作品タイトル不明
261.そこそこの畑 2
人付き合いって難しい。こんなにいろんなことを考えながらしなきゃいけないの!?
魔術式研究機関に向かう途中、私は馬車の中で百面相を繰り広げていた。
「みんな……凄くいい人たちなのに……」
「たしかにいい人かもしれないですけどね。研究のために手段を選ばない人もいますからねぇ」
「それは……中にはそんな人もいるかもしれないけど……」
「それにイザベラ嬢も、仲良くなったからと言って味方じゃないんですよ」
「……仲良くなったのに?」
「たとえ仲良くなっても、彼女が優先するのはトラット帝国の国益です。もっといえばレナルド殿下の利益になる行動をしているに過ぎないんですよ」
それは正しいことだと理解できる。彼女が優先すべきはレナルド殿下の皇位継承が上手くいくことだし、ファティシア王国で上手く立ち回れば外に味方を作れるから。
友達は、たぶん……仕える相手より優先される存在ではない。
私がどんなに仲良くなった、と考えていても相手にとってはそうではないと言うことなのだろう。それは少し寂し気がする。でもそれって本来なら普通のことだ。
昔は王女に本当の友達なんてできっこないって、わかっていたのに。今は本当の友達ができて、その感覚がズレてしまったのかもしれない。自分の中の感覚がよくわからなくなってきた。みんな、本当に良くしてくれるから。
「ルティア様、ロビンも仲良くなることが悪いと言っているわけではないのですよ」
「それは、わかるわ。線引きが大事ってことでしょう?」
「そうです。線引きを誤ると、こちらに被害が及びます。姫さんが負わなくていい、怪我をする可能性がある。線引きを上手くすることで避けられるなら避けるべきです」
「それが簡単にできたら、私だってやってるのよ?」
「損得勘定して良いんですよ。王族は特にね。何が国のためになって、ならないのか。その見極めを学ぶべきときなんです」
「損と、得……そんなのどうやって見分けるの?」
みんながみんな首から札を下げていればわかる。もしくは悪意を持って攻撃してくるとかね。だけど普通の人付き合いですら損得勘定で考えろと言われても難しいのだ。
キャスたちも私と付き合うことに得があるというけれど、そこまで得になるとはとても思えない。フィルタード派が派閥として大きくなっている今、私なんて吹けば飛んでしまうような存在なのだから。
「姫さんはなんだかんだ、まだ顔に出ますもんねぇ……一番は悪意を持つ人間に近づかないことでしょうけど、姫さんの場合遭遇率が高そうだしなぁ」
「……私がその辺をうろうろしてるって言いたいの? 今はそんなにうろうろしてないってば!」
「そうは言ってませんよ? でも良くも悪くも目立つんですよ。姫さんは」
「別に目立つことはしてないわよ」
「してますよ。十分。だからこそ、フィルタード派がやいのやいの言ってくるんでしょう?」
心当たりが全くない。それなのに目立つとは……??
それにフィルタード派がいちゃもん付けてくるのはいつものことだし。私を役に立たないとか言ってくるのだって、最近は……多くなったような??
アレ? と首を傾げていると、リーナが「茶会に積極的に出られるようになったからでしょうね」と言われる。
「お茶会に出てるから?」
「はい。ルティア様の人となりを噂でしか知らない者が大半です。ロイ様は定期的にローズベルタ侯爵家やその周辺貴族が催す茶会に出てましたが、ルティア様は今まで全くお出になりませんでしたから」
「ロイ兄様……お茶会出てたのね??」
「そりゃあ出ますよ。長子ですし……俺も従者としてお供してるんですよ?」
「ロビンも……??」
「ローズベルタ侯爵家に近い貴族は、学者肌の家系が多いですからね。ロイ様も安心して出席できます。下手にうちの娘を妻にって売り込んでこないですから」
「そうなの?」
「ライル様には表向きアリシア嬢がいらっしゃいますけど、ロイ様にはいらっしゃいませんからね。それに姫さんがでるお茶会だってちゃんと侍女長とユリアナが選抜してるんですよ?」
それは初耳だ。私宛に来るお茶会の手紙はそこまで多くない。もちろん始めに比べれば増えたけど。今まで積極的に参加してこなかったし。それでもどこに出れば良いのか迷うのに、私の手に渡る前に振るいにかけられていたのか……!
