軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第247話 天敵

2031年11月25日 9時

「皆さん準備はよろしいですか? コロシアムでA級冒険者昇格試験を終えた後に、そのままリムルガルドに行く可能性もあります。そこはスザクが決めると思いますが、そのつもりで準備してきましたか?」

リーガン公爵の言葉に俺たちが頷くと

「それでは行きましょう」

リーガン騎士団を引き連れ俺たちはコロシアムに向かう。

【暁】と【紅蓮】の2人、そしてコディで向かったのだが、俺とアイク、そしてバロンはリーガン公爵と同じ馬車に乗るように言われていた。

ちなみにアイクと眼鏡っ子先輩は卒業したのだが、まだリスター帝国学校内に留まっている。

アイクがこの学校を本当に離れるのは恐らくグランザムに行った後だろうな。

アイクは俺達2年生の寮に入り、眼鏡っ子先輩は【黎明】部屋と同じ6階の空き部屋に入居することになった。

「アイクは来年、そしてバロンは近い将来A級冒険者に挑戦するでしょう? だから2人は明日からの試合をしっかり見ておきなさい。戦いはもう始まっております。特にアイク、今年A級冒険者になれなかった者は来年も試験を受けると思います。だから今回の試験で誰がどんな戦い方をするのかを

しっかり見ておくといいでしょう。もしかしたら来年も今年と同じような試験になるかもしれませんから」

これはリーガン公爵から聞いたのだが、今年のA級冒険者昇格試験は例年とは違うらしい。

例年であればA級冒険者の下位20%、つまり81位から100位までのA級冒険者を指名し、試合で勝てばA級冒険者が入れ替わるのだが、今年はリムルガルド城で何人も命を落としており、A級冒険者が8名欠員しているという。

だから今回はその8人を補充するという形で試合が行われる。いつも指名試合で入れ替わるのは多くても5人位らしいので、今年は確実に8名もA級冒険者になれるという事から参加希望者は例年より多いらしい。

「リーガン公爵、疑問が1つあるのですが、聞いてもよろしいでしょうか?」

俺の言葉にリーガン公爵が頷く。

「例年はA級冒険者に挑戦できるのが最大20名までですよね? 毎年A級冒険者に挑戦を希望する人はそんなに少ないのですか?」

A級冒険者はみんなの憧れだからな。バルクス王国ではA級冒険者になると貴族になれるしな。尤も国から戦争の道具として扱われるらしいが……

「いいえ、もっと希望者はおりますよ。そのために指名試合を得る権利を獲得するB級冒険者同士の試合も行われます」

「ああ……だからリーガン公爵は僕に来年の事も考えて見ておけと仰られたのですね」

アイクが納得したように唸った。

来年は今年のように補完するという形でなくても同じB級冒険者とは確実に戦うという事か。これは見学に来られる者は相当有利に働くな。

「リーガン公爵、来年アイク先輩がA級冒険者に挑戦する時に僕も一緒に観戦してはダメですか?」

バロンもこのアドバンテージに気づいたようだ。

「こればかりは私の力でも無理だとは思いますが、試すだけ試してみましょう。本来であれば【黎明】しか入れないのですが、今年はかなり強引に【暁】の入場を認めさせましたからね。開催場所がリーガン公爵領でなければ絶対に無理でした。一番確実なのは来年のこの時期にバロンが【紅蓮】に参加するかどこかのAランクパーティに入れば、パーティメンバーとして入る事は出来ると思いますが……」

確かに。それをやるくらいの価値はあるかもしれないな。お気づきの人もいるかと思うが、どうして【紅蓮】が今年のA級冒険者試験を観戦できるかというと、【紅蓮】も【暁】に参加することになったのだ。

これはただ試験を見たいだけという訳ではなく、かねてからアイクから打診があり、ガル達が抜けたタイミングでクラン【暁】に入ったのだ。

馬車に揺られる事数時間、騎士団が帯同しているせいで、かなり時間が掛かったがコロシアムに着くとコロシアム周辺は冒険者たちで溢れかえっていた。

宿に着くなりリーガン公爵が

「マルス、マルスは外に出ないほうが良いと思います。今日は部屋の中から外を見ていなさい」

「分かりました。でもどうしてですか?」

「先ほども言いましたが、もう戦いは始まっております。外を出歩くと間違いなく魔眼を持った者たちに鑑定されてしまいますから。尤もマルスの場合は私の魔眼でも鑑定できないのでそんな心配は無いのかもしれませんが、念には念をという事です」

