作品タイトル不明
258.地龍の鱗と魔術式研究機関 4
「そういえば、ランドリック団長もカーバニル先生に用があったのでしょう?」
「ああ、僕の用はポーションの本数を増やしてもらう依頼なので」
「えっ!? もう使い切ったの!!」
ランドリック団長の言葉に、カーバニル先生が悲鳴のような声を上げる。ポーション……そう言えば最近作ってないな。カレッジに通うようになってから、忙しくて作る暇がなかったのだ。
「この間の討伐で結構使ったからね。ポーション研究もいいけど、僕ら用のも作ってて欲しいわけだ」
「そりゃいいけどさあ……必要経費だもの」
「そうだろう? 僕たちだって実戦経験がなければ、討伐で命を落としてしまうからね。コンスタントに討伐に行かなきゃいけないし。それにポーションの効果検証だって散々協力してきたのだから、魔術式研究機関には頑張ってほしいわけだよ」
「そうだけどさぁー」
でも今手が空いてる人間いないのよね、とカーバニル先生はブチブチと呟く。それならば、と私が手を上げた。たぶんライルたちも最近は作れてないから、私たちが手伝っていた頃のようにたくさんポーションは作れないのだろう。
「私、作るわ。ポーション」
「え!?」
「あらーホントにぃ!?」
「だって鱗に魔力を込めるのは手伝えても、どんな魔術式を入れればいいかは先生たちの領分でしょう? それなら私はポーションを作るわ」
「い、いやっ……でもですね!?」
「それにカレッジに行くまでは私が作ったのだってあったじゃない」
「それはそうですけど……」
私は大丈夫よ! とランドリック団長に向けてグッと、拳を握ってみせる。
いっそのこと大きな寸胴で作れば沢山作れるかしら? そんなことを考えてしまう。しかしランドリック団長は「うーん」とか「えー」っとか考え込んでいる。
「そんなに考え込むことかしら?」
「一応、こんなのでも団長だから仕方ないのよぉ」
「子供の頃は全然何も言わなかったのに」
「そりゃあ、あの頃は勉強の延長って感じだったじゃない?」
「そうだけど……討伐を専門にしている第四と第五騎士団にとってポーションがないのは死活問題でしょう? それを私が作ることは何も問題ないと思うのだけど……」
「そうよねぇ?」
カーバニル先生とそんな話をしていると、ランドリック団長は本当に迷惑ではないか? と聞いてきた。私はもちろんよ、と返す。
「その、最近……積極的にお茶会に出かけられてると伺っていたので」
「あーそうね。でも大丈夫。テスト休暇中に出かける予定はないから」
「そういえば、どうして急にお茶会出ようと思ったのよ」
「それはね……」
「それは?」
「お、お友達が少ないからよ!」
私の言葉に二人は「あー」と揃って声を上げる。そこで納得しないでほしい。いや、事実としてそうだけれども! お友達少ないけど!!
二人に学園で新しい友達ができたことと、お茶会に参加することで社交界にも交友関係を広げたいことを話した。そうすることで入る情報もあるだろうし。
「たしかに、子供だけよりも大人のいる茶会はそこでしか得られない情報があるでしょうね」
「そうでしょう? 今のところ、流行の話が多いけれど……でも噂話が好きな夫人たちはとても多い印象だわ」
「僕もそういう情報仕入れるときありますよ。ほら、貴族家に出入りするのは必ずしも貴族だけではないですからね。下位の使用人は平民が多いですし」
「そうなの?」
「ええ。下位の貴族家から上位の貴族家へ行儀見習いをしに行くこともありますけど、掃除や洗濯、調理補助、庭師や馬の世話係なんかの下働きは通いの平民ですよ」
だからこそ、酒場に行くと色々な情報が集まる。とランドリック団長は言う。そこで見聞きしたことを「ここだけの話……」と話してしまう人がいるのだとか。それってちょっと怖い。だって悪い噂だって流せてしまうもの。そう言うと、団長は笑ってだから直接貴族の面倒を見るのは下位貴族家から雇われたり、行儀見習いに来る者なのだと教えてくれた。
「そうねぇ……下位貴族といっても、自分の家に連なる家から雇っているでしょうし。そうペラペラと喋ったりはしないわね」
「そういうものなのね。あ、そういえば……王城の方の侍女や侍従の中にも、貴族家から働きに来てる人たちがいるわね」
