作品タイトル不明
164.幻の芸人一座②
「おい、これで本当に大丈夫か?ギャンブル仲間にも声かけたんだけど・・・」
「折角やるんだから笑いは最初だけとかやめろよ。俺も馴染みの娼館に声かけてんだからな。これで失敗したら・・・いや、娼婦との話のタネになるか」
「ねえ!僕全然前が見えないんだけど?この兜で合っているの?」
不安そうな3人を前に、リーダーの俺が正面から意見を受け止める。
「大丈夫だ。王都に大道芸の留学に行った俺を信じろ。俺達なら大道芸人の6級を目指せる」
「大道芸人に級とかねえだろ」
「留学じゃねえだろ」
「ねえ!聞いてる!僕前が見えないんだけどお!」
よーし。それじゃあ、ベイル一座のメンバーを紹介するぜ。
ジャグラートレオン!
顔を白く塗って、赤鼻をつけたピエロ。服は継ぎ接ぎだらけだが、それがピエロの正装だ。衣装屋のおばちゃんから、『要らない端切れ処理出来て、更に売れるなんて一石二鳥だね』なんて喜ばれたが、ピエロは笑われるのが仕事だからな。更に頭に松明装備させれば完璧だ!光ってペカって観客大興奮間違い無し!GO!GO!
次は!カラーリングゲレロ!
最初は4色に塗ったゲレロに盾積みあげる芸をしてもらおうと考えていたが、流石にそれは2番煎じだ。
って事でゲレロは上裸は同じだが、あの時と違い下はズボンじゃなくて半ズボンに変更だ!更に4色なんてちんけな数じゃねえ!虹色だ!『7色のカラーリングゲレロ』として、全身を塗り、前回よりもパワーアップしたゲレロを今日、皆様に披露しよう。
最後!ジェダイモレリア!
本来であれば白い道着みたいな服に茶色系のフード付きローブ着せる予定だったんだが、流石に見た目が弱い!
って事で急遽フルフェイス型の兜を黒に塗って、目と口の部分も黒い布で覆い、黒い服に黒いマントを装備した『ダークサイドジェダイモレリア』だ!
モレリアは既に暗黒面に堕ちているからこっちの方がはまり役だろう。
そしてラスト!座長の俺!
ビラビラついた一張羅に、王都で買った派手な孔雀みたいな羽のついた帽子!完璧だ!これで最初の掴みはOK!俺の紙芝居は聞けば、人を引き付ける内容だから、あとは3人がその芸でいかに観客を引き寄せるかが重要だ。そこでその日の売り上げが決まる。まあ、今日は初日だから目標は10万だな。
「10万?それはちょっと厳しくない?」
「ここで一番稼げている芸人でも良い日で1万とちょいって聞いたぞ」
「最初は目標無しにしねえ?」
バカヤロー、既にそれだけ入る帽子も準備してんだよ。こいつら芸人としての意識が低すぎる。常に上を見ねえと後ろからぶち抜かれるぞ!
「お前ら!情けねえ事言うな!今日が伝説の始まりなんだ!10万なんて俺にとって最低ラインだからな、しっかりついてこい!」
そう叫んで、布で囲んだだけの控室から飛び出して準備を始める。
「おい、今から準備かよ、段取り悪いぞ」
「何だよ、あの衣装!出オチじゃねえか!」
「おい!一人手を引かれて出てきてるぞ!あいつモレリアか?前見えてねえのか?」
「さっさと始めろよ!」
「何だ?あのデカい帽子?どんだけ金貰うつもりなんだ?」
・・・うーむ、この記念すべき日の観客は最悪みたいだ。半分以上が見知った連中だ。しかもパーティ単位でウイスキーの樽を囲んで酔っ払っている奴らも多い。
けど、俺は大人だし、この一座の座長だからな!これぐらいでへこたれる訳にはいかねえ。
「はい!どうもー!今日旗揚げのベイル一座、座長のベイルです!」
「知ってるっての!引っ込めー!」
「てめえは呼んでねんだよ!」
「早く笑わせろよ!つまんねえぞ!」
・・・・・・・ふうー。落ち着け。
「よし、お前ら始めて良いぞ」
「マジで?この空気で始めるのかよ」
「やる前から雰囲気最悪だぞ!」
「ずっと言っているけど、前が見えないんだけどお!」
座員が文句言っているけど、無視して強制的に芸を始めさせると、すぐに周囲から声があがる。
「おお!何だふざけた格好した奴、何個上に放り投げている?落とさねえって凄いな」
「こっちは指から色の変化する光出してる、どうやるんだ?」
「こっちの7色の奴は盾を積み上げ始めたぞ。地味だけどこれ凄くない?」
よーし、初めて見た一般人の反応は上々だ。ただ、冷やかしの馬鹿どもは、純粋に芸を楽しめねえぐらい心が濁っているので、酷い言葉を投げてくる。ただ、折角の記念日だ、今日は我慢だ。無視して紙芝居を始める。
「むかし、むかしある国に、滅茶苦茶イケメンで最強の男がいました」
・・・・
「・・・おい、それ最初で話終わっているだろ」
「そこからどう話を展開するんだ?」
「どう考えても面白くならねえだろ。俺には分かる。」
「ああ、分かった。ここから竜や悪い奴らを倒して、最後はたくさんの女侍らせて終わりだ。ベイルが考える話は、この程度なもんだ」
・・・おいおい、話は黙って最後まで聞くって小さい頃に教わらなかったのか?
