作品タイトル不明
第228話 聖水
2031年11月1日
「フレア!」
「 氷壁(アイスウォール) !」
激しく魔法がぶつかり合うとその後剣戟の音が闘技場内に鳴り響く。
最近の朝のルーティーンが少し変わった。
まず恒例の3時から始まるマラソンの参加人数が相当増えた。2年Sクラス全員、アイクにガル、そしてなんと1年Sクラス全員だ。
エリーはクラリスにほぼ強制で参加させられることになったのだが、武神祭の後にクロムが一緒に朝練をしたいと言ってきたのでOKしたらまさかケビンとドアーホまで一緒についてきた。2人共武神祭の優勝決定戦を見て感化されたらしい。
さすがに俺とアイクのマラソンについて来られるのはクラリスとエリーだけだったが、他のメンバーも頑張っている。それにしてもエリーが初日から20km走れたのが意外だった。
俺とアイクはマラソン後に筋トレをし、たまにバロンも一緒に筋トレに加わる。女性陣はそのまま寮に戻りみんなでクラリスの手料理に舌鼓を打つ。エリーは朝練に参加する条件としてクラリスの朝ごはんを要求したのだ。
登校後に2年Sクラスとアイク、眼鏡っ子先輩、ガルの10人で闘技場で訓練するというのがお決まりのルーティーンになった。
最近はいつもアイクとクラリスがお互いを高めあっている。さっきのフレアと 氷壁(アイスウォール) もアイクとクラリスの魔法だ。
接近戦ではアイクが有利に戦いを進めるが、最近になってクラリスが 魔法の弓矢(マジックアロー) を射るだけでなく、走りながらも水魔法を唱えられるようになった。しかしまだ剣を振りながらは無理との事。唱えられると言ってもアイスが限界なのだが、それでも大きな一歩だ。
俺はエリーとミーシャ2人を相手に訓練をしている。動きが速いこの2人を同時に相手にするのはかなりきついがとてもいい訓練になる。
カレンはミネルバから鎖術を教えてもらっている。やはり近づかれると厳しいカレンはどうにかして接近戦の不安を払しょくしたいらしい。
カレンにはもう既に鞭と火がある……ここに鎖まで加わってしまったら……成長が楽しみだ。
バロンはガルと眼鏡っ子先輩を同時に相手にしているが、流石に2人同時には勝てないらしい。だがバロンは2人が卒業するまでには勝つと息巻いている。眼鏡っ子先輩の束縛眼をどうにかしないと無理な気がするが……
昼まで闘技場で汗を流し昼食を取ると、俺達Sクラスは2年Bクラスと一緒にリスター祭の出し物の準備をする。
準備といっても、あと少し内装を豪華にすれば終わりだ。2年Bクラスの生徒達が去年の俺たちのコスプレ姿を見てコスプレをしたいとの事だったのでメイド喫茶に決まった。
大人数でメイド喫茶をやるために大きな会場が必要となるのだが、リーガン公爵が闘技場の近くにメイド喫茶専用の平屋の建物を作るからそこでやってくれと言ってきたのだ。
そして今年のメイド喫茶にはとんでもない目玉商品がある。
それは……
『女神の聖水』1杯 銀貨1枚
『妖精の聖水』1杯 銀貨1枚
女神というのはクラリスの事で、妖精というのはミーシャの事だ。最初にこの聖水を売ろうと言い出したのはミーシャだった。
ちなみに聖水とは水魔法で作ったただの水の事だ。
聖水と聞いてなんか変なことを想像した奴がいるなら滝に打たれてくるといい。きっと俺みたいな聖人になれると思うぞ。
メイド喫茶の内装が仕上がるとゴンが女性たちに
「みんな、本番と一緒の環境でリハーサルをしたいからメイド服を着てくれないか? そして俺たちをお客様……いやご主人様として接待してみてくれ」
女生徒たちも可愛い服を着られるのは嬉しいらしい。
1人を除いて女生徒たちは「めんどくさい」と言いながらも、嬉しそうな表情でメイド服に着替えに行った。
1人と言うのはエリーだ。エリーはスカートが短いのが嫌らしいからな。事情を知らないゴンがエリーに対して
「なんでエリーは着替えに行かないんだ?」
「……マルス以外に……サービス……しない……」
エリーはエリーだった。ゴンが困った顔をしていたので
「大丈夫、エリーはクラリスとミーシャがフォローするから。それにエリーはメイド喫茶の前で立っていてもらえるだけでも十分だしな」
と言ってエリーをフォローしておいた。女生徒たちの準備が出来たというので早速中に入る。順番はゴンが最初で次に俺と続く。まずゴンがメイド喫茶の中に入ると
「「「いらっしゃいませ」」」
去年と変わらず「お帰りなさいませご主人様」とは言わないようにした。クラリスとミーシャを除く女生徒がゴンを歓待する。
ちなみにクラリスとミーシャは聖水が売れるのを予定してひたすら聖水を注ぐ要員として待機している。ゴンは満足そうに1人のメイドに連れられて席に着く。
「女神の聖水と妖精の聖水を1杯ずつ!」
ゴンは席に座るといきなり聖水を頼んだ。するとゴンの隣に座ったメイドが
「聖水は先払いとなりますので銀貨2枚を先に頂きます」
メイドらしからぬ言葉でゴンに銀貨を要求する。うーん……ここは改善点だろうな……
