軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第246話 バトン

2031年11月11日 13時

「なぁクラリス、ちょっと聞いていいか?」

俺の左肩に顔を乗せて寝ているエリーの頭を優しく撫でながらクラリスに声をかけた。

今俺は【黎明】部屋でクラリスにご飯をご馳走になり、クラリスとエリーの3人でゆっくりとリビングで寛いでいた。まぁエリーは寝ているんだが。

他の女子はどうしたのかって? ミーシャとアリスはコディに学校の案内をしに行き、カレンはブラッドと一緒にリーガン公爵の屋敷に向かった。ミネルバはバロンとデートだそうだ。

「どうしたの?」

「いや、クラリスは前世で後悔した事ってあるか?」

「そんなの沢山あるわよ」

「だよな。俺もいっぱいある。転生してから同じ後悔をしているか?」

「うーん……今の所それは無いわね。親孝行もしているし、学業も順調だし、彼氏にも恵まれて……」

そこまで言うとクラリスの顔に恥じらいの色が溢れた。

「あ、ありがとう。ヨハンはどうなんだろうなと思って……」

「どういう事?」

クラリスは紅潮した顔を傾けて聞いてきた。いちいち可愛いから困る。

「ヨハンがコンビニ強盗という事を前提で話すんだけど、コンビニ強盗をしてしまうような人生だからきっと後悔している事がたくさんあるんだろうなって。そしてたまたまとはいえ転生出来たんだ。今度こそはやってやろうって、努力して前のような人生を歩まないぞって思うんじゃないのかなって……」

「確かにそうね……でもマルスが見た印象はそうじゃなかったんでしょ? 称号も物騒なものが付いていたって言っていたし」

クラリスの言葉に無言で頷いた。

みんなもおかしいと思わないか? もしも前世の記憶がある状態で転生したらやり直そうって思うよな? まぁ転生したからと言って、エリーのように記憶が曖昧な者もいるから一概には言えないのだが……

死神という称号も気になる。どうやったらそんな物騒な称号が付くのか? もしかしたらヨハンに死神がついているのかもしれない。その死神はリンゴ好きで、貰ったノートに名前を書くと……そんな訳ないか。

「さ、マルス付き合って。リスター祭中は朝練でしか体を動かしていなかったし、聖水ばかり作っていたからいい加減違う魔法も使いたくて」

エリーを起こして3人で闘技場に行き体を動かした後、2年Sクラス全員、ケビンとドアーホを除いた1年Sクラス、そしてコディと【剛毅】の先生3名でリーガンの街に繰り出した。昨日はBクラスと合同で打ち上げをしたが、Bクラスは外出できないからな。

【紅蓮】も呼んだのだが、【紅蓮】は別でやるらしい。どうやら今日、ガル、イースト、ユーリの3人が【紅蓮】から抜けるらしいので、最後に5人だけで思い出を語らいながら飲むとの事だ。

「コディの将来の夢ってなんだ?やはり冒険者なのか?」

酒の席でコディに質問すると

「まぁそうだな。俺は間違いなくA級冒険者にはなれると思うが、今はどこかの騎士団なり、魔術団にでも入りたいんだ。今のA級冒険者はリスクが高すぎる。中位くらいまで行ければ少しはマシになるかもしれないが今A級冒険者の下位はよく死んでいると聞くからな」

すごい自信だな。A級冒険者になれる前提か。

「コディの能力であればどこでも入れるだろう?」

「いや、魔族を積極的に採用する騎士団や魔術団はない。それこそリーガン騎士団であれば入れると思うが、言ってみれば諜報部隊のようなものだから結構危ない仕事らしい。それでもリーガン公爵は俺達魔族に 一(・) 定(・) の(・) 理解があるから助かる」

ここでも差別があるのか……

「コディは男爵家の嫡男だろ?家は継がないのか? それともA級冒険者になってから家を継ぐのか?」

「俺は継がないさ。上級貴族であればともかく俺達下級貴族で優秀な者は、嫡男であろうと長女であろうと外に出て金を稼いで家に入れた方がいいからな」

ほー……いい事を聞いた。

「なぁコディ、もしも俺が上級貴族になって騎士団や魔術団を作ったらコディは雇われてくれたりするのか?」

「それは無理だ。俺は魔法に造詣がある者の下にしかつかない」

これを聞いていたクラリスが

「じゃあさ? 私に雇われたと思えばいんじゃない?カレンでもいいけど? それにそんな遠くない未来にコディは今自分が言った事を後悔するわよ」

「そうか……クラリスの下であれば……考えておくよ。今言ったことを後悔なんかしないさ。もしも雇われた時は給金を弾んでくれよ。そして騎士団長や魔術団長にして…‥」

コディがここまで言うと近くに居たライナーが

「おっとコディ、それはダメだぞ。マルスが作った騎士団の騎士団長は俺がやるからな」

この言葉にここに居る全員が驚いた。

「ら、ライナー先生がマルス先輩の騎士団に……? リスター帝国学校の先生はどうするんですか?」

驚いたクロムがライナーに聞くと

「当然だろ? マルスは俺の……それにリーガン公爵には去年言っているし、許可も貰っている」

ライナーが言葉を濁したのは、コディに神聖魔法の事を言っていいのか迷ったからだろう。俺の呪いを解いてくれたとか言うとバレるだろうからな。

「もちろん、俺もマルスの下に行く。ライナーのように剣では役に立てないかもしれないが、俺の魔法でサポートは出来ると思うからな。クラリスたちの荷物持ちでもなんでもいいから、とにかくこの大恩を少しでも返したいと思っている。今はこうやって先生と生徒の立場で話しているが本当はマルス様と呼びたい。実際そうしていたのだが、リーガン公爵にマルスが学生のうちは敬称不要で呼び捨てにしなさいと言われてしまってな」

