作品タイトル不明
第227話 エキシビションマッチ
「アイクをメンバーに誘いたいのだがダメか……?」
観客や貴族が帰った後にスザクとビャッコが闘技場の中に入ってきて俺とアイクに聞いていた。
「リムルガルドのメンバーの件ですか? とても光栄なことですが間違いなく僕よりもクラリスとエリーの方が強いです。それでも良ければ喜んで参加させて頂きますが?」
スザクの言葉にアイクが答えるとスザクとビャッコが驚いていた。
「マルスと互角に打ち合えるアイクよりも強いのか!? 2人共女でしかも2年生……まだまだこれからというのに? それにアイクのMPはどれだけあるんだ? あれだけフレアを連発できるなんて前衛とは思えないのだが……」
スザクが驚いてアイクの言葉に反応した。
「それをこれから試すのでしょう? 私ではなくクラリスにはアイクに戦ってもらっても構いませんよ?」
「いえ、僕はクラリスとは戦いたくないので……近寄る前にやられてしまうのが目に見えてしまっていますから……マルスと戦ってハンデを貰ったにしてもいい勝負ができたのでこのままいい終わり方をさせてください」
アイクがクラリスとの対戦を拒否した。近づく前にやられるという事はないだろうが、やはりアイクの勝ち目は薄いかもしれない。
クラリスの鉄壁の防御を崩すのは容易ではないからな。
結界魔法、水魔法の防御系の魔法が扱えて、例えダメージを与えたと思っても、ディフェンダーや 神秘の足輪(ミステリアスアンクレット) の装備効果があり、そのうえ神聖魔法で回復されるとなると精神的にきついだろう。ステータスもかなり高いしね。
「アイクがそこまで言うほどなのか……分かりました。それでは先ほどリーガン公爵が仰っていたようにクラリスとリーガン公爵の戦いを見させてください」
この言葉に事情を知らない者たちが一斉に驚いた。驚いたものたちに何の説明もなく2人は戦いの準備を始める。
「それでは試合開始!」
観客席には誰もいない状態でとんでもない後衛戦が始まった。
「ウィンドカッター!」
「ウィンドインパルス!」
リーガン公爵の魔法にクラリスが 魔法の弓矢(マジックアロー) でどんどん相殺する。攻撃の回転速度はクラリスの方が上だった。どんどん 魔法の弓矢(マジックアロー) を討ちまくり、徐々にリーガン公爵が防戦一方となる。
「トルネード!」
リーガン公爵がたまらずトルネードで 魔法の弓矢(マジックアロー) を抑え込むが、なんとここでクラリスが予想しない行動に出た。
「ホーリー!」
なんとホーリーをリーガン公爵の手前に発現させたのだ。スザクとビャッコだけではなく【紅蓮】のメンバーも驚いていた。
地面に魔法陣が形成され、魔法陣から光の柱が空中に向かって伸びると咄嗟にリーガン公爵が後ろに下がる。
するとリーガン公爵が今まで発現させていたトルネードが解け、 魔法の弓矢(マジックアロー) の射線が通る。 魔法の弓矢(マジックアロー) がリーガン公爵の頭の上を通りチェックメイトだった。
「それまで!」
スザクの言葉に2人は戦闘をやめる。どちらが勝ったのかは明白だったが勝者アナウンスはなかった。
「ホーリーだと……? どうなっているんだ? 伝説級の魔法をここにも使える者がいるなんて……」
「申し訳ございません。どうしてもこのリムルガルド城の遠征に私も連れて行ってほしくて……」
スザクの言葉にクラリスが頭を下げてさらにクラリスはリーガン公爵にも頭を下げた。
「まさかホーリーまで唱えてくるなんて思いませんでしたが、これがクラリスの本気という事ですね。スザク、クラリスは後衛ですが、前衛としてもかなりの実力を持っております。それに水魔法もダイヤモンドダストまで使えます。スザクが試してみますか?」
「そ、そこまでの手練れとは……いえ……それだけでも十分です……これでもしもクラリスが一緒に行くとなったら神聖魔法使いが2人という事になるな……ですがおかしくないですか? ダイヤモンドダストまで使える相当な水魔法使いが神聖魔法を使えるなんて……まぁ前例がなくはないですが最近になってここまで今までの伝承が反証されてしまうと……」
まだスザクは目の前で起きたことが信じられないらしい。
「スザク様。私からもお願いです。クラリスを連れて行きましょう。前衛にマルス、後衛にクラリス。そしてどちらも我々と同じくらい強い。クラリスは本物です。目の前で起きたことを信じましょう」
ビャッコがスザクを説得する。
「そうだな……クラリスを歓迎しよう。しかしマルスのパーティ【黎明】には神聖魔法使いが2人もいるのか。どうだ? クラリスは俺の所に……」
「スザク。おやめなさい。2人を切り裂いては行けません。クラリスはあなた達を信用したからこそ神聖魔法をあなた達の目の前で披露したのです。別に神聖魔法を使わなくても私に勝てたというのに」
スザクの言葉をリーガン公爵が遮った。良かったフォローしてくれて。これを言われるのが嫌だったから俺がA級冒険者になった後にクラリスの神聖魔法を伝えようと思ったのだ。
「そうですね……悪かったな2人とも。じゃあ次はエリーの番だな。対戦相手のガスターがまだ来ていないようですが?」