「今日はリハーサルだから銀貨はいいの! 聖水2杯よろしくねー」
ゴンの言葉にクラリスとミーシャはただの水を持ってきた。
「しっかりクラリスとミーシャが水魔法で作った物を用意してくれよな! 今日はリハーサルなんだから!」
ゴンが不満そうに2人に言うと
「MPも無限にあるわけじゃないんだから今日は我慢して」
クラリスに諭されていた。ゴンはぶーたれながら水を飲んだ。
次は俺の番だ。俺がメイド喫茶に入るとクラリスとミーシャも歓待に加わっていた。
「「「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」」」
え……? いらっしゃいませじゃないの? これを転生者に聞かれたらバレバレじゃん……まぁメイド喫茶という出し物も怪しいかもしれないが、この世界にはメイドや奴隷といった文化があるからそれはきっと大丈夫だとは思うのだが……
それにゴンの時よりも大人数に歓待された気がするのだが……俺にはクラリス、カレン、ミーシャの他に先ほどまで興味を全く示していなかったエリーも制服姿のまま一緒に席に着いた。そして他の女生徒たちも俺の後ろで待機した……
「み、水を1杯ください」
俺がそう言うと空のコップを持ったクラリスが水魔法で水を注いでくれた……これはさっきゴンが飲みたがっていた女神の聖水……水を飲み干すと今度はミーシャが水魔法で注いでくれた。
すまんなゴン……俺はそう思いながらゴンの方を見ると、ゴンはゴンで隣に座っているBクラスの女子と楽しそうに話していた。
結局反省会もなくリハーサルが終わった。ゴンたちが楽しみたかっただけなのかもと思ったが、意外に女子生徒達も楽しそうだったから良かったのかもしれない。
そして今年もアイクと眼鏡っ子先輩が参加してくれる。この2人もリスター祭は最後だから楽しみたいとの事だ。
また去年はお客様だったアリスも参加したいと言ってきた。ちなみに1年Sクラスは全員5年Sクラスと一緒に闘技場の闘技大会に参加するらしい。
2031年11月2日
今日は朝練だけやり、闘技場には向かわず闘技場の隣に出来たメイド喫茶に向かう。
今日はリスター祭のプレオープンだ。生徒達だけで楽しむ企画らしい。去年はゆっくり楽しめなかったからな。9時になり外に出て楽しもうとしたらすでにメイド喫茶の前には生徒達が行列を作っていた。
え……? こんな行列作られたら俺達外に出られないじゃん……結局この日は午前中だけメイド喫茶をオープンさせた。
午後営業しなかった理由は1つ、ミーシャのMPが無くなりそうだったのだ。男子生徒のほぼ全員が聖水を頼むものだから最初にミーシャのMPがなくなりそうになり、ミーシャがへばるとクラリスに注文が集中する。
最初から大量に作っておけば解決なのかもしれないが、これは100mlくらいの水をその場で発現させて手渡しでもらえるという特典があるからこそ銀貨1枚の価値があるのだと思う。
どうしたものか……マジックポーションをがぶ飲みしながらでも限界はあるからなぁ……昼ご飯を3階の学食で1年、2年、5年のSクラスのみんなと食べながら考えていた。
「やっぱり水魔法使えるみんなで聖水作るべきだよー。私のMP量じゃ絶対に無理だよー」
「何言っているの? 需要が無い人がやったら惨めになるだけじゃない。クラリスという美の化身とミーシャのエルフという希少さが売りなのよ? もしも私が水魔法使えても絶対に商売にならないわよ」
ミーシャの言葉にカレンが答える。ミーシャはまだブツブツ言っている。今度リーガン公爵に会ったら相談してみるか。お金のことになると目の色が変わるから、もしかしたらいいアドバイスをくれるかもしれない。
「アイク兄、闘技大会の方はどうですか?」
「ああ、今年は5人目までは来ないだろうな。何せ3人目、4人目がエーデ、ガル、ブラッド、アリス、クロムの5人のうちの誰かだからな。だから俺はほとんどメイド喫茶の方に行っていると思うよ。今回は闘技場とメイド喫茶はとなりだからな」
アイクが俺の問いに答えるとアリスも
「私もほとんどメイド喫茶の方に行きたいです。あの可愛い服を着られると思うと……」
「じゃあさ、闘技大会の方はガルとブラ、クロムの3人に任せて私とアイクとアリスはずっとメイド喫茶にいよう」
眼鏡っ子先輩もノリノリだ。まぁ去年もそうだがリスター祭の出し物は学年、クラスを越えて催されるからな。生徒と客が喜べばそれでいいのだろう。
「おう! 闘技大会の方は俺に任せておけ! リスター帝国学校にブラッドありとみんなに知らしめておく!」
そう、ブラッドは積極的に闘技大会に出る必要があるのだ。人と獣人の友好関係を示すためにも。今年は正式にセレアンス公爵が招待されるらしい。ここでも何か一芝居打って客たちに友好関係を見せつけるのだろう。
俺達がご飯を食べ終わって雑談をしている時だった。
「マルス! アイク! 至急校長室まで来てくれ!」
ライナーが慌てた様子で俺とアイクの2人を指名した。