軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

262.そこそこの畑 3

魔術式研究機関につき受付を済ませる。

そして三人でカーバニル先生の研究室を目指した。相変わらず、ごちゃごちゃっとした廊下はうっかり倒してしまいそうだ。というか、昨日より酷くなかろうか? 私の先を歩くロビンはひょいひょい避けているけれど……良く転ばないなあと見ていると、何かに躓いてしまう。

「あっ」

「ルティア様!」

リーナの声と同時に私の前に手が差しだされ、抱きとめられた。もちろん抱きとめてくれたのはロビンだ。二~三歩前を歩いていたはずなのに。

「姫さん、ちゃんと足下見ないと……それとも手を繋ぎます?」

「ありがとう、でも大丈夫よ。小さい子じゃないんだから」

「まだまだ小さいですけどね」

笑いながら言われると、ムッとしてしまう。ロビンからすれば私が生まれたときから知っているものね。小さいと言いたい気持ちもわからなくはないけれど!

ムッとした気配を感じたのか、ロビンは私の脇と膝裏に手を入れて持ち上げた。

「え、ちょっとロビン!?」

「お姫様扱いしても良いんですよ?」

「そういう問題!?」

私が抗議すると、ロビンは楽しそうに笑いながら廊下の荷物をひょいひょい避けて進んだ。

こんなの誰かに見られたら、それこそ小さい子と思われてしまいそうだ。羞恥心八割とよくわからない気持ち二割。そんな気持ちを抱えながら、カーバニル先生の研究室にたどり着く。

ようやく下ろしてもらい、カーバニル先生に外から声をかける。中からドスの利いた声が返ってきて、私たちは思わず顔を見あわせた。

忙しいとは言っていたけど、ファーマン侯爵にそこそこの畑に使う魔術式は相談すると言ったから魔術式関連で徹夜する必要もない。

それに昨日は徹夜するほどの案件は抱えていないと言ってなかっただろうか? それとも急に仕事が入ったのだろうか??

そろりと中に入り、カーバニル先生を探す。

先生は机の下に床にうつ伏せで倒れていて、床に赤字で「許すまじ」と指で文字を書いている。近くには赤いインクの壺。一体なにがあったのだろう??

「せ、先生……?」

「ゆるさない……ぜったいに、ゆるさないわよぉ……」

「あらまー呪いでも発生しそうっすねぇ」

「呪えるもんなら呪うわよ!! なぁにがポーションをすぐさまよこせよ!!」

「ポーションのオーダーが入ったの? ランドリック団長はそこまで急いでないと言っていたけど……」

「違うわ……欲しがっているのは、フィルタード派の貴族たちよ」

「フィルタード派の??」

私は驚いて声を上げた。なぜ急にフィルタード派の貴族たちがポーションを求めているのだろうか? そもそもポーションは各領地で作っているはず。まあ……フィルタード派の貴族たちは協力的でないけれど。それでも各領の神殿や商業ギルドが頑張っていたはずだ。

なのになぜ? しかも今さらになって……。

カーバニル先生は私からポーションを受け取り、それを一気に煽る。そして「はー」とドスの利いた声でため息を吐いた。

「今、フィルタード派の貴族たちの領地で疫病が流行り始めているみたいなのよ」

「疫病が!?」

「そう。だから自分たち用に寄越せっていっているの」

「でも……神殿や商業ギルドで作っているでしょう?」

「元々の供給量が少ないのと、商業ギルトが入った分を全部売ってしまったみたいね」

「売ったって……誰に?」

「貴族以外に」

キッパリと言い切り、その理由をなんとなく察してしまう。神殿と商業ギルドは他の領と違って協力的でない貴族に率先して売りたくないのだ。

普通なら有り得ない。貴族はお金を払って優先的に見てもらおうとするだろう。しかしフィルタード派の貴族たちは、そこまでのお金がないのだ。神殿の神官たちに頼めないほどに。そしてポーションに対して懐疑的な発言を繰り返していた。だからポーションにお金を払いたくないのかもしれない。たぶん。