ブラムの言葉にまたもみんなが驚いている。まぁ先生が生徒を追っかけて騎士団に入るというのはありえない事だろうしな。

そして2人の言葉を聞いたサーシャだけは驚きと共に少し寂しそうな表情をしていたのが印象的だった。

「マルスは男からもモテるのか……まぁ仕える主君のカリスマ性が高い事はいい事だが変な気は起こすなよ? 最初に断っておくが、俺は女が好きだからな」

コディが真面目な表情で俺に言ってくる。こいつ何の心配をしているんだ? 俺は誰よりも女の子が好きな自信あるぞ?

「コディ! また俺と戦えよな! 今度は絶対に俺が勝つ!」

「俺もコディに負けないように頑張るからな!」

ブラッドとクロムがコディに絡みに行く。力のブラッド、魔法のコディ、万能のクロム。今年の1年生も相当強いな。

まぁコディは元々俺たちと同じクラスの予定だったし、ブラッドもクロムも俺と同じ年だからちょっと違うかもしれないが。

え? コディはリスター帝国学校の生徒ではないって? なんかもうこのまま生徒になると思っているのは俺だけではないと思うが……

「いいね! 男の友情みたいな感じで! じゃあここは改めて乾杯しよう!」

泥酔した暴走エルフが3人に割って入り酒をあおる。

「ミーシャ先輩……もうやめた方が……」

アリスがミーシャを止めようとするも

「大丈夫! 大丈夫! 自分を信じてぇ!」

10分後にミーシャがトイレと友達になったところでお開きとなった。みんなはお酒は二十歳になってから適量を飲むように。

2031年11月15日

「卒業おめでとうございます。アイク兄」

卒業式を終えたアイクにお祝いの言葉をかけると

「ありがとう。今日はこれからが大変なんだけどな」

「これからが? どういうことですか?」

「これから卒業組手と言われるものをやるんだ。在校生が卒業生に挑戦できる最後のチャンスだな。去年もやったんだぞ? マルスはクラリスとエリーの3人でずっと訓練をしていたから気づかなかったと思うが」

だから今日は闘技場を使わないでくれと言われたのか。卒業組手か……まぁ一度はアイクと戦ってみたいと思うのは当然だろうな。

闘技場が使えないのでクラリスたちが待っている昔よく使っていた体育館に向かおうとすると、途中で男子生徒が列を作っているのを見つけた。30人くらいは並んでいるだろう。そしてその先に眼鏡っ子先輩がいた。

「エーディン先輩好きでした! アイク先輩とお幸せに!」

え? 告白? 並んでいた男子生徒たちが同じような告白を眼鏡っ子先輩に次々としていく。まぁ黙っていてれば美人だし、スタイルもいいし、何より赤い眼鏡がとても似合っているからな。人気が出るのは当然か。

「そう言ってくれて嬉しいわ。ありがとうね」

1人1人と握手をしながら告白を受け続けている眼鏡っ子先輩。こっちの世界の人は決して実らない恋でも思いの丈をぶつけるのか。

もしかしたら日本でもそうだったのかもしれないが、当然俺は勇気がないからそんな事出来なかった。

「あらマルス? マルスも私に告白しに来たの? マルスには特別に握手じゃなくていいことしてあげちゃおうかな?」

告白を全て受けきった眼鏡っ子先輩が俺を見つけていつものように揶揄ってきた。

「え? いや……義姉さん凄い人気でびっくりしちゃって……」

正直な感想を言うと満足したようで

「惚れなおしたでしょ? でも私にはアイクがいるから本気になっちゃ駄目よ? 私はこれから闘技場に行くからマルスたちも後で来るといいわ。それじゃあ私は闘技場に行ってくるわね。これでも序列3位だから」

眼鏡っ子先輩はそう言い残して闘技場に向かった。告白か…さっきみたいな告白をされるのであれば嬉しいな。

クラリスたちと合流した後に闘技場に行き、アイクの卒業組手が終わるまでずっと見ていたが、挑戦者のほとんどがアイクと戦った後に涙を流していた。

そして挑戦が終わった後も寮に戻らず、ずっとアイクの試合を見届けていた。何年もこのリスター帝国学校の象徴として過ごしてきたアイクが今日でいなくなるからな。

全ての挑戦者との試合が終わるとアイクがみんなの前で

「マルス、最後に少しだけやろう」

当然断る理由はないので軽く剣戟を交わすと戦い終わった後にアイクは俺をハグをして背中を叩きながら

「……っ、マルス……この学校を……リスター帝国学校を頼んだぞ!」

「……っ、分かりました……」

リスター帝国学校史上最高の傑物は、たくさんの声援と拍手、涙とともに卒業したのであった。