軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257.地龍の鱗と魔術式研究機関 3

「どういうこと?」

「えっと、まだ打診前の話なんだけどね……トラット帝国の内情をもっと引き出せないかなって」

「打診前で本当によかったと思うわ。勝手にそんなことしちゃダメよ」

「それはそうなんだけど……今、シュルツ卿がファティシア王国にいるの」

「シュルツ卿ってあの?」

「そう。あの……」

私はロイ兄様と話した内容をランドリック団長のいる前で話すべきか、躊躇ってしまう。彼はこの国の騎士だ。シュルツ卿が話した内容を知れば、由々しき事態と思うだろう。

その空気が伝わったのか、ランドリック団長は片手を上げ、もう片手は胸に置いた。

「大丈夫です。姫殿下。僕はここで見聞きしたことは絶対に他言しません」

「でも……」

「絶対にです。貴女の母君、カロティナ様に誓います」

「お母様に?」

「ええ。僕の女神様ですからね」

女神様、といわれそう言えばランドリック団長はお母様を信奉していたなぁと思い出す。若かりし頃の団長をお母様が助けたのだとか。

「わかったわ。その、まだ他言しないでほしいの……シュルツ卿が言うには、トラット帝国の皇帝はファティシア王国を狙っているそうだから。でも皇太子であるレナルド殿下は考えが違うみたいで、今、うちからの食糧支援を打ち切られたら大変なことになるわ」

「ああ……まあ、その噂は……多少なりとも聞いたことがあります。トラット帝国は拡大を続けていますが、だからといって国内が裕福になっているわけではありませんからね」

「そう。やっぱり噂程度にはあがっているのね?」

「そうですね。いくら条約を結んでいても、向こうにすれば我が国を羨ましく思っているでしょうし」

民間の噂レベルです。と言うけれど、民間の噂になるぐらいにはトラット帝国を脅威だと感じている証拠だ。脅威を脅威と感じる。それは正しい感覚ともいえた。

その辺がフィルタード派とその他の人たちの差だろう。どうして自分たちだけ大丈夫だと考えているのか、本当に謎だ。

「私ね、レナルド殿下からもっと情報をもらいたいの」

「情報……ですか? それは密偵では集められないものなんですか?」

「密偵が集めた情報を私が知ることができると思う?」

「それは、まあ……危険ですしね」

「そうよね。危険な行為だと思う。だけど私はあの国の情報が欲しいの。後手に回らないために。それに一番情報源として頼りになりそうじゃない?」

私がそう言うと、ランドリック団長は「たしかに」と頷いた。

「情報源としてはこの上ないですが……しかし、その情報を信じられますか?」

「そうよね。その問題もある。だけど……彼が今、もっとも求めているものを提供できるとしたら?」

「帝国の皇太子が一番求めているものが、魔力過多の畑ではなくそこそこの畑、と言うことになるのですが……どうなんだ? フォルテ」

「――――たしかに、今彼が求めているものだと思うわ。うちから食糧支援を受けているでしょう? でも全部を自分の領内で消費するわけにはいかない。たぶん一部は王都に渡さなければいけないでしょうね」

「レナルド殿下が交渉して、自分の領のためにやったことでも?」

「そんなの関係ないわよ。彼は皇太子であって、皇帝ではないもの」

そうなるとやっぱり自領での食料自給率が上げられるのは、願ったり叶ったりだろう。それに私が行く必要のない、安全な方法での 魔力過多(そこそこ) の畑だ。魔術式と魔力を鱗に込めればいいのだから。

