作品タイトル不明
17.相棒を求めて③
いやあ、暗いなあ。勢いで飛び出したけど明日にすりゃあよかったか。いや、その一日で俺の相棒が別の奴にとられたら目も当てられねえ。
一応暗いながらもまだ周囲の様子は見えるので、マジで見えなくなるまで森を彷徨う事にする。
そうして彷徨うとすぐに最初の魔物を見つけた。
「ギャ!ギー!!」
怒りながら登場したのはお馴染みゴブリン。普段は出てきてもテンションが上がる事はないんだが、今日は違う。
「お、お前なのか?」
「ギャ?ギャ?」
嬉しそうに問いかける俺に戸惑った様子を見せるゴブリン。
もしかして俺の相棒はこいつなのか?でもゴブリンが仲間になる話ってあったかな?転生してゴブリンスタートの話は読んだ記憶があるんだが・・・。
取り敢えず一歩踏み出すと、途端に木の棒を構えて警戒するゴブリン。
「おいおい、そんなに警戒するなよ。お前なんだろ?」
「ギー!ギャあ!」
更に一歩踏み出すと、我慢できなくなったのか棒を振り上げながら俺に駆け寄ってきた。
カワイイ奴だ。俺がそこを優しく抱きしめれば、心が通じて仲間になってくれるはず。
バシッ!
「っ!大丈夫!怖くないぞ」
まあ、最初の一撃は仕方ない。向こうも警戒してるからな。痛いけど身体強化使うまでもない。
バシッ!
「いてっ!ちょっと、マジで痛えんだけど?後ろに下がるのやめてくれねえ?」
抱きしめるのに、あと一歩なのに俺が近づくと後ろに下がりやがる。
バシッ!
「痛ええ!てめえ!あんまり調子乗ってんじゃねえぞ!・・・・あっ」
気付いた時には俺のこん棒で頭が潰れたゴブリンが・・・
よし、気持ちを切り替えよう。多分俺が探していたのがこいつじゃなかったな。次行ってみよう!
「シー!!」
「お、お前なのか?お前だよな?お前しかいない!!俺はお前だって信じてたぜ」
目の前には黄黒蜘蛛。黄色と黒の警戒色している蜘蛛そのまんまの名前だ。こいつは尻から出す糸だけ気を付けていれば簡単に倒せる魔物だけど、油断して糸に絡まれると一人じゃもうどうしようもない。そんな魔物が今俺の目の前にいる。
ただ、このタイミングで出てきてくれたんだ!蜘蛛が仲間になる話はいくつも読んだ事があるから絶対こいつが俺の相棒だ!そんでこいつを仲間に出来れば蜘蛛って最終進化はアラクネって人型になるんだろう?そうなるとムフフな事が出来る訳だ!やっぱりこいつだよ。こいつが俺の相棒だったんだ。
「よし!こっちに来い!俺がご主人様だ!」
一歩踏み出すが、蜘蛛に動きは見えない。虫系は感情が見えないから次の動きが読みつらいんだよな。まあ、今回は全て受け止めてやるぜ!
もう一歩踏み出した所で蜘蛛が動いた!回転して尻を俺に向けてくる。普通なら蜘蛛の動きに合わせて俺も動くんだが、今回は違う。全く動くことなく腕組みドヤ顔仁王立ちで蜘蛛から出された糸に絡めとられる。よし、これで俺は身動きとれないから警戒しなくていいぞ。
糸に絡めとられた俺を見て安心したのか警戒する事無く蜘蛛はこちらに近寄ってくる。で、俺の所まで来ると足を使って器用に糸を巻いて更にぐるぐる巻きにする。そして完成したのが首から下が糸でぐるぐる巻きにされた俺。何故首から下だけなのか・・・こいつは捕まえた獲物の頭を試し食いする習性があるからだ。そして当然の如く俺の頭に蜘蛛がかじりついてくるが、身体強化した俺の頭にその牙は通らない。
「ハハハ、無駄だ。お前の牙じゃ俺はかじられねえよ。だからいい加減諦めてこの糸を解いて、俺の仲間になれ。そしたら絶対アラクネまで進化させてやる」
そうは言っても所詮は虫の魔物だ。俺の言葉なんか理解しちゃいねえんだろう。しばらく頭をガジガジしていたが、ようやく諦めて離れてくれた。
「よーし。ようやく無駄だって分かってくれたか!だったら早くこの糸を解け!そして俺の仲間になれ!」
・・・・・
・・・・・
「・・・・あれ?おーい。蜘蛛ぉ?どこ行った?いるんだろ?」
・・・・・
「・・・え?マジでいねえの?はあ?俺置いてどこか行ったの?」
たまにでかいカナブンみたいな魔物が糸でぐるぐる巻きにされて放置されているが、あれは固すぎて食えないからだ。・・・え?俺カナブンと同列なの?
