軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第250話 アドバイス

2031年11月27日

ふいに目を覚ますと、いい匂いが鼻腔をくすぐった。

この匂いはカレンの匂いか? MPを枯渇させないで自然と眠りについたのでいつもよりも頭も体も軽い気がする。

体が軽いのは寝る前に2人が献身的にマッサージをしてくれたからもしれない。

しっかり目を開けると俺はいつの間にか仰向けになっており、カレンを腕枕して寝ていた。

マッサージを受けながら寝てしまったのでうつ伏せだったと思うのだが、2人が俺を仰向けにしたのかもしれない。

ミーシャはというと俺の左腕を体全体で包み込むようにして丸くなって寝ており、俺の左手は結構きわどいところにあった。

ミーシャの太ももに挟まれた左手を、起こさないようにそっと引き抜き、カレンを腕枕から降ろして窓の外を見る。外はまだ真っ暗だ。

2人を起こさないようにそっと部屋から出ると、部屋の前で見張りをしていたリーガン騎士団員がビックリして俺の方を見た。

当然だよな……女の子の部屋から男が出てくれば。

「お疲れ様です。マッサージを受けていたら寝てしまって」

聞かれてもいないのになぜか言い訳をして自室に戻るとすでにアイクは起きていた。

「おはようございます。アイク兄。マッサージが気持ちよくて寝てしまいました」

「おはよう。マルス。まぁそんな事だろうと思ったよ。マルスが思っている以上に疲れていたんだろうな。で? もう疲れは残っていないのか?」

「はい、2人のおかげで絶好調です」

「どうする? マルス? いつものように走りに行くか? それとも筋トレだけで済ませるか?」

「筋トレだけで済ませます。問題を起こしたくないので」

俺の言葉にアイクは頷き、一昨日この宿に来た時に勝手に作った筋トレルームで筋トレをしてから朝食を取る事にした。

俺とアイクが筋トレをしているとバロンもやってきてその後、クラリス、エリー、アリス、ミネルバも俺たちの筋トレの様子を見に来て、遅れてカレンとミーシャもやってきた。

みんな知っているか? 女の子が見ている中、筋トレするのって凄い頑張れるんだぜ?

「姐さんやエリーも筋トレルームに行ったのか!?」

「ええ、頑張っている男性の姿が好きだから」

朝食を食べている時にブラッドが2人に質問をした。エリーは首を縦に振るだけだった。

「頑張っている姿を見るとキュンキュンしちゃうよね!」

「ずっと見ていたいのは確かね」

「本当は触りたいんですけど先輩の邪魔になっちゃうかなと思って……」

ミーシャもカレンにも筋トレ姿は好評のようだ。アリス、全然触ってもらって構わないぞ? 口にするとなんか変態っぽいから言わないが……

「マルス君の肌って綺麗だよね。でも私はバロンのように縄や鎖、鞭の跡が付いた体が好きだな」

お、おう……俺も一定の理解は出来るようになったがそこまで堂々と言われるとな。

「明日からは俺もやるから俺の事も見ろよな!」

ブラッドが声を大きくして宣言したが誰も反応しなかった。ミーシャにまでスルーされるとはな。俺たちが朝食を食べているとそこにリーガン公爵がやってきて

「皆さんおはよう。マルス、明日の対戦相手はエルシスに決定しました」

え? まだ今日の試合も終わっていないのに?

「本日のエルシスの対戦相手が先ほど、冒険者ギルドに敗北を申し出たようです」

リーガン公爵の言葉にバロンが

「まぁ昨日のエルシス様……エルシスの試合を見ればパーティメンバーが敗北を認めるよう促すだろうな。昨日のやられ方をするともう冒険者を続けたくないと思ってしまっても仕方ないからな」

「それにもっと嫌な知らせがあります。エルシスの推薦人が増えました。カストロ公爵です。それにマルスとの試合の結果次第では今後ダグラス公爵もクラウン公爵側に付く可能性があります。マルス、絶対にエルシス戦は負けてはなりませんよ?」

俺にしてみれば、別にエルシスに誰が付こうが関係ないのだが、リーガン公爵にとっては相当嫌なことらしい。

後でバロンが教えてくれたのだが、リーガン公爵とカストロ公爵は犬猿の仲らしい。

「リーガン公爵、質問させてください。試合がないエルシスはコロシアムの観客席から見学できるのですか? それとも選手控室まで行って僕たちと一緒にあの部屋にいるのですか?」

「マルスにとってはそっちの方が重要でしたね。当然選手控室まで行きます。少しは安心できましたか?」

良かった。俺としては試合を見られる事よりも俺がいない間にクラリスたち女性陣に近づかれる方が嫌なのだ。相当女癖が悪いとスザクが言っていたからな。

「ありがとうございます。これで今日の試合、安心して戦えます」

俺の言葉にリーガン公爵は満足そうに頷いて食堂から出て行った。

俺達もご飯を食べ支度を整えてからコロシアムに向かおうとすると

「待て! 俺達も一緒に行く」

スザクがビャッコとヒュージを従えて俺たちの所に来てくれた。

「お前たちだけでコロシアムに行くのは避けてくれ。いくら【剣狩り】がいるとしてもだ。あと下手なものを口にするなよ? ここで出されるものだけにな。こちらでも【月華】はマークしているが、注意しなくてはならないのは【月華】だけではないからな。マルスが全力で戦える環境を作れと父上たちからも言われている。分かったな? マルス?」

