軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

259.地龍の鱗と魔術式研究機関 5

ランドリック団長はこのあとも訓練がある、といってカーバニル先生の研究室から騎士団へ戻っていった。私はその後ろ姿を見送り、リストにある量のポーションを作るための計算を始める。

薬草を沢山使うし。魔術師研究機関の畑だけで足りなければ、私の畑からも用意しなければ。なるべく多くのポーションを騎士団に渡したいし。ポーションがあれば生存率がグンと上がるのだから力も入る。

「そういえば、初めて魔力過多の畑を作ったときは初級の土属性の魔術式だったのよねぇ」

「そうね。ベルが用意してくれた魔法石に入っていたのがそれだったし」

「アレは……魔法石の中でも安価なものだった。鱗は、地龍の物だし……初期も初期、本当に簡易なものでも平気なのかしら? それとも魔力だけでどうにかなったり……? いいえ、ダメね。土地を均すのだから……」

ブツブツと呟きながらカーバニル先生は、紙に魔術式を書いていく。その魔術式をチラリと見たけど、基本的な土属性のもの。それはわかる。だけどそれ以外に書かれた文字がよくわからない。数式とか、魔術用語とかごちゃ混ぜなのだ。

研究機関、というだけあって専門用語が多い。簡単なものならわかるけれど、高度なものに関してはさっぱりだ。それを考えると、ファーマン侯爵はすごい。あんなに色々と新しい魔術式を考えつくのだから。

「……ファーマン侯爵なら、なにか思いついたりするのかしら?」

「どいうこと?」

「えっと、ファーマン侯爵は色々と新しい魔術式を開発するでしょう? だからもしかしたらそこそこの畑もヒントとか思いつくかなって。これは既存の魔術式を使うわけだし」

「アンタね……そんなの魔術式研究機関の名折れでしょ!!」

「そ、そうなんだ……」

「と、言いたいところだけど……今回に関しては良いかもしれないわね」

カーバニル先生はなぜか方針転換をした。ちょっと難しいかなって思っていたから驚きだ。どうしたのだろうかと、先生の顔を覗き込めばただ一言「忙しい」と言われた。

「忙しい……?」

「そう。忙しいの。忙しいのよ……この間の討伐で使用した魔法石の仕様報告、新たに入手した魔石の報告。それに今後課題となる鱗に関する研究……やることはてんこ盛り! 山盛り! 人手が!! 足りない!!」

「そ、そう……でも、アカデミーから新しく入ってくるのではないの?」

「新入りが使えるようになるのに、最低でも数年かかるわ。最初のうちはローテーションで研究室を回るし」

「どうして研究室を回るの? 最初から固定にしてしまった方がよくないかしら?」

「自分で思っているのと、実際の適正って案外違うのよ。だから色々見て回らせて、視野を広げてもらうの。それでもどーしても、この研究がしたいって言うなら止めないけどね。まあ適性が全くなかったら止めるけど……」

「そっか……何事も一朝一夕には行かないのね」

「そういうことよ。というか、あの子どうしたのよ? アリシア嬢」

アリシアなら、テスト休み期間は領地に戻ったと教える。するとカーバニル先生は微妙な表情をして見せた。

「アリシア嬢が領に戻ってるなら、ファーマン侯爵も戻ってるじゃない」

「そ、そういえばそうね! でもほら! クアドがいるもの! 手紙を持っていってもらえば良いんだわ!!」

「ついでに鱗を何枚か持ってってもらえたりするのかしら……魔鳥だもの。それぐらいできたりする??」

「たぶん? ロビンに聞いてみないとわからないけど」

クアドなら鱗数枚ぐらい平気で持っていけそうだけど、実際にできるかどうかはお世話をしているロビンでないとわからない。もしかしたら手紙だけしか持って行けないかもしれないし。

「ロイ様の従者ね。聞いてもらえる? ファーマン侯爵の手が空いてるなら、向こうで考えてもらっても全然良いわ。ホント、自動で報告書書いてくれる魔術式でもできないかしら~」

