軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254.駒の動かし方 2

事態はどんどん複雑に。物語と違って、現実はあまりに情報が多すぎる。

どれが正しい情報で、どれが私たちを欺く情報なのか……

「なんだか推測ばっかりになってしまったわ」

「それはまあ、情報が出そろってないしね」

「そうなんだけど……」

「それでも、ファティシア王国が狙われている。と言う事実はアリシア嬢の話す物語と変わらないんじゃないかな」

「アリシアの話からはだいぶ、変わっていると思うけど……」

「一つだけ、変わらないものがあるだろ?」

変わらないもの。と言われ、私は少しだけ考える。変わらないもの。ファティシア王国の国力が上がっても、下がっていても変わらないものは……

「聖なる乙女、ね?」

「そう。トラット帝国が欲しがっているのは、聖なる乙女だ」

「トラット帝国の思想に都合の良い、聖なる乙女……よね」

「そうだね。そんな存在はいないんだけど……歪んだ願いが、そのまま聖なる乙女のイメージとして伝わっているんだろうね」

「凄く迷惑な話ね」

トラット帝国に併合された国の人たちは、きっと聖なる乙女を恨んでるだろうな。聖なる乙女を探すためだけに、国を蹂躙されたのだから。

そう考えると、聖なる乙女のイメージはトラット帝国では悪いものになっているのではなかろうか? 悪の象徴にされていそう。きっと聖属性を持っている人は、バレないように隠すわよね。私なら絶対隠すもの。

カツン、と駒が置かれ一つ取られてしまった。

ロイ兄様はまだ考えことをしている。

「……ねえ、ロビン。カタージュではレイラン王国と交易をしようと思わなかったの?」

「あー……そういえば、そうですねぇ。どうしてだったかなぁ」

「ロビンも知らないの?」

「俺はそんなにカタージュで生活してませんからね」

「そういえば、そうよね……小さい頃から一緒だもの」

「一時的に離れていたときはありますけど、基本は一緒でしたからね」

「そうよね……」

「気になるなら確認しますか?」

「調べられるの?」

「まあ、旦那様にお願いすることにはなりますが」

お爺様に迷惑をかけたくはないな、とは思うけれど……情報はないよりあった方が良い。追放されたレイラン王国の術者が何を考えているかわからない今、レイラン王国ではどんな罪を犯したのか知る必要がある。

何を考えて、レイランの術者はトラット帝国の皇帝の元にいるのだろうか?

私はロビンにレイラン王国の情報を調べてもらうようお願いした。今までならカタージュとレイラン王国の間にある森が邪魔をしたが、カティア将軍にお願いすれば飛龍を借りれるかもしれない。

あの森を普通に抜けるのはちょっと難しいと思うのよね。魔物が多いわけだし。

飛龍がいれば、陸路を行くよりも安全度が格段に上がる。難しいことを頼んでいるのだもの。なるべく安全に移動できる手段を確保したい。

「あとでカティア将軍に手紙を書くわ」

「そうしてください。カタージュとラステア国とで交易を始めると連絡がありましたから、その つ(・) い(・) で(・) にレイラン王国を見てくるぐらいは平気でしょう」

「ひいお祖母様のときは、ラステア国とレイラン王国は交易していたらしいもの。ちょっとぐらいはいけると思うのよね」

ロビンと一緒にうんうん、と頷き合う。交易のついで。新しい販路を広げるために、商人なら多少危険でも隣の国に行くことだってある。

そういうことにしてもらおう。

「さ、次はここ置いてください」

「わかったわ!」

ロビンに言われるままに駒を置く。また一つ、駒を取った。勝ってる……で良いのかしら?

ロイ兄様は駒を見つつ、まだ考え込んでいる。

「うーん……やっぱり情報が足りないな」

「そりゃあ、私たちが手に入れられる情報ってそこまで多くないもの」

「いっそのことシュルツ卿を締め上げて、とれるだけ情報を取りたい気分だな」

「あのシュルツ卿相手にそんなことできる?」

「難しいだろうね。かなりの手練れだし」

とはいえ、できないわけではない。とロイ兄様は言う。シュルツ卿が素直に情報を提供するとはとても思えないのだけど、どこら辺に勝機があるのかしら? それよりはイザベラ嬢の方が良いのではないかしら? 彼女ならこちらに協力してくれそうな雰囲気がある。