確かにそうだな。

部屋の中から鑑定でもしようかと思ったが、不用意に鑑定をしてバレるとなんか問題になりそうだから大人しくするか。

まぁ外を出歩いている冒険者たちで明日の試験に挑戦するような奴は居ないと思うが……

驚くことにリーガン公爵は宿をまるまる予約していた。コロシアムがあるこのローマンの街の最高級の宿をだ。

まぁ公爵だから当然といえば、当然なのかもしれないが……流石に1人1部屋だと広すぎるので、俺はアイクと一緒の部屋になった。

その後リーガン公爵に宿の食堂で激励会を開いてもらってから眠りについた。

2031年11月26日 7時

いよいよA級冒険者試験の初日、宿を出るとローマンの街は緊張感に包まれていた。

リーガン公爵はフレスバルド公爵とセレアンス公爵、そしてスザクとビャッコをこの宿で待つらしいので俺達だけでコロシアムに向かう事になった。

幸いなことに教師陣は一緒に来てくれるとの事なのでライナーを先頭にローマンの街を歩く。

リスター帝国学校の制服を着ているからか、それともクラリスやエリーの美貌がそうさせるのか分からないが俺達は冒険者たちの好奇な視線を浴びることとなった。

「あら? あなたもしかしてアイクじゃない!?」

そんな中、アイクを呼ぶ声がした方を振り向くとそこにはへそ出しルックで、露出が多めなくノ一の様な格好をした綺麗な女性が3人の男を従えて立っていた。

なんか超必殺忍蜂を撃ってきそうだな……

「び、ビッチ先輩! お久しぶりです! 確か西方諸島の国に戻ったと噂で聞いたのですが?」

ビッチ先輩って……アイクが頭を下げて挨拶をすると、眼鏡っ子先輩が俺にビッチ先輩の事を小声で教えてくれた。

どうやらビッチ先輩とはアイクが1年生の時に武神祭で優勝したリスター帝国学校の元Aクラスの人らしい。

「ええ。帰ろうとしたのだけれど、なかなか海を渡れなくてね。ところで今年はアイクがA級冒険者に挑戦するのかしら?」

「いえ、僕は来年受けようと思っておりますので、今年は情報収集の為に見学に来ました」

「そう、ならアイク。私のパーティに入りなさい。私のパーティは女しかいないけどアイクなら構わないわ。今年は私がA級冒険者になるから損はしないはずよ。アイクを立派な一人前の男にしてあげるから」

ビッチ先輩はアイクを誘惑するように甘く囁く。女しかいないパーティというのであれば後ろの男たちは何者だ?

「ありがとうございます。でも僕には【紅蓮】というパーティもありますし、来年には結婚も控えておりますので、とても嬉しいお言葉なのですがお断りさせていただきます。それでは僕はこれで」

流石アイクだ。よく誘惑に耐えたな。

ビッチ先輩がアイクにまだ何かを言おうとしていたが、アイクは足早にその場を立ち去った。

「ちょっと! マルス! いつまでも見ていないでもう行くわよ!」

クラリスが俺の手を強引に引っ張ってアイクの後を追いかけた。

別に見てなんかいないよ? ただぼーっとしていただけだよ? そしてその視線の先にただビッチ先輩がいただけで……ごめんなさい。

コロシアムに向かう途中で

「剣狩りも今年参加するらしいぞ?」

「あれはリスター帝国学校のグレンだよな?」

冒険者たちが2人を警戒していた。そしてなんと

「おい、あれって噂の剣聖だよな?北の勇者よりも序列が上の」

「2年生で武神祭優勝したっていうやつか?」

俺の事も噂をしていた。

いつもはハーレムで好き勝手にやっているというのを絶対にいわれるのだが、そんなことは一切言われなかった。

まぁ俺が聞こえないところで言われているのかもしれないが……

コロシアムの受付に着き、早速A級冒険者昇格試験の参加手続きをすると受付の人が試合方式を説明してくれた。ちなみに混雑を避けるため、受付には選手しか入れない。

「今回の参加者128名となっております。32名ずつ、4つに分かれてそれぞれトーナメントを戦って頂きます。トーナメントはダブルエリミネーション方式となっております。ダブルエリミネーション方式を知っておりますか?」

ダブルエリミネーション方式ってあれだろ? ルーザーズ側でもトーナメントやるやつ。だから実質1回は負けることが出来るわけだ。

「はい。知っています」

「ありがとうございます。注意して頂きたいのが、ウィナーズ側の勝者とルーザーズ側の勝者の決勝戦は行いません。ウィナーズ側の勝者を優勝、ルーザーズ側の勝者を準優勝として扱います。どちらで勝ち上がって頂いてもA級冒険者となりますが、優勝者の方が序列は上となります。またそれぞれのトーナメントの優勝者と準優勝者に分かれてリーグ戦を行い93位~100位までの序列をつけます。ここまでで分からない事はありますか?」