「おい!マジでふざけんなよ!蜘蛛!今度見つけたら脚全部もいでから頭カチ割ってやるぞ!」
いや、怒る前にこの状態をどうにかしなくちゃならねえ。糸でこれだけがんじがらめにされていると、流石の俺でも力で抜け出すのは不可能だ。そう言えば蜘蛛の糸は確か火に弱かったはずだから、このまま火魔法で焼けば・・・・いやいやいや、俺の火魔法だと威力あり過ぎて自分も消し炭になっちまう。やべえ、お手上げだ。誰か通りかかってくるの待つしかねえ。
■
あれから誰も通りかかる奴は現れず、いつの間にか俺は眠っていたらしい。誰かが近づいてくる足音で俺は目が覚めた。辺りはうっすら明るくなっているから一晩寝ていたようだ。
「おおい!誰か知らねえけど助けてくれえ!」
足音がした方に一縷の望みをかけて声をかける。
「ギャ!」
「ギャギャ!」
・・・・・
・・・・・おうふ。ハズレ引いちまったぜ。
「ふざけんな!ゴブリンなんかお呼びじゃねえんだよ!今日の所は見逃してやるからさっさと消えろ!」
「ギャア!ギャ!」
「ギャギャ!」
「あ、嘘。ごめん。俺が悪かった。許して」
こいつら俺が手も足も出せねえってのに木の棒で頭をボコボコ殴ってきやがる。しかも謝ってんのにやめてくれねえ。なんて狂暴なゴブリンだ。まあ、身体強化使っているから殴られても痛くはねえが、このままずっと殴られ続けると、流石の俺も魔力が切れて死んじまう。どうにかしなきゃなんねえ。取り敢えず身動きはとれないけど転がる事が出来るのは分かってる。
このまま転がって逃げるか?・・・・いや、待て、俺が・・・ゴブリン如きに逃げる?
「そんな情けねえ事出来るかああ!転がるしか出来ねえんだったら、轢き殺してやる!」
そうして転がると、油断していた2匹は呆気なく轢く事は出来た。
・・・出来たんだけどなあ・・・
「ギャ!ギャ!」
「ギャー!、ギー!」
轢いた2匹は糸に絡めとられて身動きが取れなくなった。それは良かったんだけど、そこから逃げようと大声で騒ぐから滅茶苦茶うるせえ。
「こっちから聞こえて・・・え?何だこれ?」
「ゴブリンなんて無視すれば・・・・は?」
おお!ゴブリンが騒いでくれたおかげ誰か来てくれた!こいつら有能だ!有能ゴブリンだ!
「おおい!誰か知らねえけど助けてくれえ!」
「ええ!!人がいる!どこ?」
「今の声ってまさかベイルさん?」
おお!俺の声だけで分かってくれたか!そして俺も一人は誰か声だけで分かったぜ!