「その辺の方たちは、貴族家でもかなりしっかりと教育を受けてる方が多いですよ。なにせ王城の中を歩くんですからね。教養のない者をうろつかせるわけにはいきません」
侍女や侍従にもランクがあり、そのランクによっても得られる情報は変わる。しかし下はともかく、上の方になると当然ながら口は堅くなる。
「でもねぇ、そんな人たちでもお姫様が好奇心で質問したのならうっかり口は滑るかもね」
「……フォルテ。姫殿下に 嗾(けしか) けるんじゃない! ダメですよ。コイツの口車に乗っちゃあ。情報の取り扱いはとても繊細なんです。うっかり命を狙われかねないぐらいにはね」
「さ、さすがにそこまでは……ないわよね?」
そういってカーバニル先生を見ると、先生はとてもいい笑顔を向けてきた。
あるのか――……
さすがにそんな危険な真似はできない。集められる範囲の情報にしておこう。それだって普通にしていたら入ってこない情報だもの。危険を冒してまで情報を集めに行ったら、みんなに心配をかけてしまうし。それはよくない。
「……大人しく、普通に集められる範囲のものにしておくわ」
「そうしてください。でも社交に気を配るのは、良いことだと思います。今までは魔術式研究機関やうちぐらいしか交流なかったですからね」
「やっぱりそう思う?」
「姫殿下も年頃ですからね。ものすごーく、ものすっっごくイヤですが……婚約とか、そんな話が出てきてもおかしくないお歳ですし」
「え、イヤなの?」
「そりゃあそうですよ。娘を嫁に出すような? そんな気持ちです」
「アンタ……未だに独身でしょうよ」
「なに言ってるんだフォルテ! 僕は第二のパパを自にっ……いや、なんでもないです」
どうやらランドリック団長は私の自認お父様だったようだ。小さい頃から気にかけてくれているから、その感覚も当然とはいわないけど……あるのかもしれない。
「それなら尚更、ポーション作りを頑張らないとね!」
「え、あ……はい。よろしくお願いいたします」
「任せて! 下級から上級ポーションまで満遍なく、沢山作るわね」
「あ、あのですね! 本数のリストあるので……」
「でもあればあるだけ助かるでしょう?」
「そうよ。そうよ。今はうちも人手不足だから、沢山作ってもらいなさい!」
「フォルテは仕事しろ」
してるわよ! というカーバニル先生の声を無視して、ランドリック団長は私に作って欲しいポーションのリストをくれる。そのリストを見ると、結構な量が書いてあった。やっぱり寸胴がいるわね。薬草はたぶん足りるはず……頭の中で薬草の量を計算をする。
「あ、そうだ。シュルツ卿には声をかけても大丈夫かしら?」
「そこそこの畑が作れる鱗よね? そうね。アタシたちよりも、シュルツ卿は魔力量が少ないし……ついでに協力させましょう」
「協力させて良いの?」
「体験して、それがどれだけレナルド殿下に有用かって見てもらった方が良いでしょう?」
「たしかに。体験してしまったからこそ、手放せなくなるものもあるし……トラット帝国の者なら、その必要性を僕らよりずっと理解できるはず」
「そうか。私たちじゃ気づきにくい部分もあるかもしれないものね」
「そういうこと。使い勝手って意味でもね。うちの国でもまだ鱗を使った実験は始まったばかりだもの」
トラット帝国という、痩せ細った土地を知っているなら……シュルツ卿のアドバイスは役に立つだろう。それなら、イザベラ嬢も誘った方がいいだろうか? 男性の視点と、女性の視点。両方あればよりよくできるかもしれない。
「カーバニル先生。シュルツ卿の妹のイザベラ嬢も誘って良いかしら?」
「イザベラ嬢って…… あ(・) の(・) ?」
「あの? って……??」
「フィルタード派に担ぎ上げられてるって話がこっちまで来てるわよ」
「あー……うーんと……」
カーバニル先生の元までそんな話が来ているのかと、驚いてしまう。私は先生とランドリック団長にロイ兄様とイザベラ嬢が決めた密談の内容を伝えることにした。もちろん口止めも忘れない。
「今の私たちに必要なことだから、見守ってくれると嬉しいわ」
そう二人に言えば、二人は微妙な表情を浮かべて頷いてくれた。