「ありがとうございます。これで僕も安心して戦う事が出来ます」

これはとても嬉しい申し出だった。

2人のA級冒険者とビャッコが女性陣を警護してくれるのはとても心強い。

だいたいこういう試合がある時ってパーティメンバーが攫われたりして試合に負けないとメンバーの命は無いとか脅されるのがテンプレだからな。

まぁスザクやヒュージ以外にも神聖魔法使いを擁しているAランクパーティがコロシアムに来ているらしいから、そんな心配はあまりしなくてもいいのかもしれないが。

宿を出てスザクとビャッコを先頭にしてコロシアムに向かう。やはりここでも人間と獣人の友好関係をアピールしたいようだ。コロシアムの前まで行くと俺たちを待ち構えるようにビッチ先輩が立っていた。

「アイク、マルス、ちょっといいかしら?」

どうしていいか分からずにスザクの方を見ると、スザクは頷いてから

「許そう。だがヒュージも一緒に頼む。俺とビャッコで残りの者を観客席に連れて行く」

「私も一緒に残して下さい!」

「……私も!……」

クラリスとエリーが何かを感じ取ったのか残りたいと言い出しこれも承認された。

「クラリス、エリー、私たちの為にもしっかり頼むね!」

ミーシャが2人によく分からない事をいう。

もしかしてビッチ先輩が6人目になる可能性があると思っているのか? それに対して眼鏡っ子先輩はアイクの事を信用しているらしく狼狽えたりすることはない。俺もこうなりたい……が無理か。

俺、アイク、クラリス、エリー、ヒュージにビッチ先輩の6人でコロシアムの端に行き話をすることにした。

ヒュージは俺達から距離を取り、周囲を警戒している。

「まずは昨日の試合完敗だったわ。なぜ剣聖のあなたに影縛りのクナイが効かなかったのか、そして影縛りのクナイの効果を見極めたのはいいにしてもどうして私が影縛り状態になったのかをずっと考えていたわ」

流石にこの疑問に今答えるわけにはいかない。もしかしたらまたルーザーズでビッチ先輩と対戦するかもしれないのだ。

「まぁ答えられないわよね。まぁいいわ。それでこれが言いたかったことなんだけれども、マルス……私……」

「ダメです! 認めません!」

「……絶対にダメ!……」

ビッチ先輩の言葉をクラリスとエリーが遮った。

急に大きな声を出すクラリスとエリーに対してビッチ先輩は面を食らっていたが何のことかすぐに分かったらしい。

「あなたたち2人はマルスの彼女か何かかしら? 安心して? マルスを奪おうとか思っていないから……というかあなた達から奪える女なんていないと思うけど?」

なんかビッチ先輩って大人だな。話の腰を折られても全く不機嫌になる事無くクラリスとエリーに話しかけると

「え!? てっきり私は……ごめんなさい……」

クラリスが素直に謝るとエリーもそれに続いて頭を下げた。

「いいのよ。マルスも幸せね。こんな可愛い彼女がいるなんて。それでさっきの話の続きなんだけれども、私は今回のA級冒険者昇格試験を棄権することにしたわ。今日の試合が終わった後でもよかったのだけれども、自分の手の内を明かしたくはないからね。でも棄権するのは訳あって直前で棄権するつもりよ」

棄権? なぜ?

「明日マルスとエルシスで戦ってどちらか負けた相手と私は戦わなければならないでしょ? マルスには完全に実力差を見せつけられてしまったし、元々私はエルシス戦だけは棄権しようと思っていたのよ」

エルシスとはそんなに危ない奴なのか……

「私たち【美麗】はクラウン公爵領、カストロ公爵領、ダグラス公爵領のリスター連合国の北西3公爵領を転々としているからエルシスの悪い噂はよく耳にするのよ。もしも明日エルシスと戦うのであればエルシスの戦い方を教えるわ。戦わない事を……いえ、関わらない事をお勧めしたいのだけれども……」

少しビッチ先輩の声が震えているような気がする。それほどまでに怖いのか?

「昨日は細剣で相手を 斬(・) っ(・) た(・) り(・) 叩(・) い(・) た(・) り(・) したらしいけど本来の戦い方は違うわ。今のエルシスのメインウェポンはとても長くて太いものよ」

細剣で斬る? 俺としては刺突するイメージなのだが……そしてビッチ先輩の格好で長くて太いとか言われると俺の相棒が黙っていないから困るんですが……

「ありがとうございます。後でアイク兄と話をしてからでもいいですか? もう試合が始まってしまうのでここで失礼します」

ビッチ先輩を信用するかしないかはアイクと話をしてからにしようと思う。なぜ俺にアドバイスをしてくれるかも謎だしな。

クラリス、エリー、アイク、ビッチ先輩をヒュージに任せて俺はコロシアムの選手控室に向かった。