頭の方に回ってきた人物の顔を見てそれが正しい事が分かった。
「そうだ!ベイルだ!君は2級のショニーだろ?」
「違います。ショータンです」
・・・・・・
「そうそう、ショータンだ。ショータン。覚えてるぜ。いきなりで悪いがちょっと助けてくれねえ?」
「えっと。まず確認ですが、遊んでるわけじゃないですよね?」
おいおい、これのどこを見たら俺が遊んでるように見えるんだ。
「そんな訳ねえだろ。どうみても絶体絶命のピンチって奴じゃねえか」
「全然そんな風に見えないんですけど・・・」
「うお!何だこれ?」
ショータンが戸惑っていると別の声と複数の足音が聞こえた。ショータンのパーティメンバーだろう。
「みんな来たか。驚くのも無理はないがこれがベイルさんだ」
・・・いや、その紹介はどうなんだ?首以外は蜘蛛の糸で巻かれてそこにゴブリン2匹くっつけた俺を通常の俺みたいに言うのやめてくんない?普段の俺はこん棒と大鉈を装備して華麗に立ち回るイケてる好青年なんだが?
「いや、変人で有名だから知っているけど、俺の想像をぶち抜いてくるなんて」
「これ、どうやったらこんな状況になるんだ?」
「『4馬鹿』でもこの人が頭一つ抜けてるって話は本当だったのね」
・・・・・色々気になる事を言っているが、今は助けてもらわないといけないから我慢だ。
「へえ。そういう事なんですね」
どうしてこうなったかを説明したら納得してくれた。ショータン率いる『慎重に着実に』のメンバー。
「でも何で黄黒蜘蛛が見逃したんだろう?」
「いやあ、そこは俺から滲み出るヤバい気配を敏感に感じ取ったんだろう」
本当は違うけど、あんまり身体強化の事は知られたくねえ。別に身体強化なんて誰でも使えるけど俺のは転生特典なのか上昇率が半端ねえんだ。ゴブリンや蜘蛛の攻撃でダメージ受けないってのは3級相当だけど、どこでどうバレるか分かんねえからな。
「うーん。不味そうだったからとか?」
「ああ!それな!ベイルさん食べたら腹壊しそう」
「ヤバい気配って毒になりそうとか思ったのかな?」
「そっちだ!絶対毒だと思われたんだ!」
・・・おーい。君たち好き勝手言っているけど本人目の前にいるんだよ。助けてくれるみたいだし許してあげるけどさ。器の小さいゲレロやトレオンだったらキレ散らかしてるよ。
「えっと。取り敢えずさっきからゴブリンがうるさいんで、こいつら殺してもいいですか?」
「いいに決まっているだろ!こいつらは人が動けないのを良い事にボコボコ殴ってきた凶悪なゴブリンだ!さっさと殺してくれ!」
「・・・いや、別に凶悪でもなくないですか?普通のゴブリンだと思いますよ。っていうかそれで何で無傷なんですか?まあ、ベイルさんだから疑問に思うのも馬鹿らしいですけど」
呆れたように言うショータンが仲間に合図をするとゴブリンの断末魔の叫びが響いた。
「よっしゃ!ゴブリン共ずっと、うるさくてうるさくて。サンキューな。魔石と討伐報酬はそっちがもらっていいぜ」
「いや、たった1000ジェリー別にいらないですよ。それよりもベイルさん、僕たち今からフリーの討伐に向かう所だったんですけど?」
ああ、言いたい事は分かってる。こういう所でゴネても何も得してねえってのは3級組合員なら良く知っている。こういう時の相場は大体一日の稼ぎの半分だ。こいつらは2級だから一人1万ジェリーって所だろう。
「えっとお前らのパーティ全員で7人だったか?なら7万ジェリーでどうだ?」
「はい、それでいいです。みんなもいいよな?」
「ああ、特に危険もなく街に戻るだけで1万なら文句はないぜ」
「出発は明日にすればいいし、タダで一万得した気分だから問題ないわよ」
「いいぜ」
うん、うん、ここでごねると今度は逆にそっちが立場悪くなるからね。それをよく分かっているからすんなり受け入れてくれた。良いパーティじゃないか。俺はちょっと出費が痛いけどな。まあ、ここで俺を殺して金目の物を奪っていく奴もいるけど、コーバスじゃ、ティッチ達のおかげか、あんまりそんな悪党はいない。
「じゃあ、ベイルさんを荷車に積むぞ!糸に触らないように気を付けろよ!」
ショータンの指示の元、みんなテキパキと動いていく。注意されなくても糸に触れないようにボロ布越しに扱うのは流石だ。