「ま、普段から散財してりゃあ仕方ないっすねぇ」

「そうね。だからこそ、魔術式研究機関にポーションを寄越せと言ってきたわけ」

「でも魔術式研究機関だってポーションを提供する必要はないでしょう?」

ロビンが断らなかったのか? と問いかけると、カーバニル先生は髪をかきあげながら深々とため息をつく。それはもう恨みがこもったため息だ。

「そうなんだけど……研究員の中には、フィルタード派の貴族子弟もいるわけよ。意欲のある人間をフィルタード派だからって切り捨てるわけにもいかないし」

「それはそうね。多少性格に問題があっても、優秀であるなら……研究は一応一人でもできるものね」

「そうなの。で、第一研究棟。つまり既存の魔術式を研究してるところにいてね。そこの連中が第三のここまで押しかけてきたのよぉー」

「自分で作らせりゃ、良いんじゃないっすか?」

「そんな下級の魔術師がやるようなことできるかって言いだしやがったのよ!! クソどもがよぉ……」

最後のはすごく怨念が籠もっていた。思わず、ロビンのお仕着せの裾をギュッと握ってしまうほどに。その後もカーバニル先生の恨み辛みは止まらない。

第一研究棟のフィルタード派魔術師たちは、自領の貴族たちも引き連れてきていて散々ぱら第三研究棟を荒らしていったそうだ。そして私が昨日作った第五騎士団用のポーションを見つけ、それを奪っていこうとしたらしい。

「え、もしかして……」

「それは大丈夫。さすがにアマンダを呼びに行かせてね。アマンダの雷が落ちたわ。物理的に」

「物理的に……」

「そう。ま、あの程度じゃ死なないわよ」

「そ、そう……それならいいのだけど」

物理的に落ちたって、雷の魔術式を使ったのだろうか? 室内で?? さすがに火事になるようなことはないだろうけど、それでも心配は心配だ。

「アマンダのおかげで、まあなんとか? 第五騎士団用のポーションは死守したんだけど……今度は今日中にポーションを用意しておけっていいだしてね」

「どのくらい?」

「初級ポーションだけで一〇〇ダース」

一〇〇ダース、と聞いてそこまでの量じゃないか。そう考えていたら、かける領の分と言われてしまった。かける領の分? かけるって○×○のかける?? 液体をかけるではなく??

「えっと……」

「控えめに言って馬鹿なんですか?」

「馬鹿なのよぉ。できるわけないじゃない? そしたら姫殿下が暇してるんだろうから手伝わせればいいとか言ってるの! アマンダがほーんとに怒っちゃってぇ」

「そりゃ怒るでしょうよ。魔術師団長ですし。それが現実的でないってわかるはずですしね」

「薬草の量だって足りないわよねぇ。で、今ごろアマンダがそいつら引き連れて陛下の元へ行ってるってわけ」

ロックウェル魔術師団長も大変だ。それにお父様も。

今年は疫病の流行る年。だからこそ五年前からポーションを作って準備をしていたのに……それを無視したツケなのだろう。だけど領民たちには罪はない。神殿と商業ギルドが協力してなんとか防ごうとしているはず。

そしてポーションを大量に求める理由は――――

「ポーションが大量に欲しいのって、高額で売りさばきたいからかしら?」

「可能性はあるわね。神殿も商業ギルドも自分たちに売らなかった。だから見せしめをしようとしてるんじゃないかしら? 病気になる人が増えたら、元々供給量の少ない領は足りなくなるもの」

「そうよね。そんなことのためにポーションを渡すわけにはいかないわ。でも……領民たちが悪いわけでもないのに薬が行き渡らないのは問題よね」

疫病が一つの領で爆発的に増えれば、他の領にも飛び火するだろう。余程の理由がなければ、他領との往来を止めることはできない。止められたとしても、完全な包囲網を敷けるわけではないからそこをすり抜ける人は出てくるだろう。そうなれば、他領にも病は持ち込まれる。

「ポーションを貴族たちでなく、神殿と商業ギルドに卸すならどうかしら?」

「そうね。それぐらいしかできないわね……ただ、どうやって持っていくかが問題よね」

「それこそ陸路だと略奪される可能性があるものねぇ」

「飛龍を使って行く、とか?」

「姫さんが直接届けるのは無しですよ」

ロビンに止められ、ダメか……と内心でため息を吐く。とはいえ、疫病の流行っている場所に行くのはさすがに不味いのはわかる。飛龍を使って運ぶにしても、ファティシア王国にいる飛龍はラスールを含めて三頭しかいない。

疫病が流行っているとわかっていて、ラステア国に飛龍の貸し出しをお願いするのも難しいだろう。ポーションで治るのはわかっているけども。

飛龍の乗り手はファティシア王国では私と、リーナ、そして現在特訓中のシャンテのみ。飛龍のお世話係をラステア国から雇っているけど、彼らはお世話係であってそれ以上を望むわけにもいかない。

そこそこの畑を作る前に、難問にぶち当たってしまった。