「ロイ兄様、どうやってシュルツ卿に勝つ気なの?」

「シュルツ卿が欲しているものは、イコールとしてレナルド殿下が欲しがっているものだよね」

「そうね。シュルツ卿もイザベラ嬢も、レナルド殿下の不利益になることはしないと思うわ」

「ならレナルド殿下の利益になるものを提供すれば良い」

「レナルド殿下の利益になるものって……ポーション?」

パッと思いつくのがポーションだけだったので、そう答える。するとロイ兄様は首を振った。

「彼が一番欲しているのは、魔力だよ」

「魔力……ってもしかして私たちがトラット帝国に行くの!?」

「さすがにそんなリスクの高いことはしないよ。ほら、龍の鱗」

「龍の鱗? ……あっ! もしかして地龍の鱗!?」

「そう。地龍の鱗に、土の魔術式を入れる。そして魔力を込めれば?」

「もしかして魔力過多の畑が作れる……?」

「可能性はあるよね」

「……可能性の話?」

てっきりできるのかと思った、と言えばロイ兄様は苦笑いを浮かべる。だけどカーバニル先生を初めとした、魔術式研究機関の人たちに協力を頼めば実証実験はできるのではなかろうかと。

「実証実験の場所をトラット帝国……いや、レナルド殿下の領地で試すのはどうかなって」

「ファティシア王国では試さないの?」

「うちの国だと土地が痩せ細って困っている領地がないからね。どうせ試すなら、少ない魔力量で痩せ細った土地を通常の土地に戻せる……ぐらいがいいかな」

「魔力過多の畑を作る、と言うわけじゃないのね?」

「そこまでしてあげる必要はないかな。うちから食料を輸出してるわけだし」

ほどほどが良いんだよ、と言われ私はそんなものなのかな? と首を傾げる。どうせなら、みんながお腹いっぱい食べられる方が良いと思うのだけど。

「どうしてほどほどなの?」

「奪われないためだよ」

「奪われないため?」

「うちの国の食糧自給率が向上したのは、魔力過多の畑のおかげもあるけど……ある程度は元々国内で生産できているからなんだよ」

「それはそうね。基礎があってこそ、生産性があがったわけだし」

「現状のトラット帝国は基礎がないだろ?」

「基礎がないところに、魔力過多の畑がダメと言うこと?」

「自分の領地は痩せたままなのに、隣の領地だけ大量に食料ができたらどう思う?」

「……どうして? って思うわね」

「そう。そしてトラット帝国の考えを反映するなら、奪う方向に舵を切るだろう」

そう説明されて、なるほどと頷く。輸入している食料だって、全ての領民を賄える量ではない。だけど自領の生産率が多少上がれば、飢える領民を減らすことができる。

一気に増えるとバレてしまうが、徐々に増える分には気づかれづらい。余過剰分は、倉に入れて隠しておくこともできる。さすがに皇太子が直接治めている領の倉を襲撃する人間はそういないだろう。

下手に内乱を誘発させないためには、ほどほどが良いということか。

「なるべく自然に、自給率を上げられるようにすれば良いのね?」

「そうだね。きっと彼も今のままでは、いつかファティシア王国に援助を打ち切られたら……と思っているはずだ。だからこそシュルツ卿たちに適度な情報を流すことを許可しているはず」

「もっと精度の高い情報を得るための、交渉材料として使うのね?」

「そう。それに龍の鱗自体はラステア国に行かないと入手できない。でも龍の鱗に入れられる魔術式を研究しているのは、うちの人間が中心だ」

ラステア国とファティシア王国。

その両方の力が合わさって、初めて地龍の鱗は使えるようになる。

魔力量の少ないトラット帝国の人たちにも使えれば、レナルド殿下の支持基盤もきっと盤石なものとなるだろう。ファティシア王国としても、このままレナルド殿下に継いでもらいたいのだから。

「さて、チェックメイト」

「えっ!?」

いつのまにっ!? と悲鳴を上げれば、盤面はどうみてもロイ兄様が勝っていた。

おかしい。さっきまで勝っていなかった?? ロビンを見上げれば、肩を竦めている。

「ロビン……」

「元々負けてたんで、これ以上はどうしようもないですよ」

「そんなぁ……」

私は盤面を見ながら、大きなため息を吐いた。