後から

「バロン、エルシスに敬称を付けるのはやめろ。あいつはもうクラウン公爵家の者ではないし貴族でもない。周囲に変な誤解を生んでしまうからな」

スザクの声だった。スザクは背後から忍び寄るのが得意なのだろうか? あとクラウン公爵家って確かエルシスの推薦人だった気がするな。

「マルス、まずは初戦突破おめでとう。エルシスは剣を持つと人格が変わってしまってな。人間性もカスからクズ……いやゴミになる。剣を持たない時は、とんでもない女好きでな。自分の実兄の正妻に手を出したりして、15で成人した時にクラウン公爵家から追放された」

とんでもない奴だな……エルシスは。

「そして剣を持つと狂剣の2つ名の通り 戦闘狂(バーサーカー) になる。だが一旦は追放されたエルシスだが、A級冒険者になればまたクラウン公爵家に戻ってもいいと言われたらしく、今回試験に参加したようだ。今本人と話して来たから間違いない」

じゃあさっきの強烈な血の匂いは返り血か……それにしても実兄のお嫁さんに手を出すなんて……

「俺の弟がマルスみたいな出来た弟で良かった。エルシスのような奴だったらと思うとゾッとするな」

アイクの言葉に誰も賛同してくれなかった。もしかしてみんな俺が眼鏡っ子先輩に手を出すと思っているのか? アイクの信頼は絶対に裏切らないから安心してくれ。

「スザク様、推薦人で上級貴族の方々の名前が呼ばれるのは何故ですか? A級冒険者の推薦かB級冒険者10名の推薦が必要なだけで、上級貴族の推薦は必要なかったと思うのですが……」

「ああ、あれは簡単に言えば見栄だな。私が認めたんだから絶対にA級冒険者になるから見ておけよという事だ。だが上級貴族の見栄は時に何百人、いや何千人の命よりも重いものとなる。今回Aブロックの出場者で公爵が推薦しているのがマルス、エルシス、ゲンブの3人もいる。例年では1人いればいい方だと思う。何せもしもA級冒険者になれなかった時に周囲からあいつは見る目がないから仕えるのはやめようと優秀な人材が敬遠してしまうからな。逆にA級冒険者になった場合はその人に認められればという事で必死になって冒険者たちが擦り寄ってくる」

マジか……ここでも俺が負けられない理由が出来てしまったのか。まだスザクは言葉を続けた。

「だからAブロックは必ず公爵の誰かは泥をかぶる事になる。公爵がプライドを守るために色々仕掛けてくる可能性もある。いかなる時も絶対に気をつけろよ」

スザクは俺にそう言い残し宿の外に出て行った。

これから他の貴族たちやA級冒険者と一緒に食事をするようだ。

先ほど聞いたのだが、各Aランクパーティの神聖魔法使いがここにいるからそれに伴ってA級冒険者もローマンまで一緒に来ているらしい。

主に神聖魔法使いの警備と試合の審判などをしているとの事だ。

19:00を回っていたので俺達も宴会を切り上げると

「マルス、明日の対戦相手のステータスを教えるけどマッサージをしながら教える?」

カレンが嬉しい提案をしてくれたので当然俺はお言葉に甘えてカレンとミーシャの部屋に行き、今日の疲れを取りながら明日の対策を練った。

疲れていたのか、それとも緊張が解けたのかは分からないが、マッサージを受けたら部屋に戻るつもりだったのに、2人の柔らかい手の感触を味わいながらいつの間にか意識を手放していた。