取り敢えずトーナメントで生き残ればA級冒険者になれるんだから

リーグ戦の事はどうでもいいな……

「大丈夫です」

俺がそう答えると受付の人が箱を取り出し、くじを引かされた。俺が引いたくじにはA-7と書いてある。

「A-7ですね。トーナメントAの1回戦の4試合目となります。9時からA-1、A-2の組み合わせからやりますからすぐに出番です。もしもA-8を引いた選手に勝てれば今日の試合は終わりです。明日A-5、A-6の勝者と2回戦を戦って頂きます。

万が一負けてしまった場合につきましては、今日A-5、A-6の敗者と本日ルーザーズ側のトーナメントとして試合をして頂きます。ルーザーズ側のトーナメントはトーナメントDの最後の試合が終わってから始めますのでのでよろしくお願いします」

受付の人がそう言うと早速トーナメントのA-7の所に俺の名前を書いた。

A-8は誰だろうと思って見るとビラリッチと名前が書かれていた。ビラリッチ……対戦相手が男で良かった。まぁ女性の挑戦者が少ないからそうそう当たるわけないしな。

受付を済ませてみんなの所に戻ると

「マルス……1回戦負け濃厚だね。ビラリッチってさっきの美人さんだってよ。ずっと見ているだけで何もできなそうじゃん。そうじゃなくても女性に攻撃できないんだから」

え!? ビラリッチを略してビッチ先輩なの!?

「おいおい……たとえ順当に勝ち進んだとしてもA-32には【黒壁】のゲンブがいるぞ?」

コディが興奮気味に言ってくる。なんだそいつ? 有名なのか?

「マルス、A-1には【月華】の狂剣エルシスがいるわ。こいつは絶対に要注意よ!?」

カレンが真剣な顔をして俺にアドバイスをしてくれる。もしかしてデスブロックに放り込まれたのか? 取り敢えず場所をコロシアムの観客席に移してビッチ先輩の事をアイクから詳しく聞くと

「ビッチ先輩はかなりの強敵だぞ。まず基本的には短剣と剣の中間くらいの長さの得物を使うのだが、気に入った相手には短剣の様な両刃の物を投げてくる。そして間違いなくマルスはビッチ先輩に気に入られる。

問題はその短剣が隠されている場所なんだが、ビッチ先輩の太もも付近と胸の辺りだ。短剣を取り出すたびに意識がそっちに向かってしまうからなかなか躱すことができないと思う。攻撃の起点だから見ないわけにもいかないしな。

それに何故か短剣が自分の影に刺さると数秒だが動けなくなることがある。多分魔力依存だからこっちの影への攻撃はマルスには関係ないと思うが……」

うん! 間違いなく俺の天敵だ。

ってかこれは俺だけではないよな? 魔力依存で俺には関係ないというアイクの言葉にコディが首を傾げたがそこはスルーしておいた。

「ありがとうございます。アイク兄はどうやってそれを対処したのですか?」

試しにアイクに聞いてみると

「い、いや……対処できなかった。俺は4年前に武神祭のベスト8でビッチ先輩に負けているからな……武神祭ベスト8までそんな戦い方をしていなくて急に太ももを見せるようにスカートを捲し上げたものだからビックリしてしまってな……それにあの人はそんなお色気戦法を使わなくても十分強い」

恥ずかしそうにアイクが言うと眼鏡っ子先輩が

「あの時のアイクは面白かったわよ? 顔を真っ赤にして。あとビッチ先輩の名誉の為に言っておくけど、あの人あんな格好をしているけどとても純粋よ。男遊びなんかできない性格だからね。面倒見も良くて私はとてもお世話になったわ。一緒に連れている男はナンパ対策だと思うわ。ただ問題なのはビッチ先輩はアイクの事が好きだったのよね。今はどうか分からないけど……」

珍しくアイクを揶揄い、ビッチ先輩を擁護した。戦闘スタイル、ファッションとは全く正反対という事か。

あとアイクの事が好きというのは分かる。さっきアイクをパーティに勧誘していたし、アイクは俺の自慢の兄だからな。

「義兄さんが対処できないのであれば、マルスが対処できなくても仕方ないわね……」

「そうね。義兄さんでも無理であればね」

クラリスがため息交じりに呟くとアイクで対処できないのであれば仕方ないという声が次々と噴出した。アイクへの信頼は絶大だ。そして俺への信頼は……

「先輩なら大丈夫です! 絶対に勝てます! 頑張ってください!」

アリスだけは俺を信じてくれている。

「たとえ目を奪われなかったとしてもどうやってマルスがビッチ先輩を攻撃するかよね……武神祭のような事は出来ないと思うし」

賢者様を使う事はリーガン公爵から固く禁止されているからな。

「大丈夫だよ。今回俺がA級冒険者になれないとクラリスやアリスが狙われることになるかもしれないからなんとしてもビッチ先輩に勝ってみせるよ。それに今の話を聞いて少しいいアイデアが浮かんだんだ」

俺の言葉に一同が期待と不安を抱えながら初戦を迎えた。