・・・・
ほらみろ!一般人の観客も、俺の一小節の文だけで期待に満ちた目から、白けた目に変わったじゃねえか!
「その男、小さい時は悪い貴族に騙されて、散々こき使われて、自分の価値を分かっていませんでした」
「ハハハ!そいつ馬鹿じゃねえの!」
「どうせ大した価値なんて、元々ねえんだよ」
「自分を過大評価しているだけのカス野郎の話か?」
・・・・・ふうー。落ち着け。
「ベイル。お前キレんなよ」
ゲレロは何を心配してんだ?芸人の俺が舞台の上でキレる訳ねえだろ。キレ芸は俺の得意ジャンルじゃねえんだよ。
「騙されて魔物との闘いに明け暮れる男にある日、黒竜討伐の命令が下されました」
「黒竜!!!!はあー、いきなり伝説の魔物出してくるとか終わってんな」
「最初から終わってただろ」
「周りの連中も凄いと思ったのは、最初だけだったな。そこから同じ事の繰り返しで何も変化がねえ」
「もういいや、つまんねえ」
「下らねえ時間とらせやがって!死ね!」
おいおい、たった3小節で見切られたぞ。こいつら見切り速すぎだろ。しかもつまんねえからって物投げてくるんじゃねえ!
「お客様!舞台や演者に物を投げるのはお止めください!」
紙芝居を止めて、丁寧な口調で必死に呼びかけるが、連中面白がって、どんどん投げてきやがる。よく見れば一般人も混ざって投げてきている。
「おい、こっちの方が面白いじゃねえか」
「だな、あの盾崩したら勝ちな!」
「うるせえ!止めて欲しけりゃ、もっと面白いもんみせやがれ!」
何か分かんねえけど、観客が俺達に物当てる遊びを始めた。
ああ!もう滅茶苦茶だよ。この街の連中好き勝手やりすぎだろ。
「やめて下さい!演者に向かって物投げるのやめ・・・・痛っ!」
「よっしゃ!命中!俺の勝ちだな」
「バーカ!見てろ!俺がすぐに当ててやるよ」
必死に止める俺の顔に馬鹿どもが投げたジョッキが当たった。
・・・よーし、分かった。もの投げる方が面白いんだな?だったらそっちで面白いもん見せてやるよ!
そうと決めたら、たった今、ぶつけられたジョッキを拾い、俺にぶつけた連中が囲んでいる樽に向かって、思いきりぶん投げる。狙い通りジョッキが当たると、樽ごと弾け飛んで当たりにウイスキーが飛び散る。
「うわ!おい!てめえ!俺達のウイスキーに何しやがる!」
「濡れたじゃねえか!」
「こいつ客に向かって物投げてきやがった、信じられねえ」
「つまんねえ芸を見せた方が悪いのに逆切れかよ」
当然ウイスキー飲んで酔っ払っていた馬鹿どもと、飛び散ったウイスキーで濡れた連中が殺気立つ。
「おいおい、お前らが始めた遊びだ。こっちの方が面白いんだろ?だったらこっちで楽しませてやるよ」
そこを煽ってやると更にキレた連中がものを投げてくるので、俺も構わず投げ返す。
「おい、何でこうなるんだよ。・・・おい!俺の方は狙うな!折角調子よく積み上げてんだぞ!」
「ねえ、何かおかしくない?打ち合わせの時にこうなるって言ってた?後、何が起こっているか見えないんだけど!このまま続けていいの?」
「この芸やりながら躱すの厳しいぞ!ベイル、こうなるって聞いてねえぞ」
お前らはそれでも芸を続けられると信じてスカウトしたんだ。泣き言言ってんじゃねえ!