「じゃあ、やっぱり交渉材料になるわよね?」

「そうね。なると思うわ……最初はそこまで多く魔力を込めないで渡せば良いもの。お試し程度でね」

「しかし……なぜそこそこ何です?」

「それはね、ロイ兄様が言っていたのだけど……魔力過多の畑が作れてしまうと、他の領に狙われる可能性があるんじゃないかって」

「ああ、それは……ありそうですね。皇太子だからと言って、その地位は盤石じゃない。他の継承権持ちはいつだって皇太子の失脚を狙っているでしょうから」

「そういうのも情報として流れてくるの?」

ランドリック団長に問いかけると、彼は小さく頷く。どうやら団長は個人的に情報を集めているようだった。なぜそんなことをしているのかと聞けば、趣味だと言われてしまう。

「趣味?」

「ええ。冒険者たちの集まる酒場に出向いて、色々話を聞くのが趣味なんですよ。そうして集まった情報を精査する。必要であれば上にも報告を上げますが」

「そうなの??」

「そりゃあ、僕もこの国を護る騎士の一人ですからね。末永く、平和が続いてほしいと願っています」

「そうなるように、私たちは努力しないといけないわね」

「そうねぇ。だけど……そこそこ、そこそこねぇ……」

「難しい?」

地龍の鱗に魔術式と魔力を込めて、それを魔力量の少ない人に使ってもらう。そういう実験自体はしているそうだ。スイッチ、とアリシアは言っていたけど……使う、止める、が普通の人でも上手く使えるか、それが大事らしい。

なぜならそれがあれば、領民たちにも鱗を渡すだけでいいから。

この五年で浮き彫りになったのが、高位貴族が魔力過多の畑を作りに畑まで出向く。その過程で問題が生じることだ。主に貴族側に。

下位の貴族であれば、多少の畑仕事もそこまで気にならないけれど高位貴族が畑に行くことはまずない。よくて庭や公園を散策するぐらい。

王族たる私たちが率先して魔力過多の畑を作ってきたけど、高位貴族は渋々……と言う場合も多いのだ。そういう場合は大抵問題を起こす。畑に不似合いな豪華な服を着て、どこが汚れた、歩き疲れた、と領民たちに文句を言う。文句を言うだけならまだしも、賠償請求をしょうとした高位貴族もいた。

もちろんその高位貴族には、事前に動きやすい格好で行くようにと王家から通達があったにも関わらず豪華な格好で行ったのだから……とお父様から咎められた。

神殿の神官たちが同行している場での出来事だったから、お父様まで報告がいったのだ。本当に同行してくれて助かった。知らなければ、きっと領民が不利益を被っていただろうし。

「鱗に込める魔力はもちろん協力するわ。だけどレナルド殿下の領民が不利益を被らないようにしたいし、それに……そこそこの畑が作れるならうちでも役立つと思うのよね」

私がそう言うと、ランドリック団長は首を傾げた。基本的に魔力過多の畑は薬草を育てるために作っている。主にポーションの材料になるからだ。そして季節問わず、必要な作物が育てられている。たとえば小麦とかね。

「これはファーマン侯爵からの報告なのだけど、魔力過多の畑で育てた作物って病気にならないのですって」

「病気にならない、ですか?」

「そう。作物にも病気はあるでしょう? ジャガイモとか、根腐れをおこす病気もあれば葉っぱに黒い点がついたりするような病気とかね」

「魔力過多だと、そうならない……魔力が病気を退けてると言うことですか?」

「魔力によって均された土地だからかもしれない、っていってたの。だからそこそこの畑でも魔力によって均された土地なら、病気にならないかもしれないじゃない?」

それって農業を主流としている領にとってみれば、ものすごい大革命だ。いや、領だけじゃない。他の国にとっても……だって年によって収穫量が大幅に減ることがなくなる。

それに冷夏や猛暑といった天候不順にも左右されない可能性もあるのだ。

「なるほどねぇ。ついでにその実験もしてみたい、ってところかしら?」

「そうなの。だってどっちにしたって損はないでしょう?」

「そうね。だけどファティシア王国内では、今、その実験に協力できそうな領はファーマン侯爵領とローズベルタ侯爵領だけ。どちらもそれなりに安定した土地だし……それよりも過酷な環境下で試したいわよねぇ」

「過酷な環境下で問題なければ、うちの国だって問題ないでしょうしね」

「でしょう? だからそこそこの畑をトラット帝国で作りたいの」

お互いに利益がある。その上で、向こうは魔力をこちらから提供されるわけだから恩を売れることになる、というのがロイ兄様の考えだ。

ただそれにはそこそこの畑が作れること、が条件となる。

「そういうことならねぇ……頑張ってみようかしら」

「私も協力するから、できればこの休みの間になんとかしてほしいの!」

「ちょっとーずいぶんと急ぎね!?」

「いいじゃないか。フォルテ。いずれ国のためになるのだし、頑張れ頑張れ」

「アンタに応援されるのなんかイヤだわー」

カーバニル先生の言葉に、ランドリック団長が「こういう奴なんですよ」と肩を竦めるのだった。