スザクがガスターの名前を出すと、カレン、ミーシャ、そして【紅蓮】のメンバーの緊張感が急に高まった。
「ガスター!? もしかしてここに来るのですか!?」
アイクが 火精霊の槍(サラマンダーランス) を構えて警戒をする。だが眼鏡っ子先輩が震えるとアイクは眼鏡っ子先輩を抱きしめて震えを抑えた。【紅蓮】のメンバーはガスターに対して全員恐怖心しかないようだ。それに対してカレンとミーシャはかなり好戦的だった。
「今度は絶対に消し炭にしてやるんだから!」
「私の方が気配を消すのが上手いというのを見せてやりたい!」
カレンとミーシャがそれぞれガスターに対して敵意を剥き出しにしている。
ちなみにブラッドとアリスは何のことか分かっていないらしいが、ガスターがあまり好まれていないという事だけは分かったらしい。
「スザク……申し訳ございませんがガスターが来ていないのです……今までこんなことは無かったので何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が高いです……」
リーガン公爵がすまなそうにスザクに謝罪すると
「ガスターが……? 私も当然ガスターの事は知っておりますが、あいつがクエストをすっぽかす……それもリーガン公爵のクエストをすっぽかすと言うのは考えられませんね。間違いなく何らかの事件なりトラブルに巻き込まれたと思っていいかと」
スザクがリーガン公爵に同意した。ガスターってこんなに信用のある人間だったのか? 俺たちからすると信じられないのだが……
「……ガスター……倒したかった……」
エリーが悔しそうに言うとそれを見たスザクが
「倒すって……ガスターに勝つつもりだったのか?」
スザクの問いにエリーが頷く。
「スザク様。僕が言うのもおかしいかもしれませんが、エリーとガスターが戦ったら恐らくエリーが勝ったと思います。ガスターの得意な自分の気配を消したり、霧に隠れたりする戦い方は、今のエリーには通用しませんから」
エリーはずっとミーシャと訓練しているからな。
もしかしたらエリーはガスターを倒すためにミーシャとずっと訓練をしていたのかもしれない。
ミーシャもガスターと同じように幻影装備や大精霊の靴で自分の気配を消す戦い方を得意としているからな。
「……そうか、分かった。ではエリーは俺と戦ってもらう。もちろん俺は魔法を使わない。いいか? マルス、エリー?」
スザクの言葉に俺とエリーが頷く。早速エリーとスザクが戦いを始めるが決着はすぐだった。エリーのスピードと体術を使った短剣術にスザクは全く対応できない。この結果にスザクだけではなくビャッコも驚いていた。
「す、素晴らしい……確かにガスターよりも力強くて素早い……これならばビャッコとマルスと一緒に前衛を任せることが出来る……アイクがいう事にも納得だ……」
こうしてクラリスとエリーのリムルガルド同行は許されたが、スザクはどうしてもアイクの事を諦められなかったようで
「アイク、アイクもスケジュールを空けておいてくれ。アイクがメサリウス伯爵家を継ぐことは聞いている。もしもアイクがスケジュールを空けて、リムルガルドへ一緒に行ってくれるというのであれば、アイクがメサリウス伯爵になった際にフレスバルド家からの代官を引き上げさせ、メサリウス伯爵家の自治を認めよう」
この言葉に皆が驚く。特にカレンと眼鏡っ子先輩だ。
「お兄様、お父様に相談なさらずともよろしいのですか?」
「大丈夫だ。もうそれくらいの事は任されている。リスター連合国としても優秀な伯爵が治めてくれた方がありがたいだろ?」
カレンの言葉にスザクが答えると次は眼鏡っ子先輩が
「現メサリウス伯爵家長女のエーディン・アライタスと申します。このことを父に申してもよろしいでしょうか?」
「君がアイクの婚約者か。別に構わない。現フレスバルド侯爵として、後のフレスバルド公爵としても約束する。それにしてもエーディンはいい男に出会えてよかったな。俺の子供にアイクのような者がいれば後継者争いも……いや、なんでもない。忘れてくれ」
スザクの言葉に眼鏡っ子先輩が嬉しそうに頭を下げた。
そういえばフレスバルド家には後継者問題がちょっとあるって言っていたな……それにしてもスザクのアイクのかわいがりようは異常だな……フレスバルド家の力を使って命令すれば同行を拒否できなそうな気もするが……もしかしたら同じ火魔法使いとしてスザクはアイクに何かを感じたのかもしれない。
「多大なるご配慮を頂きありがとうございます。必ずスケジュールは空けておきます。していつ頃リムルガルドに行く予定でございますか?」
アイクがスザクに聞くと
「マルスのA級冒険者の試験が終わってからにしようと思う……今年の年末か遅くても来年の頭には行こうと思う」
出来れば遅ければ遅いほど嬉しい。レベルアップの余地があるからな。
これで武神祭のスケジュールが全て終わり、再度お互いの健闘を称えあうと【暁】と【紅蓮】のみんなでリーガンの街に祝勝会をしに行った。
え?バルクス王に挨拶はしなくていいのかって? 挨拶はした方がいいかもしれないが今は宴だな。
カエサル公爵からガスターの死体を発見したと報告があったのはリスター祭が始まる11月の事だった。