そうして客に物を投げつける芸を披露していると、ゲレロの戸惑う声と共に「ガラン!ガラン!」という何かが崩れる音が聞こえてきた。
「あっ!・・・・・てめえら!俺の方は狙うなって言っただろ!今日は調子良かったのによ!クソが!」
ゲレロの怒りの声と共に木の盾が観客側に飛び、別のパーティの樽に当たり、さっきの俺と同じ展開になる。ただ、俺の時と違うのは、更にキレた連中が、ついに物を投げるのをやめて、観客側からこっちに殴りかかってきた事だろう。それをゲレロは掴み上げて、上機嫌で観客側に放り投げる。
「ガハハハッ!お客様、お席にお戻りください!」
「ぐええええ!」
「ぐあ!痛え!」
「くそ!てめえこっちに投げてくるんじゃね!」
ゲレロが投げた奴に巻き込まれた客が、怒って喧嘩の輪に加わってくる。流石にここまでくると、ゲレロでも全員を投げ返す事は不可能で、俺達の芸人スペースまで観客が押し寄せてきた。
「ねえ!今どうなっているの?」
そんな状況になっても芸人魂を持ったモレリアは兜を外そうとしない。何も見えていないが、騒ぎの声だけは聞こえるのか不安そうな声で叫んでいる。ただ、それもそこまでだった。突然、怒りの籠った低い声を出しながら、兜を外す。
「ねえ、今僕の胸を触ったのは誰だい?・・・君かい?」
たまたま近くにいた観客が怒ったモレリアに蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされた奴が他の連中を巻き込んだ後は、観客はモレリアも敵とみなし襲い掛かかるが、モレリアは足技で蹴り飛ばしたり、潰したりして対応する。
「いってー!クソが!オレは何もやってねえだろうが!」
この騒ぎの中でも、さっきからジャグリングしていたトレオンも、ついに騒ぎに巻き込まれた。ジャグリングしている所をいきなりぶん殴られたトレオンは、キレて俺のお手玉を観客に投げつけ始めた。
そのお手玉は俺が良い感じの小石を集めて作ってもらった力作だから、武器として使わないでー。
「兵士さん!こっちです!」
「お前らやめろ!・・・これは?・・・一般人だけじゃなくて組合員・・・ベテラン連中もやられてやがる。どういう状況だ?」
騒ぎが大きくなり過ぎたのか、誰かが兵士を呼んできたみたいだ。けどなあ、既にぶちギレた俺達は、それぐらいじゃ止まらねえんだよ!
「なんだ?どうなっている?あの芸人連中滅茶苦茶強いぞ!この人数では対応できん!応援をもっと呼べ!」
「ガハハハッ!お客様はお席にお戻りください!」
「うわあああ!やめろ!!」
「君も僕の胸を狙っているのかい?」
「い、いや、違う!狙ってない・・・ぐええええ!」
「くそが!寄ってくんじゃねえよ!」
「こいつ!速い!どこ行った?ぐあああ!」
「もっとだ!もっと応援を呼べ!」
街中に兵士達の笛の音が響き、続々集まってくる。そしてその音に釣られて見物客もよってくるが、当然俺達の騒ぎに巻き込まれて、色んな所で喧嘩が発生して街をあげての大乱闘だ!
「何の騒ぎだ?どいつが元凶だ?」
「組合長!お手数かけて申し訳ございません!あそこにいる大道芸人4人がこの騒ぎの元凶なのですが、恐ろしく強くて止められません。すみませんが協力をお願い致します」
「・・・モレリア?・・・何で黒い服?」
「シリトラか。だよなあ。あの黒マントに黒服はモレリアだよなあ。丁度いい、シリトラがモレリアを止めろ。そしてクワロ!てめえもあのでかいハゲを止めろ!あいつはゲレロだろう」
「ゲレロ?何だあの肌?毒でもくらったのか?」
両肩にシリトラとロッシュが立っているクワロが、人を軽々投げ飛ばす虹色の大男に戸惑いを見せる。
「ロッシュ、あの顔面白くて赤鼻の奴は動きからトレオンだろう。お前が止めろ」
「ええー。あれがトレオン?僕が戻ってきて早々、あいつ何やっているのさ。僕のメンバー巻き込むのやめてよ」
「それはこっちのセリフです!モレリアを巻き込むのはやめて下さい」
「そうだ、どうせトレオンがゲレロを誘ったんだろう」
「クワロ、流石にそれは僕も怒るよ。トレオンは馬鹿だけど、あそこまで馬鹿じゃ・・・・、馬鹿じゃ・・・」
「「「ベイルだ!!!」」」
「ど、どこかにあいつが絶対いるはず」
「もう!ベイルのおかげでモレリアが最近真面目に訓練してたから、少しは見直したのに、途端にコレですか」
「ベイルいねえ!どこだ?・・・あのド派手な格好した奴・・・強いな・・・ってあれ、ベイルだ!あいつ凄い恰好しているな。何がしたい?理由があるのか?」
クワロが指さす方を見た組合長が思わず顔を顰める。
「何であの馬鹿はあんな恰好してんだよ。意味が分からん。・・・はあー。俺がベイルを止めるから、お前らは自分のパーティメンバーを抑えろ。あの4人を大人しくさせたら、この騒動も兵士達で抑えられる」
組合長のその言葉に3人のリーダーは物凄く嫌な顔をしながらも、メンバーを止めるべく動きだした。