「報告書、そんなに溜めているの?」

「溜めてるわけじゃないわよ! アマンダと一緒にしないで!! たまたま仕事が重なってるのよ。うちだって定期的に研究結果を報告して、審査を受けなきゃいけないんだから」

「そんなこともやっているのね」

「そうよ。年一でね。定期報告会、と言う名のお披露目会があるの」

「お披露目会……なんだか面白そう」

そう呟くと、カーバニル先生は「面白いけど準備が大変」と言う。大がかりな魔術式から、生活に密着するものまで。その種類は多種多様だけど、成果として目に見える形で披露しなければならないのだ。コストが掛かりすぎても問題がある。

五年前にポーションの発表をしたときは、そんな大量の魔力をどこから引っ張ってくるのか? と結構な論争になったらしい。

なにせ魔力量が多いのは王侯貴族。だけどポーションは広く、使えるようにしたい。どこの領でも育てられるように、神殿が中心となって作業していく。そう発表したものだから、肝心の魔力はどこから? となったらしい。

王族が積極的に協力してくれているのに、貴族席にいる者が協力しないとは何事か? と反論したそうだが……。それでも普通に考えて強引すぎる。ポーションと魔力過多の畑の有用性が広く公開されたことによって、協力してくれる貴族家が増えたけれども。

それでも全ての領が協力的なわけではない。自分たちの分だけあれば良い、そう考えている貴族たちもいるのだ。そういう領の場合、ポーションの管理は完全に神殿任せになる。

貴族に権利を渡してしまうと、民間にまで行き渡らないからだ。もちろんその領を治める貴族たちはいい顔をしないけれど。それでも王家と神殿に睨まれてまで積極的に妨害しようとする貴族はいない。

「次のお披露目会はいつなの?」

「毎年、年の瀬にあるのよ。それを見てアカデミーにいる魔術式研究機関に興味のある子がうちの試験を受けるってわけ」

「つまりとっても大事な会なのね」

「そうよ。これだけの研究が、ファティシア王国ではできる! って宣伝しないとね。それに研究の内容がよければ、寄付金も増えるし」

「基本的には国からお金が出ているでしょう?」

「国からのお金だけじゃ、この大所帯を維持するのは難しいの。だから自領の問題を解決できるような研究に援助して、いち早く自領に取り入れたい貴族だっているわ」

この研究もきっとそうなるわね、とカーバニル先生は言う。そこそこの畑にすることで、病気にならないなら凄いことだ。ついでに害虫もつかなければ言うことなしなのだけど……そこまでは難しいかな?

蝗害とかね……大変なのよ。蝗は大量に発生するし、燃やしたりするのもちょっとね。飛ぶから、下手すると周りに被害が出るし。そういえばトラット帝国はその辺どうなのだろうか? ただ土地が痩せているだけなのか、それとも害虫問題があるのか。

「ねえ先生」

「なあにー?」

「害虫も一緒になんとかできないかな?」

「害虫のつかない土地にするってこと? 無理よぉ~そんなことしたら益虫も一緒に居なくなっちゃうわ。虫だもの」

「そうか、虫で一括りになっちゃうわよね……」

「でもそうよねー虫……害虫もなるべくつかない方が、収穫量的には良いわよね。でも虫って限定すると益虫も寄せ付けなくなるし……」

「難しいわね。アレもコレもって欲張りたくなるけど」

「そうね。魔力過多の畑なら、虫が付く間もなく収穫ができちゃうし……今回のはそこそこだものねぇ」

ブチブチと薬草をちぎりつつ、私は新たな問題を解決するために話し合いを重ねた。

どうすればよりよく、それでいてそこそこの畑を作れるのか。それをまとめてファーマン侯爵に伝えて、何かヒントがもらえれば良い。侯爵から病気にならないという話が出てきたわけだし、もしかしたら害虫に関しても模索しているかもしれないものね。

なにせ新しい試みは始まったばかりなのだから。