「……私のところに来ないお茶会って?」
思わずリーナに聞いてしまう。侍女長が弾いたお茶会とはどんなものなのか? フィルタード派が開くお茶会は、確実に弾かれる気はするけど。
リーナは少し考える仕草をして、チラリとロビンを見た。そして「お見合い目的のお茶会とかですかね」という。
「お、お見合い!? 私にもそんな話、来るの??」
「デビュタントが終わっていますから、申し込み自体は少しずつきておりますよ。全部侍女長が弾いてますが」
「それは、どうして?」
「陛下から依頼されているのもありますが、大半がルティア様の魔力量を目的としているからです」
「私の魔力量……?」
「ルティア様が魔力過多の畑を作っていることは、ある程度広まっています。下位の……特別裕福ではない貴族たちはルティア様に魔力過多の畑を作らせようとしているのです」
ここにきて魔力量の多さが、そんな事態を引き起こすとは思わなかった。たしかに魔力量が多ければ、色々できる。私だって魔力量に頼っている部分が多いし。魔力過多の畑はそれぐらい画期的なものなのだ。病気もしなくなるなら、手っ取り早く作物を育てて売りたいわよね……
「わかりますか? 姫さんは自分がたいしたことないと思ってるかもしれませんが、たいしたことはあるんですよ。たとえ勉強の延長と思っていても周りはそうじゃありません」
「だから、線引きが大事なのね?」
「頼まれたからと言ってホイホイやってちゃ、そういった連中につけ込まれます。良いんですよ。王族なんですから、多少は自分勝手に振る舞ったって。理不尽な要求じゃなきゃ問題ありません」
「自分勝手に振る舞ったりなんてしないわ……」
「振る舞うことも必要だ、って話です」
腰が低すぎるのは問題だと前々からロビンには指摘されていた。たしかにそうなのだけど、偉ぶることは得意ではない。自分勝手に振る舞うなんてもっとも苦手なことだ。
みんなで仲良くできればそれに越したことはないのに。それだけではダメなのだろう。仲良く、って私が思うほど簡単ではない。
「ルティア様らしさはとても大事です。私たちもルティア様が横柄に振る舞えるとは全く思っていません。それに意図して振るまってほしいとも思っていませんし……ですが、 誰(・) に(・) で(・) も(・) 優(・) し(・) い(・) はつけいる隙を増やします」
「そう。そうなのね……だからちゃんと対価をもらわないといけないの?」
「その通りです。でも姫さんは魔石の値段がわからないでしょう? たしかに魔石を入手したのはカロティナ様かもしれませんが、だからといって安売りして良いものではありませんからね?」
「はい……」
ロビンの言葉に反省する。
魔石を欲しがる人がいるかわからないのに、そんなことを言いだすのも疑っているようで相手に失礼じゃないかと思っていた。だけど先を見越して考えなければいけないのだ。
これは全てのことに通じる。小さい子供ではない。成人の年齢は別として、デビュタントが終われば社交界にも積極的に顔を出せるようになる。そうなれば噂は直ぐに回ると知ってしまった。つまり私が自分を安売りすれば、その噂は直ぐに広まってしまう。
そのときに、私は―――― 線引きを上手くできる自信がない。
困っているなら助けたいと思ってしまう。それが本当でなくとも。その先にいる領民が困っているのでは? と思ってしまうから。でもそれは私を良いように使えると思われてしまうのだ。それって、私より継承順位が下の双子たちにまで迷惑が及んでしまう。あの子たちも軽んじていいと思われてしまうのだ。
自分だけなら、なんとかできる。でも双子たちを私の軽率な行動に巻き込むわけにはいかない。
「事前に先々のことを考えて動かないとダメなのね」
「そうですよ。だからいーっつも相談してくださいって言ってるでしょう?」
「みんなにそれ言われるわ。相談してって」
「つまりみんな心配してるってことですよ」
私は小さく頷く。
小さい頃は、本当に何も考えずにただただ面白い。とか、困ってる人の役に立つ。とかで動いてたんだな。王族としての責任、そう口にしたこともあったけど……責任の重さとかきちんと考えていなかった。
そこそこの畑は、そこそこの考えしかなかった私にもっと深く考えて行動するようにと改めて考えることを教えてくれるのかもしれない。